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Interview─ヘルステックのトレンドを語る 生成AIの登場など変曲点を迎える中 ヘルステックは無視できない存在になる 加藤浩晃 氏

2023-11-20

加藤 浩晃 氏

生成AIの登場など変曲点を迎える中ヘルステックは無視できない存在になる
医療DXの実現によってデータの利活用が進むことで新たな製品・サービスの登場にも期待

加藤 浩晃 氏
デジタルハリウッド大学大学院 特任教授,東京医科歯科大学 臨床教授,アイリス株式会社 共同創業者・取締役副社長・最高戦略責任者(CSO),一般社団法人 日本医療ベンチャー協会 理事,経済産業省 Healthcare Innovation Hub アドバイザー

「ヘルステック」という言葉が注目される中,デジタル技術を用いた新たな製品・サービスが数多く登場しており,医療をはじめとしたヘルスケア領域の課題を解決している。ヘルステックのトレンドと未来について,医師でありヘルステック企業の経営者でもある加藤浩晃氏が語った。

生成AIの登場で広がるヘルステックの可能性

─近年,「ヘルステック」という言葉を耳にする機会が増えました。その背景をお教えください。

経済産業省は2010年に「技術戦略マップ2010」を公表し,2030年の医療機器などの将来像を示しました。この2010年をデジタルヘルス元年と呼んでいますが,普及のための制度が未整備でした。その後2013年に,健康・医療戦略室(現・「健康・医療戦略推進本部」)が内閣官房に設置され,2014年に最初の「健康・医療戦略」が発表されました。この中で医療のデジタル化について言及されており,世界最先端の医療を実現するとなっています。さらに,同じ年に「薬事法等の一部を改正する法律」が施行されてプログラム医療機器が認可されるようになり,翌2015年にはオンライン診療に関する通知が厚生労働省から発出されるなど,医療のデジタル化に関する規制が整備されました。
一方で,技術革新も進み,第3次AIブームが起こり,第4次産業革命と言われる状況になりました。2018年には日本初のAI技術を用いた医療機器が薬機法の承認を得ています。このような経緯を経て,現在では,ヘルステックと言われる製品やサービスが次々と登場して社会実装される段階に進んでいます。

─今後のヘルステック市場の成長をどのようにお考えですか。

2020年に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行して以降,リモートやタッチレスといった技術が医療だけでなく社会全般に広がり,デジタル技術の恩恵を多くの人が受けています。また,医療分野では医師の働き方改革が進んでいる中で,これまで医療従事者が行っていた作業を技術で置き換えて,効率化を図るという動きが出ています。さらに,OpenAI社の「ChatGPT」に代表される生成AIが登場したことで,ヘルステックの可能性が広がっていると多くの人が感じており,今後も成長をしていくと考えています。

─ヘルステック企業や製品・サービスのトレンドに変化はありますか。

2010年代の中ごろから後半にかけてヘルステック企業が多く登場しましたが,基本的な技術やサービスはすでに完成していると言えます。現在は,対象とする診療科を広げるとか,薬局や介護への展開を図るといったケースや,診断だけでなく業務改善に役立つように技術を応用したり,サービスを拡充したりするようになっています。

─ヘルステック企業が増えたことで競争も激しくなると思いますが,どのようにお考えですか。

これまでは医師などの医療従事者が,自身の経験した医療の課題をデジタル技術で解決する形で起業する例が多くありました。そのため,マネタイズ,つまりはビジネスの視点が欠けていたケースも散見されました。しかし,最近では医療従事者以外の外部からの参入も増えており,ビジネスの視点も重視している企業が多くなったと感じています。ビジネスとしてとらえる中で,一企業の製品・サービスとして提供するのではなく,複数の企業の製品・サービスの一つとして提供し,ユーザーが使用できるような仕組みが,今後構築されるようになっていくかもしれません。

─ヘルステックの中でも需要が伸びている製品・サービスはどのようなものでしょうか。

企業の健康経営を支援するサービスが伸びています。企業が経営的な視点で従業員の健康を考えるようになったことで,関連するサービスのニーズが高くなっています。サービスの提供者にとっても大きな利益につながるので,医療機関向けのサービスよりも事業を展開しやすいようです。

医療DXが進むことでヘルステックの新たな製品・サービスが生まれる

─国を挙げて医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に向けた取り組みが進んでいますが,この中でヘルステック企業はどのようにかかわっていくとお考えですか。

医療DXの実現によって期待されることは3つあります。1つ目はPHRにより健康寿命の延伸を図ること,2つ目は業務改善,そして3つ目は全国医療情報プラットフォームから収集したデータを活用して,新たなサービスを創出し社会実装していくことです。これまでの医療のIT化やデジタル化は,医療機関や介護施設との情報共有・連携が中心でした。しかし,今,国を挙げて進めている医療DXは,政府が主導しているだけに,単なるデータ連携だけにとどまらず,「その先」を見据えたものだと言えます。
「その先」の一つは,前述の健康寿命の延伸ですが,加えて社会保障制度の維持やヘルスケア産業の創出による経済成長も視野に入れて,施策が進んでいくと思います。経済成長を図るための産業の創出の視点が含まれていることから,ヘルステック企業への期待も大きいはずです。日本は超高齢社会の先進国なので,その中で成功した製品・サービスがあれば,世界で展開していくことも可能です。医療DXによってデータを利活用しやすい環境をつくり,それによってヘルステック企業から新たな製品・サービスが生まれ,ヘルスケア産業が広がっていく。国を挙げて医療DXに取り込む意義は,そこにあると思います。

─医療に関するデータの利活用については規制もあり,あまり進んでいませんでしたが,今後はどうなるのでしょうか。

医療DX推進本部が2023年6月に公表した「医療DXの推進に関する工程表〔全体像〕」では,2026年度までの具体的なスケジュールが示されていますが,データの二次利用について取り上げられていません。ただし,2030年度を目途に,「医療情報の二次利用の環境整備」を行うことは明記されており,「民間事業者との連携も図りつつ,保健医療データの二次利用により,創薬,治験等の医薬産業やヘルスケア産業の振興に資することが可能となり,結果として,国民の健康寿命の延伸に貢献する」と書かれています。これを見るかぎりまだ時間を要するとは思いますが,良い方向に向かうと期待しています。

大きな変曲点を迎え,今後ヘルステックは無視できない存在になる

─ヘルステックの成長に向けて,国にはどのような支援が求められますか。

自由民主党の国会議員を中心とした,医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会(ヘルステック推進議連)やスタートアップ推進議員連盟も発足しており,ベンチャーやスタートアップ企業の成長を支援する動きは広まっています。また,健康・医療戦略推進本部では,健康・医療戦略ファンドタスクフォースを設置して,ヘルスケア分野のベンチャーやスタートアップ企業に官民総額1000億円規模の投資を行ってきました。さらに,2019年6月には経済産業省がヘルスケア産業の振興を目的に,「Healthcare Innovation Hub(InnoHub)」を創設しています。InnoHubでは,ヘルステック企業の製品・サービスの社会実装に向けて,大手企業との橋渡し役や資金調達の相談などを受け付けていますが,企業のアライアンスも生まれるなど,成果が表れています。

─ヘルステック製品・サービスの普及に向けて,医療機関はどのように取り組めばよいでしょうか。

医療機関は,電子カルテの導入などIT基盤を整備して,医師をはじめとした人材のITリテラシーを向上することが求められます。2022年に自由民主党から提言された「医療DX令和ビジョン2030」では,2030年までに電子カルテの普及率を100%にするとしていますが,ITリテラシーが向上すれば,ヘルステック製品・サービスを積極的に使うようになるはずです。ただし,ヘルステック製品・サービスは,あくまでも診療のための手段であり,医療従事者はもちろん,患者の利便性向上といったメリットのあることが重要です。高齢者のスマートフォンの普及率も上昇しているなど,患者のITリテラシーが高くなっていることを考えると,今後,医療機関はヘルステック製品・サービスを積極的に活用していくべきでしょう。

─ヘルステックのこれからについて,読者にメッセージをお願いします。

医療の世界では,これまではデジタル技術を無視できた時代だったと言えます。しかし,ChatGPTのような生成AIが登場した現在,医療は大きな変曲点を迎えています。国を挙げて医療DXの施策が進められていく2030年に向けて,新たにビジネスに参入する企業も増え,新たな製品・サービスも登場してくるはずです。これからの時代,ヘルステックは無視できない存在になるでしょう。

(取材日:2023年9月29日)

 

(かとう ひろあき)
2007年浜松医科大学医学部卒業。京都府立医科大学眼科学教室,厚生労働省医政局研究開発振興課治験推進室室長補佐などを経て,現在,デジタルハリウッド大学大学院特任教授,東京医科歯科大学臨床教授,アイリス株式会社共同創業者・取締役副社長・最高戦略責任者(CSO),一般社団法人日本医療ベンチャー協会理事などを務める