第3回 腹部領域[技術解説] 
腹部領域における技術開発状況 
京谷 勉輔(富士フイルムヘルスケア株式会社営業統括本部画像診断営業部)
2021 Hi Advanced MR Webセミナー 2021年11月18日(木)開催

2022-4-25


Speed

MRI検査に必要なコンセプトの一つであるspeedについては,近年はrandom samplingに代表されるノルムの最小化を用いた繰り返し処理(iterative reconstruction)によるノイズ低減技術が開発され,臨床機で用いられている。当社ではパラレルイメージングの再構成時に同様の技術を用いることが可能で,g-factorに着目した繰り返し演算を拡張してノイズ低減を図っている。同手法はrandom sampling,under samplingでも使用できることが特徴で,高速撮像時の画質低下の抑制が可能となる。このiterative reconstructionは,当社のオープン型MRI,超電導型MRIに実装されており,幅広い撮像シーケンスで利用することができる。トレードオフの関係にある高速撮像と画質の両立をめざした技術である。

Comfort

2つ目のコンセプトであるcomfort(MRI検査の快適性向上)を紹介する。3T装置では多彩なコイルをラインアップしており,腹部領域においては2つにセパレートしたspine,torsoコイルを用いて,撮像範囲に応じたコイル選択が可能である。spineコイルは柔軟性があり,躯幹部の撮像では身体に密着させることができる。また,MRIのワイドボアというと,一般的に70cmの円形ボアであるが,当社の3T装置では横幅が約74cmのOval Boreを採用しており,体格の大きい被検者でも楽に検査を行える。
3TではRF照射不均一(B1不均一)が問題となる。その対策としてRFシミング機能が用いられるが,RFシミングに用いるチャンネル数を多くすると複雑な制御やハードウエアのコストアップにつながるため,コストメリットでチャンネル数を決める必要がある。当社では,照射コイルの開発にあたって照射分布シミュレーションを行い,均一性を検討した。その結果,4chで全体ROIと局所ROIの照射不均一の改善率が良く,コストメリットのバランスが優れていることがわかり,4ch-4port RFシステムの採用に至った。各アンプから人体に最適な周波数のRFパルスを照射することが可能で,4ch-4port RFシステムにより信号ムラの少ない,均一性の高いMR画像を取得できる。

Quality

コンセプトの3つ目としてqualityを紹介する。躯幹部の脂肪抑制ではB1不均一が生じやすいが,当社のシステムでは4ch-4port RFシステムに加え,複数のRFパルス系列を用いる脂肪抑制法“H-Sinc”を使用することで,躯幹部においても均一な脂肪抑制効果を得ることが可能となっている(図1)。
また,すでに頭部で製品化されている選択的2D Excitation(Beam)技術の躯幹部への応用を進めている(W.I.P.)。Beam技術では,BeamSatパルスを用いて選択的に血管を励起し,任意に血管を描出することが可能で,腹部MRAや胸部MRAでも末梢まで血管を明瞭に描出することができる。Beam技術はさらなる応用が可能で,例えばBeamSatパルスを心臓部分に印加して心臓からの信号を抑制することで,心臓からのアーチファクトを軽減することができる(図2 a)。また,肺へも応用することができる。肺野に長方形にIRパルスを与えて静脈信号を消した上で,肺動脈にBeamSatパルスを印加すると,肺動脈を経時的に観察することができる(図2 b)。
頭部で製品化されているQSM(定量的磁化率マッピング)についても,他部位展開に向けて研究を進めている(W.I.P.)。例えば前立腺などは,腸管の空気などによるB0不均一や脂肪,腸管蠕動などの動きの影響を受けるためQSMで信号ムラが顕著に生じる領域であるが,水領域と脂肪領域の磁化率を分けて計測し,それらを合成する方法で磁化率マップの画質向上を図る取り組みを行っている1)

図1 4ch-4port RFシステムとH-Sincで得られる均一な脂肪抑制効果

図1 4ch-4port RFシステムとH-Sincで得られる均一な脂肪抑制効果

 

図2 Beam技術の応用:心臓(a),肺動脈(b)

図2 Beam技術の応用:心臓(a),肺動脈(b)

 

●参考文献
1)Sato, R., et al., Proc. 25th Annu. Meet. ISMRM, 3652, 2017.


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