[頭部領域]QSMの臨床応用:脳から全身へ  
工藤 與亮(北海道大学大学院医学研究院画像診断学教室教授)
2021 Hi Advanced MR Webセミナー 2021年11月4日(木)開催

2022-4-25


工藤 與亮(北海道大学大学院医学研究院画像診断学教室教授)

QSMの原理

QSM(定量的磁化率マッピング)は,MRIの位相画像から局所の磁化率を定量的に算出する手法である。磁化率とは物質に固有の物性値であり,磁化率を知ることでボクセル内の分子情報や化学組成を類推することができる。磁化率が大きい常磁性体(皮質や深部灰白質に存在するフェリチン,出血内に存在するヘモジデリン,出血内や静脈に存在する脱酸素化ヘモグロビン)は白く,磁化率が小さい反磁性体(大脳白質に存在するミエリン,石灰化)は黒く描出される。

脳での臨床応用

脳におけるQSMでは,組織鉄(フェリチン),出血(ヘモジデリン),静脈(脱酸素化ヘモグロビン)などがターゲットとなる。ヘモジデリンは微小出血評価や石灰化との鑑別,フェリチンはさまざまな神経変性疾患における鉄沈着の解析に応用され,脱酸素化ヘモグロビンは高分解能MR venographyや酸素摂取率(OEF)の画像に利用される。
多発性硬化症では脱髄斑(プラーク)で磁化率の上昇が認められる。図1のように,FLAIRでは高信号として認められQSMでは磁化率に変化が見られないプラーク()もあるが,これは磁化率が経時的に変化するためである。急性期プラークは磁化率がほとんど上昇しないが,数年経つと磁化率が上昇して数年にわたり高い状態が続き,その後,元に戻ることが報告されている1),2)。時間の経過に伴ってプラーク内に鉄沈着が生じ,また,脱髄(反磁性体であるミエリンの障害)により磁化率が上昇するという機序が考えられている。
われわれは富士フイルムヘルスケアとの共同研究において,5分の撮像シーケンスでさまざまな定量解析が可能なQSMとVBM(画像統計解析)のハイブリッド撮像法を開発し,アルツハイマー病(AD)の早期診断の研究に取り組んでいる。ADでは,アミロイドβ(Aβ)の沈着や神経細胞の変性に伴って鉄が沈着するとされていることから,認知症患者を対象にQSMとアミロイドPETの相関を解析した(図2)。ボクセル単位の相関係数マップから相関係数が高い部分をクラスターとして同定し,Aβ陰性()患者とAβ陽性()患者のクラスター分析を行うと,有意な正の相関が得られた。QSMでAβ沈着を予測できると考えられる。
また,QSMから作成したOEFマップ(QSM-OEF)について,ゴールドスタンダードのPETによるOEF(PET-OEF)との相関を検討した3)図3)。片側の慢性期虚血患者26名を対象に,3T MRIとPETを撮像してQSM-OEFとPET-OEFを取得した。QSM-OEFとPET-OEFの面内の相関については,PET-OEFの上昇のない18名では有意な相関は認めなかったが,PET-OEFの上昇を認めた8名は良好に相関していた。患者単位の相関については,相関係数0.62と比較的良好な相関を認めた。また,OEF上昇についてPET-OEFをゴールドスタンダードにすると,QSM-OEFの感度は63%,特異度は89%,false positiveが2例,false negativeが3例であった。なお,7T MRIを用いた検討でも,QSM-OEFと PET-OEFで同様の上昇が見られた。
QSM-OEFは,頸動脈内膜剥離術後の過灌流の予測にも用いることができる。われわれの検討4)では,術後に過灌流がある患者では術前のQSM-OEFの上昇が大きく,過灌流がない患者ではOEF上昇が小さいことがわかった。さらに,神経変性疾患についての検討5)では,全身性エリテマトーデスの活動性指標であるSLEDAIとBILAGのスコアが高い症例でQSM-OEFの値が大きいことがわかった。疾患の活動性の上昇により脳内の酸素消費量が増加し,それに伴ってOEFが上昇していると推察される。

図1 多発性硬化症のFLAIRとQSM

図1 多発性硬化症のFLAIRとQSM

 

図2 QSMとアミロイドPETの相関(患者間)

図2 QSMとアミロイドPETの相関(患者間)

 

図3 QSM-OEFとPET-OEFの比較

図3 QSM-OEFとPET-OEFの比較

 

全身での臨床応用

体幹部の撮像では,肺や腸管の空気による静磁場B0不均一,呼吸,心拍動,腸管蠕動による動き,内臓脂肪や皮下脂肪が問題となり,息止めでの撮像や周波数補正が必要となる。QSMも脂肪と水の境界域でアーチファクトが発生するため,脂肪と水の磁化率マップをそれぞれ作成して合成し,アーチファクトを抑制する手法が開発されている。
肝臓へのQSMの応用6)では,線維化がない症例はQSMマップが均一であるのに対し,線維化が進行している症例は非常に不均一であった。肝線維化の進行に伴って磁化率上昇と不均一化が認められ,超音波エラストグラフィとの対比においても有意に相関していた。
また,頸動脈プラークの評価にも有用で,磁化率が上昇するプラーク内出血と,磁化率が低下する石灰化の鑑別に用いることができる7)
心臓への応用も進んでいる。左室駆出率(EF)が保たれている症例と低下している症例について,右室と左室の酸素飽和度をQSMで定量化すると,EFの低下により両心室の酸素飽和度の差が増加すると報告されている8)。QSMで算出した酸素飽和度は,カテーテルを用いた酸素飽和度測定結果と高い相関が確認されている。
胎盤へのQSMの応用9)では,酸素投与によってhyperoxiaにすることで,通常は不均一な胎盤の磁化率が比較的均一になることが報告されている。また,在胎週数の進行によって平均磁化率は変化しないが,磁化率の分散やR2*が増加することから,在胎週数増加により胎盤に虚血や出血,石灰化が生じていることが推察される。
腰椎への応用10)では,骨の石灰化成分によってQSMマップの磁化率が低下し,CTとの比較でもCT値の上昇に伴って磁化率が低下することが確認されている。ただし,脂肪の周波数ズレや骨ではT2*が短いといった問題があるため,比較的短いTEで撮像する工夫が必要となる。
膝軟骨を対象にした検討11)では,健常例と比較して,変形性関節症例で関節軟骨表面の変性に伴い,磁化率が低下することが報告されている。これは,軟骨変性による磁化率の層構造(異方性)の消失が原因と推察されている。

まとめ

QSMは比較的新しいMRIの手法であり,磁化率を定量的に画像化できる。脳では神経変性疾患の鉄沈着への応用が進んでおり,体幹部においてもさまざまな部位で臨床応用が進みつつある。

●参考文献
1)Zhang, S., et al., AJNR, 40(6): 987-993, 2019.
2)Chen, W., et al., Radiology, 271(1): 183-192, 2014.
3)Kudo, K., et al., JCBFM, 36(8): 1424-1433, 2016.
4)Nomura, J.I., et al., AJNR, 38(12): 2327-2333, 2017.
5)Miyata, M., et al., J. Cereb. Blood Flow Metab., 39(8): 1648-1658, 2019.
6)Yoshikawa, M., et al., MRMS(in press). doi: 10.2463/mrms.mp.2020-0175
7)Ikebe, Y., et al., MRMS, 19(2): 135-140, 2020.
8)Wen, Y., et al., J. Cardiovasc. Magn. Reson., 21(1): 70, 2019.
9)Zun, Z., et al., Magn. Reson. Med., 85(3): 1272-1281, 2021.
10)Zhang, X., et al., Quant. Imaging Med. Surg., 9(4): 691-699, 2019.
11)Wei, H., et al., J. Magn. Reson. Imaging, 49(6): 1665-1675, 2019.

 

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