技術解説(富士フイルム)

2018年8月号

FUJIFILM TECH FILE 2018

AMULET Innovality 新たな次元へ 〜被ばく線量低減とさらなる画質向上〜

梶原万里子(富士フイルムメディカル株式会社 MS部)

はじめに

近年,デジタルブレストトモシンセシスはその有効性が見出され,世界中で利用されつつある1)〜3)。トモシンセシスは,正常乳腺の重なりを軽減し,腫瘤,distortionなどの病変が確認しやすくなるなど診断能向上が期待され,日本においてもその使用が広がっている。
一方で,トモシンセシスは従来の2Dに追加撮影することから,被ばく線量についてはさらに関心が高まっている。本稿では,被ばく線量低減とさらなる画質向上のために開発したマンモグラフィ画像処理「Excellent-m」について,また,さらなる低線量化が期待される合成2D画像「S-View」について紹介する。

トモシンセシスの原理と特徴

トモシンセシス撮影は,圧迫固定された乳房を複数の方向から撮影する。トモシンセシス画像は,深さ方向に重なった乳腺や病変構造を分離し,従来の2Dでは読影が難しかった病変の描出能を向上させる。トモシンセシスの最大効果である深さ方向の重なりの分離は,X線管球の振り角と再構成法の違いにより大きく左右される4)。そのため,使用目的に合わせた選択が重要となる。

目的に応じた2つの撮影モード

「AMULET Innovality」は施設の診療目的(診断および検診)に最適化した2つの管球振り角の撮影モードST(Standard)とHR(High Resolution)を持つ(図1)。STモードは,撮影角度を15°に設計している。およそ4秒でトモシンセシス撮影が終了し,被ばく線量も0.7mGyと少ない。平均乳腺線量は 2Dとトモシンセシス(ST)合計で1.7mGyであり,これは,米国放射線専門医会の勧告「マンモグラフィ1方向当たり3.0mGy」5)や,日本放射線技術学会で推奨されている「2.0mGy」を下回る。STモードは,患者の負担を抑えることができるため,フォローアップや検診などの存在診断に積極的に使用されている。
HRモードは,撮影角度が40°と十分な管球振り角があるため,高解像度で微細な病変形態の確認が可能である。およそ9秒でトモシンセシス撮影が可能であるため,精査目的の追加撮影で用いられる場合であっても圧迫解除することなく2Dと一連で撮影が可能である。同一圧迫下での撮影は,繰り返しポジショニングの必要がなく患者負担を軽減することは言うまでもないが,2Dとまったく同じポジション位置のトモシンセシス画像を読影できるというメリットがある。
それぞれの特徴を明確に使い分けることで,1台の装置で,検査用途に応じた撮影角度を任意に選択可能としている。
*平均的な乳房厚〔PMMA厚40mm(乳房厚45mm,脂肪/乳腺=50/50)〕における

図1 2つの撮影モード

図1 2つの撮影モード

 

Excellent-mの特徴

Excellent-mとは,被写体構造をより正確に解析する技術により,被ばく線量の低減と画質向上の両立を可能としたマンモグラフィのための画像処理技術である。

1.線質補正技術:ISC(Image-based Spectrum Conversion)
X線管球に透過力が大きいW(タングステン)陽極を使用することで,Mo(モリブデン)陽極での撮影に比べて被ばく線量を低減することが可能である。しかし,W陽極のマンモグラムはMo陽極で撮影されたマンモグラムに対してコントラストが低くなる問題がある。線質補正技術(ISC)とは,画像解析に基づいて被写体情報を把握し,乳腺/脂肪の量と圧迫厚,X線スペクトルの違いによって生じるコントラストの差を補正する技術である。この技術により,W陽極で撮影したマンモグラムでありながらMo陽極で撮影したマンモグラムと同等のコントラストを実現させている(図2)。

図2 線質補正技術(ISC)

図2 線質補正技術(ISC)

 

2.微細構造鮮明化処理:FSC(Fine Structure Control)
撮影画像から構造パターンを認識し,人体構造である信号とランダムなノイズ成分を分離する。乳腺や石灰化などの人体構造である信号を強調することで鮮鋭性/コントラストを向上させ,ノイズ成分を抑制することで低線量撮影を可能とする。
FSCの効果を図3に示す。従来処理画像(a)に対し30%の線量を低減した従来処理画像(b),30%の線量を低減したFSC処理画像(c)を比較する。FSC処理画像(c)は,30%の線量を低減しているにもかかわらず,従来線量(a)と同等の粒状性を示している。また,石灰化や乳腺に注目すると鮮鋭性およびコントラストの向上も確認できる。

図3 逐次近似再構成処理(FSC)の効果

図3 逐次近似再構成処理(FSC)の効果

 

3.逐次近似再構成処理:ISR(Iterative Super-Resolution reconstruction)
逐次再構成は従来のトモシンセシスの再構成法(Filtered Back Projection:FBP)と比べて,さらなる画質向上と低線量を実現可能とする。一般的に逐次再構成は膨大な演算時間が必要であるが,アルゴリズムの工夫と,再構成処理と画像処理の並列化により実用可能な処理速度を実現した。撮影された投影画像はすぐさまコンソール(AWS)内で再構成され,トモシンセシス画像を確認しながら検査を進めることが可能である。
以下に,逐次近似再構成処理(ISR)によって期待される効果について紹介する。

〈アーチファクトの抑制〉
投影角度が制限されたトモシンセシス撮影では,原理的に断層像への焦点面以外の構造の写り込みが発生してしまうが,逐次近似再構成処理技術によってこれを抑制する。図4に高コントラスト構造と低コントラスト構造を模擬した156ファントムを示す。FBP法では焦点面以外にも構造の写り込みが発生するが,ISR処理では抑制されていることがわかる。

図4 高コントラスト構造と低コントラスト構造を模擬した156ファントム

図4 高コントラスト構造と低コントラスト構造を模擬した156ファントム

 

〈ノイズ抑制〉
画像解析技術を用いて投影像と断層像の比較を繰り返すことで,人体構造に当てはまらないパターンをノイズとして取り除き,被写体の立体構造の推定を行う。再構成時に「構造を持たないノイズ」成分を抽出し,これを除去することにより粒状性を改善することで,これまで見分けにくかったノイズと微小な石灰化が見分けやすくなる。

〈鮮鋭度の向上〉
石灰化や乳腺構造などの微細構造の視認性を向上するため,超解像技術を用いている。わずかにずれた投影画像を観測画像のサンプリング間隔よりも細かな精度で位置合わせし,同一空間上にプロットする。この画像空間では検出器の画素ピッチより細かな間隔で画素格子を定めても,格子内に対応する情報が含まれることになり,単純な補間処理では不可能な情報の復元が可能である。

S-View(Synthesized View)

トモシンセシス撮影から生成された複数の再構成画像を合成し,2D画像を生成する合成2D画像は,被ばく線量の低減が期待され,海外では従来の2Dと比べて,その診断能に遜色がないとの報告もある6)。当社のS-Viewにおいても,腫瘤やFADなどの所見は,2D画像に引けを取らない可能性があると期待され,トモシンセシス診断時に乳房全体像の確認がサポートできる。

おわりに

AMULET Innovalityの2つの異なる撮影角度を持つトモシンセシスの特徴と,さらなる画質向上と被ばく線量低減を追及したExcellent-m,S-Viewを解説した。これらの技術を含むAMULET Innovalityが広く利用され,画質向上と診断能向上に貢献することを期待し,今後も診断技術のさらなる向上に貢献していく。

●参考文献
1)Rafferty, E.A., et al.: Assessing radiologist performance using combined digital mammography and breast tomosynthesis compared with digital mammography alone;Results of a multicenter, multireader trial. Radiology, 266, 104~113, 2013.
2)Skaane, P., et al.:Comparison of digital mammography alone and digital mammography plus tomosynthesis in a population-based screening program. Radiology, 267, 47~56, 2013.
3)Ciatto, S., et al.:Integration of 3D digital mammography with tomosynthesis for population breast-cancer screening(STORM);A prospective comparison study. Lancet Oncol., 14, 583 ~ 589, 2013.
4)Park, H.S., et al.:Optimization of the key imaging parameters for detection of microcalcifications in a newly developed digital breast tomosynthesis system. Clin. Imaging., 37, 993~999, 2013.
5)American College of Radiology : Mammography Quality Control Manual 1999. USA
6)Skaane, P., et al. : Two-view digital breast tomosynthesis screening with synthetically reconstructed projection images ; Comparison with digital breast tomosynthesis with full-field digital mammographic images. Radiology, 271, 655 ~ 663, 2014.

販売名:デジタル式乳房用X線診断装置 FDR MS-3500
認証番号:224ABBZX00182000

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