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Centricity PACS × 独立行政法人国立病院機構 高崎総合医療センター医師不足が深刻化する西毛地域7病院間で画像情報ネットワークシステムを構築。救急医療体制を整備し,住民に安心を提供—統合患者IDや公開先限定,iPad活用などの工夫によりセキュアで利便性の高い画像連携の環境を実現

2012-12-3

公開用PACSの運用状況を確認できるCentricity PACSのビューワ

公開用PACSの運用状況を確認できる
Centricity PACSのビューワ

2012年4月1日,群馬県西毛地域において地域公立7病院間を結ぶ「西毛地域画像情報ネットワークシステム」が稼働し始めた。慢性的な医師不足による救急医療の崩壊を防ぐために構築されたこのシステムは,地域医療再生計画の1施策として,高崎総合医療センターを中心に準備が進められた。同センター内には公開用PACSとしてGE社製「Centricity PACS 」を設置し,各病院間のデータを共有できるようにしている。システムの運用にあたっては,異なる患者IDをひも付けする統合患者IDや,セキュリティ対策として公開先を限定したほか,iPadによる遠隔画像相談を行うなど,セキュアで利便性の高い環境を実現している。

■7病院間をオンラインで結ぶ西毛地域画像情報ネットワークシステム

根岸 幾 部長

根岸 幾 部長

上原 宏 技師長

上原 宏 技師長

高崎総合医療センターは,高崎・安中保健医療圏の中核病院として,地域医療の重責を担ってきた。高崎病院時代の2005年には地域医療支援病院となり,その後2007年には,地域がん診療連携拠点病院の指定を受けている。また,2011年には地域災害拠点病院となった。さらに,救急医療にも力を入れているのが同センターの特色でもある。1983年に設置された救命救急センターは,医療圏内では唯一の三次救急に対応しており,まさに地域医療の“扇の要”の役割を果たしていると言える。

この“扇の要”の軸として位置づけられる放射線部門では,放射線診断科に2名の放射線専門医が常勤しており,非常勤の放射線科医も含めて3人体制で,1日あたり70~130件程度の読影を行っている。また,画像診断機器の充実化を図り,CT,MRIともに2台を配備。CT検査は2010年度の実績で年間1万4330症例,MRIは4945症例の実績を持つ。CT検査については,心臓CT用に新規に1台導入して2台体制となったことで,現在では1日80~90件の撮影を行っている。MRIも32chコイルの新型1.5T装置を導入し,心臓MRIを施行している。

このようなモダリティの整備とともに,IT化も進めており,2009年には新病棟の開設に合わせてPACSを更新し,Centricity PACSを導入した。他社製システムからCentricity PACSに更新した理由について,放射線診断科の根岸幾部長は,次のように語る。

「以前勤務していた病院でGE社のPACSを導入していたのですが,ビューワの使い勝手も良く,非常に安定しており,配信スピードも高速である点を評価しました。また,血管撮影装置の動画の院内配信もPACSで行うことができることも,採用の大きな理由でした」

さらに,同センターでは,2012年4月からCentricity PACSの運用経験を生かして,群馬県西部の7病院間(高崎総合医療センター,公立碓氷病院,藤岡市国民健康保険鬼石病院,下仁田厚生病院,公立七日市病院,公立富岡総合病院,公立藤岡総合病院)を結んだ「西毛地域画像情報ネットワークシステム」を構築。同センター内に設置した公開用PACSサーバを中心に,7病院間で救命救急を主とした画像の配信,共有を図ることで,地域医療連携体制を強化した。これにより,地域全体でマンパワー不足を解消しつつ,質の高い診療を提供している。

2009年度群馬県地域医療再生計画(西毛地域:救急医療等に重点化)

2009年度群馬県地域医療再生計画(西毛地域:救急医療等に重点化)

〔出典:厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp )〕

■地域医療再生計画に基づき救急医療体制の整備を図る

高崎・安中保健医療圏が含まれる西毛地域の人口は,58万1051人(出典:総務省統計局「平成22年国勢調査」)。このうち,高崎・安中保健医療圏の人口は43万2405人となっている(同調査)。それに対して医師数は少なく,10万人あたりの医師数では,西毛地域全体で183.1人(高崎・安中保健医療圏が180.6人,藤岡保健医療圏が171.6人,富岡保健医療圏では209.8人)で,群馬県の平均である208.6人を大きく下回っており,医師不足という深刻な問題を抱えていた。特に,救急医療体制が問題となっており,2008年の調査では,西毛地域の救急患者の9%が他地域へ搬送されているという結果が出ているほか,高崎・安中保健医療圏の救急患者の約16%が他地域に搬送されているという状況にあった。

高崎総合医療センターでも,2009年以前の高崎病院の時代から医師不足が深刻化しており,救急患者が西毛地域外の医療機関に搬送されるといった状況にあった。このような事態を打開すべく,当時の金澤紀雄院長が奔走し,高崎市医師会をはじめ周辺地域の医師会の協力を得て,医師を確保。新病棟完成による高崎総合医療センターへの名称変更とともに,医療提供体制を立て直し,病院機能を本来の姿に回復させた。

一方で,西毛地域全体の医師不足の解消を図るためにも,金澤前院長は精力的に活動を行った。同センターの周辺施設はもちろん,西毛地域全体でも放射線科医が不足しており,限られた医療資源を効率的に活用することが求められていた。そこで,当初画像診断センターの構想が生まれたが,マンパワー不足などにより当面実現は困難であると判断。新たに立てられた計画が,公立7病院間の各PACSを公開用PACSを介して連携させて,画像データを共有して読影・診療を支援する西毛地域画像情報ネットワークシステムであった。このネットワークシステムは,2009年度の群馬県の地域医療再生計画において施策の1つに盛り込まれ,地域医療再生基金から予算がつけられた。

西毛地域画像情報ネットワークシステムの構成図

西毛地域画像情報ネットワークシステムの構成図

 

■信頼性の高いCentricity PACSを公開用PACSとしたシステムを構築

この予算に基づき,具体的なネットワーク構築作業が始まった。高崎総合医療センターが中心となって構築に向けての準備が行われることになり,7病院の代表者が集まる会合が持たれた。この会合は,計画が立ち上がってから3か月に1回の頻度で計3回行われ,ネットワークシステムの仕様策定や選定,具体的な運用方法を固めていく場となった。さらに,病院ごとに細かな仕様や運用方法を決める必要がある場合は,個別に打ち合わせの機会を設けた。このような導入準備について,同センター放射線科の上原 宏技師長は,「当初は事務部門が計画を詰めて,その後は実際に運用にかかわる放射線科が中心となって導入を進めました。具体的な作業としては,PACSやその周辺システム,装置,ネットワーク回線などのリストアップと選定,また,セキュリティ対策も含めた運用方法の策定,運用規程づくりなどがありました」と説明する。

この過程において,同センター内に公開用PACSのサーバを設置することや,NTT東日本のフレッツ・グループアクセスによるネットワーク網を整備,iPadを使った遠隔画像相談を行うことなどが決定した。加えて,当面は公開用PACSで扱う画像を救急患者のものに限定することが決められた。また,同センター内に設置する公開用PACSには,Centricity PACSが選ばれた。根岸部長は,「7病院では,メーカーの異なるPACSを使用しており,自施設が使用している製品を勧める病院の担当者もいましたが,当センターの使用経験から,安定して稼働し非常に信頼性が高い点を評価し,最終的に入札を経てCentricity PACSの採用を決定しました」と述べている。このようにして,全国的にもほとんど例のない,地域の中核病院間を結ぶ広域の画像情報ネットワークシステムが構築された。

医療機関外からでも迅速に対応できるiPadでの遠隔画像相談

医療機関外からでも迅速に対応できるiPadでの遠隔画像相談

公開用PACSの運用状況を確認できるCentricity PACSのビューワ

公開用PACSの運用状況を確認できるCentricity PACSのビューワ

 

■統合患者IDや公開先限定など広域ネットワークならではの特徴

2012年4月から,西毛地域画像情報ネットワークシステムの運用が始まった。先進的な取り組みと言える7病院間での広域なネットワークシステムであるだけに,そのシステムは技術面,運用面でそれぞれ特徴を持っている。

なかでも一番の特徴と言えるのが,統合患者IDによる患者情報の管理である。これは,西毛地域画像情報ネットワークシステム上で患者データを扱う場合に,それぞれの病院のPACSや電子カルテシステムで付された患者ID以外に,新たに7病院間での統合患者IDを割り当てられるものである。2つのIDをひも付けして管理を行うことで,患者重複などのリスクを回避できる。加えて,2つのIDそれぞれでサーバ上の画像を検索できるなど,利便性に優れた運用ができる。さらに,将来,ネットワークシステムが広域になった場合も想定しており,マイナンバーの利用を見据えた運用としている。

また,セキュリティ対策として,公開先を限定しているのも,このシステムの特徴である。元データを保有している病院は,画像の公開先を任意に設定することで,指定された施設だけがそのデータを参照やダウンロードすることができる。また,公開期間を1週間に限定しており,不要なアクセスを防いでいる。これにより,個人情報を保護することができる。

容易な操作性を実現していることも,西毛地域画像情報ネットワークシステムの重要なポイントである。放射線科医や診療放射線技師だけでなく,PACSの操作に慣れていない事務職員でも容易に扱える操作性を実現しており,さらにマニュアルも作成し,救急時にも速やかに対応できるようにしている。

iPadを用いた遠隔画像相談に対応したことも,特徴の1つである。タブレットやスマートフォンなどのモバイル端末用のビューワを搭載したiPadにより,放射線科医は施設から離れた場所でも,画像を参照し,診断を支援することができる。これにより,放射線科医不在の場合でも質の高い救急医療を提供できるようにしている。

さらに,NTT東日本のフレッツ・グループアクセスにより,7病院間だけに限定したセキュアなネットワーク環境を構築していることも大きな特徴である。これはインターネットを介さず,NTTのフレッツ網を利用して,高いセキュリティ環境での運用を実現するもので,プライベートグループ内だけでの情報共有を可能にする。そのため,低コストで容易に信頼性の高いネットワークを構築できる。

このような特徴を有するネットワークシステムの中心にある公開用PACSに採用されたCentricity PACSは,サーバやストレージなどのハードウエア,ソフトウエアを二重化するデュアル・ノード・クラスタリング・システムの技術が用いられている。このため,万が一障害が発生した場合でも,システムが停止することがない,堅牢なPACSを構築できる。これにより,地域医療を支えるインフラとしての西毛地域画像情報ネットワークシステムの安定稼働に貢献している。

Centricity PACSのビューワで読影する放射線診断科の佐藤洋一医長

Centricity PACSのビューワで読影する放射線診断科の佐藤洋一医長

iPadでの遠隔画像相談は根岸部長が担当し,佐藤洋一医長が救急画像読影後の腹部臓器損傷血管塞栓術IVRの対応を主に行っている。

iPadでの遠隔画像相談は根岸部長が担当し,佐藤洋一医長が救急画像読影後の腹部臓器損傷血管塞栓術IVRの対応を主に行っている。

 

■オンラインでの画像参照で的確かつ迅速な診断,治療

西毛地域画像情報ネットワークシステムの実際の運用は,次のような流れとなる。まず,救急患者がA病院に搬送されると,新たな病院独自の患者IDがつけられ,同時に「統合患者ID管理システム」上に患者登録することで,統合患者IDが割り振られる。ただし,一刻を争う救急症例では,自院の患者IDをつけずに,一時的に統合患者IDだけで利用できるようにしている。その後,A病院から,既往歴記録のあるB病院に対し,電話などで画像提供のオーダを出す。オーダを受けたB病院は,その救急患者の画像を自院のPACSサーバから画像をリストアップして,公開するゲートウェイであるアップロードシステムを介して,公開用PACSに送信する。送信後,B病院は,画像を公開したことをA病院に連絡する。A病院の医師は,公開用PACSのビューワのリストから対象救急患者を選択し,画像参照ボタンをクリックすると,公開画像がマトリックス表示され,そこから見たい画像を選ぶ。

また,iPadでの遠隔画像相談では,依頼を受けた放射線科医がiPadのビューワ上のリストから公開用PACSにアクセスし,画像をダウンロードして診断支援を行う。この際,セキュリティ対策として,患者情報が匿名化される仕様となっている。遠隔地にいる放射線科医は,この画像を見て,依頼側の医師と電話などでカンファレンスを行う。

2012年4月の稼働開始月は,7病院で26件の利用があり,その後,月間で10~50件程度の利用がある。公開される画像はCT,MRIが多いが,最近ではDICOMデータ以外の内視鏡画像なども扱われるようになっている。また,遠隔画像相談については,毎月数件程度が行われている。

これまでの運用を通じて,根岸部長は,「救急患者の過去画像を参照しないで診断,治療するのはナンセンスです。このシステムによって,オンラインで画像を参照できるようになり,より的確な診断,治療を迅速に行える環境をできたと考えています。また,救急でも画像参照だけでなく,iPadでの遠隔画像相談の件数も増えており,夜間や休日における放射線診断科の役割はますます重要になっています」と評価している。また,上原技師長は,「搬送される患者さんの過去画像を確認できることは,検査を行う上で撮影部位や禁忌を確認することができ,安全に適切な検査を行う観点からも,非常にメリットがあります。また,従来のように,CDなどの媒体を作成するコストや作業負担も減らすことができています」と,メリットを挙げている。

放射線科内に設置された統合患者ID管理システムの画面

放射線科内に設置された統合患者ID管理システムの画面

高崎総合医療センター内の外来ブースなどに10台設置されている西毛地域画像情報ネットワークシステムのビューワ

高崎総合医療センター内の外来ブースなどに10台設置されている西毛地域画像情報ネットワークシステムのビューワ

 

■地域全医療機関と接続し地域住民に安心を提供するネットワークをめざす

7病院間を結ぶ西毛地域画像情報ネットワークシステムは,救急医療での活用により,医師不足の解消を図るものだったが,次の動きも始まっている。下仁田厚生病院と公立富岡総合病院では,救急以外の画像データの共有にこのシステムを活用しており,病病連携での成果を生んでいる。これを受けて,7病院全体でも,これまでの救急から対象を広げて,より多くのデータを共有するように運用を変更した。今後は,よりシステムの利用率を上げ,地域医療連携を強化していく。

さらに,その先の展開として,高崎総合医療センターでは,2012年4月にシステム稼働と時を同じくして院長に就任した石原 弘院長のリーダシップの下,医師会も含めたネットワークシステムの拡充を進めていく。根岸部長は,「周辺病院や診療所との間で遠隔画像診断を行えば,地域全体での医療の質を向上できます。また,当センターは画像診断管理加算2の算定をしているので,病院運営の観点からもメリットになると考えています。2012年9月には,群馬大学と接続することが決まり,来年度に工事が行われ,実際に群馬大学医学部附属病院と連動する予定です。さらに,来年度は高崎市内数か所の中核病院が接続する計画もあります」と説明する。

7病院間の広域な地域医療連携ネットワークがさらに進化し,地域のすべての医療機関と結ばれることで,質の高い医療を効率的に行い,地域住民に安心を提供することが期待される。

 

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