技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2022年12月号

CXDI

ディープラーニングを活用したノイズ低減処理「Intelligent NR」の物理特性評価報告 ~一般撮影装置「RADREX」&X線デジタルラジオグラフィ「CXDI」システム~

田中  亨*1/岩井 春樹*2/池﨑 理恵*2/向笠 恭司*3/田村 敏和*4/高橋 直人*4/小林  剛*4/池田 勇一*4

*1 キヤノンメディカルシステムズ(株) XR事業部XR企画担当 *2 キヤノンメディカルシステムズ(株) XR開発部 XR臨床応用開発担当 *3 キヤノンメディカルシステムズ(株) 営業本部X線営業部XR営業技術担当 *4 キヤノン(株) 医療機器第二開発部

はじめに

キヤノン株式会社は,1998年にX線デジタルラジオグラフィ「CXDIシリーズ」を発売して以来,ソフトウエアとハードウエアの両面から,操作性の向上や高画質化への取り組みなどを続けている。なかでも,画像の粒状性の向上,すなわちノイズ低減は高画質化のみならず,被検者の被ばく線量低減にも寄与する重要な研究・開発テーマと考えてきた。
このたび,このテーマの成果の一つとして,新ノイズ低減処理「Intelligent NR」を開発し,2022年3月,キヤノンからCXDIシリーズのコントロールソフトウエアのオプションとして全世界に向けて提供することを発表した1)。そして同年9月,キヤノンメディカルシステムズ株式会社は,一般撮影システム「RADREX」に組み合わせる「CXDIシリーズ」のオプションとしてIntelligent NRを発売した2)。そこで,本稿では,RADREXとの組み合わせにおけるIntelligent NRの物理特性について報告する。

Intelligent NRのネーミングコンセプト

Intelligent NRには,AI(Artificial Intelligence:人工知能)技術の一つであるディープラーニング技術で学習された畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network:CNN)を採用した。
本技術は大量の画像データによる機械学習を応用しており,従来のノイズ低減処理では困難だったきわめて複雑なノイズの特徴を判別,除外することが可能な新しいノイズ低減処理を提供できることになった。
この新しいノイズ低減処理は,AI技術を活用していることと,従来のノイズ低減処理と一線を画す先進的で賢いノイズ低減処理であることを明示すべく,「知的な,利口な,賢い」を意味するIntelligentを冠し,「Intelligent NR」と命名した。

Intelligent NR(以下,INR)の原理

従来のノイズ低減処理は,一般的には画像全体に平滑化処理を行う単純なものからスタートし,その後,画像を周波数帯域ごとに一定のルールに従ってノイズの判別や平滑化処理などを適用することでノイズを低減するという方式に進化してきた。しかしその技術の基本は,人為的に一定のルールを定める「ルールベース方式」であるため,X線撮影プログラムと連動してルールを設定したとしても,その数には限りがある。そのため,ある部位における特定のX線量の画像に対しては適正に機能しても,想定外にX線量が少ない画像や撮影プログラムで網羅していない部位などでは,適切なノイズ低減効果が得られないことがあったり,解剖学的な信号を減弱または必要以上に強調してしまうなど,これ以上の性能改善は望めない状況となっている。
INRの開発では,ノイズのない画像(以下,目標画像)と目標画像にノイズを付加した画像(以下,ノイズ画像)を用意し,ノイズ画像をCNNに入力してノイズを除去させ,その結果と目標画像が一致するようにCNNのパラメータを更新するという反復学習を行った。
目標画像には,臨床画像や人体ファントムなど計3000画像を使用した。ノイズ画像は,キヤノン独自の高精度ノイズシミュレーション技術によって,さまざまな線量でのノイズを生成し目標画像に付加したもので,数千万画像を作成しCNNに学習させた。これにより,あらゆる部位,撮影条件(X線量)の画像から,必要な画像信号に影響を与えることなく不要なノイズ信号のみを低減することが可能なノイズ低減処理が実現した。
なお,学習に用いるノイズ特性はFPDの特性に依存するため,現段階でINRが適用できるFPDは,「CXDI-410C Wireless」「CXDI-710C Wireless」「CXDI-810C Wireless」である。
また,INRの処理時間は,1画像あたりハーフ解像度で0.5秒,フル解像度で約2秒。したがって,撮影後にINR処理された画像がCXDIのシステムモニタにハーフ解像度で表示される時間は従来と同等で6秒以内,オプションの高精細セカンドモニタにフル解像度で表示される時間は従来より約2秒延長する。なお,INR処理によって画像のデータ量が変わることはないため,INR処理した画像をPACSなどにDICOM転送した後,読影用ビューワで表示する時間は従来と変わらない。調整パラメータは,10段階の強度設定のみである。また,INRは従来のノイズ低減処理の約250倍の演算量を処理するアルゴリズムであり,従来のPCの能力で換算すると約1分の処理時間を要するため,指定のGPU(graphics processing unit)カードを装着したPCでのみ機能するように設計されている。

評価方法

キヤノンの「INRの動作原理と一般撮影における臨床適用例の紹介」3)では,「INRは,必要な画像信号を維持しながら不要なノイズを効率的に除去することが可能である」と報告されている。そこで,この特性の確認と,INRの基礎的な物理性能の評価を目的に各種測定を実施し,INRと従来のノイズ低減処理との比較検討を行った結果を報告する。
本評価に使用した装置は,キヤノンメディカルシステムズ社製「MRAD-A80S RADREX」とキヤノン社製CXDI-710C Wirelessである。使用した画像は,FPDからの無補正の出力画像に対し,基本補正(オフセット補正,ゲイン補正,欠損補正)とグリッド縞低減処理のみを適用したノイズを含んだ画像で,診断用のエッジ強調などの各種画像処理は適用していない。
なお,以下の結果報告では,Intelligent NRをINR#,従来のノイズ低減処理をconvNR#(末尾の#は処理の強度),ノイズ低減前のノイズを含んだ画像をnonNRと表記する。

1.ノイズ低減能力の確認方法
ここで評価の対象としているノイズは,線量の違いによって変動するカンタムノイズ(X線量子ノイズ)と,FPD内部の素子,回路で発生するシステムノイズが重畳されたものである。そこで,被写体なしでいくつかの線量のX線をFPDに照射して得られたnonNR画像にconvNR,INRを適用し,以下の物理特性を測定した。

(1) ノイズ振幅特性
「X線量に対するノイズの振幅」のグラフで表現され,各線量における各処理を比較確認する。ノイズの振幅が小さいほど,ノイズが低減されていることになり,ノイズ低減処理の効果を推測できる。

(2) NPS(noise power spectrum)
「空間周波数に対するノイズ強度」のグラフで表現され,ノイズ低減処理の周波数依存性や処理強度による特性の変化を確認できる。X線条件は,標準据付条件下において,線質条件をIEC61267に定義されるRQA9(120kVp,付加フィルタアルミ当量:40mmAl,第一半価層AL厚:11.6mm)とした。

2.必要な画像信号が維持されていることの確認方法

(1) MTF(modulation transfer function)
「空間周波数に対する伝達特性」のグラフで表現され,伝達特性は0~1の値をとり,1に近いほどその周波数の情報を劣化なく伝達できている。各処理で比較することで,ノイズ低減処理による伝達特性の変化を推測できる。MTFの測定は,エッジ法を採用した。X線条件は,標準据付条件下において,線質条件をIEC61267-RQA9とした。

(2) CTF(contrast transfer function)
「空間周波数に対するコントラストの伝達特性」のグラフで表現され,伝達特性は0~1の値をとり,1に近いほどその周波数の情報を劣化なく伝達できている。各処理で比較することで,ノイズ低減処理によるコントラストの伝達特性の変化を推測できる。測定は,PTW社製「NORMI RAD/FLUファントム」のチャート部(図1 右下 )を用いて実施した。X線条件は,標準据付条件下において,被写体を配置した状態で120kVp,AEC density=0で撮影した条件を100%線量とし,mAs値を変化させることで低線量条件を作成した。

図1 模擬腫瘤の撮影配置とNORMI RAD/FLUファントム画像

図1 模擬腫瘤の撮影配置とNORMI RAD/FLUファントム画像

 

(3) 胸部ファントムに配置した模擬腫瘤の信号解析
京都科学社製標準ファントム(胸部ファントムN-1「ラングマン」)に,同社の模擬腫瘤(φ8mm,CT値+100)を重ねて配置した模擬腫瘤あり画像と,模擬腫瘤を配置しない模擬腫瘤なし画像を収集した。模擬腫瘤の信号成分がノイズとともに除去されずに,適正に維持できているかを観測するため,[模擬腫瘤あり各種NR画像−模擬腫瘤なしnonNR画像の加算平均画像]を実施した。また,ノイズ低減処理が加えた変化(除去した画像成分)を観測するため,[模擬腫瘤あり各種NR画像−模擬腫瘤ありnonNR画像]を実施した。X線条件は,標準据付条件下において,被写体を配置した状態で120kVp,AEC density=0で撮影した条件を100%線量とし,mAs値を変化させることで低線量条件を作成した。

3.低線量画像での画質確認
以下,(1)(2)の2つの方法でCNR(contrast to noise ratio)を測定した。いずれも,「ノイズ低減処理ごとのノイズに対する信号のコントラストの比率」のグラフで表現される。

(1) CNR(NORMI RAD/FLUによる測定)
PTW社製 NORMI RAD/FLUファントムの8つのdetail contrast test elements(図1 右下)について,ROI3~8番までの領域でCNRの測定を実施した。画像は10枚撮影し,ノイズは円盤周囲の画素値の標準偏差,コントラストは[円盤の画素値−円盤周囲の画素値],CNRはコントラストをノイズで除した値で算出した。また,それぞれの指標について10画像の平均値を算出した。CNRが大きいほどノイズに対するコントラストの優位性を意味し,コントラストが明瞭であるということになる。X線条件は,標準据付条件下において,被写体を配置した状態で120kVp,AEC density=0で撮影した条件を100%線量とし,mAs値を変化させることで低線量条件を作成した。

(2) CNR(模擬腫瘤による測定)
2–(3)で得られたCT値+100の模擬腫瘤の画像から,CNRの測定を実施した。画像は10枚撮影し,ノイズは模擬腫瘤周囲の画素値の標準偏差,コントラストは[模擬腫瘤の画素値−模擬腫瘤周囲の画素値],CNRはコントラストをノイズで除した値で算出した。また,それぞれの指標について10画像の平均値を算出した。

結 果

1.ノイズ低減能力の確認

1–(1)ノイズ振幅特性
ノイズ振幅特性の測定結果を図2に示す。
測定範囲で最も入射X線量が少ない65nGyにおいて,INR10はnonNRに対して最大83%[(1−1.3/7.5)×100],convNR10に対して最大50%[(1−1.3/2.6)×100]のノイズを低減していることが確認された。なお,一般的に,信号に対するノイズの比率は入射X線量の増加に伴い減少するが,今回指標としているのはノイズであり,ノイズは入射X線量の増加に伴い増加するため,図2は右肩上がりのグラフとなっている。

図2 ノイズ低減処理とノイズのX線量特性

図2 ノイズ低減処理とノイズのX線量特性

 

1–(2)NPS(noise power spectrum)
ノイズ低減処理とノイズの空間周波数特性の測定結果(NPS)を図3に示す。空間周波数 0.5cyc/mmにおいて,INR10は,nonNR,convNR10に対し91%,73%[(1−0.3/3.4)×100,(1−0.3/1.1)×100]のノイズを低減していることを確認した。なお,INR10はINR5に対し63%のノイズを低減することを確認した。
また,INRはノイズの周波数によらずconvNRよりノイズの低減効果が高く,かつ低周波ノイズほど,低減効果が高いことが認められた。低周波ノイズは,画像上では粒の大きなノイズに相当するため,低周波ノイズが低減されれば,粒状性の良い画像になると考えられる。

図3 ノイズ低減処理とノイズの空間周波数特性(NPS)<処理強度10,RQA9(120kV)>

図3 ノイズ低減処理とノイズの空間周波数特性(NPS)
<処理強度10,RQA9(120kV)>

 

2.必要な画像信号が維持されていることの確認

2–(1)MTF(modulation transfer function)
ノイズ低減処理とMTF特性を図4に示す。nonNR,convNR10,INR10のMTFはほぼ一致しており,このことから,INR処理は信号の鮮鋭度に影響を与えない,すなわち必要な画像信号の鮮鋭度を維持できていることが示唆された。なお,線質や処理強度を変更しても同様の結果となった。

図4 ノイズ低減処理とMTF特性<処理強度10,RQA9(120kV)>

図4 ノイズ低減処理とMTF特性
<処理強度10,RQA9(120kV)>

 

2–(2)CTF(contrast transfer function)
ノイズ低減処理強度5,10,X線量50%のCTF特性を図5に示す。図1に示したNORMI RAD/FLUファントム内のチャートを使用してCTFを測定した結果,nonNR,convNR,INRのCTFはほぼ一致した。これは,INRは信号のコントラストに影響を与えない,すなわち必要な画像信号のコントラストを維持できていることが示唆された。なお,X線量100%の場合もほぼ同様の結果となった。

図5 ノイズ低減処理とCTF特性<X線量50%,処理強度5,10,120kV>

図5 ノイズ低減処理とCTF特性
<X線量50%,処理強度5,10,120kV>

 

2–(3)胸部ファントムに配置した模擬腫瘤の信号解析
胸部ファントムと模擬腫瘤の撮影は,京都科学社製胸部ファントムN-1ラングマンと同社製模擬腫瘤(φ8mm,CT値+100)を使用し,図1の配置で撮影を行った。これは,模擬腫瘤の着脱操作の過程で,胸部ファントムがわずかでも動いてしまうと,画像の差分処理においてアーチファクトが発生するため,模擬腫瘤をファントムの下に配置し,模擬腫瘤の着脱作業で胸部ファントムに接触しないようにするために考案した配置である。
図6に,模擬腫瘤画像抽出の概念図を示す。[模擬腫瘤あり各種NR画像−模擬腫瘤なしnonNR画像の加算平均画像]が,模擬腫瘤なし画像との差分画像(b)である。模擬腫瘤は複数配置したが,今回報告するのは赤枠で囲ったφ8mm,CT値+100の模擬腫瘤のみである。図6 a,bの拡大画像(c)のとおり,模擬腫瘤の信号成分は,nonNR,convNR5,INR5,INR10のいずれの処理においても,適切に検出できていることが認められた。
図7に,[腫瘤あり各種NR画像−腫瘤ありnonNR画像]の結果像を示す。これは,ノイズ低減処理によって除去された成分であり,convNRの場合,わずかではあるが肋骨の構造信号が含まれている。
一方,INRでは処理強度によらず除去されたノイズ成分に構造成分はまったく含まれておらず,ノイズ成分のみが適切に除去されていることを示唆する結果となった。

図6 模擬腫瘤画像抽出の概念図

図6 模擬腫瘤画像抽出の概念図

 

図7 各NR処理によって除去されたノイズ成分

図7 各NR処理によって除去されたノイズ成分

 

3.低線量画像での画質

3–(1)NORMI RAD/FLUファントムによるCNR評価
PTW社製NORMI RAD/FLUファントムのX線撮影像を図1(右下)に示す。赤枠(▪)が円盤の画素値を計測したROI,緑枠(▪)が円盤の周囲の画素値を計測したROIである。
X線量50%での各処理によるROIごとのCNRを図8に示す。すべてのROIにおいて,CNRはnonNR<convNR5<INR5<convNR10<INR10となり,INR10が最もCNR特性に優れている。なお,X線量100%の場合もほぼ同様の特性を示した。
X線量50%での各処理によるROI-3のCNRを図9に示す。処理の強度を変えても,コントラストは変わることなくノイズのみが低減されている。CTF特性と同様に,INR処理は処理強度を上げてもノイズのみを低減し,信号のコントラスト情報には影響を与えないことが示されている。
X線量100%のconvNR5に対するX線量50%のINR5,10のCNRを図10に示す。convNRは強度5を標準値として推奨しているため,これを基準にINRの効果を比較した。
X線量100%のconvNR5(以下,従来基準)に対し,INR5はX線量を50%まで低減するとCNRが従来基準より若干低くなるものの,INR10はX線量を50%まで低減しても,従来基準より高いCNRが維持できている。すなわち,INR10は,X線量の50%低減と高画質化を両立できることを示唆する結果となった。

図8 X線量50%での各処理によるROIごとのCNR<120kV>

図8 X線量50%での各処理によるROIごとのCNR<120kV>

 

図9 X線量50%での各処理によるROI-3のCNR<120kV>

図9 X線量50%での各処理によるROI-3のCNR<120kV>

 

図10 X線量100%のconvNR5に対するX線量50%の INR5,10 のCNR<120kV>

図10 X線量100%のconvNR5に対するX線量50%の INR5,10 のCNR<120kV>

 

3–(2)胸部ファントムと模擬腫瘤によるCNR評価
図11に,胸部ファントムに配置した模擬腫瘤の撮影像において[腫瘤ありINR10画像−腫瘤なしnonNR画像の加算平均画像]によって抽出した模擬腫瘤像に対し,CNR解析のために設定したROIを示す。ROI-BはバックグラウンドROIで,ROI-SはシグナルROIである。ノイズはROI-Bの標準偏差,コントラストは[ROI-Sの平均画素値−ROI-Bの平均画素値]で算出し,CNRはコントラストをノイズで除した値である。
X線量100%,50%での模擬腫瘤(φ8mm,CT値+100)のCNRを図12に示す。いずれの線量においても,CNRはconvNR5<INR5<INR10となり,convNR5に対してINR5,INR10は有意差があった(p<0.05,paired t-test)。すなわちINRは,より臨床に近い模擬腫瘤を使ったCNR評価においても,convNRよりその特性が優れていることが示唆された。
X線量50%での模擬腫瘤(φ8mm,CT値+100)の各NRにおけるコントラスト,ノイズ,CNRを図13に示す。INR5,10は,コントラストを変えることなく,ノイズのみをconvNR10よりも低減しており,NORMI RAD/FLUファントムによるCNR評価と同等の結果となった。

図11 模擬腫瘤のCNR解析画像(例:INR10)

図11 模擬腫瘤のCNR解析画像(例:INR10)

 

図12 X線量100%,50%での模擬腫瘤(φ8mm,CT値+100)のCNR<120kV>

図12 X線量100%,50%での模擬腫瘤(φ8mm,CT値+100)のCNR<120kV>

 

図13 X線量50%での模擬腫瘤(φ8mm,CT値+100)のCNR<120kV>

図13 X線量50%での模擬腫瘤(φ8mm,CT値+100)のCNR<120kV>

 

まとめ

(1) INR10は,convNR10に対し50%のノイズ低減が可能であり,特に低周波ノイズほど低減効果が高いことが示唆された。
(2) INRは,MTF,CTF,模擬腫瘤の信号解析のすべてにおいて必要な信号は維持され,ノイズのみが低減されていることが示唆された。
(3) 低線量画像での画質は,INR10が最も優れた画質(CNR)となり,X線量を50%にしても,X線量100%のconvNR5より高画質となることが示唆された。

おわりに

今回,Intelligent NRの開発によって,ノイズ低減処理技術の分野で一つのブレークスルーを成し遂げることができたと考えている。ノイズ低減処理は,画像処理の中では上流に位置する処理であり,ノイズ低減処理の性能(結果)がそれ以降のさまざまな画像処理や画像解析の性能に大きな影響を与えると言っても過言ではない。しかし一方で,X線画像はただよく見えればよいというものではなく,長い年月をかけて臨床現場で培われてきた読影ルールに沿ったものでなければ,例えばfalse positiveの増加などの弊害を生んでしまう恐れもある。
キヤノンはこれからも,X線画像は診断のためにあるということを常に意識し,臨床現場でX線画像診断に携わる方々のご意見やご要望に耳を傾け,X線画像診断をさらに発展させるべくお手伝いができるメーカーでありたいと考えている。

●参考文献
1)キヤノン株式会社ニュースリリース(2022/3/23)
「AI技術を活用しX線画像のノイズを従来処理比で最大50%低減。キヤノンのDRコントロールソフトウェア用画像処理技術を開発」
https://global.canon/ja/news/2022/20220323.html
2)キヤノンメディカルシステムズ株式会ニュースリリース(2022/09/15)
「CXDIのノイズ低減処理ソフトウェア「Intelligent NR」を発売」
https://jp.medical.canon/News/PressRelease/Detail/121373-834
3)林 祐介:Intelligent NRの動作原理と一般撮影における適用例の紹介.映像情報メディカル,54(8):47-52,2022.

<Intelligent NRの対象製品について>
一般的名称:X線平面検出器出力読取式デジタルラジオグラフ
販売名及び認証番号:
デジタルラジオグラフィCXDI-410C Wireless:229ABBZX00049000
デジタルラジオグラフィCXDI-710C Wireless:229ABBZX00020000
デジタルラジオグラフィCXDI-810C Wireless:229ABBZX00029000
製造販売元: キヤノン株式会社

一般的名称:据置型アナログ式汎用X線診断装置
販売名及び認証番号:
一般X線撮影装置 MRAD-A80S RADREX:224ADBZX00125000
一般X線撮影装置 MRAD-A50S RADREX:224ADBZX00110000
製造販売元:キヤノンメディカルシステムズ株式会社

本稿に記載されている各社製品の名称は各社の登録商標または商標です。

*“Intelligent NR”はノイズ低減処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有していません。

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