新規MRI技術による定量指標の臨床有用性 
原田 雅史(徳島大学大学院医歯薬学研究部放射線医学分野教授)
Research session 将来ビジョンについて

2021-5-25


原田 雅史(徳島大学大学院医歯薬学研究部放射線医学分野教授)

日立3T MRIの最新の定量的アプリケーションには,拡散尖度画像(DKI),LCModel処理定量的MR spectroscopic imaging(MRSI),定量的磁化率マップ(QSM),定量的パラメータマップ(QPM)などがある。本講演では,これらアプリケーションを用いた定量技術について,臨床有用性に重点を置いて紹介する(W.I.P.を含む)。

症例提示1

1.画像所見
症例1(58歳,男性)は,既往なし,初期症状として頭痛と複視を発症した。近医での頭部CTで出血を伴う脳腫瘍が認められ,当院にて造影CT,造影MRI,脳血管撮影を行い,開頭腫瘍摘出術が行われた。
単純CTでは腫瘍の大部分は淡い高信号で,辺縁の一部に塊状の強い高信号が認められたが(図1 a),同部位はT1強調画像(T1WI)(b),T2強調画像(T2WI)(c)でも出血/石灰化の区別が困難だった。また,T2強調画像(T2WI)でも,時期の異なる出血があることは指摘できるものの,石灰化の有無は判断できなかった(図2 a)。これに対してQSMでは,腫瘍の中央は高信号に描出されるため出血が,辺縁は非常に低信号であることから磁化率の低い石灰化が示唆された(図2 b)。また,CT(図1 a)で強い高信号を示した部分は,QSM(図2 b)で低信号に描出されたことから石灰化と考えられた。MRIでは出血と石灰化の鑑別はQSMでしかできないため,質的診断にQSMは非常に役立った。
本症例は,造影前後のT1WIを見ても造影の有無が不明瞭であった。そこで,QPMを用いてR1(T1値の逆数)の造影前後のマップを差分したところ,辺縁の一部が白く描出され,内部に染み込むように部分的に厚くなっていることも認められた(図3 a〜c)。出血や石灰化があることで造影の有無がわかりにくいものの造影される腫瘍であると考えられ,鑑別を絞り込むことができた。さらに,MRSIでは,NAAは乏しく,乳酸が高い結果となった(図3 d)。以上の画像所見より術前診断は,脳室腫瘍として中心性神経細胞腫が疑われ,造影されなかった場合として類上衣腫が挙げられた。

図1 症例1の単純CTと単純MRI

図1 症例1の単純CTと単純MRI

 

図2 症例1の磁化率画像

図2 症例1の磁化率画像

 

図3 症例1の造影MRIとMRSI

図3 症例1の造影MRIとMRSI

 

2.手術結果と考察
手術の結果,肉眼所見では血腫が腫瘍内に詰まるように認められ,血腫の周りに腫瘍があり,腫瘍はやや硬く石灰化を伴っていた。組織所見では,類円形核と淡明な細胞質を有する比較的均一な細胞が敷石状に配列し,細線維性器質を囲むように腫瘍細胞が認められ,石灰化も散見された。出血およびヘモジデリン沈着を認め,フィブリンの析出を伴う血液成分も多く見られた。最終的に,組織診断にて中心性神経細胞腫と診断された。QSMの画像所見や定量値の差分画像が,肉眼所見や組織所見に近似していたことから,定量的MRIの臨床での活用の可能性を改めて感じた症例である。

症例提示2:COL4A1遺伝子変異疾患

1.画像所見
COL4A1は最近になって同定された遺伝子である。TypeⅣコラーゲンのα1鎖の発現に関与しており,その変異は血管などの基底膜の異常により血管障害や白質変性,皮質形成異常などを起こし,Glymphatic systemの異常との関連性が示唆されている。
症例2は,FLAIRで白質の高信号がびまん性に認められ(図4 a),正常な白質はやや黒く描出されるQSMでは不均一な信号上昇を示した(b)。また,QPMから作成したミエリンマップでも白質は低信号を呈しており,髄鞘密度の減少が示唆された(図4 c)。
さらに,高b値(2500s/mm2)の拡散強調画像(DWI)では深部白質の信号が低下し(図5 a),ADCでも拡散の亢進が示唆された(b)。DKIでは平均尖度は皮質下を除いて低下しており(図5 c),放射方向(≈制限拡散)の尖度(radial kurtosis)も同様に深部白質で低下しているが(d),主軸方向(≈束縛拡散)の尖度(axial kurtosis)の変化は乏しかった(e)。

図4 症例2:COL4A1遺伝子変異疾患

図4 症例2:COL4A1遺伝子変異疾患

 

図5 症例2:拡散の変化

図5 症例2:拡散の変化

 

2. DKIパラメータの臨床意義と考察
平均尖度の上昇は髄鞘化や軸索密度上昇,低下は脱髄や軸索密度低下,神経変性を表していると考えられる。また,主軸方向尖度の低下は軸索密度低下や細胞外腔の拡大を表し,放射方向尖度の低下は細胞膜透過性の上昇や軸索構造の均質化を表すと考えられる。これを踏まえると,症例2のDKIによる平均尖度と放射方向尖度の低下は脱髄や細胞膜透過性の亢進,軸索構造の均質化を反映していると考えられた。前述のとおり本症例の脳白質病変は,QSMの信号上昇やミエリンマップの低信号から髄鞘密度の減少が示唆されている。これらMRI所見は,コラーゲン形成不全による基底膜障害から,細胞膜透過性の亢進を支持するものと考えられ,その因子として脱髄の関与も推察される。われわれは,これら血管基底膜の障害や細胞膜透過性の亢進といった現象がGlymphatic systemの異常と関連しているのではないかと考えている。症例2は,深部白質の拡散値の異方性(FA)(図6 a)と拡散尖度の異方性(b)が共に低下していた。なお,梗塞巣が疑われた部位(図5 ↑)はMRSIで乳酸やコリンの上昇が認められ,比較的急性期の梗塞巣と考えられた。

図6 症例2:拡散値(FA),拡散尖度の異方性

図6 症例2:拡散値(FA),拡散尖度の異方性

 

QPMの先進性

日立のQPMは,ベース画像を3DGE法で取得する点が特徴であり,3D定量マップ,T2*WI,QSM,TOF MRAに加えて,ミエリンマップなどの各種組織特異的マップを作成可能である。
われわれは,定量画像の造影前後の差分を応用することで造影剤緩和能(r1)を算出できると考え,r1を用いた細胞外pHの評価について検討した。MRIの造影効果は,造影剤濃度とr1に影響を受ける。r1は造影剤の溶媒の種類やpHといった環境により変化することが知られており,周囲の状態との相互作用に関連すると考えられる。そのため,定量化により造影剤濃度とr1を分離することで,造影剤濃度を補正したr1を算出できると考えた。
方法としては,造影前後のT1マップを差分して差分RIマップを作成し,同様に造影前後のQSMから差分QSMを作成する。磁化率はガドリニウム濃度にほぼ比例することから,差分QSMから造影剤濃度を算出できる。その濃度を用いて差分R1マップの補正を行い,造影剤濃度補正r1を算出した。さらに,ファントムを用いてr1とpHの関係を較正曲線として取得し,これを用いてr1を補正することで細胞外pHマップを作成する(図7)。
この手法を用いて作成した退形成性神経膠腫症例のr1マップ(図8 d)と細胞外pHマップ(e)は,MRSIの乳酸マップ(f)と相関が認められた。
病態による造影剤のr1の変化を見ると,転移性脳腫瘍や膠芽腫はr1が非常に高く(つまりpHは低く),一方で腫瘍ではないグリオーシスではややr1が低く(pHは高く)なる。また,放射線照射後で転移性脳腫瘍が壊死した部位ではr1は低下(pHは上昇)する。細胞外pHマップが真にpHだけに依存しているかは確定していないが,臨床的には妥当な結果が得られていると考える。
さらに,QPMからはQSMを用いて酸素摂取率(OEF)マップも取得できるため,細胞外pHマップと比較することで,さらに多様な組織学的評価が可能になる。

図7 造影剤緩和能(r1)マップ作成のフローチャート

図7 造影剤緩和能(r1)マップ作成のフローチャート

 

図8 退形成性神経膠腫(Grade Ⅲ)

図8 退形成性神経膠腫(Grade Ⅲ)

 

まとめ

定量的MRIから得られる情報は飛躍的に増加しているが,各種コントラスト画像は前提や仮定を用いているものが多いことから,原理に精通するとともに,評価結果を必ず現場の臨床評価や病理結果からフィードバックすることを心がける必要がある。

 

原田雅史(Harada Masafumi)
1986年 徳島大学医学部卒業。90年 同大学院医学研究科修了。92年 米国ペンシルバニア大学医学部生理・生化学教室研究員などを経て,95年 徳島大学医学部放射線科講師,2002年 同大学医学部保健学科診療放射線技術学講座教授。2006年 同大学院ヘルスバイオサイエンス研究部画像情報医学分野教授。2010年 同大学病院放射線科教授・放射線部長。2011年より現職。

 

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