次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2017年7月号

No. 183 当院での新規心臓MRI検査におけるAZE VirtualPlace 雷神の使用経験

栗林 武志*1/和田 梨奈*1/山田 諭史*1/笠松  謙*2/加納 宏幸*1(*1 医療法人純正会名古屋市立緑市民病院診療技術部放射線技術科/*2 医療法人純正会名古屋市立緑市民病院循環器内科)

はじめに

当院は2012年4月より,名古屋市の指定管理者制度により医療法人純正会にて運営が開始された,稼働病床205床の施設である。2010年9月に「AZE VirtualPlace風神」(AZE社製)が導入され,主にCT検査におけるVR画像の作成,および冠動脈CT検査で使用していた。2017年1月の機器更新に伴い「AZE VirtualPlace雷神3.5」へバージョンアップしたことをきっかけに“MR解析オプション”を追加し,2017年4月から新規に心臓MRIを開始した。

心臓MRI検査の背景と当院の現状

国内において心臓MRIの件数は増加傾向にあるが,検査の施行施設数に大きな変化はない。背景には長い検査時間と高い難易度があり,MRI検査を1台で施行している中小規模施設では新規に受け入れ難く,また心臓MRIに精通した診療科スタッフや診療放射線技師が不在の施設ではハードルが高い。さらに,MRI装置の心臓用アプリケーションを使用可能か否かと,所有するコイルの種類などのハード面もあり,心臓MRIを取り巻く環境は厳しいのが現状である。
その中で当院では,心臓MRIに熟練した循環器科医師の指導の下,新規に心臓MRIを受け入れる体制を整えた。既存のMRI装置「MAGNETOM ESSENZA」(シーメンス社製)は,心臓用アプリケーションとして“形態機能評価モジュール(Cine)”“心筋パーフュージョンモジュール(Perfusion)”“組織性状診断モジュール(DarkBlood)”“遅延造影モジュール(Late Gadolinium Enhanced)”が標準搭載されている。今回,4-Channel Flex Coil,Largeを用いて行うという限られたコイル環境下にて,新規に開始した心臓MRIにおけるAZE VirtualPlace雷神3.5の役割と使用経験の一部について紹介する。

MR心駆出率解析

心臓の形態機能評価はエコーや血管造影,造影CTにて行われてきたが,侵襲的要素があり,術者間による差異など客観的評価が難しい。今回,MRIにてSociety for Cardiovascular Magnetic Resonance(SCMR)の推奨プロトコールを基にSSFP系シーケンス(True FISP)を用いて1心拍あたり20フェーズのシネ画像を撮像し,画像解析にAZE VirtualPlace雷神3.5の“MR心駆出率解析”のソフトウェアを使用することで形態機能評価を行うこととした(図1)。

図1 MR心駆出率解析

図1 MR心駆出率解析

 

MR心駆出率解析は,左室短軸像の心筋内腔と心外膜をそれぞれトレースすることで,拡張末期容量(mL)と収縮末期容量(mL)をはじめとする左室機能を数値化し,左室駆出率(%)を導き出すことができる。左室短軸のシネ画像を選択し,被写体と空気の境界“空気閾値”と,左室内腔と心内膜の境界“左室閾値”を決定することで心筋のコントラストを把握し,“自動解析”をクリックするだけで,1スライス20フェーズ(20枚)のシネ画像を全スライス一度にトレースすることが可能である(図2)。また,撮像中の息止め不良などが生じた場合は,自動解析後の個々のスライスに対し再トレースも可能である。この場合,任意の2スライスを再トレースすることにより,その2スライス間を“両端から範囲内を補間”,もしくは任意の連続する3スライスを再トレースし“両端から両方向に補間”を選択するという簡単な作業にて,1スライス20フェーズすべてを補正することが可能である。この機能は労力削減と解析時間の大幅な短縮だけでなく,解析を行う操作者間の差異を極限まで減らすことができる。さらに,MRI検査そのものに携わる機会の少ない者と熟練した者が行った解析結果を比較しても遜色はなく,「簡単な作業のみで精度の高い解析を自動で行えるソフトウェア」に頼るところは非常に大きい。

図2 自動解析と再トレース

図2 自動解析と再トレース
a:“空気閾値”と“左室閾値”を設定するだけでトレースできる。この作業により心基部~心尖部にわたり心外膜と左心内膜を精度良くトレースすることが可能となる。
b:撮像時の呼吸停止の不良や頻脈など,自動解析がうまくいかない場合は,手動にて2スライス,あるいは3スライスを再トレースすることで,そのほかのスライスを補完できる。そのため,1枚1枚すべてを再トレースする手間が省略できる。

 

フロー解析

先天性心疾患などにおける肺体血流比(Qp/Qs)などの測定が,近年MRIのPC(phase contrast)法により簡単に可能となった。撮像時に適切なvelocity encoding(VENC)を設定することで位相差画像を取得し,“フロー解析”のソフトウェアにて肺動脈および大動脈にROIを設定するのみで,瞬時に結果が得られる(図3)。また,複雑な疾患では,左右肺静脈や上下大静脈など病態に合わせた計測が必須となるが,同様に簡便な作業での解析が可能であり,再現性も高く長期にわたる経過観察において有益性は非常に高い。

図3 フロー解析

図3 フロー解析
撮像時のVENC値を入力し,目的血管を1スライスのみROI()で囲むだけで,各時相のスライスの目的血管を追従してトレースしていく。

 

遅延造影MRI

ガドリニウム造影剤によるMRI遅延造影はコントラストが高く,病理組織学的梗塞領域の反映,虚血性と非虚血性による心筋症の鑑別,拡張型心筋症(DCM)や肥大型心筋症(HCM)の予後予測など,心疾患において適応が広い。当院で採用している造影剤「ガドビスト(Gadobutrol)」(バイエル薬品社製)は0.1mmol/kg量が通常使用量であり,ほかのガドリニウム造影剤(通常使用量0.2mmol/kg)と比較し,同等以上のコントラストを得ることができるとの報告がある1)。左室短軸像にて撮像を行い,“遅延造影MRI”ソフトウェアにて簡便な作業のみで心筋梗塞度合いと広がりを評価できる(図4)。

図4 遅延造影MRI

図4 遅延造影MRI
心筋内腔と心外膜をトレースし解析を行う。なお,左室短軸像の撮像時,患者体型によって「左室前壁」が画面の右側,もしくは左側へ表示されることがあるが,本ソフトウェアでは直接「左室前壁」を指定することで,補正することが可能である。

 

そのほかのオプション

そのほか,AZE VirtualPlace雷神3.5は冠動脈(whole heart coronary angiography)の解析用として“新・MR細血管解析”,先天性心疾患などの右室形態機能評価に用いられる“MR右室解析”,心筋パーフュージョン撮像時の“心筋パーフュージョン”など,心臓MRI用ソフトウェアが充実している(図5)。

図5 そのほかの解析オプション

図5 そのほかの解析オプション

 

おわりに

心臓MRIの新規開始に当たり,AZE VirtualPlace雷神3.5の活用により解析業務に労力をかけず,また経験の浅い技師でも十分に対応が可能であった。当院においてMRI装置で解析を行うにはオプション機能の再導入が必要であったが,既存のAZE VirtualPlace雷神3.5にMRI解析オプションをインストールするのみの低費用で「MRI装置本体を解析のために独占する」ことを回避でき,また,複数クライアントの使用が可能なため業務効率の視点からも大きな役割を果たした。当院の経験から,中小規模施設において心臓MRIを開始することは十分容易であり,AZE VirtualPlace雷神3.5の普及は心臓MRI検査の普及の大きな鍵を握ると感じるとともに,当院での経験が参考になることを願う。

●参考文献
1)De Cobelli, F., et al. : Intraindividual comparison of gadobutrol and gadopentetate dimeglumine for detection of myocardial late enhancement in cardiac MRI. AJR, 198, 809〜816, 2012.

【使用MRI装置】
MAGNETOM ESSENZA, A Tim+Dot System 1.5T(シーメンス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace雷神3.5(AZE社製)

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