innavi net画像とITの医療情報ポータルサイト

ホーム

整形外科専門病院の人工関節置換術をサポートする16列/32スライスのコンパクトCTを導入 〜金属アーチファク

医療法人社団橘会 橘病院 スタッフ

 

宮崎県都城市の医療法人社団橘会 橘病院(矢野良英理事長)は、整形外科の専門病院として1949年に開院、変形性膝関節や脊椎疾患の治療、外傷治療などを中心に地域に根ざした診療を展開している。同院に、2015年5月に東芝メディカルシステムズの16列/32スライスCTの新製品である「Aquilion Lightning」が導入された。年間250例以上の人工関節置換術を手掛ける柏木輝行院長と放射線科の増田真樹科長に、人工関節置換術における“SEMAR”の有用性などを含め、整形外科専門病院でのAquilion Lightningの初期経験について取材した。

人工関節置換術など手術からリハビリテーションまで提供

橘病院は整形外科専門病院として、整形外科一般の診療のほか、人工関節置換術、脊椎手術、外傷手術などを年間500例近く行っている。病床数は、急性期と回復期リハビリテーション病棟を合わせて92床で、OT、PTなど33名のスタッフによるリハビリテーションを提供する。柏木院長は診療の方針について、「整形外科の疾患に対して、入院から手術、回復期から慢性期までの医療をトータルに提供して、安心して自宅に帰れるようにサポートしています。リハビリテーションについても、入院および外来で継続的に安定したリハビリが行える体制を整えています」と述べる。
画像診断機器は、CT、MRI各1台、一般撮影装置5台(固定型2、ポータブル1、外科用2)、骨密度測定装置1台と、整形外科の手術や検査のための装置がそろっている。放射線科の増田科長は、「週10件程度行われる整形外科手術をサポートするために、術前の治療計画や術後の経過観察などで正確な情報を提供しています」と説明する。

柏木輝行 院長

柏木輝行 院長

放射線科・増田真樹科長

放射線科・増田真樹科長

 

 

コンパクト設計でSEMARを標準搭載するAquilion Lightning

同院に導入されたAquilion Lightningは、東芝メディカルシステムズが新たに発売した16列/32スライスCTであり、ワイドボアの採用と本体のコンパクト化を図る一方で、同社がこれまでハイエンドのAquilion ONEで培ってきた最新技術を数多く搭載した。0.5mmスライススキャンによる高精細画像の収集を可能にするほか、新型検出器“PUREViSION Detector”によって高画質と被ばく低減を実現している。また、最小設置面積は9.8m2と省スペース化を図り、シングルスライスCTなどからのリプレイスにも対応する。
増田科長はCTの選定について、「他社製シングルスライスCTの更新として機種の選定を行いましたが、当院の検査件数とランニングコストなどの採算性を考えて、16列のマルチスライスCTで各社の製品を検討しました。その中で、新機種であるAquilion Lightningについて提案があり、16列ながら金属アーチファクトを低減できる“SEMAR”が標準で搭載されることが決め手となって導入に至りました」と経過を説明する。

16列/32スライスの「Aquilion Lightning」を導入。Aquilion Lightningのコンソール。

16列/32スライスの「Aquilion Lightning」を導入。Aquilion Lightningのコンソール。

Aquilion Lightningは設置面積を抑えシングルスライスCTからのリプレイスも可能にする。

Aquilion Lightningは設置面積を抑えシングルスライスCTからのリプレイスも可能にする。

 

膝、股関節など年間250例の人工関節置換術を実施

柏木院長は2000年に同院に赴任、2006年に院長に就任したが、これまで人工膝関節、人工股関節、人工骨頭を合わせて4000例近くの関節手術を手掛けてきた。柏木院長は、人工関節置換術について、「従来、人工関節治療は高齢者を対象に痛みを軽減することが主な目的でしたが、現在では日常生活はもちろん、社会生活や仕事に高いレベルで復帰することが可能になっています。当院でも、高齢者だけでなく働き盛りの年代の患者さんにも人工関節置換術を行うことで、農業や林業、畜産業などの仕事への復帰や、スポーツや地域活動ができるまでになっています」と述べる。
人工関節置換術については、最小侵襲手術(Minimally Invasive Surgery:MIS)に取り組み、全人工股関節置換術(THA)、全人工膝関節置換術(TKA)など最新の手術手技を提供する。柏木院長は、「人工関節のデバイスの進歩、手術手技の向上、術後のリハビリのレベルアップが、人工関節置換術の全体としての治療成績や患者さんのQOL向上につながっています。その中で画像情報は有用な情報を提供し、結果をフィードバックすることで、それぞれの手技のさらなるレベルアップが期待できます」と述べる。
Aquilion Lightningには、同クラスのCTでは初めて、金属アーチファクトを低減する画像再構成技術である“SEMAR”が標準搭載された。SEMARによるCT撮影への期待を柏木院長は次のように述べる。
「人工関節置換術では、これまで人工関節の経過観察は、単純X線写真で行っていました。CTでは、診療放射線技師がどんなに撮影努力をしても、金属アーチファクトの影響で骨との接合部分や安定性の診断は難しかったからです。それでも痛みなどの症状が出て、X線画像だけではわからない時にはCTを撮影して可能な範囲で判断することもありました。SEMARでは、金属アーチファクトが除去されることで、人工関節周囲の状態の把握や角度の計測などが可能になり、正確な手術と安全な術後管理が可能になることを期待しています」

CTでの人工関節置換術後の経過観察を可能にするSEMAR

SEMARの効果について増田科長は、「SEMARの適用ありとなしの画像を同時に表示できますが、その差は歴然です。SEMARで再構成した画像では、軟部組織や骨梁などが描出されています。これまでは、遠隔読影で画像専門医に診断をお願いする時も、見えている範囲で読影してもらうしかなかったのですが、従来見えなかった領域の診断が可能になりました」と述べる。
同院では、5月の稼働から2か月弱で、股関節を中心にSEMARを適用した検査を20例前後行っている。増田科長は、「股関節では両側を人工関節に置換した症例はまだ経験していませんが、片側の症例ではSEMARでアーチファクトが低減されています。膝関節は、人工関節に対するX線の入射方向によって、アーチファクト低減効果が変わるため、撮影体位などを検討したいと思います」と現状を説明する。
柏木院長は、人工関節置換術でのSEMARの適用について、「これまでX線画像で行ってきた経過観察をCTで行うことで、今まではわからなかった痛みの原因が特定できたり、ルーズニングなどの診断が正確に可能になり、再置換術の判断が容易になることが期待されます。また、計測についても、これまで単純X線写真では正確に測れない部分がありましたが、CTによってより正確なデータ収集が可能になり、その結果をフィードバックすることで手術成績の向上が期待されます」と述べる。
また、Aquilion Lightning の特長であるワイドボアによって、膝の人工関節の撮影の際のポジショニングが容易になった。膝の撮影では,金属アーチファクトを低減するために、デバイスに対して角度をつけたポジショニングを行うが、広い開口径で立て膝なども楽にできるようになった。増田科長は、「膝に限らず、整形外科の撮影では方向やポジショニングの工夫が求められたり、また、患者さん自身の足や腰、手の可動域が限られていて、最適な撮影体位を取れないこともあります。そういったケースでも、広い開口径があれば対応することが可能です」と整形外科の撮影での有用性に期待する。

■症例1 人工関節置換術後(左膝関節)

a:SEMARあり、b:SEMARなし SEMARの画像再構成を行うことで、軟部組織や関節腔の描出能も大幅に改善されている。

a:SEMARあり、b:SEMARなし
SEMARの画像再構成を行うことで、軟部組織や関節腔の描出能も大幅に改善されている。

 

■症例2 人工関節置換術後(左股関節)

a:SEMARあり、b:SEMARなし 金属アーチファクト低減により、骨頭側だけでなくカップ側の骨の評価も可能となる。

a:SEMARあり、b:SEMARなし
金属アーチファクト低減により、骨頭側だけでなくカップ側の骨の評価も可能となる。

 

SEMARによる整形外科領域のCT活用の拡大に期待

Aquilion Lightningでは、従来の被ばく低減技術である“AIDR 3D”の性能をさらに向上させた“AIDR 3D Enhanced”を搭載する。同院では、整形外科領域の撮影ではWeakを、そのほかではMildを使用したプロトコールを適用しているが、線量レポートをPACSに保存するなど、被ばく線量管理の体制をスタートさせている。増田科長は、「Aquilion Lightningでは、リアルタイムの線量情報の提供やレポート管理など、被ばく管理ツールが充実していますので、今後、それを活用していきたいですね」と述べる。
整形外科専門病院としてAquilion Lightningへの期待について増田科長は、「SEMARによって、CTによる人工関節の画像診断が可能になり、今後、新たな知見が得られることが期待できます。インプラントの観察を可能にする新しい手法に“トモシンセシス”がありますが、SEMARを標準搭載したAquilion Lightningは、整形外科を専門とする当院のような施設にとっては、コストパフォーマンスが高いと言えるのではないでしょうか」と評価する。
Aquilion Lightningが、整形外科領域の新たな地平を切り開くことが期待される。

(2015年7月6日取材)

 

医療法人社団橘会 橘病院

医療法人社団橘会 橘病院
宮崎県都城市中町15-24
TEL 0986-23-7236

 モダリティEXPO

 

●そのほかの施設取材報告はこちら(インナビ・アーカイブへ)