コロナ禍で加速するデジタル化が医療の「個別化」「主体化」「多角化」を進めデジタルトランスフォーメーションによっていつでもどこでも医療を受けられる未来に
加藤 浩晃 氏(デジタルハリウッド大学大学院 特任教授,アイリス株式会社 共同創業・取締役副社長CSO,医師)

2021-7-12


加藤 浩晃 氏

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが,医療のデジタル化を加速させている。これからの医療は,デジタル技術によって「個別化」「主体化」「多角化」が進んでいく。医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)には,「パーツのデジタル化(デジタイゼーション)」と「フローのデジタル化(デジタライゼーション)」が重要であるが,DXが実現すれば,いつでもどこでも医療を受けられる未来がやってくるだろう。

コロナ禍で加速する医療のデジタル化

近年,技術革新により,医療のデジタル化が進んでいます。医師をはじめとした医療者は本来,自分のすべきことだけをすればよいはずですが,実際には業務以外の雑用が多く,医療現場はとても非効率になっていました。しかし,デジタル化が進むことによって,本来の業務に取り組めるようになってきており,患者さんの多様なニーズに対応できるなど,医療現場が大きく変わろうとしています。
特に,COVID-19のパンデミック以降は,医療のデジタル化が加速していると感じています。緊急事態宣言などにより外出の自粛を余儀なくされる環境の中で生活せざるを得なくなって,企業でもリモートワークが普及し,多くの人々が日常の活動にデジタル技術を活用するようになりました。こうしたことが医療にも影響を及ぼし,医療のデジタル化は私が想定したよりも,5年ほど早く進んでいるのではないかと考えています。
また,デジタル化が進んでいく中で,医療者が起業するケースも増えています。10年前はアイデアがあっても事業化が困難だったものが,人工知能(AI)やIoT(Internet of Things)など,第四次産業革命と呼ばれる技術革新により可能になりました。さらに,新しい技術が出てきたことで,それを医療に活用しようと考える人たちが出てきたことも,医療者の起業が増えている理由でしょう。そして,起業家が増えれば,それに刺激を受ける医療者が現れ,結果として,医療界,社会全体が企業を評価する意識が醸成されています。

「個別化」「主体化」「多角化」が進む医療

現在の状況を踏まえて,これから10年先の医療を考えると「個別化」「主体化」「多角化」という3つのキーワードでとらえることができます。
個別化とは,個人に最適化されたテーラーメード医療が進んでいくことです。ウエアラブルデバイスやIoTといった技術が広がってきたことで,一人ひとりの血圧や心拍数など身体のデータを24時間,リアルタイムで取得できるようになりました。個人の身体の情報を詳細に把握することが可能になり,データを基に適切にアプローチをする医療が行われると予想されます。
主体化とは,今後,患者さんが主体的に医療にかかわるようになるということです。2021年10月からオンライン資格確認の本格運用が始まれば,マイナンバーカードが健康保険証として利用できるようになります。さらに,PHR(Personal Health Record)が整備されれば,患者さんが自身の診療や処方の情報を把握することが可能になります。それによって,以前は医師に任せていた医療に関心を持つようになり,自身のデータを見て主体的に健康になるための行動をするようになります。
多角化とは,日常生活の中で予防医療やリハビリテーションを受けるなど,医療の機会や場所が拡大していくことです。これまでの医療は,病気になってから医療機関に行くことで始まりましたが,今後はウエアラブルデバイスやIoT機器を活用した予防医療,リハビリテーションなどのニーズが高まっていきます。さらに,医療を受ける場所も遠隔地からのオンライン診療や在宅医療などに広がっています。
このような,医療の個別化,主体化,多角化は,国民の意識の変化も影響しています。かつては,医療者と患者の情報格差が大きかったため,患者にとって医療は受動的な存在でしたが,インターネットやSNSの普及により情報を得やすくなりました。今後も技術革新とともに,患者が積極的に医療の情報を得る機会は増えていくはずです。

IoT機器やウエアラブルデバイスで変わるオンライン診療

特に,COVID-19によって,国民のオンライン診療への認知度は高まりました。限定的ですが,初診からオンライン診療が認められ,それが広く報道されたことで,診療を受ける手段としてオンライン診療があることを知るきっかけとなりました。一方で,オンライン診療の登録医療機関は2021年3月の時点で1万6810施設,全体の約15%となっています。一部では普及していないという意見がありますが,私の見方は異なります。私は,オンライン診療とは従来の外来診療,入院診療,在宅医療(訪問診療)に加わる4番目の診療形態だと考えています。多くの医療機関が,全部に対応していないように,オンライン診療もすべての医療機関が行う必要はありません。オンライン診療は,従来の外来診療における対面診療の代替ではなく,あくまでも新しい診療形態ととらえ,外来診療とのハイブリッド診療にするなど,それぞれの医療機関が自施設の診療内容を踏まえて導入を検討すべきです。
COVID-19のパンデミックにより,社会全般で「リモート」が広がっているので,オンライン診療は今後ますます拡大すると考えています。ただし,テレビ電話の画面越しに患者の顔だけを見て診療していても,十分な情報を得ることはできません。そこで,今後は,遠隔操作できる聴診デバイスといったIoT機器や日常生活の中で生体情報を得られるウエアラブルデバイスなどを活用して,あたかも診察室で対面診療しているようにオンライン診療を行うようになると注目しています。

「パーツのデジタル化」と「フローのデジタル化」が重要

このようにデジタル技術を活用することでDXを進め,医療が抱える数多くの課題を解決し,新たな価値をもたらすことが期待されています。医療のDXを実現するには,「パーツのデジタル化」と「フローのデジタル化」という2つのフェーズをクリアする必要があります。「パーツのデジタル化」とは,デジタイゼーション,つまり紙のカルテを電子カルテにするといった単なるデジタル化であり,医療分野でも2000年代から進められてきました。また,「フローのデジタル化」とは,デジタライゼーションのことで,業務プロセス自体をデジタル化することです。この2つのフェーズを経ることでDXが可能となり,医療現場や患者さんにメリットをもたらすことができます。しかし,現状では,電子カルテが十分に普及しておらず,導入していても,「フローのデジタル化」ができていないケースも多くあります。このような状況を改善できれば医療のDXが進み,医療者と患者さんがより多くのメリットを得られるはずです。

DXによりいつでもどこでも,医療を受けられる未来に

コロナ禍により国民の意識が変わり,社会全体でDXが広がりましたが,医療のDXを進めるためには行政,産業界,医療界がそれぞれの立場で行動することが重要です。行政には法整備や施策のスピードアップが必要です。現状では,技術進歩の社会の変化に追いついておらず,後追いで制度を変えざるを得なくなっています。医療をより良くするには社会の変化に速やかに対応することが求められています。そのためにも,産業界は,行政と対話して新しい技術が医療に役立てられるよう情報を発信していくことが大事です。また,医療界は,将来を見通してデジタル化以外の選択肢はないという認識を持つべきです。ただし,経営環境が厳しい中,デジタル化への投資が困難だという医療機関もあると思います。この課題を解決するために,効率的なデジタル化などの情報を共有できる医療者同士のコミュニティが形成されるのを期待しています。
DXにより,これからの医療の姿は大きく変わるはずです。日常生活の中でいつでも,どこでも医療を受けられるようになり,さらに,その先には,本人が医療を受けていることを意識せずとも,ウエアラブルデバイスなどのセンシングにより健康管理や検査が行われるような未来になると想像しています。そうした未来に向けてDXを進めることが,日本には求められているのです。

 

(かとう ひろあき)
2007年浜松医科大学医学部医学科卒業。京都府立医科大学眼科学教室,厚生労働省医政局研究開発振興課治験推進室室長補佐などを経て,現在デジタルハリウッド大学大学院特任教授,アイリス株式会社共同創業・取締役副社長CSO。ほかに,東京医科歯科大学臨床准教授,千葉大学メドテックリンクセンター客員准教授,東北大学大学院非常勤講師,横浜市立大学非常勤講師を務める。日本遠隔医療学会運営委員・遠隔医療モデル分科会長,日本医療ベンチャー協会理事。近著に『医療4.0(第4次産業革命時代の医療)』(日経BP)や『デジタルヘルストレンド2021:「医療4.0」時代に向けた100社の取り組み』(編著,メディカ出版)がある。


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