次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2014年10月号

No. 150 AZE VirtualPlaceを用いた3Dプリンタ(FDM)活用法

後藤 啓介(名古屋市総合リハビリテーションセンター放射線診断科)

はじめに

昨今,立体を造形する3Dプリンタ(rapid prototyping:RP)が話題になり,さまざまな分野で応用されている。医療の分野でもCTやMRIの画像を基に,術前シミュレーションモデルをはじめ,人工骨,インプラントなどの作成に利用され始めている。術前シミュレーションモデルは,術式によっては保険点数が算定されるようになった。
3Dプリンタは素材や造形方法もさまざまで,FDM(fused deposition modeling:熱溶解積層法)の特許が切れたことから家電並みの低価格帯機が登場し,ユーザーは増えている。FDMは溶かしたPLA樹脂やABS樹脂をノズルから押し出し,塗り重ねて固化させるもので,素材も安価で大型家電量販店で見かけるほど入手しやすい3Dプリンタである。当センターでもFDMの3Dプリンタ(Maker Bot社製「Replicator2」)を導入し,使用を始めた。本稿では,ワークステーション「AZE VirtualPlace(Ver.3.6)」(AZE社製)を用いた利点と3Dプリンタを活用した例を報告する。

バージョンアップによる作業効率向上

CTやMRIの医用画像から作成される造形用3Dデータにも,通常,CADやCGソフトウェアなどのモデリングソフトウェアが使用される。医用画像の特定領域抽出は,通常のモデリングソフトウェアよりもAZE VirtualPlaceの方が高性能かつ簡便に実行でき,抽出部位のみのDICOM保存も行える。しかし,3Dプリンタ出力時の造形用3Dデータの形式は,内部の階調情報を持つDICOM形式ではなく,“あり”か“なし”の2値化のSTL形式に変換することが必須である。
当センターでも以前(Ver.3.4)は,AZE VirtualPlaceで3Dデータを抽出しDICOM保存後,“OsiriX”でSTL形式への変換とSTL形式のサーフェス表示の確認を行っていた。修正が必要な場合はOsiriXでも可能だが,修正作業の容易さから再度AZE VirtualPlaceで行っていた。2014年にバージョンアップしたVer.3.6からはAZE VirtualPlaceでSTL形式に変換することが可能となり,STL形式のサーフェス表示とボリューム表示の切り替えやサーフェス表示の平滑化の設定も容易で,確認と修正の作業効率は以前に比べて格段に上がった(図1)。

図1 バージョンアップ前後の違い

図1 バージョンアップ前後の違い

 

活用例の提示

1.THA術前シミュレーション用実物大立体モデルの作成

当センターでは,人工股関節置換術(THA)術前計画用にCT撮影を行う。変形性股関節症の形状を立体的に把握し,手術支援することを目的にモデルを作成した。使用するFDMの3Dプリンタは造形サイズに制限があり,ピクセルサイズもFOVに依存するため,解像度を向上させるには画像再構成の段階でFOVを絞り込むことが望ましい(図2)。造形用3Dデータもスライス間隔とFOVを絞ることでボクセルサイズを小さくし,空間分解能を向上させ,3Dプリンタの最小0.1mm積層ピッチで造形すれば,精度を上げることができる。
作成方法は,CT画像から骨領域を選択抽出し,骨に密接する筋・腱などはMIP像などで確認しながら除去する。また,骨盤臼蓋部と大腿骨頭部はMPR像などを駆使して分離した。造形時間は数時間かかるが,造形自体は無人作業のため,翌日には完成している(図3)。術医からは,実物大を手で触れることで奥行きを含めた三次元構造を立体で把握でき,イメージをつかみやすいと好評を得た。またインフォームド・コンセントの際も,患者も実物大立体モデルを見て,理解しやすいようであった。

図2 骨頭切断面のSTL形式サーフェス表示(FOV・再構成間隔・ピクセルサイズとの関係)

図2 骨頭切断面のSTL形式サーフェス表示
(FOV・再構成間隔・ピクセルサイズとの関係)

 

図3 THA術前シミュレーション用実物大立体モデルの作成工程

図3 THA術前シミュレーション用実物大立体モデルの作成工程

 

2.リングスプリントの試作

作業療法士(以下,OT)が患者の患部に実際に合わせて作成し,リウマチなどの関節の保護や変形の予防,安静保持と痛みを軽減させる「リングスプリント」(以下,スプリント)があるが,関節の変形具合によっては作成に時間を要することや苦痛を伴うこともある。
今試作は,体表外の空気層のボクセルデータを用いてスプリントのデザインを作成し,3Dプリンタで造形した。作成方法は,使用時の肢位や良肢位で撮影したCT画像から,手を領域抽出した後,別レイヤーに保存する。スプリントの厚さを考慮してボクセルサイズを拡大し,別保存した元データと差分するとスプリント元データができる。先にデザインや固定抑制箇所をOTと確認した上で,複数のレイヤーを重ねるなど任意の画像表示や任意の断面像からカットしてスプリントをデザインする(図4)。今試作の造形時間は20分であり,患者との調整次第で当日の引き渡しも可能である。
ワークステーションの利点は,患者が目の前にいなくても空気層を可視化したスプリントを患者の関節面,骨,腱,体表面などの任意の画像や方向から確認・修正し,患部の形状に合わせて何度でも作成でき,スプリントの厚みも均一に任意のボクセルサイズで変更できることである。
複雑な形状も一度で造形可能な3Dプリンタと合わせることで,手作りの労力の軽減,作業の分担による時間効率の向上,患者の拘束時間や時間費用の軽減,材料費の軽減などが可能である(デザインや大きさにはOTの意見が重要であり,素材によるが装着時に違和感がある場合は加工が必要である)。

図4 リングスプリントの試作の作成工程

図4 リングスプリントの試作の作成工程

 

おわりに

実際に3Dプリンタを運用するには撮影方法,画像再構成法,造形用3Dデータ作成法,STL形式への変換,3Dプリンタの造形設定の構築が必要である。導入前は,CTやMRIの画像データからOsiriXのみで造形用3Dデータを作成し,STL変換まで完結できると考えていた。しかし,AZE VirtualPlaceは操作が容易なため,造形用3Dデータ作成に併用にした。今回のバージョンアップにより,AZE VirtualPlaceのみで造形データ作成と形式変換が可能になり,より作業効率が上がった。
今後も低価格化と素材の多様化が進んだ3Dプリンタが登場してくると思われる。新たに金属素材も使用できるSLS(selective laser sintering:レーザー焼結法)が特許切れを迎え,患者に合わせた金属の人工骨も自施設で作成する時代が来るかもしれない。もともと画像診断部門にはCTやMRIといった優秀な3Dスキャナが存在し,これらとつながるワークステーションは3Dプリンタと組み合わせることで,画面表示以外の表現を可能にする。その表現は術前シミュレーションモデルや人工骨といった医療分野だけでなく,試作のスプリントのような装具や自助具といった福祉用具の分野にも適用可能であり,医用画像が患者のために有効に活用されることを期待している。

【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace(AZE社製)
【使用3Dプリンター】
Replicator2(Maker Bot社製)

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