Session Ⅳ : New Horizon in CT Diagnosis 
腹部 Ⅰ
急性膵炎におけるPerfusion & Subtraction CT Imageの有用性 辻 喜久(京都大学消化器内科胆道・膵疾患研究グループ)

2013-11-25


辻 喜久

急性膵炎は,アルコール摂取や胆石などが原因で発症し,国内の患者数は約6~7万人と言われ,重症化すると命にかかわる病態となる。重症急性膵炎の予後を改善するためには,正確な診断(重症度評価)が重要となる。本講演では,救急診療における急性膵炎の診断に有用なPerfusion CTとSubtraction CT Imageについて報告する。

重症急性膵炎とは

急性膵炎は,炎症が膵臓にとどまっていれば軽症であるが,膵壊死から多臓器不全を合併すると,重症急性膵炎(severe acute pancreatits)となり,死亡率は30%まで上昇する。最近の知見によると,膵周囲壊死と膵壊死の比較では膵壊死の方が予後が悪いとされ,急性膵炎における膵壊死の合併の有無について,より正確な診断が求められるようになっている。

救急における重症度評価の方法

膵炎の重症度を評価する方法としては,(1)Glasgow,(2)Ranson,(3)APACHE Ⅱ,(4)造影CT(CE-CT),(5)CT severity index(CTSI)が一般的である。ただし,(1),(2)は全身のさまざまな身体所見や血液データの変化を発症後48時間にわたって観察する必要があり,救急診療で使用することはできない。救急では主に,(3)〜(5)が用いられる。
しかし,(3)はPositive Predictive Value(PPV:陽性適中率)が32%と極端に低く,救急には適していない。そこで,CTによる診断が重要になってくるが,(5)のCTSIのPPVは約50%と決して高くはなく,読影医によって診断にバラつきも生じることから,発症早期の診断精度には疑義がある。

Perfusion CTによる膵壊死の診断

本邦では,発症早期に膵壊死診断された場合,動注療法や積極的な経腸栄養等が推奨されている。侵襲性の高い治療を適切に導入するために,発症早期に膵壊死を正確に予測する方法が必要である。そこで, われわれはPerfusion CTを導入した。Perfusion CTとは,造影剤投与後にTime Density Curve(TDC)を各ピクセルごとに解析し,Color Map化する方法である(図1)。

図1 Perfusion CTの原理

図1 Perfusion CTの原理

 

2007年に発表した論文1)では,発症3日以内の膵のPerfusion CTでは,壊死予測の感度は100%,特異度は95.3%と,非常に高いことがわかった。図2aの浮腫膵炎の例では,Day 2のPerfusion CTで膵臓の一部に血流が比較的あるように見えており,Day 24で壊死はしていない。図2bの例では,造影CTではDay 2での評価は難しく,淡く造影されているように見えるが,Perfusion解析では完全に血流は観察されず,すでに壊死していると判断できる。Day 27の造影CTで,Perfusion CTで観察された領域に一致して壊死が認められ,Perfusion CTによる壊死予測は非常に有用であることが確認された。

図2 Perfusion CTの有用性 発症早期のPerfusion CTによる壊死予測の感度は100%,特異度は95.3%であった。

図2 Perfusion CTの有用性
発症早期のPerfusion CTによる壊死予測の感度は100%,特異度は95.3%であった。

 

実際に病理との比較を行ったところ,膵炎時の膵頭部に血流欠損が認められ,剖検では画像に一致して壊死が認められた(図3上段 ←1)。造影CTではわかりにくいが,血管造影では膵の血管に攣縮が認められ,Perfusion CTで同部位に一致して血流が認められず,完全に壊死していることが確認された(図3下段2)

図3 上段:Perfusion CTと病理所見との比較1)下段:血管造影像とPerfusion CTとの比較2)

図3 上段:Perfusion CTと病理所見との比較1)
   下段:血管造影像とPerfusion CTとの比較2)

 

Perfusion CTの安全性

Perfusion CTの重要な論点として,安全性が挙げられる。膵炎の造影CTについては慎重に行うべきであるが,Perfusion CTであれば造影剤の投与量を半分程度減らすことができる。Perfusion CTは,通常のDynamic CTの造影剤使用量(80~100mL)の半分(40mL)で済み,造影剤の減量につながる。また,上記の前向き多施設共同研究では,Perfusion CTは80kVp,30~40mA,計48秒間撮影で,CTDIvolを約80mGy以下まで減らすことができ,被ばく線量はDynamic CTとほぼ同じである。

Subtraction Color Map

われわれは,Perfusion CTのような時間軸画像法を応用し,さらにSubtraction Color Mapという技術を考案した3)。膵の壊死部は発症早期は出血のためにCT値が上昇し,発症からの時間が経過するにつれ,CT値は低下する。しかし, Time Density Curve(TDC)は,正常な膵と異なりDynamic 造影にてピークを作らず,平坦化する。このTDCの平坦化に注目し,難しいアルゴリズムを用いた解析を行うのではなく, 造影前後でサブトラクションした画像を作成した(シーメンス・ヘルスケア社製Subtraction Color Mapのプロトタイプソフトウェア)。また,単純に引き算するのではなく,自動レジストレーションを行って位置のズレを修正し,サブトラクションしてColor Map化した。この際,Mayo Clinicのデータや複数の論文を参考に,CT値の差が15以下の場合は紫色になるよう調整した。
急性膵炎の48人の患者を対象にSubtraction Color Mapによる検討を行い,1週間後のCTまたはMRIで確認を行って,感度・特異度を求めた。評価はMayo Clinicの経験15年以上の腹部領域専門の放射線科医2名と経験8年のフェロー1名の計3名で行った。その結果,造影CT(CE-CT)のみ,造影CT+通常CT(NC-CT),Subtraction Color Map+造影CTによる壊死予測は,精度,感度,κ係数において,Subtraction Color Mapを使った方が統計的な有意差をもって優れていることが判明した。
Subtraction Color Mapは,Perfusion CTのような透過率や線維化の定量に関連したパラメータが測定できないという制限はあるが,重症急性膵炎の発症早期の壊死予測が可能である。Subtraction Color Mapは,従来の撮影条件を変えずに低被ばくで壊死予測ができるようになり,一般病院においても有用な検査法となる可能性がある。現在,Subtraction Color Mapの解析ソフトはsyngo.viaに実装されており,使用できる状況にある。今後,Mayo Clinicとわれわれのグループを中心に,日米欧で多施設共同研究を行い,Subtraction Color Mapの有用性を確認していく予定である。

まとめ

Perfusion CTやSubtraction Color Mapはボックスタイプでレジストレーションを行うため,空間分解能が低下する。Dual Energy CTによるIodine Mapは,Subtraction Color Mapと同様の解析を可能とし,かつ,精度の高いレジストレーションが可能となり,より小さな病変の正確な評価に結びつくと思われる。さらに簡便な画像の取得を実現するために,今後,Dual Energy CTの応用に期待するところは大きい。

 

●参考文献
1)Tsuji, Y., et al. : Perfusion Computerized Tomography Can Predict Pancreatic Necrosis in Early Stages of Severe Acute Pancreatitis . Clinical Gastroenterology and Hepatology, 5, 1484〜1492, 2007.
2)Tsuji, Y., et al. : Perfusion CT is superior to angiography in predicting pancreatic necrosis in patients with severe acute pancreatitis. Journal of Gastroenterology , 45・11, 1155〜1162, 2010.
3)Tsuji, Y., Takahashi, N., Klotz, E., et al. : Subtraction color-map of contrast-enhanced and unenhanced CT for prediction of pancreatic necrosis in early stage of acute pancreatitis. AJR, 2013(Accept).


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