3D画像解析システム SYNAPSE VINCENT─診断から治療支援へ:画像認識技術の応用 富士フイルム株式会社
3D・WS(SYNAPSE VINCENT)—フィルム&FCRの“DNA”を受け継ぐさまざまな先進技術

2013-8-26


図1 代表的な3D画像認識技術

図1 代表的な3D画像認識技術

■はじめに

世界に先駆けてFCRを開発したことで,富士フイルムはデジタル画像に関する知見を豊富に蓄積し,次々に高度な画像技術を獲得した。富士フイルムの画像認識技術の歴史は,FCRの自動濃度補正機能に始まる。臨床現場には多様な撮影条件・手技・症例があふれており,いかなる画像に対しても安定した診断画質を提供するためには,画像の特徴を解析して判断する技術を進化させる必要に迫られた。FCRから始まった画像認識技術は,医療分野以外にも,写真プリント・印刷・デジタルカメラなど,多くの事業領域でのデジタル化の進展とともに発展し,互いに技術融合しながら各分野の市場で鍛え上げられ,“多様で複雑な対象を安定して高精度に認識し,解析する”という富士フイルム独自の技術が熟成された。さらに「SYNAPSE」によるPACS進出で各種モダリティ画像を扱うこととなり,3D画像に対する経験も積んだ。これら長年の広範囲な経験により高度化した技術の集大成とも言えるのが,「SYNAPSE VINCENT」に搭載している高精度な3D画像認識技術である。

■SYNAPSE VINCENTにおける3D画像認識技術

SYNAPSE VINCENTは,CTやMRIなどの断層画像から高精度な3D画像を描出し,解析することができる医療向け3D画像解析システムである。医療画像を立体的に可視化するシステムは,画像診断や手術の事前シミュレーションなどに多く活用され,そのニーズは年々高まっている。また,患者ごとの治療方針決定にも活用されるため,高精度な解析機能が求められている。SYNAPSE VINCENTでは,富士フイルム独自の画像認識技術を採用し,放射線科,循環器,消化器,呼吸器領域において,例えば以下に挙げるような高精度な3D画像解析を行うことができる。

(1)‌放射線科領域では,「骨除去」や「血管抽出」機能など

(2)‌循環器領域では,「冠動脈解析」を使って冠動脈を自動的に抽出・認識し,狭窄部位や石灰化領域の特定を支援する情報の提示や,「心機能解析」を使って心室の心機能を定量化する機能など

(3)‌消化器領域の肝臓では,「肝臓解析」を使って門脈・肝静脈などの血管を抽出する機能,また,その血管ごとの支配領域を認識し,色分け・分割表示して容積データを提供する機能など

(4)‌呼吸器領域の肺では,「肺解析」「肺切除解析」「気管支鏡シミュレータ」機能など

これらの機能に組み込んでいる代表的な3D画像認識技術を図1に示す。ほぼ全自動で,各種臓器や血管などを精度高く抽出することができるため,専門技術や作業時間を必要とせずにバラツキのない解析画像を提供することができ,臨床現場における診療放射線技師の負荷軽減や,医師の読影業務の迅速化に貢献している。

図1 代表的な3D画像認識技術

図1 代表的な3D画像認識技術

 

■富士フイルムの3D画像認識技術の特徴

いくつかの例で,富士フイルムの3D画像認識技術の特徴を説明する。
「心臓解析」は,心臓・大動脈・冠動脈・心室抽出の自動抽出からなり,入力画像から冠動脈や心室の表示まで全自動で抽出可能である。抽出性能の客観的な評価として,心臓解析で最も重要な冠動脈抽出技術についてGrand Challenges*1に参加し,全自動抽出の部門でトップの成績を収めた1)。特徴的なのは,図2aに示すように,強度なソフトプラークがあっても冠動脈をロバストに抽出できることである。
「肺解析」は,肺・肺葉・肺結節・気管支・肺動静脈の自動抽出からなり,呼吸器領域において高精度な3D画像解析を行うことができる。非常に細かい1mm以下の気管支や肺動脈,肺静脈の細部までを高精細に自動抽出でき,COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの診断支援やディスプレイ上での気管支鏡シミュレーションも行うことができる。また,肺解析で最も重要な気管支抽出技術についてもGrand Challengesに参加し,細い気管支までの抽出精度がトップであることが実証された2)。特徴的なのは,図2bに示すように,ベンチマークとして用意されている正解領域よりも細い気管支を安定的に抽出できたことである。

図2 ‌脈管抽出技術

図2 ‌脈管抽出技術
a:冠動脈抽出結果例,b:気管支抽出結果例○は注目場所

 

「骨解析」は,骨自動抽出・股関節自動分離・椎骨自動分離・関節指定骨自動分離からなり,骨解析に関連する作業の大幅な効率アップに貢献している。股関節や椎骨の自動分離技術だけでなく,任意の関節に応用可能な指定骨自動分離技術も搭載したことで,作業効率を飛躍的に改善した。指定骨自動分離の例を図3に示す。ユーザーが対象骨を指定するだけで,近隣骨と密接しているにもかかわらず,対象骨を精度良く抽出できる。これまでは手動で1時間以上かけて行っていた分離作業が,秒単位でできるようになった。

図3 汎用骨分離技術

図3 汎用骨分離技術
a:対象骨指定,b:自動抽出結果

 

臨床現場で“役立つ”ために最も重要なことは,デモンストレーションで使用する症例に対して高性能であることではなく,現場の多種多様な症例への対応を可能とすることである。従来型の技術では多種多様な症例に対応しきれないため,SYNAPSE VINCENTには,機械学習(machine learning)に代表される数学理論を導入した。機械学習とは,既知データ集合をコンピュータで解析して,見つけ出した規則や判別基準を基に,未知のデータを認識する手法である。適切な機械学習の利用により,技術者の“勘”に頼ったローカルな解でなく,既知データ集合に隠されたグローバルな解を見つけ出すことで,既知の症例だけでなく未知の症例に対しても安定して認識できるという特徴を実現することが可能となった。前述した冠動脈抽出や気管支抽出も,管状構造をグローバルに表現する判別基準を機械学習により獲得したことで,濃度値の低いソフトプラークやコントラストの弱い細い気管支のロバストな抽出を実現している。その他の機能についても,近年の機械学習分野での進歩に伴う最新の数学理論を積極的に取り入れることで,ロバスト性の高い認識技術を実現した。

■おわりに

これまで各診療科に向けた多彩な解析機能において,数多くの3D画像認識技術を開発し搭載してきたが,臨床現場における幅広い画像解析のニーズすべてに十分に応えきれているとは言えない。したがって,これからも臨床現場に密着しながら,新たなニーズに応える先端的な画像認識技術を強化していく。また,SYNAPSE VINCENTで鍛え上げた3D画像認識技術を富士フイルムの幅広い医療IT製品に展開することで,より多くのユーザーの画像解析の効率アップに貢献していきたい。

 

*1 Grand Challenges in Medical Image Analysis:医用画像関連の国際学会にて,同じテストセットと共通評価基準を設け,世界中にある数多くの医用画像認識手法の性能を客観的に評価する学術活動。

●参考文献
1)Kitamura, Y., et al. : Automatic coronary extraction by supervised detection. 9th IEEE International Symposium on Biomedical Imaging, 2012.
2)Inoue, T., et al. : Robust airway extraction based on machine learning and minimum spanning tree. SPIE Medical Imaging, Computer-Aided Diagnosis, 2013.

 

富士フイルム株式会社 R&D統括本部 画像技術センター
主任研究員 李 元中,主席研究員 伊藤 渡


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