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獨協医科大学病院における生成AI導入の目的と運用の実際 
中川  聡(獨協医科大学病院 医療情報センター 情報処理室)
仁保 誠治(獨協医科大学病院 医療情報センター センター長)

2026-8-27

はじめに

近年,生成AIは急速に進化し,医療分野での活用が広がっている。従来の医療情報システムが「情報の蓄積・参照の基盤」であったのに対し,生成AIは「情報を再構成し,意思決定を支援する基盤」へと進化している。当院ではこれまで電子カルテを中核とした医療情報システムの高度化を進めてきたが,次なる革新として生成AIの本格活用に取り組んでいる。業務のスマート化を推進し,医師の負担軽減やタスク・シフト/シェアを目的に,生成AIの検討・導入を進めてきた。本稿では,当院における生成AI活用の背景,実運用,課題,将来構想について紹介する。

生成AI導入の経緯

導入検討は2023年夏に始まった。当時は個人向けサービスの生成AIの利用が広がり始めていたものの,入力情報がAIの学習に使用される懸念があり,導入には慎重な判断が求められた。こうした状況の中,当院の医療情報システムを担当する富士通Japan社が開発する「医療文章作成支援サービス」の開発・検証に協力する機会を得て,先行導入を進めた。当初は慎重な意見や効果に対する懐疑的な見解もあったため,チャット形式の汎用活用ではなく,業務効果が見込まれる文章作成から推進した。本システムは業務利用を前提に設計されており,安全に個人情報を取り扱えるものである。ネットワークは外部と接続しない閉域網で運用し,入力情報はAI学習に使用せず外部保存も行わないため,セキュリティ面も徹底している。

退院サマリへの活用

概要は,電子カルテの情報を基にAIが退院サマリの下書きを自動生成するシステムである。当院の退院サマリ運用は診療科ごとに異なり,医師のみで作成する科と,メディカルクラークが下書きを作成し医師が仕上げる科がある。そのため,医師だけでなくメディカルクラークの意見も取り入れ,現場に即した構築を目指した。AIの生成品質は入力カルテ記事の質に依存する。主語を明確にすること,接続詞を適切に用いること,過度な略語を避けること,さらに「先月」「昨年」といった相対的な日付表現を控えることなど,人間にとっても読みやすい文章がAIによる正確な理解に重要であることが確認された。これらは,AI活用が業務自動化にとどまらず,カルテ記載の質向上や標準化を促進する契機となっている。さらに,特定の診療科からの要望に応じて疾患別のサマリ作成にも取り組んでいる。例えば糖尿病領域では,プロンプトを工夫することで合併症の詳細な記載が可能となり,より専門性の高いサマリ生成にも対応できるようになった。今後も診療科ごとのニーズに応じたカスタマイズを進め,より実用性の高いシステムを目指したい。
退院サマリの導入効果としては,特にメディカルクラークの作業時間短縮に寄与している。従来,カルテ記事の検索や情報整理に多くの時間を要していたが,AIが下書きを生成することで作成時間の短縮につながった。また,AIが生成する文章は文法面で元のカルテ記事よりも整う傾向が確認されたものの,品質は入力データに依存する。そのため,カルテの標準化や判断根拠の透明化,誤情報対策のための教育が重要であり,利用者のAIリテラシー向上を目的とした研修も予定している。

看護サマリへの展開

退院サマリの仕組みを拡張し,看護サマリにも対応した。当院で長年運用してきた形式を見直し,「看護及び栄養管理等に関する情報(様式50)」の要素を取り入れ,多職種連携や他施設連携を考慮した。項目としては,患者や家族の病状への反応を記載する欄を新設し,AIが下書きできるようにした。これにより,退院後のケアや情報共有に必要な情報を整理でき,患者の心理状態や生活環境など多面的な情報を適切に捉える工夫が可能となった。今後は,看護師の負担軽減と患者中心のケア支援を目的に,機能拡充を検討している。

DPCコーディング支援

DPCコーディング業務へのAI導入を進めている(図1)。現在,下書き作成機能は未実装であるが,医師のコーディング内容に対して不足項目を追加支援する仕組みを構築中である。カルテ記事から副傷病名や手術・処置を抽出し,病名の登録漏れを指摘できるようにしている。DPCコーディングは医療報酬に関わる重要な業務であるため,不適切なアップコーディングを防止する設計としている。今後は,AIの根拠提示や誤り防止機能の強化,医師や担当者間の連携体制の整備を進める予定である。

図1 DPCコーディング業務の負荷軽減と精度向上

図1 DPCコーディング業務の負荷軽減と精度向上

 

汎用的な生成AI活用

医師や看護師以外も利用可能な汎用的なAI環境を構築している。チャット形式で操作し,用意されたひな形のプロンプトにより多様な業務に対応可能である。コード作成,翻訳,文書作成,議事録作成,文字起こしなどの機能を含んでいる。議事録作成では複数の定型フォーマットに対応し,数値報告が多い会議では数字の整理方法を詳細に指示できる専用プロンプトも用意した。多くの職種で業務効率化や情報共有を促進し,利用者がプロンプトをカスタマイズできるため,現場主導でのAI活用拡大が期待される。今後は利用者の意見を反映し,プロンプトの改善を進める。 

サイバー訓練シナリオ作成への活用

近年,医療機関におけるシステム障害やランサムウエア被害が増加しており,対策としてサイバー訓練を実施している。直近で実施した訓練では生成AIを活用し,現実的なシナリオを短期間で作成した(図2)。訓練を通じてBCP(事業継続計画)の有効性を検証し,優先対応や業務の中止・縮小の判断機会となったほか,AIが訓練内容の質向上にも寄与することが確認された。また,攻撃側もAIを用いた脆弱性探索などにより高度化しているため,防御側もAI活用訓練やBCPの見直し,職員教育を強化し,組織の防御力向上に努めたい。

図2 生成AIを用いて作成したシナリオによるサイバー訓練

図2 生成AIを用いて作成したシナリオによるサイバー訓練

 

情報部門におけるAI活用

情報部門では,業務におけるAI活用として,RAG(Retrieval-Augmented Generation)技術の可能性を模索している。これは一般的な生成AIの知識ではなく,当院独自の運用ルール,マニュアル,対応履歴,FAQ,システム構成情報などを参照しながら回答を生成する仕組みである。特に情報システム部門では,担当者ごとに作業品質のばらつきが生じる課題がある。生成AIを活用することで,属人化しやすい業務の標準化や品質の均一化,効率化を目指し,今後は具体的なユースケースの検証を進める予定である。

将来構想─AIと融合する医療情報システム

今後,医療情報システムを取り巻く環境は大きく変化すると考えられる。診察の現場では,医師と患者の会話をリアルタイムで音声認識・意味解析し,構造化された診療記録を自動生成する環境が一般化すると予想されている。従来,電子カルテは「入力作業負荷」の象徴と捉えられる側面もあったが,AIの活用により医師はキーボード入力から解放され,視線や注意を患者に集中できる可能性がある。生成AIは記録作成だけでなく,患者データの解析も行う。これにより,診断候補やリスク評価,治療選択肢の提示が可能となる。こうした機能により,個別最適化された医療が実現し,治療成績や患者満足度の向上が期待される。今後の医療情報システムには,AIを単独の機能としてではなく,電子カルテや部門システム,データ基盤,意思決定支援機能とシームレスに統合した環境が求められる。これを踏まえ,当院ではAI統合型の次世代医療情報システムの実現を目指していきたいと考えている。

 

(なかがわ さとし)
獨協医科大学病院医療情報センター情報処理室室長。ITベンダーにて医療情報システムの導入,開発に従事。2022年より現職。

(にほ せいじ)
獨協医科大学病院医療情報センターセンター長。2020年より獨協医科大学内科学(呼吸器・アレルギー)主任教授。2024年より獨協医科大学病院副院長,現職を兼任。