New Dedicated CT System for Radiotherapy Treatment Planning 
加茂前 健(名古屋大学医学部附属病院放射線科)
Session Ⅱ Maximize the Synergy of CT-related Systems

2018-11-22


加茂前 健(名古屋大学医学部附属病院放射線科)

当院は2017年12月,放射線治療計画に有用な機能を数多く搭載したシーメンスヘルスケアのCT装置「SOMATOM Confidence RT Pro」を日本で初めて導入した。本講演では,放射線治療部門におけるCT装置の役割と精度について述べた上で,SOMATOM Confidence RT Proの概要,そして,同装置に搭載された金属アーチファクト低減ソフトウエア“iMAR”と,新しい画像再構成技術“DirectDensity”の評価について報告する。

放射線治療部門におけるCT装置の役割と精度

放射線治療は現在,病期・がん種によって手術療法に匹敵する治療成績が得られている。背景には,定位照射や強度変調放射線治療,画像誘導放射線治療といった技術革新があり,それらの技術を適切に臨床使用するためには,ミリ単位の空間座標系の精度管理や,3〜5%以下の線量に関する管理が必要である。
放射線治療部門におけるCTの役割としては,放射線治療計画時と治療時の体位をそろえるためのマーキング,臓器輪郭の抽出,線量計算,治療前の位置照合に用いる基準画像の作成などが挙げられる。そして,これらの役割を果たすためには,壁面レーザのアライメント,画像上の幾何学的正確性,相対電子密度(relative electron density:RED)に対応した管理されたCT値といった性能が求められる。
線量計算に用いられるCT値-相対電子密度(CT-RED)変換テーブルは,REDが既知のロッドを配置したファントムを撮影することで得られ,CT値とREDの関係を表したものである。正確な線量計算のために管理が求められ,米国医学物理学会のガイドライン“AAPM-TG66 Report”1)では,水に対して0±5HU以内という指標が示されている。さらに,同ガイドラインでは,多岐に及ぶ評価項目ごとの実施頻度や許容値など,放射線治療におけるCTの精度管理に関する指針が詳細に示されている。

SOMATOM Confidence RT Proの概要

SOMATOM Confidence RT Proは,コンパクトな装置でありながら,放射線治療において必要な機能が数多く搭載されている(図1)。放射線治療では腕を挙上して撮影することも多く,ラージボアが必須であるが,SOMATOM Confidence RT Proでは80cmのラージボアが採用されており,さらに最大有効視野80cmまで画像再構成が可能である。寝台には,放射線治療装置の寝台に合わせてフラットなカーボン天板を採用し,呼吸同期治療のための呼吸同期システムも搭載されている。また,壁面レーザはCTの画像中心から足側50〜70cmのところで交差し,マーキングやポジショニングを支援する。
SOMATOM Confidence RT Proの設置精度の基準は,荷重時のたわみが撮影範囲140cm以内で2mm以内,画像面に対するテーブル走行角度は±0.1°以内など,一般的なCT装置に比べ厳しく設定されている。設置当初に行ったわれわれの精度評価においても,機械的評価,画質的評価のいずれも問題ないことが確認できた。

図1 SOMATOM Confidence RT Proの外観と機能

図1 SOMATOM Confidence RT Proの外観と機能

 

放射線治療計画におけるiMARの有用性

ファントムにチタンやスチールといった金属ロッドを配置して撮影すると,当然ながら金属アーチファクトが発生する(図2 a)。そこで,iMARを適用すると金属アーチファクトが低減される(図2 b)。それらの差分画像では金属アーチファクトの領域に一致して,CT値が変化していることがわかる(図2 c)。さらに,ファントムの金属ロッドを水等価ロッドに置き換え,金属なしの状態で撮影した画像(図2 d)とiMAR画像(図2 b)を差分したところ,金属以外の領域でCT値の変化がないことから,iMARを適用した画像においても,治療計画に利用可能な安定したCT値が得られていることが確認できる(図2 e)。

図2 iMARの基礎評価

図2 iMARの基礎評価

 

図3は,同ファントムを撮影し,縦軸は「金属ロッドあり画像から金属ロッドなし画像を差分したCT値」,横軸に1〜16番ロッド(金属ロッドを除く)を並べたグラフである。各ロッドのCT値は,iMARなしの場合と,インプラントの種類や部位に合わせた複数のiMARパターンが用意されているので,それらを適用した場合で計測している。iMARなし(各ロッドの一番左のデータ)と比べ,iMARを適用することで差分がおおむね0に近づくことがわかる。
ただし,胸部用に最適化されたiMAR Thoracic coilsで,骨ロッド(15番)のように過補正となったり(図3 ←*),脂肪ロッド(3番)のように金属アーチファクトを低減できなかったり(図3 ←**)という場合もある。脂肪ロッドのSD値は,iMARなしよりもiMAR Thoracic coilsの方が高くなっており,十分な補正ができていないことがわかる。
金属の材質,形状,撮影条件などによっても金属アーチファクトの発生の程度は異なるため,画像を確認の上,最適な補正アルゴリズムを選択することが重要である。特に,骨部分のCT値の変化は画像上で判断が難しいため,注意を要する。また,金属が体表面近位にある場合,iMARにより体表面形状が誤って変形する場合があることが報告されており,注意が必要である2)

図3 iMARの定量評価

図3 iMARの定量評価

 

放射線治療計画におけるDirectDensityの有用性

1.DirectDensityの概要と物理評価
DirectDensityは,放射線治療部門においてSOMATOM Confidence RT Proを用いる上で,最も注目される機能である。
一般的なCT画像の再構成法(filtered back projection:FBP)では,CT値が管電圧に依存して変化する。そのため,線量計算で使用するCT-RED変換テーブルは,管電圧を変えると,CT値とREDの関係が崩れてしまう。したがって,放射線治療分野では従来,1つの管電圧(例,120kV)しか撮影に使えないという制限があった。
これに対して,新しい画像再構成法であるDirectDensityは,管電圧に依存しない画像を作成することができる。再構成アルゴリズムとしては,軟部組織と骨に分けて画像を処理し,それらを統合してREDを表現した画像として出力する3)。一般的なFBP画像のピクセルはCT値で埋められているが,DirectDensity画像は次式で表される値によって構成されている。
CTRED ≒(RED-1)×1000管電圧120kVで撮影したFBP画像とDirectDensity画像を比較すると,FBP画像で生じているストリークアーチファクト(図4 a)がDirectDensity画像(図4 b)では軽減しているとがわかる。また,DirectDensity画像では,高密度のロッド(例,Inner boneロッド)でピクセル値が低下していることがわかる(図4 b)。さらに,FBPでは管電圧を変えるとCT値とREDの関係が変化するのに対し(図4 c),DirectDensityでは変化せず,CTRED ≒(RED-1)×1000の直線上に載ることがわかる(図4 d)。

図4 FBPとDirectDensityの特性比較

図4 FBPとDirectDensityの特性比較

 

2.ファントムによる評価
頭部ファントムを用いて視覚的に画像を評価したところ,120kVで撮影したFBP画像と80kVで撮影したDirectDensity画像は,非常に近似した画像であることがわかる(図5 a)。ただし,骨領域においては若干の差異が確認された(図5a)。両画像に対して,高度な線量計算アルゴリズム“Acuros XB”(バリアンメディカルシステムズ社)を用いて線量計算を行うと,両者の線量分布および線量プロファイルは,よく一致することが確認できた(図5 b,c)。

図5 DirectDensityの評価(頭部ファントム)

図5 DirectDensityの評価(頭部ファントム)

 

胸部ファントムを用いた検討でも,FBP(120kV)とDirectDensity(100kV)の画像(図6 a),線量分布(図6 b),線量プロファイル(図6 c)は,いずれも非常に近似していた。これらのファントムによる検討では,DirectDensity画像を用いた線量計算は,従来のFBP画像を用いた線量計算を再現することが確認できた。

図6 DirectDensityの評価(胸部ファントム)

図6 DirectDensityの評価(胸部ファントム)

 

3.新しいワークフローの提案
従来,放射線治療計画においては,1つの既定管電圧でCTを撮影し,その画像で輪郭抽出と線量計算を行ってきた。一方,DirectDensityを用いると,70〜140kVでCT撮影し,70〜140kV画像で輪郭抽出,DirectDensity画像で線量計算を行うことができるようになる。つまり,管電圧選択の制約がなくなるため,自動管電圧最適化機構“CARE kV”やDual Energyが利用可能になり,画像の高コントラスト化による輪郭抽出精度の向上,さらには造影剤減量や被ばく線量低減が期待できる。DirectDensityは,従来の常識を覆す革新的技術であり,放射線治療計画の患者個別化を推進すると考えられる。

まとめ

放射線治療部門におけるCT装置には,専用装置としての性能と精度管理が求められるが,SOMATOM Confidence RT Proはその条件を十分に満たしている。そして,同装置に搭載されているiMARは,偽像に注意が必要であるが,金属アーチファクト除去後のCT値は安定しており,治療計画に使用することができる。また,DirectDensity画像を用いた線量計算の精度は従来法と同等と考えられ,管電圧最適化の恩恵を治療計画にもたらす可能性がある。

●参考文献
1)Mutic, S., et al., Med. Phys., 30, 2762〜2792, 2003.
2)Kachelrieß, M., et al., White paper. Siemens Healthcare, 2016.
3)van der Heyden, B., et al., Phys. Imaging Radiat. Oncol., 2, 11〜16, 2017.

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)


【関連コンテンツ】
TOP