次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2014年1月号

No. 141 AZE Phoenixによる読影経験

三木聡一郎(東京大学医学部附属病院22世紀医療センターコンピュータ画像診断学/予防医学講座)

●はじめに

放射線科領域では,病変を可視化・定量化する新たな画像解析手法が,日々目覚ましい勢いで発達している。一方で,多くの放射線科医の業務は,「ビューアでルーチン検査を開き,シリーズを選択し,画面上に配置し,読影する」という,地道な作業の繰り返しで大部分が占められていることも事実である。
2012年より,当院ではAZE社との共同研究として,診断用“画像ビューア”の開発・評価を行っている。AZE社といえばカラフルで派手な3D画像生成や解析を得意とする印象があり,それと比べれば“ビューア”は一見地味で成熟しきった領域にも思える。しかし,ビューアはレポートとともに,放射線科医の勤務時間の大部分を費やすソフトウェアであり,その使い勝手や性能は,放射線科医の満足度のみならず,診療の質自体にも影響する。自明なところでは,読影時に任意断面再構成(multiplanar reconstruction:MPR)をリアルタイムに行えるだけで,放射線科医は診断上の余計な悩みから解放され,正確な診断に近づく可能性を高めることができるだろう。
ビューアについての共同研究の成果は,AZE社が2012年より発売を開始したビューア「AZE Phoenix(以下,Phoenix)」に盛り込まれている。本ソフトウェアは,単にDICOM画像を表示できてMPRなどの再構成ができるというだけにとどまらず,日々の読影を効率良くこなすための意欲的な機能が複数含まれており,本稿ではそれらについて紹介したい。

●ボリュームレジストレーション

Phoenixでは,特別な外部ソフトウェアを起動させるといった手間なしに,1クリックでMPR像やsliding MIP像を作成することができる。放射線科医の日常読影で必要とされる機能のみが,厳選されてわかりやすく搭載され,いわゆる3Dワークステーションが有しているような細かい編集機能はあえて省かれているが,一方で読影時に有用性が高いために搭載されている機能が,ボリュームレジストレーション機能である。
放射線科医が半ば無意識に繰り返している面倒な作業のひとつに,比較画像とのスライス位置合わせがある。寝台位置などのDICOMタグ情報のみを基にした位置合わせでは,体位や呼吸位相の違いにより,どうしてもシリーズ間で多少のずれが生じる。画像自体を解析して機械的な位置合わせ(レジストレーション)を行う機能をビューアが有していれば,手作業での位置合わせ作業は省力化できる。Phoenixの特徴として,スライス位置のみならず,立体的回転も含むボリュームベースの位置合わせを比較的高速に行うことができる(図1)。多少の体位やスライス方向の差,診断モダリティの違いをものともせず,リンクされたシリーズで対応する部位が同一スライスとして再構成されて表示されるため,読影のストレスを軽減し,病変の経時的変化に鋭敏に気づけるようになることが期待される。

図1 ボリュームベースの位置合わせ(レジストレーション)

図1 ボリュームベースの位置合わせ(レジストレーション)
a,b:それぞれ別の日に撮影された頭部CT(再構成なし)。体位が異なるので,似たスライスを選んでも描出が微妙に異なる。
c:aと同じシリーズを,bに合わせて位置合わせした結果。MPRと回転によって比較読影は容易になり,硬膜下血腫のわずかな変化も検出しやすい。

 

●限られたモニタ面積の中で画像を効率良く並べる

検査の高度化に伴い1検査から生み出されるシリーズ数は増え続けており,当院では1スタディが20シリーズを超えることも珍しくない。フィルムでの読影が事実上不可能であることは当然だが,もはやビューアでの読影すら容易ではない。放射線科医はモニタ画面を2×2といったマス目状の枠に分割し,適宜シリーズを配置しながら読影しているが,目を通す可能性のあるシリーズが(過去検査との比較も含め)数十個にもなってくれば,少ない枠内で数十回もシリーズを出し入れしながら読影する必要があり,もどかしい思いをすることになる。
 この問題に対しPhoenixでは,画面上の1つの枠に任意個数のシリーズを“重ねて”配置し,タブで切り替えたり連続で読影できたりする機能が実装されている(図2)。操作感覚はインターネットブラウザのタブ機能とほぼ同様であり,ドラッグによるタブの分離やドッキングも自在に行える。「関連する数シリーズをまとめて1か所に重ねて読影する」「新しいタブでシリーズを短時間確認し,すぐ元の状態に戻す」といったことができるため,限られたモニタ面積を実際以上に有効に使うことができる。
また,Phoenixでは,表示されている画像と画像の境界部分にサムネイルを直接ドロップする直感的な操作で,ビューア枠の列数や行数を増やすことができる(図3)。逆にdeleteキーでシリーズを画面から削除すれば,空になった行や列は自動的に詰まる。「今見ているシリーズと比較用シリーズを,すぐ隣同士に配置して見比べたい」というのは読影における非常にシンプルな欲求であるが,従来のビューアでは求める結果が得られるまでに,レイアウト系のツールボタンを使って数ステップの作業を要していた。この操作がドラッグ1回で完結する恩恵は大きく,この操作に一旦慣れると,すべてのビューアに当然のように搭載されている「モニタの分割数変更」のボタンを使う必要がほとんどなくなるだろうと考えている。

図2 タブを使った読影

図2 タブを使った読影
「複数回の上腹部ダイナミック造影検査を比較する」といった,多くのシリーズを検討する必要がある状況でも,同一検査のシリーズを「動脈相・門脈相・遅延相」の順に重ねておくことで,整理が容易である。あらかじめこのような形のハンギングプロトコルを作成することも可能。

 

図3 ドラッグ&ドロップによるレイアウト変更

図3 ドラッグ&ドロップによるレイアウト変更
a:サムネイルを画像の境界線()上にドラッグ&ドロップする。
b:ドロップした位置に自動的に列が増え,狙い通りの位置に比較画像を配置できる。

 

●スマートタグで“シリーズの見逃し”を防ぐ

従来のビューアで放射線科医が検査内のシリーズを識別するために用いてきた情報は,「シリーズ番号」と「シリーズ記述(series description)」,加えて大多数のビューアで実装されている「サムネイル」の3種類である。しかし,シリーズ記述に放射線科医(や他科医)の望む情報がわかりやすく含まれていないことも多く,診療画像の多様化・大量化が進むにつれ,これらの情報のみでシリーズを区別し,目視のみで必要な比較画像を見つけ出す作業は,徐々に手間のかかるものとなっている。
過去の比較画像に可能なかぎり目を通すことは読影の鉄則であるが,「たくさんの頭部MRIの検査歴があり,その中で前回MRAを行ったのがいつか,とっさにはわからない」「他院から提供されてPACS内に取り込まれ院内レポートが作成されていない画像は,存在自体に気づきづらい」といった状況を,放射線科医はしばしば経験している。「そんな画像があること自体に気づかなかった」という,画像自体の見逃しは,画像内の病変を見逃すことと同様に,診療方針を大きく誤らせる危険性をはらむ。このようなエラーを防ぎ,放射線科医の負担を軽減できる機能があることが望ましい。
Phoenixに搭載されている「スマートタグ」機能は,検査内のシリーズに任意の条件(図4 a)で自動的にラベルをつけ,見通しを良くすることができる機能である。タグのついた画像は検査一覧の中で目立つように表示され,また,それをキーとして画像を検索することもできるため,画像を探す手間を省き,画像自体の見逃しを防ぐことが期待される。CTでは1スキャンから再構成関数やスライス厚のみが異なる複数のシリーズが生成され,サムネイルでの区別はほとんど困難であることも多いが,このような場合でも「スライス厚が2mm未満の画像のみをマークする」といったスマートタグを用いれば,互いを容易に区別できるようになる。

●スマートタグで読影・比較を高速化する

スマートタグ機能ではさらに,任意の条件を満たしたシリーズに優先度を付けて並び替えたり,仮想的な1シリーズとしてまとめて呼び出したりすることで,読影時の負担を軽減することが可能である(図4 b,c)。「ひとまとめの関連シリーズを一度に呼び出したい」という目的の機能といえば,多くの従来型ビューアに搭載されているのはいわゆる「ディスプレイプロトコル」「ハンギングプロトコル」機能である。しかしこの機能には,一度起動すると既存のレイアウトをすべて破壊してしまうという難点があるため,読影パターンや順序が完全に決まっている場面以外では取り回しが難しかった。スマートタグでは,日常臨床でのより“アドリブ”な読影フローでも,同様の利便性を柔軟に享受できる。

図4 スマートタグ機能

図4 スマートタグ機能
a:フィルタ条件の設定画面。複雑な条件の組み合わせを設定可能。
b:当院検診施設の全身(頭部・胸部・上腹部・骨盤部)MRIの例。デフォルトではシリーズ番号順に多くのシリーズが並んでいるが,放射線科医が読影したい順番ではなく,特に頭部MRA関連のシリーズ()が互いに離れている。
c:スマートタグを使って読影順番を並び替えることで,検索性も良くなり,関連するシリーズをまとめて配置・読影できる。

 

●RECIST計測機能

悪性腫瘍の治療効果判定には,Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)ガイドラインが広く利用されている。これは決して複雑な規約とは言えないのだが,多忙な日常業務の中で標的病変の管理や径和計算を手作業で行うのはやはり煩雑なものである。Phoenixでは,RECIST規約に従って標的病変を計測・管理し,径和や治療効果判定を自動で求めるための専用ツールが実装されている(図5)。初回評価時には,ベースライン定義モードで標的病変を計測・定義して保存する。フォローアップ時には効果判定モードで,以前の測定結果を確認しながら対応する病変を再計測するか,「消失」「分裂」といった判定を行う。放射線科医が想像する一般的なワークフロー通りの操作を行うことで,計算結果をテキストの表や画像として出力し,そのままレポートに貼り付けることが可能である。

図5 RECIST計測ツール

図5 RECIST計測ツール
a:標的病変(target lesion)が定義された過去検査と当時の測定状況は,すぐに呼び出せる。画面の指示に従って計測を行うことで,治療効果判定や径和計算を自動的に行う。
b:テキストで出力された結果は,レポートにそのまま貼り付けが可能。

 

●おわりに

ビューアは放射線科医が手足のように使い続ける道具であり,文書化の困難なわずかな操作性の違いや一瞬の動作の遅さが,使い勝手の差となって現れる。共同研究を通じ,現場の放射線科医と開発担当者が頻繁にミーティングを重ねながらPhoenixの改良は進んでおり,使いやすさがさらに向上していくことが期待される。

【使用ビューア】
AZE Phoenix(AZE社製)

TOP