キーパーソンに聞く Vol.1 
対話と協調の時代へ––これからの診療放射線技師像を皆で考えたい 
公益社団法人 日本診療放射線技師会 
上田克彦 会長

2020-8-17


上田克彦 会長

2020年6月,公益社団法人日本診療放射線技師会(JART)の会長に上田克彦氏が就任した。2010年から10年にわたり会長を務めた中澤靖夫氏からバトンを受け継いだ上田会長には,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延による医療崩壊の危機や診療放射線技師の業務拡大への対応など,取り組むべき課題も多い。ニューノーマル時代の中でJARTはどう変わるのか,そして,これからの診療放射線技師像をどのように描くのか。これからの時代における舵取りについて,上田会長が思いを語った。

COVID-19の感染拡大による診療放射線技師の業務負担の増加

——COVID-19の感染が拡大し始めた2月以降,JARTではどのような対策を行ってきましたか。

上田会長:放射線診療現場での対策については,私が会長に就任する直前から会誌「JART」やホームページなどを通じて,CT検査をはじめとする各種検査・治療における具体的な感染防止対策を紹介するなど,会員への情報提供を行っています。また,本会では,医療安全対策委員会が策定した「診療放射線分野における感染症対策ガイドライン(Version 1.0)」 を2019年3月に公表しており,このガイドラインを改めて周知しています。一方で,本会主催の講習会などについては,2020年7月に「会場型講習会開催ガイドライン(新型コロナウイルス感染対策)」 を策定しました。今後は,各都道府県の(診療)放射線技師会の共催で開催するフレッシャーズセミナーも含めて,本ガイドラインに則って,感染対策を徹底した上で開催することとしています。

——COVID-19の感染拡大は,放射線診療の現場にどのような影響を与えていますか。

上田会長:多くの診療放射線技師が,陽性患者のCT検査やX線撮影など,感染リスクが高い状況で検査を施行しています。例えば,多くの大学病院で陽性患者を受け入れていますが,それらの陽性患者には何らかの画像検査が行われており,多くの診療放射線技師がかかわっています。すでに,診療放射線技師が感染した施設も出ていますが,感染者が出たとしても診療を止めるのは難しいため,COVID-19専門チームを設けたり,モダリティごとにチーム制にして感染経路を遮断したり,一部のスタッフを予備として自宅待機させるといった対策をとっている施設もあります。これらの感染防止対策によって帰宅が困難になるなど,一人ひとりの業務負担も増加しています。今後,感染経路不明の患者が増えてくると,発熱している患者の検査は,陽性であることを前提にして対応することが必要となり,ますます厳しい状況になると予想されます。

対話により自分たちの役割を考え,社会と協調していく

——厳しい環境の中での船出となりましたが,会長就任に当たり,これからは「対話と協調の時代」と位置づけてます。その意図をお聞かせください。

上田会長:社会が変わり,放射線診療も変化していく中で,対話と協調により,放射線科医と関係を構築していくことが非常に重要です。JARTは,約70年の長きにわたり診療放射線技師の地位向上に取り組み,先輩方のご尽力により現在の位置を築くことができました。そのことを踏まえた上で,今後,さらに私たちが発展していくためには,「私たちが何をしたいか」だけではなく,「私たちに何が求められているか」を考え,理解し,行動する必要があります。私は,社会や医療現場にとって,これまでの診療放射線技師,JARTの活動が物足りなかったのではないかと思っています。それは,自分たちの視野だけで物事を見ていたため,社会の要請に応えることが不十分だったからではないでしょうか。
1895年にX線が発見されてから125年を経て,今も医療における放射線は重要なツールですが,技術の進歩は著しく,新たな画像診断・治療技術が次々と生まれています。この先,どのような技術革新が起こり,私たちの仕事がどのように変わるのかはわかりません。放射線を照射できるという特殊性に頼るだけではいけないと,私は考えています。これからは,放射線をさらにしっかりと管理するとともに,もっと広い視野で自分たちの役割を考えることが,診療放射線技師一人ひとりに求められています。そのためにも,対話により自分たちの役割を考え,社会と協調していく診療放射線技師となるための事業展開をしていきます(図1)。

図1 対話と協調の時代

図1 対話と協調の時代
出典:日本診療放射線技師会ホームページ

 

社会貢献になる読影補助業務の推進

——会長としての目標として「読影の補助の推進」を掲げていますが,これも放射線科医との対話や協調により進めていくのでしょうか。

上田会長:2010年4月30日付けの厚生労働省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」(医政発0430第1号)により,診療放射線技師の業務として画像診断における読影の補助が明記されましたが,その内容が具体的に定義されないまま,今日まで来てしまいました。今後,私たちが読影の補助を行っていくためには,何が求められているかを放射線科医との対話を通じて考え,その要求に応えていかなければなりません。
しかし,実際にはすべての診療放射線技師が同じスキルを持っているわけではありません。質の高い業務ができなければ,国民に質の高い医療サービスを提供することもできません。現状は制度としての読影の補助ができるようになりましたが,すべての診療放射線技師が行うことはいまだ現実的でなく,また,JARTとしても十分な事業展開ができていません。診療現場では業務量の激増により放射線科医は疲弊しているので,まずは私たちがどのようなサポートをしていけるか,話し合うことが必要です。そして,診療放射線技師の読影の補助業務が社会貢献につながることを,放射線科医との共通認識の下,その上で私たちが経験を重ねて成果を出すことが大事だと考えています。

業務拡大に向けて恒久的・継続的な講習会の実施が理想

——同じく,「業務拡大の推進」も目標に掲げていますが,医師の働き方改革が進む中,どのように取り組むのでしょうか。

上田会長:厚生労働省では,「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」を進めており,この中でも診療放射線技師の業務拡大が取り上げられています(図2)。しかし,業務拡大についても読影の補助と同じく,診療放射線技師全員が同等のスキルを持っているわけではないので,すぐには始められないと考えています。検討会では,放射線部門の検査関連の静脈路確保など,高度かつ侵襲的な手技を診療放射線技師が行えるよう議論が進んでいますが,このような業務を習得するには,十分な時間をかけた教育・研修が必要です。JARTでは,2014年の診療放射線技師法の一部改正により業務範囲が拡大したことを受けて,2日間の「業務拡大に伴う講習会」を開催してきましたが,同様の講習会を行っても,診療現場で実践するのは難しいでしょう。また,医療機関が診療放射線技師に静脈路確保を行わせなければ,その医療機関に所属する診療放射線技師は講習会に参加しないかもしれません。このことを踏まえると,これまでの「業務拡大に伴う講習会」は実施期限を設けて行われていましたが,現在検討されている業務拡大についての講習会は恒久的・継続的に開催することが理想です。さらに,検討会では,他職種の業務拡大の議論も進んでいるので,他団体と教育・研修の仕組みを共通化することも検討していく必要があるでしょう。

 

会員数の増加をめざし魅力ある事業展開と方向性を示す

——会長就任後に最初に取り組みたい目標として「入会促進」を掲げていますが,どのような施策をお考えですか。

上田会長:2020年6月末の段階でJARTの会員数は3万1162人,入会率は56.2%となっていますが,これを会員数4万人,入会率70%に引き上げるのが目標です。そのために一番重要なのは,魅力ある事業展開と方向性を示すことです。現状では,入会する意義を聞かれても,十分納得してもらえる説明ができません。また,JARTが行っている事業のアピールも足らないと思います。本会の役割は,会員への情報発信や研修など,会員へのケアだと思います。そのためには理想を言えば100%の入会率が必要です。これから魅力ある事業展開を進め,本会の意義をしっかりと説明していきます。
加えて,大学病院に勤務する診療放射線技師の入会にも力を入れます。大学病院の場合,日本放射線技術学会の会員にはなっているもののJARTに入会していない診療放射線技師が少なくありません。彼らに会員になってもらうことも大切なので,日本放射線技術学会との役割分担にも取り組む必要があると思います。

これからの診療放射線技師像を皆で考える

——業務拡大など診療放射線技師の役割が変わってくると思いますが,求められる診療放射線技師像についてお聞かせください。

上田会長:私たちの顧客は誰かと考えた場合,患者さんはもちろんですが,検査をオーダする医師が大切な顧客だと思います。オーダに対して高品質の結果を返す,つまり,良い画像を医師に提供することを常に意識していくことが大切です。そして,顧客を意識し続けることで自らの業務を見直し,改善することができ,仕事の質も高めることができます。
近年は,診療放射線技師のキャリアデザインが多様化しています。診療放射線技師にはモダリティなどの専門性を高めてスペシャリストとして活躍する人もいれば,あらゆる検査に対応できるゼネラリストもいます。また,各種検査チームを経験しながらマネジメント能力を高め,管理者としてその力を発揮する人もいます。さらに,今後は,COVID-19の影響により,放射線被ばく線量管理といった業務をテレワークに移行することもあり得ます。業務の一部を在宅で行うことができるようになれば,女性の診療放射線技師も,出産や育児などのライフデザインを描きやすくなります。これらを踏まえて,JARTとして,これからの診療放射線技師像を皆で考えていきたいと思っています。

——最後に新会長としてのメッセージをお願いします。

上田会長:私自身は,自分の意見を貫き通すのではなく,周りの声を取り入れながら柔軟に対応していくタイプです。ぜひ,JARTの発展をイメージしながら,皆さんからのご意見をいただければと思います。

(2020年7月23日取材)

 

(うえだ かつひこ)
1982年九州大学医療技術短期大学部診療放射線技術学科卒業後,山口大学医学部附属病院放射線部に入職。2009年から同診療放射線技師長。2017年に京都大学医学部附属病院放射線部診療放射線技師長となり,2020年から国際医療福祉大学成田保健医療学部放射線・情報科学科教授。これまで公益社団法人日本放射線技術学会理事,全国国立大学病院放射線技師会会長などを歴任。2020年6月から公益社団法人日本診療放射線技師会会長を務める。愛読書は『新ハーバード流交渉術—感情をポジティブに活用する』(2006年,三笠書房刊)。


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