第1回 頭部領域[技術解説] 
頭部領域における技術開発状況 
尾藤 良孝(富士フイルムヘルスケア株式会社主管技師長)
2021 Hi Advanced MR Webセミナー 2021年11月4日(木)開催

2022-4-25


頭部領域におけるAIの応用

MRIにおいては,人工知能(AI)を検査ワークフローや画質の向上,読影支援に応用する開発を進めている。

1.検査ワークフローの向上
頭部領域における検査ワークフロー向上をめざし,スカウト画像から目印となる解剖組織を機械学習で検出し,自動で撮像位置を設定する技術を開発している。高速な検出アルゴリズムを採用することで,画像取得後すぐに候補断面が表示され,微調整も容易に行える。位置決めに要する時間を本AI技術の有無で比較したところ,経験者,初心者ともにAI技術により顕著な時間短縮効果が得られた。
機械学習を用いたMRAの自動クリッピングの開発も進めている。撮像の高速化により,撮像の合間にクリッピングを行う余裕がなくなってきているが,本技術では脳と血管のマスク作成にAIを活用することで,時間を短縮し労力を低減する。

2.画質向上
高い倍速数のパラレルイメージングや薄いスライスでノイズが増大した画像に対して,ガウスフィルタを用いたノイズ抑制では,構造がぼけてしまうという課題があった。これを克服するために,ディープラーニングを用いてノイズを学習させ,構造を維持したままノイズを低減する技術の開発を進めている。

3.読影支援
読影支援においては,画像定量化,病変検出,診断支援に取り組んでいる。アルツハイマー病の診断支援では,北海道大学,岩手医科大学,徳島大学,名古屋市立大学とともにAMEDの支援の下,疾患早期に生じる鉄沈着を反映するQSM(定量的磁化率マッピング)と,脳萎縮を検出するVBMとのハイブリッド計測技術を開発し,良好な結果を得ている。2021年に富士フイルムグループとなったことから,富士フイルムのワークステーションとのシナジーでさらなる強化を図っている。

頭部領域における定量化

定量化は病変を安定して認識できるだけでなく,AIにより診断を支援する指標にもなりうるため,重要性が増している。

1.QSM
QSMは位相画像から生体組織間の磁化率差を算出する手法で,磁化率という定量値によって生体組織の組成や状態を類推することができる。われわれは,構造境界を保つQSM解析技術を開発した。また,アルツハイマー病の診断支援ではVBMとQSMの計測時間が課題であったが,ハイブリッド計測技術を開発し,3Dマルチグラディエントエコーにより1つのシーケンスで両方の画像を約5分で取得可能になった(図1)。

図1 VBMとQSMのハイブリッド計測技術

図1 VBMとQSMのハイブリッド計測技術

 

2.QPM
QPMは,撮像条件を変えた3Dグラディエントエコーの一連のセットから,T1やT2*などの定量値を一括して求める計測方法である。定量値を基にMRAやQSMなど二次的な定量値や強調画像を作成することもできる。
徳島大学では,造影前後にQPMを計測して造影剤濃度と緩和能を算出し,緩和能に影響する細胞外pHを推定する方法を開発している。グリオーマへの適用例では,pHの低いグリオーマを明瞭に描出することができる。QPMを計測しておくことで,これまで得られなかったような組織状態を表す定量値を後処理だけで求めることができると期待されている。

3.DWI/DKI
DKIは,複数のb値のDWIから制限拡散の程度を尖度(kurtosis)として画像化する方法である。指標の一つであるmean kurtosis(MK)は等方的な制限拡散を反映する。DWIでは線維の交差領域でFAが低下する問題があったが,MKではその問題が生じず,白質を認識しやすい利点がある。灰白質でも高いコントラストがあり,変性疾患の評価指標として期待されている。
複数b値の計測を応用したもう一つの例として,脳脊髄液の動態を観測するlow-b DTIがある。b=100の低b値を用いたDTIで得られる拡散テンソルの異方性は,拡散制限によるものではなく,ボクセル内での流速の異なる疑似拡散によるものと考えられる。脳脊髄液の動態を可視化・定量化することができ,脳の疾患の研究や診断への応用が期待される。


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