技術解説(富士フイルム)

2020年7月号

プラットフォーマーの医療AI戦略

画像診断ワークフローを支援するAIプラットフォーム 「SYNAPSE SAI viewer」─胸部領域の読影へのアプローチ

村田 千織[富士フイルム(株)メディカルシステム事業部ITソリューション部]

■SYNAPSEの歩み

富士フイルムは,フィルムによる画像診断が主流だった1999年に医用画像情報システム「SYNAPSE」を発売し,いち早くデジタル画像による読影システムを提供してきた。また,フィルム時代から研究開発を続けてきた画像処理技術を結集させた画像解析ワークステーション「SYNAPSE VINCENT」*1を2008年より発売し,診断支援や術前計画に活用されている。
本稿では,2019年7月に販売を開始したAIプラットフォーム「SYNAPSE SAI viewer」*2に新しく搭載される機能によってご提供する,AI技術を活用した胸部領域の画像診断ワークフロー支援機能と今後の取り組みについて紹介する。

■AIプラットフォーム SYNAPSE SAI viewer

AI技術の一つであるディープラーニングを設計に用いた機能によって,放射線科の医師による画像診断ワークフローを支援するAIプラットフォームとしてSYNAPSE SAI viewerを開発した。本製品は,当社のメディカルAI技術ブランド「REiLI」のコンセプトの下で開発された各種機能により,検査,可視化,検出,計測/分類,レポート記載といった画像診断ワークフローを一貫して支援する(図1)。

図1 SYNAPSE SAI viewerで実現する画像診断ワークフローの支援

図1 SYNAPSE SAI viewerで実現する画像診断ワークフローの支援

 

■新機能による胸部領域の読影ワークフローの支援

検査数の増加やCTの多列化などの画像診断装置の高性能化に伴い,読影画像数が増加することで,読影にかかる負担は増え続けており,さらに,一日数十件以上の読影レポートを書かなければいけない場合もある。そこで,診断の質向上と読影の効率化をサポートする手段の一つとして,AI技術による支援の可能性に期待が寄せられている。
SYNAPSE SAI viewerに従来より搭載されている腫瘍トラッキング機能と,新たに搭載された肺結節検出機能および所見文生成機能を使用することにより,検出・計測・所見文生成といった各シーンで診断の質の向上と読影の効率化を支援する。
読影からレポート作成の一連のワークフローを支援するソリューションを,まずは肺領域から提供する。

1.肺結節検出CAD*3
胸部CT画像から肺結節候補を自動検出する機能である(図2)。技術的に抽出が難しいとされている胸壁に付着した結節も,臓器セグメンテーションの技術によって肺野を認識することで検出できるようになった。また,見逃されやすいとされている血管に付着する結節は,三次元で把握することで検出することが可能である。医師が読影を行った後に,この肺結節検出CADによって提示されたマーク位置を見直すことで,肺結節の見落とし低減が期待される。

図2 SYNAPSE SAI viewerによる肺結節の検出

図2 SYNAPSE SAI viewerによる肺結節の検出

 

2.所見文生成機能
所見文生成機能は,胸部CT画像上で医師が指定した肺結節に対して,以下のような3つのSTEPによって性状を分析し,分析結果を説明する所見の候補を文章として複数提供する(図3)。この機能によって,所見文を記載する負荷の軽減をめざす。

図3 所見文生成機能

図3 所見文生成機能

 

● STEP1
医師が指定した関心領域(肺結節)に対して,CT値を基にサイズ,辺縁の性状,内部構造などといった性状分析を行う。また,臓器セグメンテーションの技術によって,肺のどこの区域にあるかといった位置情報も自動で認識する。さらに,結節の大きさも計測する。

● STEP2
分析された情報(例えば,スピキュラの陽性所見,空洞の陰性所見など)から,複数の所見文候補を生成し,画面上に提示する。

● STEP3
医師は関心領域と提示された所見文候補を確認し,適切な所見文を選んでレポートに反映させることで,所見文を記載する労力の負荷軽減が期待でき,診断に集中することができる。

3.フォローアップ支援機能
肺結節検出や位置合わせなどのAI技術を読影ワークフローの中でより効果的に活用するために,ビューワ機能も強化している。肺結節検出CADによって抽出された病変,もしくは医師が手動で指定した関心領域を経時的に観察する際に腫瘍トラッキング機能を使用することで,病変に対する視覚的・数値的な把握が容易となる。読影の多くを占める再来患者のフォローアップを支援する。

● 病変の位置合わせ
CAD結果や手動計測によって指定された領域に対して,今回検査の画像と過去検査の画像を自動で位置合わせを行うことができる。病変の大きさの変化を経過観察する際のスライスの位置合わせや,比較対象の腫瘍を紐づける負荷の軽減が期待される。

● 病変の一覧表示
今回検査に対して,あらかじめCAD結果や,医師が手動で計測した病変の長径や体積,増減率などを一覧表示する。

● グラフ表示
各病変の計測結果(長径,体積など)のグラフ表示により,病変サイズの変化を視覚的に把握できる。

● 直交3断面表示
指定した病変にフォーカスしたアキシャル・サジタル・コロナル画像を表示する。多角的な観察を支援する。

■富士フイルムがめざす未来

AI技術を活用し,より多くのシーンで診断の質向上と効率化を実現するために,胸部以外の臓器や疾患に対するCADや定量化技術の研究開発を進めている。本稿で紹介した胸部領域での画像診断ワークフロー支援機能のさらなる向上を図るとともに,多臓器・多疾患に展開していく。また,より高度な診断支援を行うために,画像情報のみならず,マルチモーダルな情報を取り入れた統合診断支援ソリューションの実現をめざしていく。

*1 SYNAPSE VINCENT
販売名:富士画像診断ワークステーション FN-7941型
認証番号:22000BZX00238000
*2 SYNAPSE SAI viewer
販売名:画像診断ワークステーション用
プログラム FS-V686型
認証番号:231ABBZX00028000
SYNAPSE SAI viewer用画像処理プログラム
販売名:画像処理プログラム FS-AI683型
認証番号:231ABBZX00029000
*3 肺結節検出機能
販売名:肺結節検出プログラム FS-AI688型
承認番号:30200BZX00150000
*4 肺結節性状分析機能
販売名:画像診断ワークステーション用
プログラム FS-V686型
認証番号:231ABBZX00028000

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