巻頭インタビュー NPO法人「日本X線CT専門技師認定機構」井田義宏 代表理事に聞く
NPO法人「日本X線CT専門技師認定機構」が2011年10月に発足─世界一のCT保有国で、検査の最適化と被ばく低減に貢献─

2012-9-25


井田義宏  氏

井田義宏  氏

X線CT(以下,CT)の技術は飛躍的な進歩を遂げ,いまや診療に欠くことのできない検査となりました。CT検査に携わる診療放射線技師は,技術の進歩に対応し,検査の最適化や被ばく線量の管理などを適切に実施できる専門性が求められています。世界で最も多くのCTが稼働しているわが国では,医療被ばくの低減が大きな課題となっていることからも,根拠のある専門スキルを持ち,安心で安全な検査を提供していかねばならないでしょう。そのための専門的な知識や技術を持った人材の育成と認定を行うNPO法人「日本X線CT専門技師認定機構 」が2011年10月に設立されました。日本放射線技術学会(JSRT)日本放射線技師会(JART)日本医学放射線学会(JRS) の代表からなる第三者機関として活動し,すでに第1回認定試験を実施して,795名の認定技師が誕生しています。
今回,X線CT専門技師認定機構の設立に奔走し,代表理事に就任した井田義宏氏(藤田保健衛生大学病院)に,X線CT認定技師・専門技師の役割や認定機構の活動についてお話をうかがいました。

 

Q1 X線CT認定技師・専門技師が必要だと言われるようになったのはいつごろからでしょうか。

井田 肺がんCT検診認定機構 が2009年に設立されてから少し後に,CT全般における認定技師の制度を作るべきだろうという意見が日本放射線技術学会(以下,技術学会)から出てきました。技術学会の中では,専門技師認定制度のワーキンググループや認定班が活動しています。そこでの議論の中から,MRIや核医学などの専門技師認定制度があるのだから,CTも当然,認定制度を設けるべきだという提案が出ました。

Q2 CTは目覚ましい進歩と普及を遂げ,世界一の保有国であるわが国では現在,1万台以上が稼働しています。日常臨床で普通に使われているCT検査を実施する診療放射線技師(以下,技師)を改めて認定技師として認定することがなぜ必要なのでしょうか。

井田 そもそもCTに限らず,技師が臨床現場で扱う装置に対する教育や訓練が,大学などの学校教育では十分に修得できていないという現実があります。臨床実習があったとしても,卒業してからすぐに使いこなせるわけではなく,それぞれの現場で教育しているのが現状です。また,比較的普及している技術であっても進化の速度が速く,新しい知識の修得レベルによって,スキルにかなりの差が出てくるという事情もあります。
さらに,CTの場合は,医療被ばくに関与する割合が非常に多くなっています。CTがうまく撮れていないと取り直しなどで,国民全体の医療被ばく線量を押し上げてしまうことになります。CT検査の被ばく管理を実施できるよう,しっかりと教育して認定していくことは,国民のためにもなることです。
もちろん技師にとっては,急速に進化する技術を習得して,適切な検査を行うことも重要です。シングルからヘリカルスキャン,多列化へと,日進月歩で撮影技術が進化し変化するような現状では,基礎的な技術をしっかり習得しておかないと対応していけません。そして,習得したスキルについては,患者さんから見える資格として,公表していくことも大事です。
このような技師側の必要性と社会的な要請が相まって,CT認定技師・専門技師を認定する機構の設立に至ったわけです。

Q3 CTは技師なら誰でも当たり前にできる検査ではないということですね。

井田 当たり前に撮れると思われている検査が,技術学会学術大会の一番多い演題になるということは,まだまだ研究する題材も多く,検討しなければいけない項目が多いということです。単純X線写真よりはるかに多い研究が行われていますし,MRIを凌ぐような勢いで発表されていますので,CTは完成されている技術ではないということになります。
また,CTは,最適なプロトコールを組むというところが一番知識と技術の必要なところですが,プロトコールが決まってしまうと,誰でもできるという印象を持たれています。しかし,まれなケースとか,新しい疾患への対応とか,一連のプロトコールでは撮れないような患者さんには,当然,対応ができなくなってしまいます。ですから,必ずしも全員が認定技師になる必要があるということではなく,きちんと撮影条件の管理ができ,改善や検証ができる人が,各施設に一人はいてほしいというのが認定技師における認定機構のスタンスです。

Q4 設立までには大変なご苦労があったかと思います。設立に至るまでの経緯をお聞かせください。

井田 最初は技術学会の中に準備委員会を設けていましたが,認定制度は関係する複数の組織が共同で行うことが望ましいという技術学会の方針がありますので,日本医学放射線学会(以下,放射線学会)や日本放射線技師会(以下,技師会)に協力していただくことから始めていきました。
当初は,共同認定組織間のコンセンサスを得ることに時間がかかったのは事実です。他の認定機構にはおそらく,その資格に直接関与する学会などの団体が存在します。MRIでしたら日本磁気共鳴医学会 ,血管撮影であればIVR学会 などがあるのですが,CTの場合はそのような母体がないため,包括的な団体との調整が必要になります。そうすると当然,それぞれの団体で考え方や方針に違いやズレがありますので,それらを摺り合わせて,1つのテーブルにつけることが最初のハードルでした。
技術学会と技師会の間でも意見が一致しない部分がありましたし,放射線学会の中には,技師が被ばく線量を管理するとか,読影補助業務を行うなどの業務内容が職制を犯すものとして反発する方々もあったと思います。しかし,技師は診断をしてはいけないという法律はありますが,診断を伴わない補助行為というのは認められてもいいはずです。事実,従来から,検診では補助業務を行っていますし,超音波や消化管の検査では一次チェックの所見レポートを書いています。CT,MRI,核医学の領域はいままでそういうベースがないのですが,放射線科医のマンパワーが足りないという現状では,技師などのコ・メディカルが補助業務を担っていかないと医療も医療経済も成り立たなくなります。国がチーム医療の推進に力を入れていることもあって,それぞれの役割分担を納得して見直していく努力が求められていると思います。

[認定機構発足までの活動]

2007年4月 JSRT スーパーテクノロジスト認定制度委員会
CT専門技師認定班 発足
2009年4月 JSRT 学術委員会 スーパーテクノロジスト小委員会
CT専門技師認定班 継続
2009年12月 JSRTとJART共同による
CT専門技師認定機構準備委員会 発足
2010年4月 JSRT学術委員会 教育小委員会
CT専門技師認定班 継続
2010年7月 JSRT・JART・JRS共同による
X線CT専門技師認定機構準備委員会 継続
2011年5月 日本X線CT専門技師認定機構 発足
NPO(特定非営利活動法人)申請
2011年9月30日 NPO法人認可
2012年3月 第一回X線CT認定技師認定試験開催
2012年4月 第一回X線CT認定技師 認定

 

Q5 関連団体のコンセンサスが得られてからは,スムーズに進んでいったのでしょうか。

井田 構成団体が1つのテーブルについてからは,2年弱で立ち上げまでに至りました。それまでに時間がかかったこともあって,関係団体からはかなり急かされて,準備を進めたという経緯があります。
認定機構を立ち上げるまでにいろいろなことがありましたが,多くのことを勉強させていただきました。最初はただ単に技師の目線で,優れた技術を持っている人たちが認定技師だというとらえ方でしたが,最終的な認定技師,専門技師の方向性を考えたとき,放射線科医の立場やその他の医師の立場,患者さんの立場,そして,それぞれの団体の立場に立って考えることが必要だと気づかされました。人材育成,教育のあり方,医療制度の行方なども視野に入れて,バランスを取った認定機構の形にしていきました。

Q6 組織や委員などの構成,運営,認定方法などについて,具体的に教えてください。

井田 現在,8名の理事のうち,放射線学会からは2名の理事の先生が就任されています。残りの6名の理事のうち,技術学会からは理事が派遣されていませんので,バランス上,今後は理事の就任を要請するつもりです。

[組織・委員]

組織・委員

 

 

理事会は年4回,委員会はその都度開催しています。次年度以降は専門技師の業務が追加されますので,そのための委員会を作ることになります。また,必要に応じて,いろいろな委員会が追加されると思います。
認定資格や試験方法についてはまず,認定技師は臨床現場の標準的な医療を最適に行う者と決めましたので,今,多くの病院でCT検査を実施するために必要な技術が前提にあります。それをベースにテキストを作って講習会 を開催し,優秀な先生方に講師をお願いしております。8月には第4回講習会が開催され,すでに第7回までの開催日時と場所が決まっています。講習会の受講は1回だけでいいのですが,朝から晩まで2日間で行います。ですから講師も受講者も,2日目の夜にはフラフラになっています。ほとんどすべての領域を2日間に凝縮して講習しますので,特に受講者は大変だと思います。
まず講習会を受講してから試験を受けることが条件ですが,5年の臨床経験と,少なくとも3年以上はCTに携わっているという条件も加えました。試験 は年1回で,筆記試験だけにしています。何千人という人をコントロールするという業務量も考えて試験方法を考えていきますが,これから少しずつ変遷すると思います。

Q7 第1回の認定試験の結果についてはどのように評価していますか。

井田 2012年3月4日に第1回目の認定試験を全国8か所で実施しました。計1050名が受験し,合格者は795名 でした。合格率は75%くらいですので,納得できる結果だと思います。
ただ,今後,2回目以降は数百名ずつの認定になるように講習会の回数や受講者数を調整して,コンスタントに継続していけるような組織にしたいと考えています。初年度は認定機構を立ち上げることが第一でしたが,初年度の反省も踏まえて修正し,システムを整備していくのが今年の課題です。来年2013年になると,専門技師の認定が始まりますので,今年のうちに仕組みをしっかり作っていかなければいけないと思っています。

Q8 X線CT専門技師の要件や,受験資格,認定方法についてはどのようにお考えですか。

井田 専門技師はリーダーですから,認定技師の1割未満でもいいかもしれません。論文発表や学会活動などの実績などで,リーダーとしての資質を評価していくことになると思いますが,具体的な条件や方法については現在,検討中です。おそらく年間,数十人の認定という規模の厳しい資格になると思います。本当に,誰もが認めるエキスパートの技師を認定していきたいと思っています。
看護師には,認定看護師と専門看護師 があるのですが,両方とも厚生労働省の医療公告ガイドラインで名称を標榜できる資格になっていますし,診療報酬にも反映されます。X線CT専門技師も,そのような資格に値するものにすることを視野に入れていますが,条件が厳しくハードルが高いので,時間がかかるとは思います。しかし,要件が整えばいつでも対応できるように,準備しておきたいと思っています。

Q9 認定技師にはどのような自覚と役割を期待していますか。

井田 もともとの必要性はCT検査の最適化ができるということなので,現状の検査内容をしっかりと見直したり,現場や社会からの要請に応じて,医師の補助業務や説明業務なども積極的に取り組んでほしいと思います。自分たちが突っ走ることなく現場と調整をして,病院と患者さんの役に立つようになっていってほしいと思います。
数年後には,認定技師を輩出してからどれぐらい業務が変わっているか,あるいは変わっていないのかなど,検証しなければならないと思っています。個人的には,専門技師には認定技師の妥当性とその次の教育などについて,解析や指導を担ってもらえるようになればと願っています。
5年ごとに更新がありますので,ポイントをためて,常々,勉強する環境から離れないようにしてもらいたいと要請しています。今後は認定技師に対する教育も必要になります。今は認定することで精一杯なので,理想は高いのですが,現実はまだそこまでいっていません。

Q10 これから受験される人にメッセージをお願いします。

井田 はじめはスキルアップを目的に受けていただいてもかまわないと思います。ただし,自分が勉強するだけでよければ,認定資格を取る必要はありません。認定技師というのは何かということを自問自答していただき,誰のために認定技師になるのかを考えてほしいと思います。
私たち技師のクライアントは患者さんであり,臨床科の医師であり,医療スタッフであるわけですから,その人たちの役に立つことが一番の目的になります。ですから,最初のきっかけは単なる自分の勉強でもいいですが,医療における自分の役割ということをよく考えるようにしてほしいと思います。

 

(2012年7月14日(土)取材:文責inNavi.NET)

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●プロフィール
井田義宏
藤田保健衛生大学病院 放射線部 専門技師(シニアマネージャー)
NPO法人 日本X線CT専門技師認定機構 代表理事
1984年3月 名古屋大学医療技術短期大学部 診療放射線技術学科 卒業。同年 名古屋保健衛生大学病院(現 藤田保健衛生大学病院)放射線部に就職。88年 CT検査室へ配属され,呼吸同期スキャン,三次元再構成などアプリケーション開発研究に参加。89年 ヘリカルスキャンの研究開発に参加。98年 保健衛生学士取得。
日本放射線技術学会各種委員・理事,CTテクノロジーフォーラム世話人,ADCT研究会理事長ほか,多数兼任。


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