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生成AIとRPAによる記録自動化と医療DXの実践 ─PCに向き合う時間から,患者に向き合う時間へ─ 
藤田 英晃(旭川赤十字病院 事務部 情報システム課)

2026-8-20

はじめに

近年,生成AI技術の急速な進展により,医療分野においても診療支援や記録業務への応用が進みつつある。
特に医療現場では働き方改革への対応が求められる一方,記録業務の増大と医療安全の観点から記録の質と網羅性を維持する必要がある。
旭川赤十字病院は北海道旭川市に位置する520床の急性期病院であり,道北ドクターヘリの基地病院として北海道内初の救命救急センターに指定されている。診療科29科,情報システム課6名体制で富士通Japan社の電子カルテを中心に院内システムの管理・医療DX推進・セキュリティ対策を担っている。
当院では2022年のAI画像診断支援・音声入力導入を経て,2024年から生成AI環境の構築・検証を本格開始した。2025年2月に会議議事録の自動生成を実用化し,同年7月にインフォームド・コンセント(IC)とカンファレンス記録,12月にOCRによる紹介状のテキスト化へ展開。2026年3月からは退院サマリ作成の検証を開始している。
本稿ではアマゾン ウェブ サービス(AWS)とオープン社のRPAツール「BizRobo!」を活用した生成AI基盤の概要と,運用方法,導入効果,今後の展望について報告する。

導入背景

2024年4月施行の医師の働き方改革により,時間外労働の上限規制への対応が全国の医療機関に求められている。
旭川市の高齢化率は35%を超え医療需要が増加する一方,医療従事者の確保は困難を極めており,業務効率化は「待ったなし」の状況であった。
医療の高度化に伴いICやカンファレンス記録に求められる情報量は年々増加しており,説明責任・医療安全の観点から記録の網羅性と正確性が重要視される一方,医療従事者の負担は増大の一途をたどっていた。特に,IC記録は,患者・家族への説明内容を診療後に長時間かけて作成するケースも少なくなかった。
当院ではオープン社のRPAツールを用いてこれまでも定型業務の自動化を推進してきたが,自由記述を伴う記録業務への対応には限界があった。そこで,音声認識と生成AIを組み合わせることで記録業務の効率化と標準化を同時に実現し,医療従事者が「本質的な医療行為に専念できる環境」の構築を目指した。

システム構成

本システムは音声データを起点として,文字起こしから文書生成・電子カルテ登録までを一貫して自動処理する構成である。
使用コンポーネントはBizRobo!(RPAツール),「Dify」(生成AI構築ツール),「Amazon Transcribe」(音声文字起こし),「Amazon S3」(ストレージ),「Amazon Bedrock」(生成AIモデル)であり,院内ネットワークとAWSは暗号化通信で接続されたセキュアな設計としている。
処理の流れは,指定フォルダへ保存した音声データをBizRobo!が自動取得し,Amazon Transcribeでテキスト化してAmazon Bedrockにプロンプトで指示した内容で要約し,最終的に電子カルテへ記録して完了する(図)。なお,本システムは,生成AIを「完成品作成ツール」ではなく「下書き支援ツール」として位置付けている。

図 音声データを起点とした文字起こしから文書生成・電子カルテ登録までの一貫した自動処理

図 音声データを起点とした文字起こしから文書生成・電子カルテ登録までの一貫した自動処理

 

運用方法

運用面では医療安全を考慮し,人による最終確認を前提としたフローとしている。ICおよびカンファレンス記録の運用フローは次の通りである。(1) 診察室や病棟のカンファレンス室に設置した電子カルテ端末のマイクで音声を録音する。(2) 録音データのファイル名を「患者ID_」とするルールに従い所定フォルダへ保存する。(3) 毎日16時にBizRobo!が各フォルダを自動巡回し,音声データを検知し処理を実行する。
医療従事者は従来通りICやカンファレンスを実施して録音するのみでよく,生成された文書は患者カルテに自動で記録されるため,医師はカルテの内容を確認し必要最小限の修正を行うだけである。
ハルシネーション対策として,用途ごとに標準プロンプトおよび確認観点を整備し,生成結果を必ず確認して承認ボタンを押すことで記録が確定する仕組みとしている。
導入初期は小規模検証から開始し,診療科ごとのフィードバックを反映しながら段階的に展開する「小さく試してスケール」の伴走型アプローチを採用した。生成結果の品質評価を継続的に実施し,実際の利用シーンに応じたプロンプト改善やチューニングを繰り返すことで,医療現場で実用可能な記録品質を目指している。

導入効果

1.働き方改革への効果
IC・カンファレンス記録作成において,従来約15~20分を要していた記録業務が,生成文書の確認のみで3分程度に短縮され,約80%の業務時間削減を実現し,医療従事者の記録負担軽減に大きく寄与した。現在7診療科で本稼働中であり,対象23診療科すべてへの全科展開を2026年9月までに完了する予定である。

2.記録品質の向上
一定フォーマットに基づく文書生成により記録内容のばらつきが減少した。ICでは説明事項の抜け漏れ防止と記録の標準化に効果が認められ,若手からベテランまで一定水準の記録作成が可能となった。

3.医療安全への寄与
説明内容の可視化と記録の網羅性向上により,診療プロセスの透明性向上につながった。マイク設置による「言った・言わない」問題の可視化・防止という副次的効果も現場から高い評価を得ており,記録漏れや転記ミスの低減にも寄与している。

応用展開

1.OCR活用
当院では他院からの紹介状は事務が電子カルテに転記しており,転記ミスのリスクとスピード感への対応が課題であった。OCR活用によるテキスト化で入力業務の約70%削減と,転記ミス防止を実現した。

2.サマリ作成(検証中)
2026年3月からデータウエアハウス(DWH)から抽出したデータを生成AIで整理・要約し,退院サマリの下書きを作成する検証を進めている。最終的には対象患者のリストを起点として,RPAがDWHからのデータ集計・生成AIによる要約処理・カルテへの記録までを自動で行い,医師が内容を確認・確定する運用フローを想定している。
記録を遡る作業時間のゼロ化および記録の均質化に加え,今後は他文書への展開も期待されており,現在も開発を継続している。

課 題

課題は3点である。第1にハルシネーションへの対応であり,生成AIは「下書き支援」として運用し,医療安全に関わる記載は必ず人が最終確認することを徹底している。第2に音声認識・OCRの精度問題であり,「100点の自動化」ではなく「入力負荷を大きく減らす」設計思想のもと継続的な改善を進めている。第3に現場定着の難しさであり,効果の高い領域から段階的に横展開する方針としている。

まとめと今後の展望

生成AIとRPA,音声認識を組み合わせることで,大幅な業務効率化を実現した。IC・カンファレンス記録で約80%,OCRによるテキスト化で約70%の業務削減という定量的成果が得られており,記録業務の効率化・医療従事者の負担軽減・医療の質と安全性の向上という目的を着実に実現しつつある。
本取り組みは単なる効率化にとどまらず,記録品質向上や医療安全にも寄与する可能性を示している。今後はより高度な医療文書への応用を進めるとともに,現場運用に適した形で継続的な改善を行っていく。
生成AI技術は日進月歩で進化しており,今日は存在しないユースケースが明日には現実のものとなる時代である。こうした変化に対応するためには,個々のシステム開発に先立ち,必要が生じた際に即座に開発・運用へ踏み出せる環境と体制を院内に整えることこそが,最も重要な取り組みであると考えている。生成AIを,医療従事者が本来担うべき診療行為に専念するための基盤技術として,その可能性をさらに追求していく所存である。

 

(ふじた ひであき)
大学卒業後,システム販売会社にて営業に従事し,自ら導入支援も手がけた。2013年に日本赤十字社旭川赤十字病院に入職し,情報システム課にて電子カルテをはじめとする各種システムの導入・管理・運用に従事。現在,同課課長。