FEATURE 技術解説
AI技術*1を活用して開発した機能で高画質化,ワークフローの効率化を実現
永久磁石オープンMRIシステムの新モデル「APERTO Lucent ff」「AIRIS Vento ff」
2026-9-25
富士フイルム(株)は,永久磁石オープンMRIシステムの新モデル,0.4Tの「APERTO Lucent ff(アペルト ルーセント ダブルエフ)」*2と0.3Tの「AIRIS Vento ff(エアリス ベント ダブルエフ)」*3を2026年7月21日より発売しました(図1)。
APERTO Lucent ff,AIRIS Vento ffは,AI技術を用いて開発した各種機能を搭載した永久磁石オープンMRIシステムであり,新しく搭載した機能により,低磁場でも高画質な画像の取得を可能にし,検査ワークフローの効率化を実現します。今回,搭載された新たな機能は,当社が1.5T超電導MRIシステム「ECHELON Synergy ZeroHelium」*4,「ECHELON Smart ZeroHelium」*5の開発で培ってきた知見を基に開発したものです。
MRIは,病院層を中心に1.5T以上のクローズ型高磁場MRIが主流ですが,開業医やクリニック層では,低磁場オープンMRIが多く稼働しています。低磁場オープンMRIは,オープン構造による患者快適性の高さや設置性の良さといった強みがある一方で,MRIの原理上,高磁場MRIと比較してSignal to Noise Ratio(SNR)が低いため,撮像時間が長い,空間分解能が低いといった弱点が知られています。近年,Deep Learning Reconstruction(DLR)の登場により,ノイズ低減や鮮鋭度向上が可能となり,画質改善へのアプローチが実現しました。今回,AI技術を活用して開発したDLRに加え,検査全体のワークフロー効率化機能,ならびに3D画像の画質向上および撮像時間短縮機能について解説します。
図1 装置外観
「永久磁石オープンMRIシステムの新モデル」の4つの特徴
1.AI技術を活用して開発したDLRによるノイズ低減・高画質化
MR画像の画質とスキャン時間はトレードオフの関係にあり,低磁場MRIで高画質な画像を取得するためには撮像時間が長くなる傾向があります。AI技術を活用して開発した「DLR Plus」は,あらかじめ学習した高品質な画像データを基に,撮像時に得られた信号からノイズを識別・低減し,画像の視認性向上を支援する画像再構成技術です(図2)。低磁場MRIにおいても高画質で視認性の高い画像を取得できるほか,DLR機能を搭載しない場合と比較して,例えば頭部検査において32%,膝検査においては40%の撮像時間短縮が可能となります*6。本機能は2D・3Dシーケンスを問わず使用可能であり,短時間撮像と高画質化の両立により,検査スループット向上への貢献が期待されます(図3,4)。
図2 DLR Plusのノイズ低減効果
Deep Learningを活用して開発した画像再構成技術により,ノイズ低減と画像の視認性向上を支援する。
図3 DLR Plusを用いた頭部撮像時間短縮の一例
図4 DLR Plusを用いた頸椎T2強調画像の撮像時間短縮の一例
2.IQ Retouch:取得ずみデータを活用した画像再構成技術
MRI検査では,撮像後に画像のシャープネスやノイズ低減の強さを調整したい場面がありますが,従来は再撮像が必要となる場合もありました。「IQ Retouch Advance」は,撮像時に保存した再構成用画像データ(IQ Retouchデータ)を利用し,撮像後に画像再構成条件を変更して画像を再生成できる機能です。取得ずみデータを用いて再構成条件を見直すことができるため,目的に応じた複数の画像表現を効率的に作成することが可能です。本機能では,再構成に関連する複数のパラメータを変更し,再度画像再構成を行うことができます。これにより,同じ撮像データから異なる画像特性を持つ画像を作成でき,診断目的や観察対象に応じた画像評価を支援します。さらに,IQ Retouchでは再構成用データの保存機能が拡張されており,検査終了後も保存されたIQ Retouchデータを利用した再構成が可能です。
3.3D撮像の高画質化・高速化
通常のルーチン検査に加え,3D撮像は体内組織の形状や広がり,周囲組織との位置関係をさまざまな角度の断面から把握できることから,診断や治療計画の立案において重要な役割を果たします。3D撮像では,可変フリップ角(variable refocus flip angle:VRFA)技術により信号減衰を抑制した「isoFSE」を搭載しました(図5,6)。また,3D撮像におけるCircular計測を搭載しました。Circular計測とは,従来矩形状にサンプリングしていたところを円形状にすることでサンプリング点数を減らし,撮像時間を低減する機能であり(図7),現行機と比較してより短時間での3D撮像が可能となりました(図8,9)。
図5 内耳における従来法の3D FSEと3D isoFSEの比較(T2強調画像)
図6 呼吸同期併用3D isoFSEで撮像したMRCP
図7 従来の3D計測とCircular計測のイメージ概略図
従来計測ではk空間を格子状に直交サンプリングするが,Circular計測では円周的にサンプリングすることで,サンプリング点数を減らす。それにより撮像時間の低減を図ることができる。
図8 頭部における従来法の3D RSSG*とCircular計測時の3D RSSG(T1強調画像)
*RSSG:RF Spoiled Steady State Acquisition with Rewound Gradient Echo
図9 さまざまな部位の3D Circular計測
4.AIを活用して開発したスライスライン設定サポート機能「AutoPose」
従来の「APERTO Lucent」,「AIRIS Vento」では,撮像する身体の断面(撮像断面)の位置と角度を操作者が一つひとつ設定する必要がありましたが,APERTO Lucent ff,AIRIS Vento ffでは,AI技術を活用して開発したスライスライン設定サポート機能AutoPoseにより,取得する断面画像の位置・角度を自動で設定が可能です*7。スライスライン設定のアルゴリズムには,国内外で多くの医療機関への納入実績を持つ富士フイルムの3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT(シナプス ヴィンセント)」*8で培ってきた臓器認識技術を適用しています。対応部位は頭部に加え,脊椎,四肢関節,骨盤に及び,特に脊椎では位置決め画像上に椎体番号を表示することが可能です*9(図10)。さらなる高画質化に向けた撮像後の画像処理の機能も豊富に搭載しています。
頭部MRAにおいて,血管を見やすくするために不要な部分を取り除く処理をする自動クリッピング処理「AutoClip」*10(図11)や,3D画像から必要な断面を,事前に撮像した2D画像と同じ位置・角度で自動的に作成する機能「AutoMPR」*7(図12)を搭載しています。
APERTO Lucent ff,AIRIS Vento ffは,AutoPoseをはじめとするAI技術を活用して開発した各種機能により,MRI検査に必要な位置決めから画像処理,画像表示,画像保存までの一連の操作を1クリックで実施可能であり,検査全体のワークフローの効率化をサポートします(図13)。
図10 椎体ナンバリング表示
脊椎(頸椎・胸椎・腰椎)において,頸椎(C2)または仙骨(S1)を基準にして,椎体番号を算出し,表示できる。
図11 AutoClip
MRA画像において不要領域のクリッピング処理をサポートする。
図12 AutoMPRの概要
3Dデータから,2D画像と同じスライス位置,オブリーク,厚さ,間隔,枚数,FOVの断面の2D断面画像を再構成する機能である。3Dデータが作られたときに,自動で再構成を開始して画像を作成する。
図13 MRI検査ワークフローの効率化イメージ
AI技術を設計段階で活用して開発した各種機能により,MRI検査に必要な位置決めから画像処理,画像表示,画像保存までの一連の操作を支援する。従来の手作業による操作と比較して,検査ワークフローの効率化をサポートする。
臨床現場にご提案したい3つのアプリケーション
1.BSI:組織間の磁化率差を強調した画像
MRIでは,組織ごとの磁化率の違いが画像コントラストに影響を与えることが知られています。「BSI(Blood Sensitive Imaging)」は,こうした組織間の磁化率差に着目して開発された画像処理技術です。取得した3D T2強調画像に対して複素画像の位相情報を利用した画像処理を行うことで,磁化率の違いを強調した画像を生成し,従来のT2*強調画像とは異なるコントラスト表現を提供します。本機能により,通常のT2強調画像では把握しにくい磁化率情報を可視化することが可能となり,低信号構造などの観察をサポートします(図14)。
図14 microbleedsにおけるT2*とBSIの描出の違い
2.VASC-ASL:IRパルスを利用した非造影MRA技術
「VASC-ASL」は,血流信号を利用して非造影で血管を描出する血管撮像技術です。描出対象となる血管の上流側にIR(Inversion Recovery)パルスを印加し,その後の血液信号の変化を利用して血管画像を生成します。本機能では,IRパルスを印加した画像と印加しない画像を取得し,それらの差分処理を行うことで,血液信号を高信号として描出することを支援します。撮像パルスシーケンスには三次元BASG(Balanced SARGE)を採用しており,造影剤を使用することなく血管情報を取得できる非造影MRAの一手法です(図15)。
図15 VASC-ASL
選択的IR パルス(黄色)により,血流信号を利用して血管を描出する。
3.RADAR:ラジアルスキャンによる体動アーチファクト低減
MRI検査では,呼吸や体動などの影響によってアーチファクトが発生し,画像品質の低下につながることがあります。「RADAR(RADial Acquisition Regime)」は,このような動きの影響の低減を図る撮像技術です。従来の直交座標系によるデータ収集とは異なり,k空間を放射状(ラジアル状)にサンプリングすることで,動きに起因する信号変動を特定方向に集中させることなく分散させ,アーチファクトの低減を支援します。RADARでは,k空間を複数の領域(blade)に分割し,それぞれの領域でデータを取得しながら全体として放射状にサンプリングを行います。この方式により,画像取得時の動きの影響の低減を支援します。体動によるアーチファクトの低減を図ることで,動きの影響を受けやすい部位の撮像や体動の制御が難しい場合の撮像時における一選択肢となります。本機能により,再撮像リスクの低減や画像作成をサポートし,検査効率の向上に寄与することが期待されます(図16)。
図16 RADAR
k空間を放射状にサンプリングするラジアルスキャン技術。体動によって生じるアーチファクトを分散させることで,体動の影響の低減を支援する。
APERTO Lucent ff,AIRIS Vento ffは,オープンMRIの特長である開放性と患者親和性に加え,スライスライン設定
サポート機能AutoPose,画像再構成技術DLR,後処理技術IQ Retouchなど,多彩なアプリケーションを搭載しています。これらの技術は,撮像位置設定から画像作成までの一連の検査プロセスを支援し,ワークフローの効率化と画質確認をサポートします。さらに,操作手順の標準化や再撮像リスクの低減を支援することで,医療従事者の負担軽減にも貢献することが期待されます。
*1 AI技術の一つであるDeep Learningを用いて開発した。導入後に自動的に装置の性能・精度が変化することはない。
*2 「APERTO Lucent ff」は,「MRイメージング装置 APERTO Lucent」(医療機器認証番号:222ABBZX00151000)に新しい機能を搭載したMRIシステムの呼称。
*3 「AIRIS Vento ff」は,「MRイメージング装置 AIRIS Vento」(医療機器認証番号:221ABBZX00062000)に新しい機能を搭載したMRIシステムの呼称。
*4 「ECHELON Synergy ZeroHelium」は,「MRイメージング装置 ECHELON Synergy」(医療機器認証番号:305ABBZX00004000)にZeroHelium磁石を搭載した液体ヘリウムを使わないMRIシステムの呼称。
*5 「ECHELON Smart ZeroHelium」は,「MRイメージング装置 ECHELON Smart」(医療機器認証番号:229ABBZX00028000)にZeroHelium磁石を搭載した液体ヘリウムを使わないMRIシステムの呼称。
*6 図3には頭部検査における撮像時間短縮の一例を示しており,短縮率は撮像条件により異なる。
*7 最終的に操作者が提示されたスライス位置を確認し,必要に応じて手動で調整する。
*8 販売名:富士画像診断ワークステーション FN-7941型,認証番号:22000BZX00238000
*9 処理を自動で行うもので,診断を自動で行うものではない。操作者の確認が必要である。
*10 最終的に操作者が確認を行い,追加で手動クリッピング処理を行うことが可能である。
