Shaping the Future Through Innovations  
Artificial Intelligence – Current Status and Future Perspective 
Paul Jamous(Siemens Healthineers Science & Collaboration)
Session Ⅰ Innovative Trends in CT

2018-11-22


Paul Jamous(Siemens Healthineers Science & Collaboration)

本講演では,人工知能(AI)が医療のさまざまな分野にもたらすメリットなどについて概説した上で,われわれが現在取り組んでいるAIを応用した技術開発の最新動向を紹介する。

AIの概要と医療分野への応用

AIは,いまやあらゆる分野で活用されている。AIとは,人間の知能に似た振る舞いをするソフトウエアを指す最も包括的な概念である。AIの基本技術がMachine Learning(機械学習)であり,その要素技術の一つとしてNeural Networkがある。Neural Networkを多層(4層以上)構造にしたDeep Learning(深層学習)は,画像などのパターン認識に強く,現在のAIの発展を支える技術である。Deep Learningは大量のデータに含まれる特徴を自動的に学習し,きわめて高い精度の出力を可能にした。
医療におけるAIの活用は,さまざまな分野に及んでいる。装置においては,ワークフローの自動化やモダリティの開発,例えばMRIのパルスシーケンスの開発,CTにおけるノイズ除去や画像再構成などに大きく貢献している。読影や自動前処理,ガイダンスといった放射線科医の補助においては,測定や定量化,検出など,診断を補う上で大きな役割を担っている。患者中心の医療という面では,治療結果の予測や治療計画,処方に大きく貢献するほか,臨床における意思決定の支援や,後述する“Digital Twin”の構築にも役立つ。患者コホートの面では,患者データの健康管理への活用や,患者中心の質の高い治療を行うために貢献する。

Siemens HealthineersにおけるAI研究開発の現状(図1)

われわれは長年,AIとMachine Learningの研究に取り組んできた。2000年にはMachine Learningに基づくソフトウエアを製品化し,現在ではDeep Learningに基づく技術開発を行っている。AIを応用した技術開発を行うために,われわれはDeep Learningの教育用に3億枚以上の画像を用意し,専門の放射線科医チームが記録および処理を行っている。また,スーパーコンピュータのデータセンターを有しており,有能な科学者チームが開発したアルゴリズムを膨大なデータを用いて教育するための複数のプロジェクトに取り組んでいる。すでに,AIを応用した30以上のソフトウエアを製品化しているほか,Machine Learningの分野で400件,Deep Learningの分野で100件の特許を取得している。超音波における弁の自動解析機能“eSie Valves”と,CTにおける骨病変の読影支援機能“syngo CT Bone Reading”の2つは,米国のR&Dマガジン社が主催する「R&D 100 Award」を受賞した。肋骨を開いて表示するsyngo CT Bone Readingでは,骨折や病変の有無をカーソルで視点を変えながら容易に観察可能であり(図2),放射線科医の読影業務を補助する。

図1 Siemens HealthineersのAIプラットフォーム(2018年7月末現在)

図1 Siemens HealthineersのAIプラットフォーム(2018年7月末現在)

 

図2 syngo CT Bone Readingの画像

図2 syngo CT Bone Readingの画像

 

Deep Learningを応用した技術開発の最新動向

1.FAST 3D Cameraの開発と応用
2018年の国際医用画像総合展(ITEM 2018)で,われわれはCT用の“FAST 3D Camera”を発表した。これは,Deep Learningに基づくアルゴリズムを搭載したカメラで,被検者の三次元モデルを作成し,そのモデルを基に寝台を上下前後に移動させて,被検者の位置を自動的にアイソセンタにセッティングする。
さらに,開発の取り組みとして“FAST 3D Camera”をX線管に搭載した「Smart X-Ray Tube」(W.I.P.)を紹介したい。Smart X-Ray Tubeでは,撮影部位を選択するだけでX線管が自動でその位置まで移動し,コリメーションや線量などを調整するためワークフローが大幅に簡略化されるほか,患者や検査担当者を問わず,一貫した精密な検査を実現する。

2.Deep Learningに基づくソフトウエアの連携による診療支援
Deep Learningに基づくソフトウエアを組み合わせることで,診療を補助することも可能である。例えば,X線ガイド下にカテーテル留置を行う際には,FAST 3D Cameraと拡張現実を組み合わせることで,インターベンション医に優れた解剖図を提供できる(W.I.P.:図3)。

図3 FAST 3D Cameraと拡張現実による解剖図

図3 FAST 3D Cameraと拡張現実による解剖図

 

また,われわれは現在,CTを中心に,“Multi-Scale Deep-Reinforcement Learning(マルチスケール深層強化学習)”(W.I.P.:図4)の開発に取り組んでおり,すでに2300台以上のCT装置で検証ずみである。本ソフトウエアでは,腎臓,胸部,肺,肝臓,骨,血管といったさまざまなランドマークを,わずか約0.8秒ですべて検知可能である。さらに,次のステップとして,“Adversarial Deep Image2Image Networks”(W.I.P.)では,身体構造を分割することができる2)。これら2つのソフトウエアが連携することで,すべての臓器を検知して分割し,あらゆる測定値と体積の算出が可能となる。

図4 Multi-Scale Deep-Reinforcement Learningによるランドマークの検知1)

図4 Multi-Scale Deep-Reinforcement Learningによるランドマークの検知1)

 

われわれは,この連携させたソフトウエアを応用し,放射線科医の診断を補助するソフトウエアの開発に取り組んでいる。試作版を用いた胸部CT画像の解析では,肺の分割,結節や気腫の検出,気道などの異常の検出,骨密度やカルシウムの測定,骨折の有無の検出などがすべて自動で行われるほか,心臓,冠動脈,大動脈などが詳細に分割され,あらゆる体積や測定値が提示される。ここまでの所要時間は,わずか数秒である。また,直腸がんの経過観察では,転移病変の検出なども自動で行われるため,病変サイズの比較などが容易となり,時間の大幅な短縮が可能となる(図5)。放射線科医が診断を行う上で過去画像との比較はきわめて重要であるが,本ソフトウエアは,放射線科医が病変や疾患そのもの,あるいは測定結果などに注力する時間を増やすことに貢献する。
さらに,“Reasoner”(W.I.P.)というソフトウエアを用いれば,現在と過去の画像の比較結果に加えて助言も得られる。前述の直腸がん症例では,直腸に局所再発は見られないが,肝臓や腎臓,腸間膜のリンパ節などへの転移の兆候が指摘され,また,皮膚科に相談するよう助言されている。このように,放射線科医が迅速に画像を読み取り,病変を検出し,定量化するのを補助することができる。
このようなネットワークのそのほかの応用として,放射線治療計画における臓器の輪郭抽出がある。AIを用いることで,リスク臓器を自動で短時間に精度良く分割できる。

図5 直腸がん症例の自動測定

図5 直腸がん症例の自動測定

 

さらに,われわれは,頭部CTにおいて出血を検知するネットワークを開発した。異なる役割を担ういくつかのDeep Learningソフトウエアを連携して,すべてのランドマークと脳の構造を把握し,出血箇所を可視化する(W.I.P.:図6)。

図6 頭部出血を検知するネットワークによる出血箇所の可視化

図6 頭部出血を検知するネットワークによる出血箇所の可視化

 

また,予測や助言を行うために,われわれは“DeepReasoner”(W.I.P.:図7)を用いている。これはMultitask Deep Network(マルチタスク深層ネットワーク)で,画像レベル,分子レベルなど,インプット可能なさまざまなデータを多層的に処理し,その患者にとっての最善の治療法やリスクの予測,治療の有効性などを助言する。心臓を例に挙げると,患者のデジタル心臓,つまりDigital Twinを構築して機能を可視化することで,あらゆる測定や診断,疾患の十分な理解と治療結果の予測が可能となる。また,Digital Twinに対して治療シミュレーションを行い,その治療シミュレーションが奏効すれば,患者に適応可能と判断できるため,患者ごとに個別化した治療法を構築して積極的に介入できるようになる。

図7 Multitask Deep Networkによりリスク予測や最適な治療法を提示するDeepReasoner

図7 Multitask Deep Networkによりリスク予測や最適な治療法を提示するDeepReasoner

 

まとめ

われわれにとってAIは,効率化と生産性を促進するテクノロジーの始まりにすぎない。患者にとって重要なAIの成果は,医療の質の向上や医療費の削減,そして,医学の精度を向上させるソフトウエアプログラムである。

●参考文献
1)Gheus, F.C., et al. : Multi-Scale Deep Reinforcement Learning for Real-Time 3D-Landmark Detection in CT Scans. IEEE Trans. Pattern Anal. Mach. Intell., 2017.
2)Xu,et al. : Automatic Liver Segmentation Using an Adversarial Image-to-Image Network. MICCAI 2017.Xu,et al., Automatic Liver Segmentation Using an Adversarial Image-to-Image Network. MICCAI 2017.

 

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