書評:浅田尚紀氏:学長の回顧録 在米40年,シカゴ大学名誉教授の波瀾万丈研究人生

2014-5-29


学長の回顧録 在米40年,シカゴ大学名誉教授の波瀾万丈研究人生

2014年4月3日発行
著者:土井 邦雄
(群馬県立県民健康科学大学学長 / シカゴ大学名誉教授)

 

書 評

兵庫県立大学 学長特別補佐・教授 / 広島市立大学名誉教授

浅田尚紀

本書は,放射線像研究の世界的権威であり,コンピュータ支援診断(CAD)研究のパイオニアである土井邦雄先生の人生を,25回の連続テーマで構成した回顧録である。このような構成になっているのは,インナービジョン誌の2012年1月号から2014年1月号まで連載された「Prof. Doiの回顧録:Message to the Future 次世代を担う人たちへのメッセージ」を単行本化したことによるが,そのために各回が前後の連続性を持ちながらもまとまりのある内容になっているため,第1回から順に読むことはもちろん,関心のあるテーマの回から読むこともできる点が本書の特徴である。

内容は,幼少期から小・中・高・大学を経て日本での研究生活の時期(第1回~第7回),アメリカへの移住からシカゴ大学での研究生活の時期(第8回~第24回),群馬での学長生活の時期(第25回)と大きく3つに分けることができるが,「学術研究のより良い進め方と考え方」(第20回),「感情能力の基礎概念と重要性」(第21回),「類似画像のサイエンスの始まり」(第24回)の3回は,現役の研究者あるいはこれから研究を志す人へのアドバイスとして独立性が高い内容になっている。第8回以降は,シカゴ大学における研究の進展と世界中の研究者との交流を軸に話題が展開するが,本書のハイライトである研究者としての教訓や心得については,論文の筆頭著者の扱い(第9回),ロングレンジ研究の重要性(第10回),リーダーシップの重要性(第14回),研究費獲得の心構え(第16回)などが具体的な経験に基づいてわかりやすく書かれている。ほかにも,アメリカの生活,社会,文化,政治に関するエピソードがふんだんに盛り込まれ,英会話の習得(第8回)や学位審査のお国柄(第17回)など幅広い話題で構成されているので,一気に読み通すことができる面白さである。

本書のキーワードを一つ挙げるとすると「カンタムジャンプ」(第4,11,22回)がある。これは,量子論における量子のエネルギー状態の不連続遷移になぞらえて理解や意識の飛躍的な進歩を表す言葉で,土井先生が多くの研究者に体験してほしいと願っている覚醒現象である。本書を読むことで,一人でも多くの人にカンタムジャンプのヒントをつかんでいただければ幸いである。

なお,本書はインナービジョン誌の連載記事を単行本化したものであるが,加筆されたエピソードもあり各回の相互参照も見やすくなっているので,連載記事を読んだ方にもお薦めしたい本である。


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