医療現場の課題解決のために求められるDX推進を先進の技術・製品で支援し,生産性の向上と,医療従事者が生き生きと活躍できる環境づくりに貢献していく
大山 訓弘 氏(日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長)

2022-7-11


大山 訓弘 氏(日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長)

医療現場では,少子高齢化や医療従事者不足,働き方改革といった課題に対応するため,ITを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められている。マイクロソフトは,ヘルスケアを重点領域の一つに定め,ヘルスケアに特化したクラウドの提供を開始するなど,先端技術を活用した製品・サービスの医療現場への導入を進めている。コロナ禍での経験を経てITへの抵抗感が薄れた今こそ,これからの医療を支えていくためのITによる改革が必要である。

ヘルスケア事業にかける期待とプラットフォーマーとしての使命感

マイクロソフトは近年,産業別のビジネス活動を強化しており,そのうちの一つがヘルスケアです。ビジネスとしてヘルスケアが成長分野であるという将来展望があることはもちろんですが,ITの役割がますます大きくなると認識しているためです。ウエアラブルデバイスによるヘルスケアデータの取得や人工知能(AI)の画像診断への活用は,ここ数年でずいぶんポピュラーになりました。大量のヘルスケアデータは新しい治療法の研究や創薬に役立つと期待されており,そこではITが大きな役割を果たします。ただし,ITの役割が大きくなるとサイバー攻撃が増加するため,プラットフォーマーとしてデータや医療機関を守ることを使命と考え,セキュリティにもしっかりと投資して事業を展開しています。
日本国内においては,2018年に掲げた3年間でヘルスケア事業の売り上げを1.5倍にするという目標を達成することができました。この成長の要となっているのがクラウドを使った製品・サービスで,グローバルも含めてヘルスケア事業の成長をクラウドが牽引しています。

医療現場の課題を踏まえたアプローチで医療DXの推進を支援

日本の医療現場には,少子高齢化や医療従事者の不足という大きな課題があります。また,国民皆保険により一律に高度な医療を誰でも受けられる環境が整っていますが,医療従事者の献身的な働きのおかげで何とか成り立っているという側面も否定できません。業務が非効率的でも現場の努力で対応できてしまっているために,今あるインフラやプロセスを変えることを躊躇するというのもあると思います。また,コロナ禍により病院の経営が厳しさを増し,ITも含めた投資への余裕がなくなってきています。さらに,医療リソースや患者を把握するためのデータ取得が非常に難しいことが浮き彫りになるなど,コロナ禍を機にこれまで解決が後回しになっていた問題が一気に噴出しました。
このような社会的課題を踏まえ,国内においては「医療サービスの生産性の向上」「先端技術の活用」「保健医療データの整備・流通」の3つが重要だと考えます。われわれは,これらに対して,労働環境を改善しながら医療サービスを向上させていく「医療現場の改革」,先端技術を活用した「医療の質の均てん化」,PHRや医療・介護のデータ連携なども含めた「ヘルスケア連携」の3つを軸足にアプローチし,医療現場のDX推進を支援したいと考えています。

クラウドを中心にヘルスケア事業を強化

グローバルでは,2021年に「Microsoft Cloud for Healthcare」という製品・コンセプトを発表しました。ヘルスケアに特化したクラウドを提供することで,「患者さんのエンゲージメント向上」「医療従事者のコラボレーション強化」「暗黙知の見える化,分析」を実現するものです。日本医療情報学会でも議論されている国際標準規格のHL7 FHIR規格をクラウド上でAPIベースで提供することで,多くのパートナー,医療機関が簡易にHL7 FHIRを実装できる仕組みをめざしています。また,「Microsoft Teams」ではAIチャットボットによる問診で診療フローを支援する機能を発表していますし,ウエアラブルデバイス「Microsoft HoloLens」を用いてニューヨークとウガンダをつなぎ遠隔で手術を支援するような臨床使用も進んでいます。2021年にはヘルスケア領域に強い音声認識技術を持つニュアンス・コミュニケーションズ社を買収し,Teamsでオンライン診療を行うと会話内容がカルテデータとして自動的に入力されるような機能をめざして開発を進めています。
一方,国内では,Microsoft Cloud for Healthcareのデータプラットフォームとしての稼働が始まっています。「Azure API for FHIR」は,Azure上でFHIRにつながるAPIを国内データセンターに実装しているので,医療機関がFHIRを使ってデータ基盤をつくることも可能となっています。2022年4月に発表した進化版の「Azure Health Data Services」では,データ連携や分析をより簡便に行えるようになります。Teamsを核とした「Microsoft 365」の活用による業務改善も複数の病院で行われており,倉敷中央病院や亀田メディカルセンター,国立国際医療研究センターなどから成果が報告されています。また,長崎大学病院でHoloLensを使った関節リウマチ患者の遠隔診療の実証を進めているほか,パートナーのHoloEyes社でもHoloLensを使った手術支援やカンファレンスなどの多くの実績を積み重ねており,われわれが提供する技術や製品を活用した医療DXが国内でも始まっています。

IT人材の不足やセキュリティへの懸念などDX推進の阻害要因を解消する取り組み

医療DXの推進に当たっては,IT人材の不足,IT投資への意識付け,セキュリティへの不安などが阻害要因となりますが,これらを解消するための支援も行っています。IT人材については専門家の確保も重要ですが,現場でITを使う医療従事者の育成も重視しており,IT活用のための資料の提供や医療機関でのワークショップの実施,啓発活動に取り組んでもらうパートナーの育成などに取り組んでいます。また,ITへの意識をコストから投資へと変化させるのは容易ではありませんが,ITを活用したDX推進の事例や効果をしっかりと周知していきたいと思います。
そして,セキュリティについては,“よくわからないけれど怖い”というイメージを払拭するために,具体的な方法論を提示していきます。また,ヘルスケアのビッグデータを持つメガプラットフォーマーが信用ならないという風潮も一部にあることを認識していますので,どのような倫理観を持ってデータをお預かりしているかを伝えることも大切です。2022年1月には,医療サイバーセキュリティの啓発団体である一般社団法人医療ISACと共著で,医療クラウド利用の注意点などをまとめたレポート1)を公開しましたが,関係学会・団体とも協力しながら,セキュリティを担保する製品の提供と併せて,不安の払拭に努めていきます。

IT活用で医療従事者が生き生きと活躍できる環境づくりを

少ない医療従事者で多くの高齢者や患者を診なければならない時代がすぐそこまできており,今までのやり方を続けていくと破綻してしまいます。病院を受診する時だけが医療ではなく,健康な時から予後まで含むことを一人ひとりが意識すれば病気や重症化を防ぐことができ,その意識付けにITが役立ちます。われわれだけでできることは限られているので,パートナーや学会・団体,専門家の協力を得ながら,共に課題解決に取り組みたいと思っています。
コロナ禍を機に医療現場のIT化への抵抗感もだいぶ薄れたと感じています。医療機関にとって重要な患者満足度の向上には,医療従事者が生き生きと働くことが大切だと考えます。われわれはセキュリティや導入費用といった懸念に対しても提案できる準備をしていますので,これからの医療を背負っていく若い世代が楽しく効率的に業務に取り組み,生き生きと活躍するためにも,多くの病院経営者にITの利活用に関心を持っていただければと思います。

●参考文献
1)医療ISAC,日本マイクロソフト:クラウド時代の医療情報セキュリティの考え方〜国内病院の課題解決を志向するリスクコミュニケーションの重要性〜.
https://msjapan.sakura.ne.jp/m-isac.jp/wp-content/uploads/2022/01/Report_20220120.pdf

 

(おおやま くにひろ)
日本マイクロソフト株式会社にて,医療・製薬業界に対する全般的な事業活動についての責務を担う。AIや複合現実・各種クラウドテクノロジーなどを含む製品/サービス全般を,日本の医療現場や製薬企業における経営改革,働き方改革に対して提案する活動に従事している。2018年にマイクロソフトに入社する以前は,SAPジャパンにおいて営業マネジメントを歴任。一般社団法人日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会監事,一般社団法人医療トレーサビリティ推進協議会監事,医療AIプラットフォーム技術研究組合マネジメントボード。香川大学経済学部卒。


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