Session Ⅳ : New Horizon in CT Diagnosis 
腹部 Ⅱ 
Three-material decomposition法による肝鉄濃度と脂肪含有率の測定に向けて 濱口隆史(金沢大学附属病院放射線部)

2013-11-25


濱口隆史

本講演では,Dual Energy Imaging(以下,DEイメージング)におけるThree-material decomposition法による肝臓の鉄濃度と脂肪含有率の測定について,ファントム実験の概要と結果,そして,臨床応用に向けた展望を報告する。

Three-material decomposition法による鉄濃度測定

DEイメージングは,高低2種類の管電圧で撮影し,物質のCT値の変化を解析することで物質を弁別することができる。DEイメージングのThree-material decompositionは,肝臓や肺などの組織やヨード造影剤がそれぞれ固有の傾きを持った直線上に分布することを利用している。肝臓の造影CT検査を例にすると,肝臓+造影剤(ヨード)のCT値の分布からヨードの傾きの直線を引いて,造影剤の入っていない肝臓のCT値の分布と交わるところまでの距離を計算することで,ヨードマップを作成できる。このヨードマップは,造影されたヨード量を正確に反映,すなわち定量化できると言われている。そこで,われわれは,ヨードを肝臓に蓄積される鉄や脂肪に置き換えて定量化することができるのではないか考えた。
肝臓の鉄濃度測定は特に,輸血後鉄過剰症の診断に有用と考える。骨髄異形成症候群や再生不良性貧血などの難治性貧血では,長期間にわたって定期的な輸血が必要となるが,輸血により体内に入った鉄は排出されず蓄積されるため,心不全や肝炎,糖尿病などの臓器障害を起こす恐れがある。鉄過剰のモニタリングには,血清フェリチン値を求めるのが最も簡便な方法であるが,炎症や膠原病,腫瘍,肝疾患など多くの病態でも値が上昇するため,複数回の測定や,ほかの検査所見を含めて総合的な判断が必要である。
さらに,肝臓への鉄の蓄積が高度になった後に心臓への蓄積も起こることがわかっており,肝臓の鉄濃度を直接モニタリングすることは,適正なタイミングの治療開始につながる。モニタリングの方法としては,肝生検がゴールドスタンダードであるが,侵襲性の高さが問題となる。また,超音波検査や従来のCT検査は,簡便だが定量性に劣る。一方,MRIは非侵襲的に定量可能であり,数多くの報告がなされている。当院でもGandonらが考案した手法を用いて,肝臓と背筋の信号強度比から,Rennes大学のホームページ上で公開されている計算プログラムを用いて鉄濃度を測定している。ただし,この手法は,複数回にわたり十数秒の息止めをする必要があり,ミスレジストレーションの影響を受けてしまう。このほかにもMRIでは,R2*値をパラメータとした手法もあるが,装置メーカーや機種による制限も多く,解析ソフトウェアも必要となることから,当院では行っていない。

DEイメージングによる物質定量の検討

そこで,DEイメージングによる物質定量を検討した。DEイメージングは数秒の息止めを1回行うだけで,短時間で造影剤を使わずにデータを取得できる。また,120kV相当のcomposite imageを合成でき,従来のCT検査と同時に定量評価も行える。一方で,CTは被ばくが問題となるが,シーメンス社の被ばく低減技術(SAFIRE,Stellar Detectorなど)の進歩と普及により改善されていくと思われる。
本検討では,SOMATOM Definition Flashを使用し,まず“CARE Dose 4D”を用いた120kVでの撮影を行った。次に,これと同等のCTDIvolになるようにmAs値を設定してDEイメージングを行った。なお,B管球側の140kVでの撮影には,低管電圧側とのエネルギースペクトルを良好に分離するためのフィルタとして,Selective Photon Shield(SPS)が付加されている。
使用したファントムは,市販の豚レバーをペースト状にし,これに鉄の代わりにSPIOを,脂肪の代わりにラードを加え,「豚レバー+SPIO」,「豚レバー+ラード」,「豚レバー+SPIO+ラード」の3種類を作成した。
まず,SPIOおよびラードの傾きを調べた(図1)。蒸留水を加え濃度を変えたSPIOのCT値分布から近似直線の傾きを求めた。また,ラードは濃度を調節できなかったため,100%の値から原点までを結んだ直線の傾きとした。SPIOの濃度と座標上の原点からの距離との関係を求めた(図2)。さらに,SPIOとラードを加えていない豚レバーのCT値の近似直線も求めた(図2)。

図1 SPIOおよびラードの傾き

図1 SPIOおよびラードの傾き

 

図2 SPIO濃度と座標の原点からの距離との関係(左),豚レバーのCT値分布とその近似直線(右)

図2 SPIO濃度と座標の原点からの距離との関係(左),
豚レバーのCT値分布とその近似直線(右)

 

これらのデータから,Three-material decomposition法を用いて鉄濃度マップと脂肪含有率マップを計算した(図3)。SPIOまたはラードを加えた豚レバーから,豚レバーのみの直線までの距離DiとDfを図3の計算式で求めた。距離Diを鉄濃度に,距離Dfを脂肪含有率に変換し,鉄濃度マップと脂肪含有率マップを作成した(図4)。

図3 鉄濃度マップと脂肪含有率マップの計算

図3 鉄濃度マップと脂肪含有率マップの計算

 

図4 鉄濃度マップと脂肪含有率マップ

図4 鉄濃度マップと脂肪含有率マップ

 

従来のSingle EnergyによるCT画像と比較し,DEイメージングでは鉄濃度マップ,脂肪含有率マップともに,濃度あるいは含有率の上昇に応じて信号強度がより大きく変化していることがわかる。また,Three-material decomposition法による鉄濃度および脂肪含有率の精度については,鉄濃度マップは理論値と比較し,やや過小評価しているものの,鉄濃度マップと脂肪含有率マップはともに,Single Energy CTよりも良い相関が得られている(図5,6)。なお,豚レバーにラードを加えたファントムをMRIでも撮像を行い,Dixon法に基づく脂肪含有率解析を行ったが,これらとThree-material decomposition法による脂肪含有率の値は非常によく一致していた。

図5 Three-material decomposition法による鉄濃度マップの精度

図5 Three-material decomposition法による鉄濃度マップの精度

 

図6 Three-material decomposition法による脂肪含有率マップの精度

図6 Three-material decomposition法による脂肪含有率マップの精度

 

このほか,豚レバーにSPIOとラードの両方を加え,鉄濃度と脂肪含有率の同時計算も行った。まず,「豚レバー+SPIO+ラード」から「豚レバー+ラード」までの距離Diを算出し,さらに「豚レバー+ラード」から「豚レバー」までの距離Dfを算出するという,2ステップの計算を行った。これにより得られた鉄濃度マップ,脂肪含有率マップについても,個別に計算した場合と同様,濃度や含有率に合わせて信号強度が上昇している(図7)。それぞれのマップの精度は,個別測定に比べてバラツキが大きくなっているものの,良い相関を得られている(図8)。

図7 同時測定による鉄濃度マップ(上)と脂肪含有率マップ(下)

図7 同時測定による鉄濃度マップ(上)と脂肪含有率マップ(下)

 

図8 同時測定による鉄濃度マップ(左)と脂肪含有率マップ(右)の精度

図8 同時測定による鉄濃度マップ(左)と脂肪含有率マップ(右)の精度

 

まとめ

今回のファントム実験では,Three-material decomposition法の利用により高い精度で鉄濃度と脂肪含有率を定量することができた。ただし,SPSを用いていない140kVと80kVでの鉄濃度と脂肪含有率の同時測定は,精度が有意に低下しており,高電圧側のSPSが定量解析には必要であると言える。このSPSが付加された条件下では,管電圧の値が離れた組み合わせの方が精度が良いと言える。さらに,鉄濃度マップでは,Three-material decomposition法の解析値は理論値と比べてやや過小評価したが,これはすべての解析にSPIOの同じ傾きを使用したためと考える。
今後は,臨床応用に向けて,2つのX線エネルギーによるCT値座標上において,人体の正常な肝臓の傾きや,肝臓に沈着する鉄と脂肪の傾きを求める必要があるほか,定量解析のための線量や画質についても検討を重ねる必要があると考える。


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