セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第78回日本医学放射線学会総会が2019年4月11日(木)〜14日(日)の4日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。13日(土)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー12では,神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線診断学分野教授の村上卓道氏が司会を務め,横浜市立大学大学院医学研究科放射線診断学教授の宇都宮大輔氏,岩手医科大学医学部放射線医学講座主任教授の吉岡邦浩氏,広島大学大学院医系科学研究科放射線診断学教授の粟井和夫氏が,「CT最前線〜AI技術を搭載した次世代CTと検査〜」をテーマに講演を行った。

2019年7月号

第78回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー12 CT最前線〜AI技術を搭載した次世代CTと検査〜

循環器画像診断の新たな展開(心臓CT)

宇都宮大輔(横浜市立大学大学院医学研究科放射線診断学)

本講演では心臓CTについて,特に冠動脈CTAの位置づけと,心筋虚血評価におけるキヤノンメディカルシステムズ社の“CT-FFR”(W.I.P.)の特徴および有用性について述べる。

冠動脈CTAの位置づけ

64列MDCTの登場により冠動脈CTAの診断能は飛躍的に向上し,多くの論文で狭窄の検出における陰性適中率(NPV)は90%以上との結果が示されている。320列ADCTなどのwhole heart coverage CTに至っては,心房細動(AF)のある症例でも診断不可に分類される画像はほとんどないと報告されている。冠動脈CTAでは今後はさらに,狭窄以上の評価が求められてくる。
冠動脈CTAのレポートの国際的標準化ガイドラインである“CAD-RADS”では,狭窄度が0(0%)〜5(100%)の6段階に分類されており,CAD-RADS 4と5(狭窄度70%以上)は特に注意を要する。実際の症例の予後を5年間追跡した結果を見ると,狭窄度と予後ははっきりと相関しており1),いまや冠動脈CTAは冠動脈疾患の標準的な第一選択の検査法となっている。
一方,冠動脈CTAの予後に対する影響を見た大規模な前向き・ランダム化・多施設共同研究は,“SCOT-HEART”と“PROMISE”がある。

1.SCOT-HEARTの概要
SCOT-HEARTでは,安定型の胸痛患者を標準ケア群(2070例)と標準ケア+冠動脈CTA群(2069例)に振り分けて経過観察が行われた2)。本研究ではどちらの群も治療開始の6週間後に治療方針を再検討し,標準ケア+冠動脈CTA群では冠動脈CTAの情報を踏まえて治療方針を再考した。対象症例のうち冠動脈疾患があると診断されたのは,baseline diagnosisでは標準ケア群が11%(220例),標準ケア+冠動脈CTA群が10%(197例)であったが,6週間後に診断を見直した結果,標準ケア+冠動脈CTA群では23%(476例)に増加した3)。さらに,両群の予後を追跡したところ,標準ケア+冠動脈CTA群の方が心血管イベントが少なく3),冠動脈CTAを行った方が明確な治療方針の立案が可能であり,あらゆる年齢層,性別においてベネフィットが多いことが示された4)

2.PROMISEの概要
一方,PROMISEでは,登録患者を冠動脈CTA群(4996例)と機能的検査群(5007例)に分けて予後を追跡した。その結果,エンドポイントにおいて両群共に有意差は見られなかった5)。冠動脈CTAを追加しても患者の予後は変わらず,不要なCAGを減少できるがグループ全体としては冠動脈CTAを施行するために,被ばく線量は増加すると報告された。これはSCOT-HEARTの結果とは異なる方向性を示唆するものである。
このようにPROMISEとSCOT-HEARTの結果に乖離が見られることからは,冠動脈CTAをベースにしたストラテジーについて明らかな優位性が示されたとまでは言えないと考えられている6)

心筋虚血の評価:CT-FFR

1.冠血流予備量比(FFR)の有用性
近年,虚血性心疾患(CAD)においては,CAGや冠動脈CTAによる視覚的(解剖学的)狭窄と,冠血流予備量比(FFR)やシンチグラフィ(SPECT,PET)による機能的狭窄は必ずしも一致しないことが明らかとなっている。視覚評価のみで治療方針を決定し,薬物治療を受けた症例のうち約20%は本来,経皮的冠動脈形成術(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)が必要であり,逆に,PCIやCABGを施行された症例のうち約55%は,薬物治療で十分であったことが報告されている7)
これらの症例に対し,心筋虚血診断のゴールドスタンダードであるFFRを計測すると,冠動脈狭窄はあるが虚血はない群(stenosis without ischemia:SWOI)と,有意な狭窄はないが虚血のある群(ischemia without significant stenosis:IWOS)があることが知られている。“FAME trial”では,FFRの計測により的確に心筋虚血が検出でき,FFR値 0.8未満の患者にPCIを施行することで予後が向上することが示されている8)

2.CT-FFRの特長
FFRの計測は侵襲的であるため,冠動脈CTAのデータからシミュレーションによりFFRを算出する技術(FFRCT:ハートフロー社)が開発された。現在,国内外で最も多く用いられているFFRCTは,CTのデータをメーカーに送って後日,解析結果が提供されるというoff-siteでの解析であり,高額な費用なども問題となる。一方,キヤノンメディカルシステムズ社のCT-FFRはon-siteでの解析が可能であり(図1),拡張期4相から血管内腔の変形(しなやかさ)も含めて評価する点は,従来の手法とは異なる新しい特徴である。また,CT-FFRは,FFRCTと遜色のない結果が得られることが報告されている9)

図1 CT-FFRの概要(W.I.P.)

図1 CT-FFRの概要(W.I.P.)

 

実際の症例を提示する。冠動脈CTAにて左前下行枝(LAD)近位部に狭窄を認めたため,CT-FFRを計測したところ,LADの値は0.85で,侵襲的FFR(invasive FFR)でも0.81であった(図2)。そのため,PCIは施行していないが,経過は良好である。

図2 症例提示:CT-FFR

図2 症例提示:CT-FFR

 

3.FFRCT,CT-FFRの課題
侵襲的FFRと比較して境界域が非常に広いことが,FFRCTあるいはCT-FFRの課題と言える。プレッシャーワイヤを用いた侵襲的FFRでは虚血と非虚血を分ける境界域は非常に狭いが,FFRCT, CT-FFRではその境界域は広く,カットオフ値を0.8に設定しても正診率は必ずしも高くない。

4.解剖学的狭窄と機能的狭窄に関する検討
有意狭窄があるのに虚血を来さない病変(SWOI)と,有意狭窄がないのに虚血を来す病変(IWOS)の違いはなぜ起きるのかは不明な点が多い。われわれは,プラークボリュームやプラーク性状が関係している可能性があるとの仮説を立てた。侵襲的FFRを予測する重要因子について,新古賀病院,熊本大学,愛媛大学,順天堂大学の多施設共同により検討を行っている。キヤノンメディカルシステムズ社の320列ADCT「Aquilion ONE」を使用し,冠動脈CTAから得られる情報(狭窄度やプラークボリューム,プラークCT値)とCT-FFR値の情報を総合的に評価した。解析には機械学習手法を応用した。
結果は,ランダムフォレストを用いた機械学習が良好であり,解析において最も重要な因子はCT-FFR値であった。

まとめ

冠動脈CTAにCT-FFRによる機能的情報を加味して総合的に評価することで,心臓CTの役割は大きくなると考える。また,今後はCT-FFRのような新しい技術と人工知能を融合した解析の応用にも大いに期待ができると考えている。

●参考文献
1)Xie, J.X., et al., JACC Cardiovasc. Imaging, 11・1, 78〜89, 2018.
2)Newby, D.E., et al., Trials, 13, 184, 2012.
3)SCOT-HEART investigators, Lancet, 385・9985, 2383〜2391, 2015.
4)Newby, D.E., et al., N. Engl. J. Med., 379・10, 924〜933, 2018.
5)Douglas, P.S., et al., N. Engl. J. Med., 372・14,1291〜1300, 2015.
6)Kaul, S., JAMA Cardiol., 2018(Epub ahead of print).
7)Nakamura, M., et al., Cardiovasc. Interv. Ther., 30・1, 12〜21, 2015.
8)De Bruyne, B., et al., N. Engl. J. Med., 371・13, 1208〜1217, 2014.
9)Ko, B.S., et al., JACC Cardiovasc. Imaging, 10・6,663〜673, 2017.

 

宇都宮大輔

宇都宮大輔(Utsunomiya Daisuke)
1996年 熊本大学医学部卒業。2006年 同大学院修了。NTT西日本九州病院,熊本中央病院,済生会熊本病院などを経て,2014年熊本大学画像動態応用医学共同研究講座特任准教授。2019年〜横浜市立大学大学院医学研究科放射線診断学教授。

 

 

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