次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2016年11月号

No. 175 AZE VirtualPlaceを用いた3Dモデルの作製

清水 郁男(愛知医科大学病院中央放射線部)

はじめに

2008年度の診療報酬改定で,画像等手術支援加算として,「手術に当たって,実物大臓器立体モデルによる支援を行った場合」に診療報酬の算定が認められ,2016年度の改定では大腿骨骨切り術が追加適用となった(表1)。3Dプリンタで造形された立体モデルを用いることにより,ワークステーション上のボリュームレンダリング(以下,VR)画像に比べ,より立体的な手術の検討が可能となるため,手術時間の短縮,侵襲の軽減,難易度の高い手術の精度・安全性の向上などが大いに期待できる。
愛知医科大学病院では2015年7月,「AZE VirtualPlace 風神(以下,AZE VirtualPlace)」の導入と同時に3D SYSTEMS社の3Dプリンタ「ProJet 160」を導入し,手術支援として主に整形外科領域においてモデル作製を行っている。本稿では,当院でのAZE VirtualPlaceと3Dプリンタを用いた3Dモデルの作製を紹介する。

表1 2016年度診療報酬改定で「画像等手術支援加算実物大臓器立体モデルによる支援を行った場合に算定」できる術式

表1 2016年度診療報酬改定で「画像等手術支援加算実物大
臓器立体モデルによる支援を行った場合に算定」できる術式

 

3Dデータの作成から出力まで

当院の3Dモデル作製のシステムを図1に示す。AZE VirtualPlaceを用いて,CT画像から3D VR画像を作成する。モデル造形用には,必要な領域に絞り込んで画像再構成を行う。モデルの精度を上げるためには,スライス間隔,FOVを絞り込んでボクセルサイズを小さくすることが望ましい。
われわれが日常扱っている画像データはDICOM形式であるが,3Dプリンタで出力する際の造形用データは,STL形式である。VR画像から,サーフェスレンダリング画像を作成し,STL形式のデータに変換しなければ3Dモデルのプリントはできない。AZE VirtualPlaceは,このサーフェスレンダリング画像の作成からSTL形式への変換,保存を1クリックで行うことができる。サーフェスレンダリング表示とVR表示の切り替えも1クリックで行え,内部の状態も,透過ボタンで容易に確認することができる(図2)。AZE VirtualPlaceは作成したデータの確認,修正が容易に行えるため,3Dモデル作製において非常に有用なワークステーステーションである。

図1 当院の3Dモデル作製のシステム

図1 当院の3Dモデル作製のシステム

 

図2 大腿骨頭のVR,サーフェスレンダリング,透過像

図2 大腿骨頭のVR,サーフェスレンダリング,透過像
STL形式データ作成後は,1クリックで切り替えて確認できる。

 

STL形式データ作成時の注意

サーフェスレンダリングは一定の閾値以上を表示し表面を見る方法であり,VRは不透明度を変えて内部も可視化できる方法である。日常の診療業務では,VR法を用いて3D画像を作成しているが,ノイズ,または抽出した領域周辺の淡い信号は,閾値の調節で見えないようにすることができる。周辺の淡い信号が残ったままのVR画像を使ってSTL形式データを作成すると,実際とは異なる大きさ・形のモデルが作製されてしまう。骨がもろくなっている高齢者のモデルを作製する際には,特に注意が必要である。サーフェスレンダリング処理は,2値化の閾値を設定することになるので,STL形式データを作成する際は,元画像のマスクの確認を忘れてはならない。

石膏パウダータイプ3Dプリンタ

3Dプリンタは,3Dデータから立体モデルを直接造形できるところがこれまでとは異なる新しい点である。当院では,整形外科・口腔外科などの骨モデルを造形対象として,石膏パウダータイプのProJet 160を導入した。石膏パウダータイプはプラットフォームに薄く敷かれた石膏パウダーの上に,プリントヘッドが接着剤を吹き付け,その上に再び薄く石膏パウダーを敷き,また接着剤を吹き付ける。ProJet 160は,この作業を繰り返し行う積層造形方式のプリンタで,造形できる大きさは236mm×185mm×127mm,20mm/時間で造形を行う。接着剤で固まらなかったパウダーは再利用することができる。ProJet 160では,高さ127mmまでのモデルしか作製できないが,プリント時にモデルをいろいろな角度に傾けてプリントすることで,ある程度の対応が可能であり,これまでに2つに分けてプリントしなければならない事態は生じていない。しかし,127mmでは頭蓋骨全体をプリントすることができないため,プリント領域は,せめて160mm,できれば200mmくらいは欲しいところである。プリントスペース内に収まれば,一度に複数のモデルのプリントも可能である。また,プリントヘッドはインクジェット方式なので,フルカラーの造形も可能である(ProJet 160はモノクロ仕様)。

人工股関節置換術(THA)術前実物大モデル作製と手術シミュレーション

THA術前モデルの作製過程を図3に示す。CT画像からの骨領域の抽出,大腿骨頭部と骨盤臼蓋部の分離,STL形式へのデータ変換までAZE VirtualPlaceで行う。作成したSTL形式データを用いてProJet 160でプリントする。図3のモデルでプリント時間は6時間ほどである。診療終了後にセットすれば,翌朝には完成している。
当院での手術シミュレーション例を図4,5に示す。

図3 THA術前モデル作製過程

図3 THA術前モデル作製過程
AZE VirtualPlaceでSTL形式データまで作成し,ProJet 160でプリントする。このモデルでプリントに約6時間が必要となる。

 

図4 人工股関節シミュレーション

図4 人工股関節シミュレーション

 

図5 楔骨切り術シミュレーション(屈曲40°+内反15°)

図5 楔骨切り術シミュレーション(屈曲40°+内反15°)

 

まとめ

当院にAZE VirtualPlaceと3Dプリンタを導入して1年が経過した。これまで1,2体/月程度しか作製していないため,3Dモデルの精度としては十分な域に達していない。しかし,実物大モデルを手にすることにより,大きさ・長さ・太さ,三次元構造の把握,ボルトを打ち込む角度など,よりリアルな術前検討が可能ということで,術者からはおおむね好評価をいただいている。
AZE VirtualPlaceは,操作も簡単で,3Dモデルを作製するには非常に有用なワークステーションである。
また,2014年にレーザー焼結法の特許が切れたことで,今後金属3Dプリンタの急速な普及が予測される。金属3Dプリンタが医療分野に応用されるようになれば,実際に体内に長期間埋め込まれるインプラントが,テーラーメードで供給されることも期待される。

【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 風神(AZE社製)
【使用3Dプリンタ】
Projet 160(3D SYSTEMS社製)

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