AIを活用したMRI研究開発の最新状況と展望 
尾藤 良孝(富士フイルムヘルスケア株式会社主管技師長)
Research session 将来ビジョンについて

2021-5-25


尾藤 良孝(富士フイルムヘルスケア株式会社主管技師長)

近年,急速に応用が進んでいる人工知能(AI)を活用したMRI検査の支援機能について,(1) 検査ワークフロー,(2) 画質の向上,(3) 読影支援に対する当社の取り組みを紹介する(すべてW.I.P.)。

AI応用による検査ワークフローや画質の向上

検査ワークフロー向上へのAI応用では,機械学習を用いた自動位置決め機能とMRA自動クリッピング機能に取り組んでいる。自動位置決め機能は,通常撮像される2Dマルチスライス直交3断面スキャノグラムを利用し,目印となる解剖組織を機械学習により検出して自動で撮像位置を設定する。Active shape modelなどによる高速処理を検出技術として採用することで,スキャノグラム取得直後に候補断面の提示が可能になる。頭部位置決めに要する時間の検討では,AI使用により時間が短縮され,特に初心者で顕著な効果が見られた1)。さらに,静磁場強度が異なる装置上でも,同一被検者に対し非常に近い断面が設定され,フォローアップ時の再現性向上への寄与が期待される。
また,MRA自動クリッピング機能では,眼球位置の抽出後,脳・血管抽出マスクの作成処理を高速化することで,作業時間の短縮や労力低減が可能となる。
画質向上については,ノイズレベルや構造に応じた深層学習により,構造を保持したままノイズを低減する技術を開発している2),3)。当社では,すでに逐次近似法により同様の機能を実現しており,それを超える性能が得られるかを見極めながら開発を進めている。

既存知識と機械学習を融合した“Hybrid Learning”

読影支援では,画像定量化と病変検出(CADe),診断支援(CADx)の領域で開発を行っている(図1)。診断支援領域では,アルツハイマー病(AD)への応用を進めている。ADの早期診断では,既存の形態情報のみでは限界があることが示唆されており,われわれはQuantitative Susceptibility Mapping(QSM)の導入を検討している。
QSMは,位相画像から生体組織間の磁化率差を算出する定量手法である。位相を利用する方法としてSusceptibility-weighted imaging(SWI)があるが,定性的であり,高磁化率のみが強調されたり,強調領域のズレや拡大が生じる。それに対し,QSMは領域拡大を抑え,磁化率という定量値により生体組織の組成などの類推を可能にする。特にADでは,アミロイドβとともに鉄沈着が亢進するとの報告があり,QSMの有用性が期待される。
われわれは,3D Multi Gradient Echoをベースに,脳萎縮を観察するT1強調画像(VBM)とQSMを同時計測し,得られたデータを組み合わせハイブリッド解析を行う技術を開発した。しかしハイブリッド解析は,組み合わせ数の増大や症例数蓄積の制約という課題がある。そこで,既存知識と機械学習を融合した“Hybrid Learning”というアプローチによるADの早期診断方法の確立をめざしている。既存知識として標準脳アトラスをベースとしたROI解析とAD病理で重要な領域への制限を行い,機械学習として汎化性能の高いSupport Vector Machine(SVM)を用いており,これはディープラーニングのブラックボックス化を回避するねらいもある。中間検証では,AD病理の既存知識と合致する結果が得られたほか,軽度認知障害(MCI)と健常例の判別では,VBM単独に対しQSM併用により判別能が大きく向上することが示された4)。当社では今後,さらに検証を重ね,診断支援技術として作り上げていくことを計画している。

図1 読影支援に対するAI応用

図1 読影支援に対するAI応用

 

まとめ

本講演では,各領域でのAI応用について紹介したが,当社の強みは装置と情報技術の両方を持つ点にある。それを基に,例えば脳動脈瘤検出では,自動位置決めからAI再構成,自動クリッピングによる時間短縮,脳動脈瘤CADによる候補領域の自動抽出や解析,提示までの一連の流れをサポートできる統合環境の提供をめざして開発を進めている(図2)。

図2 統合環境における脳動脈瘤検出フロー

図2 統合環境における脳動脈瘤検出フロー

 

●参考文献
1)野沢 崇・他: MEDIX, 59, 14-16, 2013.
2)野口喜実・他: JAMIT, OP2-8, 2018.
3)石原千鶴枝・他 : JAMIT, P4-4, 2020.
4)Sato, R., et al. : ISMRM, 3049, 2019.


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