外来放射線治療におけるタブレットを活用した問診システムの開発経験
園部 真也(東北大学大学院 医学系研究科 神経・感覚器病態学講座 神経外科学分野,東北大学病院 脳神経外科,東北大学病院 AI Lab)

2021-7-1


園部 真也(東北大学大学院 医学系研究科 神経・感覚器病態学講座 神経外科学分野,東北大学病院 脳神経外科,東北大学病院 AI Lab)

医療や介護の現場において,タブレットやスマートフォンなどの利用が進んでいる。本シリーズでは,毎回,モバイルデバイスを有効活用している施設の事例を取り上げる。シリーズ第14回は,東北大学の園部真也氏が,タブレットを活用した問診システムの開発の実際について解説する。

外来放射線治療での問診業務

外来放射線治療は,土日祝日を除く毎日,6〜8週間ほどにわたり行われる。これに伴い,東北大学病院の放射線治療科の外来は,連日100名以上の患者が受診している。その一人ひとりに対して,その都度,看護師による治療前の問診が行われている。問診の項目数は,病態や状況にもよるが,少なければ6個前後であり,多ければ20個前後に及ぶこともある。この問診は,治療に伴う有害事象を早期に発見するため必要な業務であるとともに,外来放射線治療加算の算定要件となっている。
一方で,大部分の患者において有害事象の出現は緩徐であるため,患者は来院のたびに同じ問診を受けるものの,大半の日は状態に変化がないのが実情である。これを看護師の視点から言い換えると,本来の業務である「異常の吟味」ではなく,「異常なしの確認」に多大な時間が投じられていることになる。
そして,残念ながら,費やされている労力の割に,問診業務の精度が高いとは言い難い。患者が本来の症状を正確に訴えないためである。これには,多忙な医療従事者に対して毎日のように状態を報告することが患者にしてみれば物理的にも精神的にも負担である,症状があるものの患者が自覚しておらず詳細な問診を行わないかぎり聞き出せない,医療従事者の多忙も重なり見落としが発生する,という背景がある。また,残念なことに,費やされている労力の割に,問診業務の医療への貢献は高くない。問診の質が担当者ごとに異なり均質でない,問診で収集された情報が構造化されていない,収取した情報に欠損が多い,医療従事者が多忙のため詳細な問診まで手が回らないなどの理由から,利活用ひいては診療の質の向上につながりにくいためである。
このような現場の課題を解決するべく,われわれはタブレットを用いた新しい問診システムを開発した。

タブレットを用いた問診システム

問診システムは,タブレットを使用して問診に回答し,結果を電子カルテへ転送するという,至ってシンプルな構造である。特別に目新しい技術ではないが,タブレットと電子カルテの情報転送にQRコードを使用している点が肝であると考えている(図1)。また,タブレットから電子カルテへの一方向の情報転送ではなく,電子カルテからタブレットへの情報転送も含めた双方向の情報転送を可能としている点が,ユーザーエクスペリエンス向上のために重要である。
患者が来院したら,看護師はタブレットを準備する。問診アプリケーションを起動し,スタート画面が表示される。新患であれば,画面を操作し,患者情報と治療計画を入力する。再来であれば,後述の方法により,前回の問診で得られた情報を電子カルテからタブレットへ読み込むだけでよい。この状態で看護師が患者へタブレットを渡す。設問がタブレットに表示され,患者は画面を操作して回答する(図2 a)。再来の場合は,回答の初期値に前回の回答を使用するため,変化のない項目はスキップできる(図3 a)。
設問は選択式の質問から構成され,さらに「相談したいこと」を選択できる。一連の設問に対する回答が完了した後に,回答の一覧と,その内容を変換したQRコードが表示される。悪化した項目や特筆すべき情報は強調表示される(図3 b)。ここで看護師がタブレットを回収し,後述の方法により,問診で得られた情報をタブレットから電子カルテへ転送する(図2 b)。また,必要に応じて口頭での問診を追加する。
タブレットから電子カルテへ情報を転送した後,問診アプリケーションは終了し,その都度にタブレット上のすべての個人情報は消去される。また,一定時間の操作がない場合にも問診アプリケーションは自動的に終了する。なお,タブレットはネットワークから隔絶されている。このため,タブレットの紛失により個人情報が漏えいすることはない。

図1 QRコードを介して問診情報を転送

図1 QRコードを介して問診情報を転送

 

図2 タブレットを用いた問診情報の入力と出力

図2 タブレットを用いた問診情報の入力と出力
a:問診への回答 b:問診情報を電子カルテに転送

 

図3 問診アプリケーションの画面

図3 問診アプリケーションの画面
a:回答の初期値には前回の回答を使用
b:回答一覧とQRコードを表示

 

安価で敷居の低い導入と運用

タブレットのOSは,Androidを用いている。タブレット上で動作する問診アプリケーションはJAVAで記述している。電子カルテは富士通の提供するHOPE EGMAIN-GXを使用しており,同システムがテンプレート機能として内蔵しているeXChartを,タブレットと電子カルテの情報転送に使用している。
問診アプリケーション上で表示されたQRコードは,QRコードリーダを用いて電子カルテの端末へ読み込まれ,eXChartを介して文字情報に展開される。また,電子カルテに保存された情報を基にeXChartでQRコードを生成し,電子カルテ端末の画面に表示させ,このQRコードをカメラで読み取ることにより,電子カルテの情報をタブレットへ転送することができる。再来の場合は,この方法で,前回受診時の問診情報をタブレットへ読み込んでいる。
本システムの特筆すべき点として,新たなネットワークの構築やセキュリティの設定を要さない点が挙げられる。既存の仕組みを組み合わせることで実装の大部分を実現しているため,導入費用はタブレット購入費のみであり,運用費用は皆無である。

問診時間の大幅な短縮に寄与

「新しく開発した問診システムにおける問診(以下,新法)」が,「従来に行われてきた口頭での問診(以下,従来法)」と比較して,どれだけ問診時間が短縮するか,模擬患者を用いたロールプレイを行い実証した。
模擬患者は再来を想定し,前回の問診から状態に変化がない場合(症例1),軽度の変化がある場合(症例2),明確な変化がある場合(症例3)を準備した。問診作業は実際に診療へ従事している5名の看護師が担当した。同じ量の情報を得るために患者と看護師が問診に要した時間を,新法と従来法で比較した。
従来法で行っている問診業務は,新法にて一通り対応が可能であった。症例1,症例2,症例3において,従来法での問診に要した平均時間は,患者と看護師ともに,146秒,235秒,225秒であった。新法での問診に要した平均時間は,患者においては100秒,129秒,160秒であり,看護師においては68秒,70秒,88秒であった(図4)。
新法を用いることにより,問診業務に要する時間について,看護師は1症例あたり約2分間の節約をすることができる。当院ではこの問診システムの使用が適応されうる患者が1日30名以上いるため,1日1時間の業務を減らすことができることになる。現状では従来法により常時1名の看護師が問診業務を担当しているため,業務の15%を削減できる公算となる。また,手順の自動化と内容の均質化が図られていることにより,メディカルクラークが問診業務を補助できるようになる。これに伴い,看護師の負担がさらに削減されると考えられる。

図4 問診に要する時間を短縮

図4 問診に要する時間を短縮

 

今後の展望

われわれの開発した問診システムは,医療従事者の労力低減と,ひいては問診の精度向上に寄与すると考えられる。本稿ではロールプレイによる問診時間の短縮を示したが,現在は実際の運用を通じた満足度調査を進めている。また,導入前後における情報の量と質に対する後方視的な評価を行う予定である。情報が構造化されたことで放射線治療学における情報の利活用が進み,新たな学術領域の新興などの垂直展開につながると展望される。
近年,スマートフォンやタブレットを利用した問診システムが多く開発されているが,本例に示されるような「同一患者に対して繰り返し行われる問診」を前提として開発された問診システムは,われわれの報告を除き前例がない。本システムは,経過観察や満足度調査との親和性が高く,現在,放射線治療科で扱うほかの疾患への水平展開,当院におけるほかの科への水平展開や,ほかの医療機関への水平展開を進めている。汎用性の高さと導入・運用費用の低さが,水平展開における敷居の低さに寄与している。

 

(そのべ しんや)
2007年に東北大学医学部を卒業。脳神経外科医師として東北地方各所の基幹病院に勤務。脳血管内治療を専門とする。趣味を生かして2019年よりAIを修学。また,インド・バンガロール市の研究所で医療AI開発の研さんを積む。2020年より東北大学病院AI LabでAIを用いた研究に着手。並行して同院のスマートホスピタルプロジェクト推進を担う。


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