次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2013年8月号

No.136 選択的非造影MRAとワークステーションにて治療適応判断・治療効果判定を行った肝内門脈体循環短絡(IHPSVS)の1例

渡部 茂(川崎医科大学附属病院放射線科(画像診断)/川崎医科大学放射線医学(画像診断1)川崎医療短期大学放射線技術科)

●はじめに

血管内治療の進歩,普及に伴い,術前画像診断のニーズも変化している。多くの症例では造影3D-CTAが重要な役割を果たすが,疾患によっては造影3D-MRAも有用である。ただし,造影剤の負担も軽視できない。
本稿では,非造影MRAで得られた画像データを「AZE VirtualPlace Lexus64」(AZE社製)を用いて3D解析することが,血管塞栓術に役立った1例を紹介する。

●症例

症例は,60歳代,女性,繰り返す意識障害による転倒外傷あり。採血および造影CTにて,肝内門脈体循環短絡(intrahepatic portosystemic venous shunt:IHPSVS)による肝性脳症が疑われた。血管内治療の適応について,当院に紹介された。前医の造影CTにて,血流異常が多発していることは明らかだが,動静脈短絡と門脈体静脈短絡との判別は困難で,治療適応の可否は判断できなかった(図1)。

図1 血管塞栓術前の造影CT動脈相

図1 血管塞栓術前の造影CT動脈相
肝動脈枝の拡張,門脈枝の拡張,肝静脈の造影増強効果を認める。
CTAでも血行動態解明は困難である。

 

IHPSVSの証明および血管形態を低侵襲に把握する方法として,MRIを用いた選択的な門脈描出を試みた。
Time-SLIP法を用いた選択的非造影MRAを撮像し,動脈血流の信号を選択的に抑制した。そして,ワークステーションを用い,門脈と体静脈を目視で抽出,色分けし,多方向から観察したところ,両葉に多発するIHPSVSであることが強く疑われた(図2)。これらの中で,経静脈カテーテル的に門脈へ突破できそうな太さ,形状のものを発見できたため,経静脈的な治療適応ありと判断し,同部からの門脈造影および門脈側からのコイル塞栓を試みた。

図2 血管塞栓術前のMRA (正面・尾60°)

図2 血管塞栓術前のMRA (正面・尾60°)
門脈の末梢に門脈肝静脈短絡を多数認める。
中肝静脈と門脈右枝との間(●の所)に太めの短絡を認める。

 

左鎖骨窩静脈から穿刺し,中肝静脈-門脈右枝へカテーテルを突破することに成功し,直接門脈造影にて両葉に多発する門脈肝静脈短絡を確認した(図3 a)。順行性にマイクロカテーテルを進め,可能なかぎり短絡から門脈末梢の9か所にコイルを留置し(図3 b),門脈への突破経路も塞栓して手技を終了した(図3 c)。血管塞栓術前は血中アンモニアが190μg/dL台と高値であったが,約1週間後には50mg/dL台まで低下した。ほぼ同時期にMRA再検し,右葉を中心に門脈・肝静脈の末梢描出減弱および中枢細径化を確認した(図4)。

図3 経静脈的に行った直接門脈造影および血管塞栓

図3 経静脈的に行った直接門脈造影および血管塞栓

 

図4 血管塞栓術後のMRA(正面・尾60°)

図4 血管塞栓術後のMRA(正面・尾60°)
↓の描出減弱および右肝静脈・中肝静脈の細径化を認める。

 

●さいごに

両葉の多発IHPSVSに対する治療戦略として経上腸間膜静脈的門脈塞栓術を推奨している文献報告1)があるが,非造影MRAで得られたデータを利用し,ワークステーションで血管抽出,色分け,多方向観察を行うことにより,より低侵襲(全身麻酔・開腹術が不要)な今回の治療法の適否および戦略の決定を行い得た。

●参考文献
1)Tanoue, S., et al. : Symptomatic intrahepatic portosystemic venous shunt ; Embolization with an alternative approach. Am. J. Roentgenol., 181, 71〜78, 2003.

【使用MRI装置】
EXCELART Vantage Atras-Z 1.5T (東芝社製)
【使用ワークステーション】AZE VirtualPlace Lexus64 (AZE社製)

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