Session Ⅳ : New Horizon in CT Diagnosis 
整形 Ⅰ 
Dual Energy CTによる腱病変の描出:手外科領域における臨床応用 太田 剛(埼玉県済生会川口総合病院整形外科)

2013-11-25


太田 剛

手外科領域は,整形外科のなかでもとりわけ細分化された領域で,私は主に手の外傷や変性疾患などを専門としている。従来は,屈筋腱や伸筋腱などの腱をCTで描出することはできなかったが,Dual Energy Imaging(以下,DEイメージング)により,CTでの描出が可能となってきた。
本講演では,SOMATOM Definition FlashによるDEイメージングのアプリケーション“syngo Dual Energy Tendon”を用いた腱病変の描出について,症例を中心に報告する。

手の筋肉と腱の解剖

●屈筋腱

手指を屈曲させる屈筋腱は,母指に長母指屈筋腱が1本,他の4指に浅指屈筋腱と深指屈筋腱の2本が存在し,その上に腱鞘,靱帯が重なる。示指,中指,環指,小指には,中節骨に付着する浅指屈筋腱と,腱交叉を経てさらに末梢まで伸びる深指屈筋腱が存在する複雑な構造をしており,手の微妙な動きを司っている。
腱は腱鞘の中を走行しており,従来の画像診断では描出困難であったが,DEイメージングにより少しずつ描出できるようになってきている。手掌側から観察すると,屈筋腱(黄色)が明瞭に描出される(図1)。

図1 正常屈筋腱(手掌側)1)

図1 正常屈筋腱(手掌側)1)

 

●伸筋腱

伸筋腱は,屈筋腱よりも複雑な構造をしている。固有手部までは,MP関節を通して比較的はっきりした太い中央索が形成されるが,MP関節より末梢については,虫様筋や背側骨間筋などの繊維が両側から合流し,非常に薄いexpansion hoodを形成する。中央索はPIP関節で停止し,その先の中節骨以遠は,側索が再び合流して,1本の薄い指背腱膜になって停止する。
伸筋腱は薄いため,DEイメージングでも屈筋腱ほど明瞭には描出されないが,固有手部までは描出されるので,非常に有用と考える(図2)。

図2 正常伸筋腱(手背側)1)

図2 正常伸筋腱(手背側)1)

 

症例提示

●症例1:母指伸展障害

54歳,男性。8年前よりリウマチで加療中。来院3週間前から,突然誘因なく母指伸展不能となった。外傷はなく,長母指伸筋の皮下断裂が疑われた。
母指は,長母指伸筋と短母指伸筋がMP関節で合流するが,短母指伸筋は手関節からIP関節まで比較的真っ直ぐに走行しているのに対し,長母指伸筋は,途中に解剖学的嗅ぎタバコ入れ(窩)を形成する特殊な構造のため,斜めに走行して橈骨のリスター結節を回っている。そのため,長母指伸筋は,手関節障害によって断裂することが多い。
DEイメージングで撮影すると,特徴的な斜めの走行の腱が描出されず,断裂していることがわかる(図3)。伸筋腱が画像で確認できることは,非常に画期的と言える。MRIで,リウマチによる手関節の著明な滑膜増生が確認され,この関節炎により腱が破壊されたと考えられる。この症例では,ST関節の破壊が強く,手術の際にも滑膜炎により腱が浸食されていることが認められた。腱移行術により再建し,IP関節の伸展が可能になった。

図3 症例1:母指伸展障害1)

図3 症例1:母指伸展障害1)

 

●症例2:遠位橈尺関節(DRUJ)障害

64歳,女性。編み物をしていて,突然外傷なく環指が伸展不良となった。そのうち小指も伸展不良となったことから,2か月後に受診した。単純X線で,遠位橈尺関節の変形が認められ,遠位橈尺関節の亜脱臼による総指伸筋4,5,そして,固有小指伸筋の断裂と考えられた。
理学所見だけでも診断可能だが,DEイメージングでは腱がたるんでいることが描出された(図4)。手術では,固有小指伸筋を縫合し,総指伸筋の4を3に縫合して,最終的に遠位橈尺関節固定術(SC法)にて環指と小指を伸展可能とした。単純X線だけでなく,CTのDEイメージングでも術前診断ができることは非常に有用である。

図4 症例2:遠位橈尺関節障害

図4 症例2:遠位橈尺関節障害

 

●症例3:示指屈曲障害

32歳,女性。3か月前にガラスで受傷し,近医で皮膚のみを縫合したが,示指の屈曲不能により紹介となった。外傷時に屈筋腱が断裂したと考えられるが,手掌中央部からPIP関節までの屈筋腱損傷は,深指屈筋腱と浅指屈筋腱が重なって走行しているため癒着が起こりやすく,“ノーマンズランド”とされてきた。そこで,DEイメージングで撮影し,斜め方向から観察したところ,腱が1本だけたるんでいることが認められ(図5),深指屈筋腱か浅指屈筋腱のいずれか片方だけが断裂していると考えられた。
手術にて深指屈筋腱の断裂が認められたが,術前のCTで断端の場所を把握していたため,縫合が容易であった。

図5 症例3:示指屈曲障害

図5 症例3:示指屈曲障害

 

●症例4:母指IP関節屈曲不能

24歳,男性。ガラスで受傷し,直後に母指が屈伸不能で救急受診した。長母指屈筋腱の断裂と診断し,断端の把握のため,術前にDEイメージングを撮影した。画像では,断端がIP関節にあるように見えたが,手術にて,IP関節以遠の腱付着部レベルの断裂であることがわかった。
術後の撮影でも,IP関節までしか腱を確認できなかった。術前と術後を比較しても変化はあまり見られず,一見すると再断裂のようにも思われるが,機能的には問題がないことから,母指はIP関節までがDEイメージングで描出できる限界と考えられる(図6)。

図6 症例4:母指IP関節屈曲不能

図6 症例4:母指IP関節屈曲不能

 

●症例5:中指,環指,小指伸展障害

72歳,女性。単純X線でキーンベック病(月状骨無腐性壊死)であることがわかるが,月状骨が完全に2つに分かれており,伸筋腱側に突出していることから,腱障害が疑われた。DEイメージングでは,総指伸筋の3,4,5がMP関節付近で断裂していることが認められた(図7)。

図7 症例5:中指,環指,小指伸展障害

図7 症例5:中指,環指,小指伸展障害

 

●症例6:骨折術後示指屈曲障害

近年は,コーレス骨折に対して掌側ロッキングプレート固定術が多く行われているが,プレートの突出による屈筋腱断裂が合併症として問題になっている。
示指屈曲不良で受診した本症例のDEイメージングでは,示指だけでなく,すべての腱が断裂しているように見える(図8)。プレートの存在は,腱の描出にとってネックとなることがわかる。

図8 症例6:骨折術後示指屈曲障害

図8 症例6:骨折術後示指屈曲障害

 

まとめ

DEイメージングにより,屈筋腱の固有手部からPIP関節までを描出可能であった。伸筋腱については,固有手部までの腱の描出が可能であるが,MP関節以遠は描出不可能であった。また,骨破壊による骨突出や,プレート突出で腱が断裂した場合にも,骨やプレートに近接している部位の描出は不良であった。
DEイメージングは,腱の曲げ伸ばしなど動的な描出は不可能であるが,腱の走行や断裂部位を診断するには非常に有用であると考える。DEイメージングの適応と限界を認識することが重要であり,理学所見と合わせて診断することが大切である。今後,DEイメージングの解像度の向上による問題点の改善が期待される。

 

●参考文献(図1〜3右のシェーマ)
1)Henry Gray : Anatomy of the Human Body. 1918.(http://www.bartleby.com/107/ 参照)


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