次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2018年12月号

No.200 新・CT細血管解析を利用した腱の描出について

及川 徳章(公益社団法人地域医療振興協会 伊東市民病院医療技術部放射線室)

はじめに

腱のCT撮影の大きな利点は,視覚的に理解しやすい立体画像により全体像を把握できることである。そのため,CT撮影における腱の描出で求められる画像は,VR画像が基本となる。しかし,腱は骨と異なり非常に低いCT値であるため,閾値の設定によって実際には連続性があるにもかかわらず途絶したように見えることもある。そのため,当院では,必要に応じて「AZE Virtual Place風神」(AZE社製)のアプリケーションの“新・CT細血管解析”を利用し,腱のcurved MPR(以下,CPR)を作成している。
本稿では,新・CT細血管解析を利用した腱病変の描出が診断に役立った一例を紹介する。

当院の概要

当院は,公益社団法人地域医療振興協会の管理運営の下,地域医療支援病院,災害拠点病院として伊豆半島東部の急性期医療を担う中核的病院である。2013年3月に新築移転し,CT装置および3Dワークステーションも新たに導入した。CTはシーメンス社製「SOMATOM Definition Flash(以下,Definition Flash)」,3DワークステーションはAZE VirtualPlace風神である。

腱の撮影について

腱の描出を目的としたCT撮影を行う場合,ノイズの少ない画像が求められる。当院では,Definition Flash導入以来,原則dual energy撮影を行ってきた。その理由として,CT装置のdual energyイメージングのアプリケーションを用いた腱病変の描出が可能であったことや,高電圧140kVでもVR画像作成が可能であることが挙げられる。CT装置のアプリケーションは,簡易的に腱を観察することが可能である反面,細かい作業には適さない。そのため,VR画像を作成する時は,ワークステーションを利用している。現在では,2016年にDefinition Flashに搭載された空間周波数処理を応用した第二世代の仮想単色X線画像(Monoenergetic Plus)を利用して,VR画像を作成している。仮想単色X線画像の高keV画像(190keV)を作成することで,腱のCT値を上昇させ,反対に周囲の筋肉組織のCT値を低下させて相対的にコントラストを上昇させる。これによりVR画像を作成しやすくなる(図1)。従来の仮想単色X線画像では,40keVや190keVのような極端なエネルギーではノイズが増加してしまったが,Monoenergetic Plusや逐次近似再構成(SAFIRE)を利用することで大幅にノイズを低減することができた(図2)。

図1 仮想単色X線エネルギーとCT値の相関グラフ グラフ(a)は,腱と筋肉にROIを置き(b),仮想単色X線エネルギーを変化させた時のCT値の変化を示したものである。電圧が上がると,白グラフの腱はCT値が微増し,黄色グラフの筋肉はCT値が大きく低下する。よってエネルギーを上げていくと相対的にコントラストを上昇できる。

図1 仮想単色X線エネルギーとCT値の相関グラフ
グラフ(a)は,腱と筋肉にROIを置き(b),仮想単色X線エネルギーを変化させた時のCT値の変化を示したものである。電圧が上がると,白グラフの腱はCT値が微増し,黄色グラフの筋肉はCT値が大きく低下する。よってエネルギーを上げていくと相対的にコントラストを上昇できる。

 

図2 エネルギーの違いによる画像の比較 120kV相当MIXデータ:VR画像(a),アキシャル画像(e) 140kV:VR画像(b),アキシャル画像(f) 190keV(第一世代仮想単色X線画像):VR画像(c),アキシャル画像(g) 190keV(第二世代仮想単色X線画像):VR画像(d),アキシャル画像(h) VR画像は比較しやすいよう,未処理状態の画像である。屈筋腱の描出に違いは少ないが,筋肉組織のノイズはdが最も少ない。

図2 エネルギーの違いによる画像の比較
120kV相当MIXデータ:VR画像(a),アキシャル画像(e)
140kV:VR画像(b),アキシャル画像(f)
190keV(第一世代仮想単色X線画像):VR画像(c),アキシャル画像(g)
190keV(第二世代仮想単色X線画像):VR画像(d),アキシャル画像(h)
VR画像は比較しやすいよう,未処理状態の画像である。屈筋腱の描出に違いは少ないが,筋肉組織のノイズはdが最も少ない。

 

新・CT細血管解析を利用した腱のCPRの作成について

新・CT細血管解析は冠動脈CTのアプリケーションであるが,自動追跡機能,VR画像とCPRの連動機能など豊富なツールを有しているため,腱でも活用できるのではと試みた。腱を抽出する場合,デフォルトの状態ではうまくいかない。まず,詳細設定から抽出するCT値を60〜120HUに変更が必要となる(図3)。また,初期ウインドウ幅を150,ウインドウレベルを100に変更することで,腱が描出しやすくなる。腱をプロットし,自動追跡ボタンをクリックして腱を抽出していく。その後,中心線推定で中心線の修正を行い,完成となる(図4)。慣れると1本の腱を5分以内で処理が可能となる。

図3 新・CT細血管解析の詳細設定

図3 新・CT細血管解析の詳細設定

 

図4 新・CT細血管解析による長母指屈筋腱の抽出

図4 新・CT細血管解析による長母指屈筋腱の抽出

 

症例提示

症例(図5)は,68歳,男性。電動サンダーで,母指と示指の間を裂傷した(図5 a)。長母指屈筋腱損傷疑いでCT撮影となった。まず,VR画像を作成したところ,裂傷した腱の連続性の途絶が確認できた(図5 b)。VR画像,通常のMPR画像では,完全断裂か不全断裂しているか診断することが難しかったため,新・CT細血管解析を利用し,腱のCPRを作成することにした。その結果,腱は完全に断裂しておらず,不全断裂であることが確認できた(図5 c)。
整形外科医からは,実際のオペでもこの画像のとおりで,とても有用な画像であったと報告された。腱の手術は,完全断裂か不全断裂かで,術式,難易度,時間が大きく変わるので,本症例は,短時間で有用な画像を提供することができたと思われる。

図5 症例画像

図5 症例画像

 

おわりに

AZE VirtualPlace風神の新・CT細血管解析を利用した腱病変の描出における有用性について述べた。現在では,手の腱以外に足の腱も,目的に応じてこの方法で行っている。本法を使用してからは,CTにおける腱の撮影依頼が増えていることから,整形外科医からの画像評価が確実に向上していると思われる。今後の課題として,以前は腱の撮影自体が年間数件程度に限られ既存のカラーマップしか使用していなかったので,腱の描出の最適なオパシティカーブの調整なども検討していきたい。また,腱のCPRの作成についても改善の余地は残されているため,さらなる画質の向上に努めたい。

●参考文献
1)日本放射線技術学会撮影部会:X線CT撮影における標準化~GALACTIC~(改訂2版). 京都, 日本放射線技術学会, 2015.
2)太田 剛:Dual Energy CTによる腱病変の描出 手外科領域における臨床. INNERVISION, 28・11(Suppl.), 22~23, 2013.

【使用CT装置】
SOMATOM Definition Flash
(シーメンス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace風神(AZE社製)

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