R & D Interview
第4回 ベテラン技師の頭脳をAIに。MRI自動位置決め「AutoPose」開発秘話
なかなか聞けない! 開発者へのインタビュー
2026-9-25
1.5T MRI装置
「ECHELON Smart Plus」
「ECHELON Smart ZeroHelium」
「ECHELON Synergy」
「ECHELON Synergy ZeroHelium」
AutoPose
千葉県柏市には富士フイルム(株)の画像診断装置の開発・製造拠点があり,熱い思いを持った開発者が,医療機器を世に出すためにさまざまな課題や苦労を乗り越えながら日々奮闘しています。本シリーズでは,診療放射線技師として病院に20年間勤務したインタビュアーが,医療現場の視点を交えて取材し,縁の下の力持ちである彼らの声をお届けします。
第4回では,1.5T超電導MRI装置「ECHELON Smart Plus」*1「ECHELON Smart ZeroHelium」*2「ECHELON Synergy」「ECHELON Synergy ZeroHelium」*3に搭載されているスライスライン設定サポート機能「AutoPose」について,開発者の池川彩夏さんと森 明子さんにお話しを伺いました。
池川彩夏さん |
森 明子さん |
インタビュアー |
臓器認識技術など独自技術を活用し全身領域の撮像位置設定を支援するAutoPose
─はじめに,これまでの経歴を含めて自己紹介をお願いします。
池川:私は2018年に入社し,入社後からMRIのワークフローに関する機能開発に携わり,主には操作画面などを含めたユーザー・インターフェースの技術開発を行っています。
森:私は2022年に入社し,池川さんと同じく主にMRIのユーザー・インターフェースにかかわる開発を行っており,AutoPoseでは,操作画面部分の開発を担当しました。現在は,MRI開発から離れ,マンモグラフィのコンソールの開発に携わっています。
─AutoPoseの機能,コンセプトについて簡単にご紹介ください。
池川:AutoPose専用の位置決め画像を解析し解剖学的ランドマークを検出して,本撮像の撮像位置設定を支援します。
森:AutoPoseは,位置決め作業の効率化に貢献することをめざしています。なお,AutoPoseは提示された撮像位置を操作者が確認し,必要に応じて調整することを前提としています。
─AutoPoseで自動位置決め可能な部位を教えてください。
池川:脳神経系では頭部,脊椎(頸椎,胸椎,腰椎),胸部系では心臓,乳腺,腹部系では肝臓,膵臓,腎臓,骨盤領域(男性用,女性用),四肢関節系では肩,膝,股関節などの撮像位置設定を支援します(図1)。
図1 AutoPoseの適応部位
頭部,脊椎(頸椎・胸椎・腰椎),肩,膝,股関節,乳腺,腹部(肝臓・膵臓・MRCP・腎臓),骨盤領域,心臓などの撮像位置設定を支援する。
─AutoPoseはどのような技術を使って開発されているのでしょうか。
池川:AutoPoseは,富士フイルムが持つ臓器認識AI技術を活用して開発されました。開発段階では,画像データを用いて臓器認識モデルの設計・評価を行いました。MRIはCTと比べて普及台数が少ないため,MRIの画像データは集めにくい状況にあります。そこで,富士フイルムが有するドメイン変換技術なども活用し開発を進め,製品搭載を実現しました。また,診療放射線技師の経験を持つ方々がアノテーションした教師データを用いて,開発段階で学習・評価を行っています。
「次の操作に迷わず進める」ことをめざし技師目線を重視して開発
─自動位置決め部位として難しい部位などはあるのでしょうか。
池川:人が位置決めを難しいと感じる部位は,ランドマーク検出の処理においても課題になりやすい傾向があります。アーチファクトの影響がある場合や,位置決め画像の画質が十分でない場合などは,撮像位置設定を支援する上で考慮すべき点が多くなります。
─AutoPose開発に当たって開発者としてのこだわりがあれば教えてください。
池川:AutoPose開発でこだわったのは,「できるだけ迷わず次の操作へ進めること」です。操作者が提示された撮像位置を確認する際の負担を減らせるよう,位置決め支援の精度向上に取り組みました。また,検査の流れを止めないために,撮像時間や処理時間の短縮にも力を入れました。
─AutoPoseを開発する上で,「これは絶対に実現したかった」というポイントはありましたか。
森:「できるだけ迷わずに進めること」を実現するために,画面上での視線やカーソルの移動にも着目し,情報の内容や配置,操作方法を工夫しています。これにより,操作の流れを止めずに操作できることをめざしました。
─臨床現場では撮像部位に応じてさまざまな基準線があり,施設ごとに決定してMRI検査を進めています。この基準線に関してどのような考えの下,AutoPoseに反映しているのでしょうか。
池川:頭部の場合,位置決め画像から複数の特徴点を用いて頭部全体を認識し,撮像位置設定を支援します。頭部はさまざまな基準線がある代表的な部位なので,施設の運用に合わせて基準スライス位置を設定できるようにしています。また,操作者は提示された撮像位置を確認し,必要に応じて修正できます(図2)。
図2 AutoPose Brainのプリセット画面
専用の位置決め画像を解析し,本撮像の撮像位置を自動設定する。基準スライス位置を施設の運用に合わせて設定することができ,操作者は提示された撮像位置を確認し,必要に応じて修正することができる。
森:頭部と心臓を除く部位については,国内の教科書を参考にし,社内に在籍する診療放射線技師の経験を持つ方々の意見も取り入れながら基準線を検討しました。また,国内と海外での基準線の違いを確認するために,海外で放射線技師経験のある方々の意見も参考にしました。
心臓など断面設定が難しい領域にも対応し技師の位置決め作業を効率化
─女性骨盤AutoPoseについて教えてください。子宮は体部と頸部に分けられますが,子宮がんのステージングをする際,子宮に対して短軸像(Direct-Axial)の撮像が求められます。女性骨盤AutoPoseは,このあたりのスライス断面サポートを行ってくれるのでしょうか。
池川:女性骨盤では,3D ScanogramとT2強調画像の矢状断像から8種類の断面をAutoPoseで自動設定します。女性骨盤のランドマークを検出して算出されたスライス断面から,ユーザーは本撮像の撮像位置を選択することができます(図3)。
図3 女性骨盤AutoPose
3D位置決め画像およびT2強調画像を用いて撮像位置設定を支援する。操作者は提示された撮像位置を確認し,必要に応じて修正することができる。
─心臓MRIは,ガイドラインに記載されているスライス断面がありますが,被検者によって,心臓の大きさ,向きなどさまざまで個体差がある臓器であり,2重角,3重角でスライス断面を選択する必要があるため,煩雑な検査部位の筆頭格です。実際,心臓AutoPoseでは,どのようにスライス断面サポートを行ってくれるのでしょうか。
森:心臓AutoPoseでは,専用の3D Scanogramを利用して,心臓検査で必要となる撮像位置設定を支援します。VLA,HLA,SA,4CHなどの断面設定をサポートすることで,心臓MRIにおける位置決め作業の効率化をめざしました。なお,提示された撮像位置は操作者が確認し,必要に応じて調整できます(図4)。
図4 Cardiac Slice Plan画面
撮像位置プランニング専用の3D画像を用いて解剖学的ランドマークを検出し,心臓検査に必要な断面の撮像位置設定を支援する。操作者は提示された撮像位置を確認し,必要に応じて修正することができる。
─心臓AutoPoseの開発で難しかった点,苦労した点などがあれば教えてください。
森:心臓MRIの断面決定は,被検者ごとの心臓の大きさや向きの違いを考慮する必要があり,操作に時間を要する場合があります。心臓検査の経験が豊富なユーザーだけでなく,経験の浅いユーザーにも確認しやすい機能となるよう,診療放射線技師の経験や心臓検査の経験の有無など,さまざまな方からのフィードバックを反映しながら開発を進めました。
機能の一例として,操作者が提示された撮像位置を確認する際の参考情報として,ランドマークや断面イラストを参照できるスライスラインガイダンスを採用しています(図5)。これらの開発は,マーケティング,研究開発,デザインなど多くの部門が連携することで実現しました。
図5 スライスラインガイダンス
ランドマークの見本画像や断面イラストを参照することができる。
─最後にワークフロー改善に向けて,AutoPoseを今後,どのように広げていきたいとお考えでしょうか。
森:私は,現在は他装置の開発に携わっていますが,MRIだけでなくX線装置やCTなどほかの製品の開発においても,AutoPose開発と同様に,現場のニーズや環境を踏まえ,より使いやすい機能となるように開発を進めていきたいです。
池川:AutoPoseは撮像位置を自動的に提示する機能ですが,技師さんの確認を前提としています。複雑なMRI検査を支援する機能であり,技師さんの仕事を置き換えるものではありません。ですからAutoPoseは,現場のニーズやフィードバックを取り入れながら,より使いやすい撮像位置設定支援機能として発展させていきたいです。
*1 「ECHELON Smart Plus」は「MRイメージング装置 ECHELON Smart」のモデル呼称です。
*2 「ECHELON Smart ZeroHelium」は「ECHELON Smart Plus」に液体ヘリウムをまったく使わない超電導磁石であるZeroHelium 磁石を搭載したモデルの呼称です。
*3 「ECHELON Synergy ZeroHelium」は「ECHELON Synergy」に液体ヘリウムをまったく使わない超電導磁石であるZeroHelium 磁石を搭載したモデルの呼称です。
販売名:MRイメージング装置 ECHELON Smart
医療機器認証番号:229ABBZX00028000
販売名:MRイメージング装置 ECHELON Synergy
医療機器認証番号:305ABBZX00004000
