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第15回日本ロボット外科学会学術集会会長 楯谷 一郎氏 
ロボット支援下手術は「普及」と「革新」の両方を推進していくことが重要  安全性の高いスタンダードな手術として確立することで患者さんに福音をもたらす

2023-1-30

第15回日本ロボット外科学会学術集会会長 楯谷 一郎氏

第15回日本ロボット外科学会学術集会が2023年2月2日(木),3日(金)の2日間,名古屋国際会議場(愛知県名古屋市)で開催される。「普及と革新:Permeation and Innovation」をテーマにした学術集会では,「普及」と「革新」の2つの視点からプログラムが組まれた。今回の学術集会の会長を務める楯谷一郎氏に,テーマに込めた思いや,ロボット支援下手術の現状と将来展望を取材した。

「普及」と「革新」のそれぞれをテーマにしたシンポジウムを用意

─今回の学術集会のテーマ「普及と革新:Permeation and Innovation」にはどのような思いを込めましたか。

わが国におけるロボット支援下手術は,2000年にスタートし,2009年には「ダビンチサージカルシステム(以下,ダビンチ)」(インテュイティブサージカル)が薬事承認を受け,2012年には前立腺悪性腫瘍に対するロボット支援下手術が保険適用となりました。その後,2018年度,2020年度,2022年度の診療報酬改定で一気に適用が拡大し,対応する術式が増加して普及が進んでいます。今後さらに普及させるためには,安全性の確保が求められます。新たな技術として手術支援ロボットが取り上げられる機会が増えていますが,それだけに事故などが起こると注目を浴びてしまいます。安全な技術として患者さんに届けることが大切であり,ロボット支援下手術に関係する各学会では,ガイドラインや指針の中で指導システムなどのルールを設けています。

一方で,手術支援ロボットの市場は,国産をはじめ複数の手術支援ロボットが登場しているものの,現状では一企業の製品で寡占化しています。このような状況もあり,デバイスが限定されているなど必ずしも十分ではなく,技術革新の余地があると考えています。手術支援ロボットは,今後さらに領域が広がるポテンシャルを有していると言えるでしょう。また,手術支援ロボットを用いた手術手技も,これからますます進歩していくはずです。手術支援ロボットに対応した新たな術式の開発などが期待されています。

このように,ロボット支援下手術は,「普及」と「革新」の両方を推進していくことが求められています。こうしたことから,今回のテーマに「普及と革新:Permeation and Innovation」を掲げました。

─具体的なプログラムについてお教えください。

シンポジウムは大きく2つのテーマに分けています。1つは,領域別のシンポジウムです。消化器,呼吸器などの領域別にセッションを用意しました。また,1つの診療科に限定せずに領域横断的なシンポジウムを5セッション組んでいます。この5セッションは,「普及」と「革新」のそれぞれをテーマにしています。「普及」に関しては,各領域における教育について取り上げることにしています。また,喉頭・下咽頭悪性腫瘍手術などの頭頸部領域をはじめ,2022年度診療報酬改定で保険適用となった術式に関して,各領域の方々にご発表いただくことにしました。

「革新」については,まだ保険適用になっていない,あるいは薬機法の承認がとれていない領域をテーマにしたセッションを設けました。さらに,「15年後の未来像」をテーマにしたシンポジウムでは,各領域の第一人者にご講演いただきます。

また,基調講演は咽頭がん,喉頭がんに対するロボット支援下手術の第一人者である韓国・延世大学のKim Se-Heon氏,特別講演は光免疫療法に取り組む楽天メディカルの三木谷浩史氏に,ご登壇いただきます。

ロボット支援下手術の登場により米国では中咽頭がん治療の約8割が手術というパラダイムシフトが起こる

─先生ご自身がロボット支援下手術に取り組んだ経緯をお聞かせください。

私がロボット支援下手術の準備を始めたのが2011年です。当時はまだロボット支援下手術が薬機法上の適応にもなっていませんでした。私の専門である咽頭・喉頭がんは,嚥下や発声などの機能と密接に関係しています。早期がんであっても下顎骨離断法により骨切してから腫瘍を摘出するといった侵襲性の高い治療が必要な場合があり,機能温存が課題でした。一方で,日本国内では侵襲性が低く,機能を温存できる独自の内視鏡手術が発展してきました。しかし,手術の難易度が高いために,普及には至っていません。そこで,手術支援ロボットを用いることで,高精度にがんだけを切除でき,患者さんの負担が少ない治療が可能になると考え,取り組み始めました。

その後,2015年から先進医療Bとしてロボット支援下手術を施行し,2018年には頭頸部領域においてダビンチが薬機法の承認を得たことから症例の実績を積み上げ,2022年に保険適用へとこぎ着けることができました。

─ロボット支援下手術のメリットをお教えください。

咽頭・喉頭のがんについては,日本国内の臨床研究の結果で,非ロボット支援下手術と比較して有意に断端陽性率が低かったという結果が得られています。ロボット支援下手術の登場により,中咽頭がんの場合,米国では約8割が手術で治療が行われており,治療法のパラダイムシフトが起こっています。患者さんにとっても福音となる治療法であり,日本でも普及していくことが期待されます。

さらなる普及に向け,手術チームの教育や体制整備を進め安全性の確保を

─ロボット支援下手術の現状について,どのようにとらえていますか。

長期的な視点に立てば,現在の手術支援ロボットとそれによるロボット支援下手術はまだ黎明期だと考えています。かつて新しい術式として登場したマイクロサージェリーや内視鏡手術が,今や一般的な術式になっているのと同じように,将来的にはロボット支援下手術がスタンダードになるでしょう。

しかし,そうなるためには,まだいくつかの課題も残されています。その一つがコストです。現状では手術支援ロボットは非常に高額だと言わざるを得ません。今後,手術支援ロボットが多数開発されることで,競争原理が働き,価格が下がっていくことが望まれます。

─すでに,大学病院や地域中核病院を中心に数百台の手術支援ロボットが稼働していますが,今後どのように普及していくと思いますか。

リスクマネジメントの観点も踏まえると,頻度の少ない手術の場合はハイボリュームセンターで施行することが望ましいと思います。関連する学会では,ガイドラインや指針を設けて安全性を最大限重視していますが,普及するまではハードルをある程度高く設定しておくことも大切です。また,今後は医師だけでなく,看護師や臨床工学技士などのスタッフも含めた手術チームの教育も重要です。実際の手術では,出血などにより開腹術などの外切開術に移行する場合があるので,速やかに適切な対応ができる体制を整備して,安全性を確保することが求められます。

─コスト以外の課題をお聞かせください。

遠隔医療という形で,医療資源が十分ではないところに医療を届ける一助になる可能性があると考えています。日本外科学会が積極的に取り組んでいますが,ITなどのデジタル技術を活用した遠隔での手術指導,手術支援を進めていくといったことが望まれます。過疎地で医療に取り組む医師が,都市部と同等のトレーニングを受けられるようになれば,医師の偏在化などの地域格差を解消し,均てん化が進むと期待されます。

ロボット支援下手術がスタンダードになれば多くの患者さんが恩恵を受ける

─手術支援ロボットをはじめ,今後どのような技術に期待していますか。

日本は海外に比べて内視鏡の技術が発展しています。今後は内視鏡診断・手術を組み合わせた技術の開発が進むと期待しています。例えば,NBI(Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)という技術は,早期がんなどの病変部を強調して表示できます。これをロボット支援下手術に応用することで,口などの自然孔から手技を行うNOTES(Natural Orifice Translumenal Endoscopic Surgery)によって高精度に必要最小限の切除が可能になり,さらなる低侵襲治療が可能になります。

また,人工知能(AI)による切除範囲のセグメンテーションなどの診断・治療支援,仮想現実(VR)による手術シミュレーションやナビゲーションといった技術が導入されれば,より安全性が高まると期待されます。このほか,現在の手術支援ロボットも手術のログデータを分析できるようになっていますが,これらの情報を教育,トレーニングに有効活用できるようになれば,手技や安全性の向上を図れるなど,多くのメリットを得られます。

─将来はロボット支援下手術がスタンダートになるとのことですが,それによって医療はどのように変わりますか。

手術支援ロボットはあくまでも補助装置であり,責任は操作する医師にあるという点で限界があります。しかし,この補助装置を用いることで,例えば世界で5人しかできない手術をたくさんの医師が行えるようになれば,多くの患者さんがその恩恵を受けられます。これからの医療がそうなることを,私も含め多くの人が望んでいるはずです。

─今回の学術集会の参加者,また読者に向けてメッセージをお願いします。

新型コロナウイルス感染症の影響により,Web開催が続きましたが,今回は2日間開催となって以降,初めて現地開催となります。演題数も過去最多となりましたので,ぜひ多くの方にご参加いただければと思います。

手術支援ロボットは,現状では高額な装置であり,医療機関経営の観点では導入が難しい場合もあると思います。しかし,患者さんに福音をもたらす技術であることは間違いありません。今後,手術支援ロボットの市場が拡大することで価格も下がり,さらに普及していくことが予想されます。そのような将来を見据えて投資していくことも大切でしょう。

(取材日:2022年11月9日)

 

(たてや いちろう)
1994年京都大学医学部卒業。2003年京都大学大学院医学研究科修了。ウィスコンシン大学研究員,京都大学准教授などを経て,2019年に藤田医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科主任教授。2021年から同院頭頸部・甲状腺内視鏡手術センター長を兼任。現在,日本ロボット外科学会理事,日本咽頭科学会理事などを務める。

 

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Digital Surgery vision 2023(ITvision 手術支援ロボット 特別号)(2023年1月31日発行)転載
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