技術解説(富士フイルム)

2022年4月号

腹部画像診断におけるCTの技術の到達点

「SYNAPSE VINCENT」における膵臓領域の最新機能紹介

川口 裕之[富士フイルムメディカル(株)ITソリューション事業部3D営業技術グループ]

近年,外科手術は内視鏡下手術やロボット手術が取り入れられ,また,一部の手術手技が保険適用された追い風もあり,件数が増加している。手術手技の選択肢が増え,目的となる病変に対して必要最小限の最適な侵襲が検討され,各外科分野では低侵襲手術(minimally invasive surgery)が話題となっている。
内視鏡下手術やロボット手術では,胸壁や腹壁上に開けられた小孔から外科用内視鏡と鉗子などを挿入し,外科的処置を行う。術中は内視鏡カメラよりモニタに映し出された映像で腹腔内を確認しながら手術を行うが,限られた狭い術野の中では視覚的な情報が乏しく,CT・MR画像から作成された各臓器・組織の三次元形状情報は,周囲解剖の理解を助ける重要な位置づけとなっている。
富士フイルムは,2008年の「SYNAPSE VINCENT(以下,VINCENT)」リリース当初より,自社の画像処理・認識技術“Image Intelligence”を用いて,医用画像診断,治療に貢献できるような技術開発に取り組んできた。最新版では,富士フイルムの新しいメディカルAI技術ブランド“REiLI”の深層学習(ディープラーニング)をベースに開発したアプリケーションを多数ラインアップしており,より使いやすい画像診断支援システムを提供している。治療支援としては,術前シミュレーションを目的とした肝臓解析をはじめ,肺切除解析や腎臓解析においても区域切除シミュレーションや部分切除・阻血領域シミュレーション機能を搭載するなど,臨床のニーズに沿った解析ソフトウエアをリリースしている。本稿では,VINCENTの膵臓領域への挑戦について紹介する。

■‌膵臓領域:背景

膵臓がんは高齢者に多く発症し,日本の高齢化社会を背景に,罹患数と死亡数が年次推移で増加傾向を示している。また,発生しても症状が出にくく早期発見が困難と言われており,治療成績を示す指標としてよく使われる5年相対生存率が8.5%と低い。治療法としては,化学療法や放射線治療,外科的な切除が併用されることが多く(conversion治療),外科的切除を行う際は大きく分けて,膵頭部付近に発生した腫瘍に対しての膵頭部十二指腸切除(PD),膵体部/膵尾部に発生した腫瘍に対しての膵体尾部切除(DP)のいずれかが選択される。

■‌膵臓解析の開発(オプションソフトウエア)

膵臓は後腹膜腔に属し,体内の深部に位置しており,腹部大動脈や腸管を栄養する上腸間膜動脈,肝臓を栄養する固有肝動脈,門脈など,臓器を栄養する重要な血管と近接していることから,手術の難易度が高いと言われている。
膵臓三次元構築画像における血管構築は,総肝動脈,上腸間膜動脈,脾動脈など,膵臓周囲の動脈や脂肪,結合織の中に埋もれた動脈,さらには左胃静脈,上/下腸管膜静脈,脾静脈など,膵臓周囲の静脈と多くの血管が対象になり,医師や診療放射線技師は,術前三次元画像作成に多くの時間を費やしている。
そこでわれわれは,REiLIの深層学習をベースに,従来の機械学習法を用いた技術では自動抽出が難しかった膵臓,膵管,膵臓周囲の動静脈,胃・十二指腸などの領域を,簡便に再現性良く抽出する技術を開発した(図1)。

図1 CT画像による膵臓三次元構築画像

図1 CT画像による膵臓三次元構築画像

 

■‌膵術前シミュレーションとして求められる機能

膵切除術において注意すべき合併症として,膵液漏が挙げられる。膵液漏は,膵管から膵液が漏れることである。腹腔内に膵液が貯留され,消化液や胆汁などと混ざることで周囲の組織に悪影響を及ぼす可能性があり,膵切除では非常に気をつけるべき合併症である。
膵臓解析では,膵液の経路である膵管を自動で抽出する機能を搭載し,術前に膵管の位置を視覚的にとらえることができる。また,膵臓直交断面を表示することにより,指定位置での膵管の詳細な位置や膵実質断面の厚み,面積を計測することが可能である。加えて,ガイドライン1)で推奨されている門脈左縁での切除ラインの任意設定(図2)や,各膵腫瘍の位置に応じて腫瘍マージンを表示する機能(図3)を追加し,適切な切除ラインをプランニングするために必要な機能を提供する。切除ラインから残膵ボリューム(あるいは切除される膵臓ボリューム:図4)を算出し,体積評価も可能である。さらに,肝臓解析や腎臓解析と同様に,鏡視下シミュレータ(別途オプション必須)を連携して起動させることで,仮想内視鏡ビューを表示し,術前,術中に参照することができる(図5)。

図2 膵臓三次元画像と門脈左縁切除時のCT断面

図2 膵臓三次元画像と門脈左縁切除時のCT断面

 

図3 腫瘍マージン表示機能

図3 腫瘍マージン表示機能

 

図4 膵臓ボリューム計測

図4 膵臓ボリューム計測

 

図5 鏡視下シミュレータによる仮想内視鏡ビュー

図5 鏡視下シミュレータによる仮想内視鏡ビュー

 

本稿では,VINCENTの膵臓領域への挑戦について紹介した。
膵臓解析は,CT画像からの膵実質,膵臓周囲血管の自動セグメンテーション機能により,術前シミュレーション画像の作成を,従来のマニュアル作成よりも簡単なプロセスで作成することが可能である。さらに,VINCENTは,サーバ・クライアント型での運用が可能であり,電子カルテなどの院内端末で,場所を選ばずに使用することができる。これにより,術前画像の構築,カンファレンス,術中閲覧といった,必要なシーンでVINCENTを活用することが可能となる。今後,ユーザーからの要望や学会のトレンド,臨床のニーズなどを取り入れ,さらに臨床三次元画像解析を支援できるようなアプリケーションを充実させていきたい。

ボリュームアナライザー SYNAPSE VINCENT
販売名:富士画像診断ワークステーション FN-7941
認証番号:22000BZX00238000

●参考文献
1) 日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会 : 膵癌診療ガイドライン 2019年版. 金原出版, 東京, 2019.

 

【問い合わせ先】
https://fujifilm.com/fms/

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