[頭部領域]最新の脳拡散MRI 
阿部  修(東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座教授)
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2022-4-25


阿部  修(東京大学大学院医学系研究科放射線医学講座教授)

拡散MRI解析

生体内における拡散(diffusion)は,細胞膜やミエリン鞘などさまざまな障壁によりランダムな動きを呈さず,神経や筋線維方向に大きく,それらと直交する方向には小さくなる拡散異方性があり,解析において考慮する必要がある。拡散テンソルは楕円球の3つの主軸と,3つの固有値で表現される。拡散異方性を表すパラメータとしてfractional anisotropy(FA)があり,これは等方性拡散からどれくらい外れているかを表す標準偏差と言える。拡散テンソル画像(DTI)としては,FAマップやmean diffusivity(MD),axial diffusivity(AD),radial diffusivity(RD)などを得ることができる。
拡散イメージングでは,磁化率や渦電流に起因するEPI特有の画像の歪みが問題となるが,脳画像解析アプリケーションライブラリFSLで提供されているtopupおよびeddyというツールを使用することで,歪みが補正された画像を得ることができる1)。DTIを解析する4つのアプリケーションについて,以下に紹介する。

Diffusion tensor/TBSS

DTIを解析するために患者の画像を空間的に標準脳に変形すると,末梢になるほど患者ごとの位置ズレが大きくなり,そのまま統計解析を行うことは難しい。そこで用いられるのが,統計解析手法のTBSS(Tract-Based Spatial Statistics)2)である。TBSSは,対象症例のFAマップから平均FAスケルトン(白質骨格)を作成し,これを用いて各症例のFAマップを空間的正規化することで,同じ位置での統計解析が可能となる。また,検定をスケルトンだけに限定することで多重比較の補正が容易になるメリットもある。
舌痛症14例と,年齢・性別をマッチしたコントロール11例を対象にTBSSを用いて解析したところ,非常に広範にMDの変化が確認された。使用している表示ツールFSLeyesには複数のアトラス機能が実装されており,当該ボクセルが存在する部位の情報を得ることができる。同じ症例群でFAを解析すると両群で有意差が認められる部分があり,JHU White-Matter Tractography Atlasを使用して位置を確認した(図1)。有意差がある部分(赤)は,M1(紫)やS1(水色),M1とS1の混在部分(緑)に近接し,比較的感覚路に近い部分に群間差が見られることがわかった。MDでもM1近傍に加え,M1+S1やS1の部分を含む広範な部位に群間差が確認された。一方,ADでは群間差が見られず,RDではMDと同様の群間差が認められており,感覚路に関連した異常が存在すると考えられる。
ただしDTI解析には限界があり,線維が交差,あるいは近づいて離れるような走行(kissing)をしている場合には,拡散テンソルのモデルが正球形となり方向を正確に表すことができない。これを克服するのが,以下に挙げる解析方法である。

図1 TBSSを用いたDTI解析結果(FA)

図1 TBSSを用いたDTI解析結果(FA)

 

Diffusion kurtosis

diffusion kurtosis imaging(DKI)は,b値に対して拡散強調の信号強度が単一指数関数から乖離する度合いを2次項K(kurtosis:尖度)として計算する。実際には,三次元空間での拡散の方向性を観察するために,2階の拡散テンソルと4階の尖度テンソルをフィッティング処理などにより計算する。各テンソルの対称性を考慮すると,b vectorの絶対値として最低3点,方向として最低15軸というb vectorを変えた多くの計測が必要となる。b値が大きすぎると実測値から乖離するため,臨床ではb=2000〜3000を上限に用いられることが多い。
尖度を数値化することで,組織間のコントラストを得たり異常を検出したりすることが可能で,新しい診断用画像として期待されている。mean kurtosis,axial kurtosis,radial kurtosisなどの画像を作成でき,TBSSなどで解析することができる。

NODDI & GBSS

NODDI(neurite orientation dispersion and density imaging)3)は,ボクセル内を3つのコンパートメント(神経細胞内の制限拡散,神経細胞外の障害拡散,脳脊髄液の拡散)に分けて計算する解析手法で,DKI相当の撮像で可能である。細胞内は軸索や樹状突起を想定しワトソン分布に基づく方向拡散として,細胞外は障害拡散のために拡散テンソルとして,脳脊髄液は自由拡散として表現できる。神経軸索の分画(Vic),自由水の分画(Viso),方向のバラツキ指数のODI(orientation dispersion index),ワトソン分布の集中係数(kappa)などのパラメータが出力される。多発性硬化症やパーキンソン病,正常圧水頭症など幅広く臨床研究に使用されており,組織学的所見との相関の報告も複数ある。
NODDIの統計解析手法として提案されているのが,GBSS(gray matter-based spatial statistics)である。TBSSが白質にスケルトンを設定するのに対し,GBSSでは皮質に灰白質スケルトンを設定し,NODDIのパラメータを空間的正規化する。舌痛症/コントロール群について,ODIをGBSSで解析したところ有意な群間差は認められなかったが,TBSSで広範な異常が見られたMDでは群間差が認められた(図2)。Harvard-Oxford Subcortical Structural Atlasを適用すると,同部位の85%が左扁桃体であり,RDの解析でも同様であった。扁桃体はペインマトリックス(痛み関連脳領域)に関与すると言われており,同部位に群間差が見られたことは妥当性があると考えられる。

図2 GBSSを用いたNODDI解析結果(MD)

図2 GBSSを用いたNODDI解析結果(MD)

 

Structural connectivity & graph theory

グラフ理論とは,頂点(node)と辺(edge)で構成されるグラフの性質を解明し,利用することを目的とする数学分野の一つである。clustering-coefficientやcharacteristic path length,degreeなどのパラメータがあり,clustering-coefficientは大きいほど,characteristic path lengthは小さいほどスモールワールド性が高く,頑健で局所的・全体的に効率が良いsmall world networkとなる。また,hubとなるnodeを介して各nodeが連絡するscale free networkは,効率は良いが,hubの損傷で全体の機能が低下する。
Multi-Shell Multi-Tissue Constrained Spherical Deconvolution(MSMT-CSD)に基づいたアプリケーションMRtrix3で解析すると,交差線維も比較的良好に描出することができる(図3)。この画像から得られたconnectivity matrixでは,同一半球内では非常に連絡が強く,対側半球との連絡はやや弱いことが確認できる。
この手法を用いて舌痛症/コントロール群を解析したところ,眼窩前頭皮質や前帯状皮質でdegreeやclustering-coefficientに伴う群間異常が認められた4)

図3 MSMT-CSDに基づく拡散トラクトグラフィ

図3 MSMT-CSDに基づく拡散トラクトグラフィ

 

●参考文献
1)Yamada, H., et al., Plos One, 9(11): e112411, 2014.
2)Smith, S.M., et al., Neuroimage, 31(4): 1487-1505, 2006.
3)Zhang, H., et al., Neuroimage, 61(4): 1000-1016, 2012.
4)Wada, A., et al., Neuroradiology, 59(5): 525-532, 2017.

 

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