[整形領域]変形性膝関節症のMRI三次元解析 
関矢 一郎(東京医科歯科大学再生医療研究センター長 教授)
2021 Hi Advanced MR Webセミナー 2021年11月11日(木)開催

2022-4-25


関矢 一郎(東京医科歯科大学再生医療研究センター長 教授)

はじめに

変形性膝関節症(OA)は,主に加齢により軟骨が摩耗する疾患である。男性より女性に多く,レントゲンによる評価で日本での罹患者数は2500万人で,膝痛などの有症状者は約1/3であるものの850万人に達し,健康寿命に大きく影響する。代表的な重症度分類であるKellgren-Lawrence(KL)分類では,関節裂隙と骨棘を独立に評価し,関節裂隙が狭くなるほど,骨棘が大きくなるほどgradeが上がる。
OAの9割は内側コンパートメントに変化が生じる。従来の認識では,膝立位正面レントゲン像(以下,レントゲン像)で骨棘や裂隙狭小が認められればOAと診断されてきた。しかし,同じKL分類でも骨棘が目立つタイプと裂隙狭小が目立つタイプでは病態が異なると考えられる。本講演では,膝MRI 3D画像解析システムを用いて解明した,2つの病態の違いについて報告する。

膝MRI 3D画像解析システムの開発

レントゲンで大腿骨と脛骨の隙間として描出される関節裂隙は,大腿軟骨,半月板,脛骨軟骨の3層構造となっている。富士フイルムと共同開発した膝MRIの全自動3D画像解析システムでは,膝MRIの画像データを取り込むと,骨,軟骨,半月板が自動抽出され,三次元画像が表示される。解析結果として得られる軟骨厚みマップでは,軟骨の厚さが2mm以上では白,薄くなるにつれて黄,赤で示され,半月板を重ねて表示できる。KL grade3の例(図1)では,レントゲン像(a)で内側裂隙の狭小化と大きな骨棘を認め,大腿軟骨の厚みマップ(b)では内顆中央に軟骨欠損を,脛骨軟骨の厚みマップ(c)では内側に軟骨欠損を認める。大腿軟骨と脛骨軟骨の欠損部分が接すると考えると,大腿骨に対して脛骨が外側に偏位していると予測できる。さらに半月板を重ねると,内側後方が断裂し,内側半月板が内方に逸脱していることがわかる(d)。このように,3D画像ではレントゲンではわからない軟骨や半月板の病態を明らかにすることができる。
解析用画像の基本的な撮像条件は,3T MRIでの撮像では,pixel spacingは0.31mm×0.31mm,スライス厚0.6mm,スライス数320枚で,fat-suppressed 3D spoiled gradient echoとPDWIの2つのシーケンスで撮像する。主要メーカー5社のMRIデータに対応するプロトコールを策定している。現在は1.5T MRIにも対応している。
開発初期には,軟骨自動抽出の過抽出や未抽出という問題があったため,軟骨の正解データを作成し,人工知能(AI)に学習させることで精度向上を図った。抽出精度を表すダイス係数は,各領域がおおむね0.9以上と高い精度を示している1)

図1 KL grade3の例の解析結果

図1 KL grade3の例の解析結果

 

膝MRI 3D画像を用いた疫学研究

われわれは画像解析システムを用いて,神奈川県庁協力の下,日本人変形性膝関節症MRI実態調査「神奈川ひざスタディ」を実施した。膝疾患で3か月以上の通院歴がない30〜70歳代のデスクワーク従事者500人(各年代男女50人以上)を対象に,膝痛・活動性の調査,尿,レントゲン,MRI(1年間隔で2回撮像)のデータを収集した。
この調査で得られた膝MRI 3D画像を用いて,レントゲン像が示すものは何かについての解明を試みた。検討では,レントゲン像で骨棘幅と裂隙幅,半月板逸脱距離を計測した。また,画像解析システムで得られた大腿軟骨と脛骨軟骨の厚みマップの内側領域を縦3・横3の9つのサブ領域に分け,それぞれの顆部領域において平均軟骨厚を定量した。

1.骨棘幅の意義
始めに骨棘幅の意義について解明を試みた。レントゲン像で計測した骨棘幅とMRIで測定した平均軟骨厚が相関するか,また,骨棘幅と内側半月板の逸脱距離が相関するかを分析し,相関係数の強さを求めた。
骨棘幅と軟骨厚の相関係数が最も高かった領域は,「脛骨の前後方向では中央,内外方向では内側(meMT)」のサブ領域で,相関係数は−0.33だった。また,骨棘幅と軟骨厚,骨棘幅と半月板逸脱距離のそれぞれについて相関をとると,骨棘幅と軟骨厚の相関係数の絶対値0.33に比べ,骨棘幅と半月板逸脱距離は0.76ではるかに大きかった。この結果は,骨棘幅と半月板逸脱距離が強く相関していることを示しており,レントゲンで描出される内側脛骨の骨棘は内側半月板の逸脱を反映していると言える。人工膝関節置換術の術中所見でも,内側半月板が骨棘の上に位置していることが確認された。また,骨棘幅と内側半月板の逸脱距離をMRIで評価した検討2)でも,内側半月板の逸脱が大きいほど骨棘が大きく,相関することが報告されている。

2.裂隙幅の意義
裂隙幅についても同様に検討を行った。裂隙幅と軟骨厚の相関係数が最も高かった領域は,骨棘幅と同じmeMT領域で,相関係数は0.50と中等度だった。裂隙幅と半月板逸脱距離の相関係数は−0.16と非常に弱かった。裂隙幅については,半月板逸脱距離よりも軟骨厚との相関がはるかに強く,レントゲンで描出される内側裂隙幅は軟骨厚を反映していることがわかった3)

3.OAの進行過程
また,OAがどのように進行するかの解明も試みた4)。調査参加者のうち70歳代女性で,外側OAと膝蓋大腿関節OAを除外した45人を抽出した。そして内側脛骨の軟骨面積率で3グループに分け,面積率0.95未満の11人を対象とした。軟骨欠損の程度が軽い順に画像を並べて観察することで,粗い解析ではあるがOAの軟骨欠損の進行を予測できると考える(図2)。すべての症例でmeMT領域に欠損が認められることから,軟骨欠損はこの領域から発症し,拡大していくと考えられる。
さらに,半月板の内縁と軟骨欠損の関係を解析した。パターンとしては,「半月板の内縁と軟骨欠損が接する」「半月板の内縁が軟骨欠損と交差する」「半月板の内縁と軟骨欠損が離れる」の3つに分けられる。各症例のパターンを確認すると,半月板の内縁と軟骨欠損が離れる例はひとつもなく,軟骨欠損は半月板の内縁から離れないという結果を得ることができた(図3)。

図2 OAにおける軟骨欠損の進行の予測 (参考文献4)より引用改変)

図2 OAにおける軟骨欠損の進行の予測
(参考文献4)より引用改変)

 

図3 半月板の内縁と軟骨欠損の関係 (参考文献4)より引用改変)

図3 半月板の内縁と軟骨欠損の関係
(参考文献4)より引用改変)

 

まとめ

膝MRI 3D画像解析により,レントゲン像は軟骨厚や半月板逸脱を反映していることや,内側半月板の逸脱に伴い内側半月板の内縁から軟骨欠損が拡大し,OAが進行することが明らかとなった。

●参考文献
1)Aoki, H., et al., BMC Musculoskelet Disord., 21(1): 247, 2020.
2)Hada, S., et al., Arthritis Res. Ther., 19(1): 201, 2017.
3)Sekiya, I., et al., J. Magn. Reson, Imaging(in press).
4)Katano, H., et al., Sci. Rep., 12: 4198, 2022.

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