次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2017年5月号

No. 181 循環器領域におけるAZE VirtualPlace 新NTを用いたリスク評価

渡邉 和樹(医療法人ハートクリニックさわだ理事)

はじめに

虚血性心疾患の診断・評価には,長年心臓カテーテル検査が用いられてきたが,近年のCT装置の技術的進歩に伴って数多くの施設で冠動脈CT検査がスクリーニング検査として用いられるようになってきている。日本循環器学会の『循環器病の診断と治療に関するガイドライン』1)においても,安定狭心症(中等度リスク)の冠動脈狭窄評価の有用な検査方法と位置づけられている。
安定労作性狭心症の定義とは,狭心症発作が労作によって誘発され,冠動脈造影上責任病変の狭窄度が有意〔AHA分類で75%以上,定量的冠動脈造影(QCA)上60%以上〕である器質的狭心症で,6週間以上前から胸痛を自覚しているものであり,病態により高リスク群と低リスク群の2つに分けられる。また,最新の安定労作性狭心症に対するガイドライン2)によれば,低リスク群に分類される安定労作性狭心症に対する治療は,薬物療法による経過観察が推奨されている。なお近年は,冠動脈CT検査によって不安定プラークの検出が可能となってはいるものの,その不安定プラークによるリスク評価の定義はないのが現状である。

当院における虚血性心疾患の解析方法

当院では冠動脈CTの解析に「AZE VirtualPlace 新NT」(AZE社製)を用いている。解析手順として,画像再構成をした後,VR画像,MIP画像,CPR画像を作成する。さらに,マルチフェーズ再構成されたデータを基に4D解析を行っている。VR画像とMIP画像で,視覚的に石灰化と狭窄の有無を評価できる。次に,CPR画像で狭窄の程度を把握するが,ここでは狭窄の有無・程度のみでなく,冠動脈CT検査の特徴であるプラーク評価を当院では重要視している。冠動脈プラークは,(1) 石灰化プラーク,(2) 非石灰化プラーク,(3) 混合型プラークの3種類に分類し,組織性状の評価にはCT値(HU)を用い,30HU以下のlow density plaqueをソフトプラークとしている。プラーク評価の画像は,モノクロのみでなくカラーマップを作成し,短軸像で一目でプラーク分類がわかるように作成している。

症例提示

1.症例1:狭心症(70歳代,女性)
既往歴は高血圧,脂質異常症。労作時胸痛にて当院受診,心電図検査上異常Q波(Ⅱ,Ⅲ,aVf)を指摘されたが,心臓超音波検査では明らかな壁運動異常は認めなかった。
冠動脈CT検査では,右冠動脈#2に狭窄率75〜90%の重度狭窄を認めた(図1 a)。さらにプラーク性状を観察すると,病変部は陽性リモデリングを呈し,内部にソフトプラークを認め(図1 b),さらに短軸像にてリング様所見(napkin-ring sign,ring like sign)を認め(図1 c),不安定病変の存在が疑われた。心臓カテーテル検査では右冠動脈#2に狭窄率75〜90%の重度の狭窄を認め(図1 d),経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行した。冠動脈CT検査の所見よりプラーク性状は脆弱なプラーク(vulnerable plaque)が疑われるため,体外式ペーシング,末梢保護デバイスを用いて手技を施行した。前拡張を行ったところ末梢塞栓と思われる心電図ST上昇,slow flowを認めたため,塞栓吸引(図1 e)を行いflowを改善して終了した。
冠動脈CTでのリスク評価は,以前はカルシウムスコアを用いた評価が主流であったが,最近では冠動脈プラーク性状によるリスク評価も検討されてきている。病変部のプラーク性状が陽性リモデリングを呈し,内部にソフトプラークを認める症例では,2〜3年以内に十数%の確率で心血管イベントを発症するとの報告3)もある。

図1 症例1:狭心症(70歳代,女性)

図1 症例1:狭心症(70歳代,女性)
a:右冠動脈のCPR画像。#2に重度の狭窄を認める。
b:右冠動脈ストレート画像(),短軸像のカラーマッピング画像()。狭窄部の陽性リモデリング,プラークの一部にlow density plaqueを認める。
c:短軸像にて不安定プラークの特徴と報告されているnapkin-ring signを認める。
d:心臓カテーテル検査にて右冠動脈#2に重度狭窄を認める。
e:PCI施行中に吸引された赤色血栓

 

2.症例2:狭心症(40歳代,女性)
労作時胸痛を主訴に当院受診。心電図,心臓超音波検査では異常所見は認められなかったが,冠動脈性心疾患を疑い冠動脈CT検査を施行したところ,右冠動脈 #3に狭窄率50%の中等度の狭窄を認めた(図2 a)。狭窄率からは有意狭窄とは考えにくく,至適薬物治療(optimal medical therapy:OMT)の方針としたが症状が悪化したため,冠動脈CTの病変部のプラーク性状を観察すると陽性リモデリングを呈し,内部にソフトプラークを認めた(図2 b)。さらに,心筋内膜表示機能を用い内膜解析を行ったところ,下壁の心筋灌流異常を疑う所見が認められた(図2 c)。
心臓カテーテル検査を施行したところ,#3(D)狭窄率90%と重度の狭窄進行を認め(図2 d),PCIを施行した。施術後,胸部症状は消失した。
心筋内膜表示の原理は,通常の冠動脈CT検査の画像で心内膜側を三次元的に自動抽出し,心筋のCT値を反映したカラーマップをVR表示する方法であり,容易に短時間で解析できる。この症例から推測するに,冠動脈CT検査で不安定病変および心筋灌流異常所見によるリスク評価を得られる可能性が示唆されると思われる。

図2 症例2:狭心症(40歳代,女性)

図2 症例2:狭心症(40歳代,女性)
a:右冠動脈のCPR画像。#3に中等度の狭窄を認める。
b:右冠動脈のストレート画像,短軸像。陽性リモデリング,プラークの一部にlow density plaqueを認める。
c:心筋内膜解析表示。下壁に心筋灌流異常を示す。
d:心臓カテーテル検査にて右冠動脈#3に重度狭窄を認める。

 

まとめ

近年,冠動脈狭窄を認めた症例でも虚血がないことが証明されている患者に対するPCIは生命予後の改善へのエビデンスがなく,PCIの適応はないと言われている2)。それゆえに冠動脈CT検査の解析では狭窄の有無のみでなく,付加価値として冠動脈プラーク評価や血流評価などによる予後予測も臨床上の役割として重要視されてきている。当院でもAZE VirtualPlace 新NTによる解析が診断・治療に大きな一助となっている。
最後に,貴重な症例を経験したので提示する。

3.症例3:バルサルバ洞動脈瘤破裂(20歳代,男性)
安静時胸痛にて当院受診。胸部X線撮影にて心拡大(CTR 57%),心臓超音波検査にてバルサルバ洞より右室へのシャントあり(図3 a),冠動脈CT検査を施行した。冠動脈に異常は認められなかったが,バルサルバ洞に径5.5mmの開口を認め,4D解析にて右室へのjet flowを確認できた(図3 b,c)。
バルサルバ洞動脈瘤は,大動脈起始部と右心系の中隔の部分に生じ,破裂は主に右心系(右冠動脈洞>右室>右房>>左室)に左→右シャントを生じうる疾患である。心電図同期のCT撮影では,バルサルバ洞動脈瘤の形態および周囲組織との関係を明瞭に把握できる(図3 d)。本症例では,4D-MPR画像にてバルサルバ洞から右室へのjet flowを確認でき,VR画像にてjet flowと破裂口の位置を確認できた。

図3 症例3:バルサルバ洞動脈瘤破裂(20歳代,男性)

図3 症例3:バルサルバ洞動脈瘤破裂(20歳代,男性)
a:心臓超音波検査の心尖部四腔断面像。バルサルバ洞より右心系への異常血流を認める。
b:冠動脈CTのVR画像。バルサルバ洞からの造影剤のjet flowを確認できる。
c:マルチフェーズ再構成画像を4D解析したMPR画像。バルサルバ洞動脈瘤破裂のjet flowを確認できる。
d:バルサルバ洞動脈瘤破裂の開口部のVR画像
e:手術所見。バルサルバ洞動脈瘤の開口部は冠動脈口より中枢,無冠尖との交連寄りにあり,径6mmほどであった。

 

●参考文献
1)日本循環器学会:冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008年度合同研究班報告).
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_yamashina_h.pdf
2)日本循環器学会:安定冠動脈疾患における待機的PCIのガイドライン(2011年改訂版). 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告) .
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_fujiwara_h.pdf
3)元山貞子・他 : 虚血性心疾患の診断におけるCTの役割. 循環器専門医, 22・1, 55〜61, 2014.

【使用CT装置】
SOMATOM Definition Edge(シーメンス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 新NT(AZE社製)

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