Case 9 社会医療法人孝仁会 釧路孝仁会記念病院 
厚生労働省のモデル事業をスタートとしてFileMakerで電子カルテから部門システムまで独自開発
情報室室長 森本 守氏  課長 須貝公則氏

2012-7-1


釧路脳神経外科の診察室の電子カルテシステム 診察室では3面モニタが標準となっている。同院の入江伸介院長は「現場の要望通りの使い勝手が実現されているので使いやすいシステムです」と評価する。

釧路脳神経外科の診察室の電子カルテシステム
診察室では3面モニタが標準となっている。
同院の入江伸介院長は「現場の要望通りの使い勝手が
実現されているので使いやすいシステムです」と評価する。

社会医療法人孝仁会(齋藤孝次理事長)は,1989年に個人病院として開設された釧路脳神経外科病院から始まる。2年後に医療法人化し,96年に星が浦病院,2004年に新くしろ病院を開設,2007年には3病院の機能を集約して釧路孝仁会記念病院をオープンした。急性期医療から介護,福祉まで幅広く展開し,2009年には北海道で3番目の社会医療法人として認定された。
孝仁会グループでは,2005年からFileMakerを基盤として完全に独自開発を行った電子カルテシステムが構築されている。情報室を中心に電子カルテのみならず,部門システムを含めてFileMakerでの構築を行っている現状を情報室の森本守室長,須貝公則課長に取材した。

●2003年度の補助事業採択が電子カルテの独自開発のスタート

森本 守室長

森本 守室長

孝仁会グループでのFileMakerによる電子カルテの構築は,2003年度の厚生労働省の「地域医療機関連携のための電子カルテ導入補助事業」に選ばれたことが,本格的に取り組むきっかけとなったと森本室長は説明する。
「補助事業では,診療情報の共有など地域での連携が可能なオープンなシステム構築を行うことが要件となっていました。そこで,当時の本院である釧路脳神経外科病院で計画していた市販のソフトウエア(FileMaker)による電子カルテ構築で応募したところ,採択され補助金をいただくことになりました」
モデル事業としてFileMakerによる独自開発が可能になったのは,森本室長を中心にした"ユーザーメード"の実績があったからだ。森本室長は,診療放射線技師として釧路脳神経外科病院の開院から手作りのデータベース構築に取り組んできた。「放射線科の検査の照射録や結果などを患者IDと紐付けして,BasicやWindowsの『桐』などでデータベース化していました。その後,画像を扱うならMacintoshがいいということでプラットフォームを変更し,Macで扱えるデータベースソフトとして使い始めたのがFileMakerでした」
96年に開院した星が浦病院は,日本で最初の完全フィルムレスの病院としてスタートしたが,森本室長はそこで放射線科のオーダリングシステムをFileMakerで構築した。「依頼伝票を使わないペーパーレスを方針として,放射線検査のオーダシステムを構築しました。それが検査部門に拡張して 97年には病院全体のオーダリングシステムに発展しました」

●医事システムと連携しオーダ,診療支援のシステムを統合して構築

須貝公則課長

須貝公則課長

98年に,理事長から本院(釧路脳神経外科病院)でのオーダリングシステム構築の要請があり,森本室長は情報室の専任として再び本院に戻る。この時に,将来的な電子カルテへの発展を見据えて,FileMakerと連携可能な医事システムの導入を図りマックスシステム(本社:東京)を採用した。
「電子カルテについてもFileMakerと連携可能なシステムを探して数十社のデモを行いましたが,当院にマッチした製品が見つかりませんでした。そこで,すでにあるFileMakerの診療支援システムをベースに,カルテの2号用紙の部分を加えれば電子カルテになるのではという理事長の意向で独自開発を行うことになり,その時に厚労省の補助事業に応募することになりました」
まず,院内のオーダなどのシステムの統合から着手したが,その時に須貝課長が着任して情報室は2人体制になった。電子カルテ構築の初期には,2人で各部署のヒアリングを行い基本設計をFileMaker上で作成し,それをフィードバックして進めていたが,より多くの要望や意見を取り入れるため全部門が集まる総合会議を月1回開くこととなり,この会議は現在まで続いている。「最初のコンセプトは,紙カルテからできるだけスムーズに電子化に移行できることを考えました。ユーザーが作ったレイアウトは,最初は紙カルテをイメージしたものだったのですが,画面参照に慣れた1年後にはまったく違うものになったのは面白い経験でしたね」(森本室長)
2007年に釧路孝仁会記念病院がオープンしたが,電子カルテはカスタマイズして構築,病棟システムの運用もスタートした。

外来電子カルテ基本画面

外来電子カルテ基本画面

 

入院カルテ基本画面

入院カルテ基本画面

 

●現場の要望を最優先に“かゆいところに手が届く”使い勝手を実現

現在,釧路孝仁会記念病院では,外来・病棟の電子カルテ,オーダリングシステムを中心に,薬局,検体検査システム,リハビリ,栄養科(給食),PACSなどの部門システムが稼働している(システム構成図参照)。健診システムなど一部を除き診療系はもちろん,稟議書や物品請求など総務系を含めて,院内のほとんどのシステムをFileMakerで構築している。

釧路孝仁会記念病院電子カルテシステム構成図

釧路孝仁会記念病院電子カルテシステム構成図

 

電子カルテでは,マルチウィンドウを利用して,開いた患者画面からあらゆる情報にワンボタンでアクセスできる。そのため,診療系の端末にはMacを採用し,診察室では3面モニタを基本とする(端末台数320)。須貝課長は,同院のFileMaker電子カルテの特徴を“かゆいところに手が届きすぎる”システムと表現する。クリニカルパスのシステムでは,パスを選択し入院日と手術日などキーとなるスケジュールを決定すれば,すべてのオーダが自動的に発行されるようになっている。食事やリハビリ,事前に行う患者説明の時間まで自動的に取得される仕組みだ。さらに,ユーザーごとのウィンドウ配置など画面レイアウトをIDで記憶して,常に同じ環境で使用できるように配慮されている。
情報室のスタッフは,現在,室長を含めて9名。サーバの管理,FileMakerによるシステムの構築だけでなく,クリニカルパスのバリアンス管理や運用を含めて,すべて情報室のスタッフが現場のチームの一員として対応する。森本室長は,情報室の運営のポリシーを次のように説明する。
「とにかく“ノーと言わない”ことを第一のポリシーにしてきました。物理的に不可能なこと以外は,現場の要望に忠実に応えること,そのためにさまざまな工夫やスキルアップをしてきたことが,情報室スタッフの育成と医療現場からの評価につながっています」
電子カルテシステムでは,十分なバックアップをとって保存性を担保するほか,災害に備えて法人としてデータセンターの利用の検討を始めた。また,真正性に関しては,原則として24時間でタイムロックをかけて変更不可としているが,修正が必要な場合には,承認手続きを踏んだ上で情報部が申請内容を追記修正するようにしている。

●グループ内でのFileMakerによるシステム開発をさらに発展

法人内の新くしろクリニックでは,医事システムに「日医標準レセプトソフト(ORCA)」を採用し,独自にカスタマイズしてFileMakerの電子カルテと連携して2011年から運用した。稼働から1年が経過し順調に運用されていることから,釧路脳神経外科でも今年7月からこの組み合わせで稼働する予定だという。そのほか,孝仁会記念病院でも電子カルテの運用体制の強化をめざしてサーバシステムの入れ替えが計画されるなど,情報室を中心に今後も開発を積極的に行っていくと森本室長は語る。
同院では,過去に現場で選定したベンダー製の看護支援システムパッケージが稼働していたが,現場からの要望でFileMakerで構築し2012年7月から運用することになった。「結局かゆいところに手が届かないと使いにくいということになって,要望が上がってきました。看護支援は,電子カルテと同じぐらい難易度が高かったのですが現場との対話を繰り返し改善を重ねてリリースできそうです」(森本室長)。
FileMakerを使った開発の歩みは,まだまだ止まらない。

 

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社会医療法人孝仁会 釧路孝仁会記念病院

社会医療法人孝仁会 釧路孝仁会記念病院
釧路市愛国191番212
TEL 0154-61-0123
病床数:232
FileMaker Site License:500
http://www.kojinkai.or.jp/


(インナービジョン2012年7月号 別冊付録 ITvision No.26より転載)
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