第2回整形領域[技術講演] 
整形領域における技術開発状況 
瀧澤 将宏(富士フイルムヘルスケア株式会社放射線診断事業部技術開発本部)
2021 Hi Advanced MR Webセミナー 2021年11月11日(木)開催

2022-4-25


撮像時間短縮の取り組み

近年は,ノルムの最小化を用いた繰り返し処理によるノイズ低減技術が実用化されているが,当社ではパラレルイメージング(PI)のg-factorに着目し,繰り返し演算を拡張した。この手法は,random samplingを必要としないため空間分解能の低下を抑制でき,通常のPI再構成処理に組み込めるため臨床で広く用いられる2Dシーケンスに適用しやすいというメリットがある。すべての部位,幅広い画像種に適用できるため,検査時間全体の短縮に貢献する。
さらなる取り組みとして,CNNを用いたデノイズ処理も開発している。組織構造を維持したままノイズ低減が可能で,高空間分解能化への活用も期待される。

高画質化への取り組み

当社の要素技術の一つであるOval Boreは,左右方向に開口径を広げることで配置の自由度が高まるメリットがあり,特に整形領域では,四肢や関節などの撮像対象を静磁場均一度が高い空間に配置しやすくなる。
また,高磁場MRI装置で問題となる照射不均一に対しては,照射不均一の改善率が良く,コストメリットに優れた4ch-4port RFシステムを採用することで,体幹部や四肢においても信号不均一や脂肪抑制不良が目立たない画像を得られる。RFシミングを用いたさらなる機能向上として,撮像対象に応じてRFシミングの範囲を変えて調整するregional RFシミングを開発した。腰椎では照射不均一が生じやすい背側の照射を高くすることで,膝では対側の膝の影響を排除することで信号値が改善する。肩や乳腺については,撮像範囲を絞ることで画質を保ったままSARを低減できる。
脂肪抑制については複数のRFパルス系列を用いる脂肪抑制法“H-Sinc”を開発し,肝臓や乳腺においても均一かつ十分な脂肪抑制が可能となっている。さらに,水脂肪分離法として,高速撮像が可能な2point法を採用している。対応シーケンスも多く,再構成モードとして水脂肪分離不良を低減するFineモードを開発している点も特長である。Fineモードでは,通常の脂肪抑制が難しい対象でもアーチファクトの少ない画像を得ることができる(図1)。

図1 Fineモードによる水脂肪分離不良の抑制

図1 Fineモードによる水脂肪分離不良の抑制

 

診断の質を高める取り組み

1.3D解析
3D撮像は高精細の情報取得に適した撮像方法である。手根管症候群では,位置に応じた正中神経の形態変化に注目して診断するが,3D撮像の高精細画像により0.2mm以下の正中神経を評価することができる。さらに,3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT」(富士フイルム)を用いて高精細3D画像から正中神経と骨を抽出し,三次元的なレンダリングを行うことで,病態と神経の状態を対応づけた観察が可能になるほか,手術計画や術後フォローにも有用である1)
さらに,3D高精細画像と定量イメージングの関係性についての検討が進んでいる。愛光整形外科との共同研究2)では,手根管症候群と正常例について,3D画像で得た正中神経の断面積と,別スキャンで得た同じ位置のT2値を対応させ評価したところ,手根管症候群患者では断面積変化の大きい位置で高いT2値を示すことが確認された。

2.定量イメージング:QPM
QPM(Quantitative Parametric Mapping)は,一度の撮像で複数の定量値を得る手法で,定量値を基に強調画像と同様の画像を算出できる。複数の定量値を同時に算出することで,単一の定量値の評価に加えて,定量値間の関係を評価できるようになる(図2)。
定量値を用いた診断は,機種間や磁場強度の差,再現性などが問題とならない利点がある。一方で,簡便さや撮像時間,診断基準などが課題であるが,将来的には人工知能(AI)により克服できるだろう。AIを活用した定量診断や自動診断に向けた技術開発にも取り組んでいきたい。

図2 QPMを用いた定量値間の関係や相関の評価

図2 QPMを用いた定量値間の関係や相関の評価

 

●参考文献
1)Funahashi, T., et al., JHS(European), 46(3): 304-305, 2021.
2)Maeda, A., et al., 63rd JSSH, 3-Po 276, 2020.


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