次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2019年12月号

No.212 中大脳動脈閉塞症 ─閉塞した動脈分枝を血栓回収術前に迅速に画像化できるのか

木下 良正(医療法人社団水光会 宗像水光会総合病院脳神経外科)

はじめに

発症6時間以内の脳主幹動脈閉塞に対するステントリトリーバーを用いた機械的血栓回収療法は,日本脳卒中学会の「脳卒中治療ガイドライン2015(追補2017)」でグレードAとして推奨されており,多くの施設で積極的に実施されている。症状,CT所見のみで血栓回収術を実施する施設も多いが,24時間体制でMRI,MRA検査を緊急で実施できる施設では,拡散強調画像(DWI)で梗塞範囲を,FLAIR画像で梗塞経過時間の判断や閉塞した血管の描出(hyper-intense vessel sign),T2WIで出血性変化の有無や血栓の性状,arterial spin labeling(ASL)で脳循環状態の情報を得ている。MRAでは閉塞部位を画像化できるが,閉塞部より末梢の血管走行,分枝の本数や動脈解離の有無,脳動脈瘤の有無の情報は得られない。そのため,臨床現場では,閉塞部より末梢の中大脳動脈の走行や動脈瘤の存在がわからないまま,手探りでlesion crossさせているのが現状である。そこでより安全に血栓回収術を実施できるよう,術前に血管走行,動脈瘤の有無,血栓の大きさ,血管径などの情報が得られないか検討した。
椎骨動脈解離の診断でよく用いられるbasi-parallel anatomical scanning(BPAS)では,髄液を陽性像として画像化し,血管閉塞の有無にかかわらず血管を陰性像として容易に描出可能である。本手法を応用するため,血管を陰性像として描出できる3D-heavy T2WIから血管を描出する方法を,2つの手法で検討した。

症例提示

症例は90歳代,女性。夕食後に突然,左片麻痺,右共同偏視,構音障害が出現し,発症から30分以内に救急搬入された。意識レベルはJCS I-3,GCS E4-V4-M6,NIHSS 10点であった。使用機種は1.5T MRI「MAGNETOM Amira」(シーメンス社製)で,急性期脳血管障害ルーチン検査のDWI,FLAIR,T2WI,MRA,ASLの撮像に加えて,3D-heavy T2WI(SPACE:Sampling Perfection with Application optimized Contrast using different flip angle Evolution,TR 1500ms,TE 189ms,スライス厚1mm)を追加撮像した。
DWI,MRAにより急性脳血管閉塞を確認したところで,t-PAによる血栓溶解療法,血管内手術である血栓回収術の準備,家族への説明を進めながら,撮像を継続した(図1 a〜c)。3D-heavy T2WIでは,右内頸動脈から右中大脳動脈の分枝が陰性像として明瞭に描出されており,血管内の血栓と閉塞血管が正常血管より高信号に認められた(図1 d)。

図1 来院時DWI(a),ASL(b),MRA(c),3D-heavy T2WI(d) 右前頭葉に新しい梗塞巣を認め(a),同部より広い範囲で脳血流低下を認める(b)。MRA(c)では右中大脳動脈水平部に閉塞を認め(↓),3D-heavy T2WI(d)では開存している血管(→),閉塞部血栓(↓),閉塞後の血管(↓)を確認できる。

図1 来院時DWI(a),ASL(b),MRA(c),3D-heavy T2WI(d)
右前頭葉に新しい梗塞巣を認め(a),同部より広い範囲で脳血流低下を認める(b)。MRA(c)では右中大脳動脈水平部に閉塞を認め(),3D-heavy T2WI(d)では開存している血管(),閉塞部血栓(),閉塞後の血管()を確認できる。

 

1.手法1:従来方法
中大脳動脈水平部前後の25枚に対して,マニュアルでスライスごとに領域を選択し,カラーマップやレイヤーを駆使して血管および脳槽を描出したが,見やすい画像の作成に20分程度の時間を要した(図2)。本手法では,領域選択で脳表を領域選択すると血管周囲に脳表が残り,血管走行が見えづらくなる。中大脳動脈周囲の脳槽が狭い非高齢者では領域選択が難しく,脳表の削除作業が必要になり,さらに煩雑な手法であった。

図2 3D-heavy T2WIからの血管抽出方法(従来方法) 3D-heavy T2WIの原画像上で内頸動脈から中大脳動脈をマニュアルで選択し(a),3D構築することでMRAでは確認できない血管分枝が描出できる。しかし,領域選択の際に血管周囲の脳組織を含んでしまうと,血管周囲に脳表の一部が残存し,血管走行が不明瞭になってしまう(b)。髄液腔を青くして血管走行を強調しても,血管分枝がわかりにくい。

図2 3D-heavy T2WIからの血管抽出方法(従来方法)
3D-heavy T2WIの原画像上で内頸動脈から中大脳動脈をマニュアルで選択し(a),3D構築することでMRAでは確認できない血管分枝が描出できる。しかし,領域選択の際に血管周囲の脳組織を含んでしまうと,血管周囲に脳表の一部が残存し,血管走行が不明瞭になってしまう(b)。髄液腔を青くして血管走行を強調しても,血管分枝がわかりにくい。

 

2.手法2:心臓MR細血管解析を利用する方法
血管の分岐状況の把握,閉塞血管の同定に焦点を絞り,「AZE VirtualPlace雷神」(AZE社製)の心臓MR細血管解析を利用した。グラフト1を選択して右内頸動脈から右中大脳動脈方向に大まかに血管を選択(図3(1)),違う血管を選択しても,CPR像を回転させることで血管の連続性を確認でき,血管選択の修正が容易であった(図3(2))。血管の中心を細かく補正し,できるだけ直線になるように血管中心線を指定した(図3(3))。

図3 血管分枝の画像化(1本目) AZE VirtualPlace雷神の心臓MR細血管解析を利用する手法であり,グラフト1を選択して右内頸動脈から右中大脳動脈方向に大まかに血管を選択する((1))。併走する中大脳動脈を間違って選択しても,CPR像を回転させながら血管の連続性を確認し,修正が可能である((2))。血管の中心を細かく補正し,できるだけ直線になるように血管を選択し((3)),血栓がない中大脳動脈頭頂枝の走行が選択できている。

図3 血管分枝の画像化(1本目)
AZE VirtualPlace雷神の心臓MR細血管解析を利用する手法であり,グラフト1を選択して右内頸動脈から右中大脳動脈方向に大まかに血管を選択する((1))。併走する中大脳動脈を間違って選択しても,CPR像を回転させながら血管の連続性を確認し,修正が可能である((2))。血管の中心を細かく補正し,できるだけ直線になるように血管を選択し((3)),血栓がない中大脳動脈頭頂枝の走行が選択できている。

 

次いで,グラフト2を選択して分岐部から閉塞した血管を追跡し,閉塞血管内の血栓の位置の確認や,血管外径の計測が可能であった(図4)。

図4 中大脳動脈分枝の画像化(2本目) グラフト2を選択して,中大脳動脈分岐部から閉塞した血管を追跡する。CPR像では閉塞血管内の血栓の位置の確認や,血管外径の計測が可能である。

図4 中大脳動脈分枝の画像化(2本目)
グラフト2を選択して,中大脳動脈分岐部から閉塞した血管を追跡する。CPR像では閉塞血管内の血栓の位置の確認や,血管外径の計測が可能である。

 

同様に,グラフト3を選択して中大脳動脈分枝を選択,この血管の血栓の存在を確認できた(図5)。CPR像で血管分岐部の動脈瘤がないことも確認でき,分枝方向や血栓の大きさや長さ,閉塞状況が確認できた。3本の分枝を選択し,血管分枝の立体像の作成までに要した時間は5分以内であり,血栓の存在部位と閉塞血管の位置関係を機械的血栓回収術の術者に伝えることで,血栓回収術の参考画像とすることが可能であった。

図5 中大脳動脈分枝の画像化(3本目) グラフト3を選択して別の中大脳動脈の血管分枝を追跡し,この血管にも血栓の存在を確認できる。最終的に,3Dの血管分岐のワイヤ像を自由に動かすことで,分岐角度の把握やoperative viewの作成が可能である。

図5 中大脳動脈分枝の画像化(3本目)
グラフト3を選択して別の中大脳動脈の血管分枝を追跡し,この血管にも血栓の存在を確認できる。最終的に,3Dの血管分岐のワイヤ像を自由に動かすことで,分岐角度の把握やoperative viewの作成が可能である。

 

おわりに

2~4分のheavy T2WI撮像を追加し,さらに5分程度AZE VirtualPlace雷神の心臓MR細血管解析を利用することで,閉塞した血管分枝画像作成や血栓の確認ができる。また,血管分岐部までの距離,血管外径,動脈瘤の有無が血栓回収術前に把握できるため,緊急の血栓回収現場では簡便かつ有用な手法である。
病院到着から血栓回収までの時間を短縮するための閉塞血管情報の必要性や重要性は,術者の考えに大きく依存しており,施設によっては術前検査はCTのみ,もしくは短時間に制限したMR撮像のみしか実施しない場合もある。閉塞血管の情報が短時間で得られる本手法を今回紹介したが,臨床現場での応用を検討していただきたい。ただし,自動で血管追跡できる機能がないため,本手法はすべてマニュアル操作である。また,血管と血管の分岐部をうまく連続させるためにはコツが必要であり,非救急時に画像作成を習得しておくことが重要である。

【使用MRI装置】
MAGNETOM Amira(シーメンス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace雷神(AZE社製)

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