Case 5 医療法人葵鐘会 ロイヤルベルクリニック 
産科専門クリニックをグループで展開し,電子カルテと連携した産科,新生児のデータベースをFileMakerで運用
院長 丹羽慶光氏  新生児担当医師 吉田茂氏

2011-7-1


FileMakerと電子カルテを連携して運用

FileMakerと電子カルテを連携して運用

医療法人葵鐘会(きしょうかい)(山下守理事長)では,愛知,岐阜を中心に複数の産科クリニックを開設し,それらの医療機関をBell-net(ベルネット)として連携を図ることで,高いレベルの周産期医療と安心・安全のサービスを提供する。2006年に愛知県稲沢市に最初のクリニックをオープンしたのを皮切りに,2011年5月までに7つのクリニックを開設した。同グループでは,ベンダー製の電子カルテシステムにFileMakerで独自に作成した産科,新生児のデータベースを組み合わせたシステムを構築している。既存のシステムとユーザーメードシステムの融合による周産期領域のシステム化の取り組みと臨床の活用を,ベルネットのグループ施設であるロイヤルベルクリニックの丹羽慶光院長と,同クリニックで新生児医療を担当しユーザーメードのシステム構築を推進するJ-SUMMITS 代表として,IT導入に携わる吉田茂氏に取材した。

丹羽慶光氏

丹羽慶光氏

吉田 茂氏

吉田 茂氏

ロイヤルベルクリニックは2010年12月にオープン

ロイヤルベルクリニックは
2010年12月にオープン

 

●産科専門クリニックのグループ運営で周産期医療を支える

葵鐘会の7つのクリニックでは,グループに所属する産科専門医が連携することで,常に2名の産婦人科医師が24時間365日管理する体制を構築している。丹羽院長は,葵鐘会の取り組みを次のように説明する。
「産科医不足によって,名古屋大学と関連医療機関が担ってきた東海3県の周産期医療に空白地域が生じるようになってきました。ベルネットは,そういった地域に産科専門クリニックを整備して,各施設がグループとして連携することで周産期医療の崩壊を防ぎ,安全,安心の産科医療を提供する取り組みです」
産科医療を取り巻く状況は産婦人科医不足や過剰労働など年々厳しくなっており,病院における産科閉鎖や個人運営のクリニックの撤退など悪循環に陥っている。ベルネットでは,複数のクリニックをグループとして運営し連携することで,医師の負担を軽減しゆとりとやりがいのある環境を提供する,産科医療の新しいモデルである。
「産科医にとっては,従来,激務の勤務医か,すべてのリスクを負う開業医かという二者択一だったのですが,葵鐘会はその中間のモデルで,地域の周産期医療を支えようという取り組みです。こういったモデルが,今後,全国で必要とされてくるのではないでしょうか」と,丹羽院長は語る。

●産科,新生児医療に対応した データベースをFileMakerで構築

葵鐘会では,各クリニックに富士通製の電子カルテ(HOPE/EGMAIN-NX)と,FileMakerで作成した産科,新生児用のデータベースを連携させた産科医療向け電子カルテの構築を進めている(図1)。葵鐘会のシステムの構築と導入を進める吉田氏は,そのコンセプトを次のように語る。
「既製の電子カルテには,産婦人科に適したパッケージはありませんでした。というのは,産婦人科のクリニックは,複数の診察室があり入院も扱うなど多様な機能が必要で,また,制度上の関係から新生児は入院扱いにならず,母親に関連づけた記述しかできないなど,開業医向けの電子カルテでは対応しきれない部分が多いからです。そこで,中小病院向けの電子カルテに,FileMakerで産科や新生児のカルテの部分を自作した産科専用の電子カルテを構築しました。ベンダー製の電子カルテをベースに,FileMakerによるユーザーメードのデータベースを組み合わせることで,産科や新生児医療ならではの使い勝手を実現するのと同時に,正常を含めたさまざまな情報のデータベース化を可能にしました」

図1 電子カルテEGMAIN-NXの画面。右のショートカットウインドウからFileMakerのデータベースへリンク

図1 電子カルテEGMAIN-NXの画面。右のショートカットウインドウからFileMakerのデータベースへリンク

 

ロイヤルベルクリニックでは,富士通の電子カルテと,妊婦健診など母親の情報を扱う産科データベース(DB),新生児の状態を記録する新生児管理DBで構成されている。産科DBは,吉田氏の構想をベースとして(株)ジュッポーワークス(FBA)が構築し,妊婦健診や助産師外来,助産録,産後健診カルテなど,出産前後の情報を管理できる(図2,3)。妊婦健診では,体重や血圧などの基礎情報から胎児エコースクリーニングの所見まで記録可能だ。

〈産科データベース〉

図2 妊婦健診画面

図2 妊婦健診画面

 

図3 助産録画面

図3 助産録画面

 

新生児管理DBは,吉田氏が神鋼加古川病院で最初に作成したシステムをベースにしたもので,新生児の情報を出生時から乳児健診までトータルに記録することができる(図4~6)。
「赤ちゃんも一入院患者として扱い,出生時からの体重などのデータを記録し基準値を超えた場合の警告や,検査データのグラフ表示などの機能を搭載しています。出産直後の12時間記録から退院時サマリ,外来での乳児健診まで一連の情報を入力でき,出生からの記録を通して見ることできます。この施設では電子カルテから産科DBまでリンクしていますので,母体からトータルでの管理が可能です」
電子カルテとの連携は,電子カルテの検査データを利用できるほか,産科および新生児DBで作成した記録は,“電子カルテへ転記”というボタンのクリックでクリップボードを使ったコピー・アンド・ペーストで書き戻しが可能になっている。

〈新生児管理データベース〉

図4 一覧画面。新生児を入院患者として扱うことができる

図4 一覧画面。新生児を入院患者として扱うことができる

 

図5 経過記録画面

図5 経過記録画面

 

図6 乳児健診画面

図6 乳児健診画面

 

●ユーザーメードシステムの活用で多様なワークフローに対応

FileMakerを利用したシステムは,ユーザーが必要な機能の追加や変更,画面レイアウトの修正や入力項目の追加などが,自分で自由にできることがメリットだ。例えば,ロイヤルベルクリニックでは,低血糖児管理の項目の追加を吉田氏が診察終了後の短い時間で作成した。「医療のシステムは複雑であり,プログラミングには手間がかかります。ベンダーに作成を依頼するには,どういうシステムが必要なのかを医学的な内容を含めて理解してもらう必要があり,実際にシステムに落とし込んでいくには時間と費用がかかります。FileMakerでは,医師が直接システム作成を行うことで必要な変更をすぐに適用できます」
EGMAIN-NXは,富士通の中小規模病院向けの電子カルテパッケージだが,名古屋大学に導入されているNeoChartがベースになっている。NeoChartは,名大病院のITセンター長を務める吉田氏のもとでFileMakerとの豊富かつ多彩な連携実績を持っているのが,産科クリニック向けの電子カルテとしてNXが選択された理由の1つだ。吉田氏は「ユーザーの要望を,すべて電子カルテ側でカスタマイズするには無理があります。FileMakerとの連携で,ユーザビリティの向上とカスタマイズの工数を削減でき,電子カルテベンダ側にとってもメリットは大きいはずです」と話す。

●年間1万件近い出産をデータベース化して診療,研究に活用

これからの取り組みとしては,FileMaker Go を使ったiPadなどでのモバイルの運用を検討中とのことだ。吉田氏は「現在も新生児の回診で,iPadを情報参照に利用していますが,入力にも対応できるように開発を進めていきたいですね」と言う。
葵鐘会の各クリニックで蓄積されたデータをネットワークして,将来的には1つのデータベースで管理することを構想している。吉田氏は,「グループ全体では,年間で1万件近い分娩を扱うことになります。これだけの数の正常な分娩が記録されデータベース化されているところはありません。クリニック間のデータを統合して管理し,きちんとしたデータとして記録,収集することで,新しいエビデンスとしてこれからの診療や研究に役立てていくことが今後の目標の1つです」と語っている。

 

協力ベンダー:(株)富士通中部システムズ(株)ジュッポーワークス

 

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医療法人葵鐘会

医療法人葵鐘会
理事長:山下 守
設立:2007年12月10日
FileMaker Pro:43
FileMaker Server:3
FileMaker Pro Advanced:4
http://www.kishokai.or.jp/


(インナービジョン2011年7月号 別冊付録 ITvision No.24より転載)
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