セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第78回日本医学放射線学会総会が2019年4月11日(木)〜14日(日)の4日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。12日(金)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー10では,東北大学大学院医学系研究科放射線診断学分野教授の高瀬 圭氏が座長を務め,藤田医科大学医学部先端画像診断共同研究講座准教授の村山和宏氏と山口大学大学院医学系研究科放射線医学講座教授の伊東克能氏が,「AI×次世代MRIのインパクト」をテーマに講演を行った。

2019年7月号

第78回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー10 AI×次世代MRIのインパクト

体幹部領域における高精細イメージングの臨床応用─DLR(Deep Learning Reconstruction)

伊東 克能(山口大学大学院医学系研究科放射線医学講座)

次世代高分解能MRI「Vantage Galan 3T/ZGO」(ZGO)(キヤノンメディカルシステムズ社製)が,当院にて2018年12月より稼働を開始した。体幹部領域のMR撮像で高精細画像を得るためには,撮像時間を長くし,加算回数を増やす必要があり,呼吸停止下での撮像が困難となる。また,呼吸停止下で空間分解能を保ったまま撮像を行うとSNRが低くなり,画質が低下することが課題となっていた。そこで,AIを応用した画像再構成技術“Deep Learning Reconstruction”(DLR)を用いてノイズを除去(デノイズ)することで,呼吸停止下でも高精細画像が得られるようになった。
本講演では,体幹部の高精細・高分解能イメージングへのDLRの応用を中心に,臨床画像を提示して報告する。

DLRを用いた高精細MRIによる腹部イメージング

1.DLRの概要と有用性
DLRは,低SNRな入力画像ときわめて高精細な教師画像を基に構築されたneural networkが,低SNR画像のノイズを認識して除去し,画像再構成を行う技術である。一般的なスムージング処理を行い,処理前後の画像でサブトラクションを行うと,臓器の輪郭などの情報が残るが,DLRではオリジナル画像からノイズのみが抽出される。図1は,加算回数(NAQ)の異なる2D-FASE T2強調画像(T2WI)とDLRの比較であるが,DLR(c)ではわずか9秒で,10回加算(33秒)の画像(b)と同等の画質が得られている。膵臓の部分(図1 )を見ると,むしろDLRの方が空間分解能が高く,小さな嚢胞性病変も明瞭である。この画像は面内分解能0.6mm,スライス厚1.5mmであるが,DLRを用いることで,SNRを担保しつつ,高い空間分解能の画像を呼吸停止下で取得することが可能となる。

図1 加算回数の異なる2D-FASE T2WIとDLRの比較

図1 加算回数の異なる2D-FASE T2WIとDLRの比較

 

2.DLRの特徴
LRの特徴として,除去できるのはノイズのみでありアーチファクトなどは残存し,撮像部位やシーケンスを問わずに撮像できることが挙げられる。
当院のDLRはプロトタイプということもあり,多くのパラメータが準備されている。DLRのノイズ除去強度は15段階あり,さらにノイズ付加強度は2段階の設定がある。通常のMR画像はある程度ノイズを含んでおり,ノイズを完全に除去すると違和感のある画質になるため,DLRはノイズ除去後にもう一度付加する設定となっている。また,強度は,撮像シーケンスごとに調整する必要があるが,製品版ではノイズ除去強度は自動化される。今回は説明の簡略化のため,15段階のノイズ除去強度を,低度,中等度,高度の3段階で説明する。

3.DLRの強度設定に関する検討
DLRでは,強度が上がるに従いノイズが低減するが,強度を上げすぎるとノイズと認識されたものは除去される可能性があるため注意を要する。そこで,最も良好なDLRの強度について検討を行った。
コンベンショナルなin-phaseのT1強調画像(T1WI)のノイズレベルとSNRを基準とし,DLRの強度を低度〜中等度まで変化させて画質変化を検討すると,低度のデノイズ強度が最適と思われた(図2)。T2WIも同様の検討の結果,低度のデノイズ強度が最適であり,肝転移の辺縁も最も明瞭となった。
また,造影前T1WIは,高分解能撮像を行っているためノイズが多く,DLRで十分な効果を得るためには高度のデノイズ強度を設定する必要がある。一方,造影後は元画像のノイズが低減するため,DLR強度は低度〜中等度で十分な効果が得られた。

図2 In-phaseのT1WIにおけるDLRの最適な強度

図2 In-phaseのT1WIにおけるDLRの最適な強度

 

Gd-EOB-DTPA造影MRIの肝細胞相では,元画像のノイズがさらに低減するため,3mmスライス厚であれば中等度のデノイズ強度でもノイズの影響が少ない,きわめて高分解能な画像が得られる。図3は肝細胞がん(HCC)であるが,中等度のデノイズ強度(b)にて小さな病変の辺縁が非常に明瞭となり,動脈相2相目(AP2)ではコロナ様濃染のような所見もしっかりと同定できる。

図3 Gd-EOB-DTPA造影ダイナミックMRIにおけるDLRによる描出能の向上(HCC)

図3 Gd-EOB-DTPA造影ダイナミックMRIにおけるDLRによる描出能の向上(HCC)

 

4.DLRの強度による描出能の変化の検討
DLRを適用することで,既存構造や病変が見えづらくなる,あるいは本来見えていないはずのものが見えてくるといった可能性について検討を行った。
図4は多発肝転移で,低度のデノイズ強度(b)では病変が非常に明瞭となるが,デノイズ強度が中等度以上になると辺縁が不明瞭となった。一方,高信号な早期濃染偽病変は,DLRの強度の上昇に伴いより明瞭となった。再生結節やdysplastic nodule,早期HCCなどの淡いT2低信号結節についても検討したところ(図5),コンベンショナルな厚いスライスのT2WI(a)にて指摘困難な病変が,スライス厚を薄くすること(DLR 0: b)によってわずかに描出され,低度のデノイズを適用することにより,より明瞭となった(c)。同様に,肝細胞相のみで低信号となるhigh risk noduleも,DLRの画像で明瞭に描出されていた。

図4 DLRの強度による描出能の変化(多発肝転移)

図4 DLRの強度による描出能の変化(多発肝転移)

 

図5 T2低信号結節におけるDLRの影響の検討

図5 T2低信号結節におけるDLRの影響の検討

 

5.high resolution imaging
腹部領域の撮像では,高分解能画像を得るためにFOVを絞ると折り返しアーチファクトが生じるという問題がある。一方,胆嚢をターゲットに表面コイルを用いてsmall FOVで撮像すると,元画像では構造がほとんど描出されないが(図6 a),DLRを適用することで,胆嚢壁や胆嚢床部の囊胞性変化も比較的良好に描出される(図6 b)。同様の方法による造影の高分解能撮像では,胆嚢壁などの構造がより明瞭になると考える。

図6 DLRを用いた胆嚢のhigh resolution imaging

図6 DLRを用いた胆嚢のhigh resolution imaging

 

MR compressed sensingへのDLRの適用

compressed sensing(CS)は,k-space上のデータを疎にしてアンダーサンプリングを行うことで撮像時間の短縮化を図り,さらにwavelet変換によるデータ復元を行って画像再構成する手法である。CSでは,ノイズ除去のレベルを上げるとノイズ成分と近い値の信号も除去されるため,画像が不鮮明となることが問題となる。そこで,キヤノンメディカルシステムズ社は,SENSE法とGRAPPA法を組み合わせ,さらに複数の感度マップを有する“MeAS”(W.I.P.)を開発し,これにCSを組み合わせた“MeACS” (W.I.P.)によって画質の低下を抑えた画像再構成を可能とした。
また,T2WIに対してMeACS(2.8倍速)とDLRを併用したところ,面内分解能が向上してスライス厚が薄くなったことで,小さな囊胞構造が明瞭となった(図7)。今後,MeACS+DLRによって腹部撮像の高分解能化および高速化を図っていけるのではないかと考えている。

図7 MeACS+DLRによる高速・高分解能撮像

図7 MeACS+DLRによる高速・高分解能撮像

 

MOLLI法によるT1 mapへのDLRの適用

近年,慢性膵炎の診断あるいは内分泌機能の診断にMOLLI法によるT1 mapのT1値が有用であるとされている。T1 mapにDLRを適用したところ,定量値にはほぼ変化がないため,今後当院にて検討を進めていく予定である。
さらに,当院では,cine dynamic MRCPを用いて膵液の流れを評価しているが,これは,膵の外分泌機能を評価する上で非常に重要である。内分泌の評価に有用なT1 mapを組み合わせることで,膵の内分泌,外分泌の両方の機能を同時に評価できる可能性があると考えている。

 

伊東 克能

伊東 克能(Ito Katsuyoshi)
1988年 山口大学医学部医学科卒業。1995年 カリフォルニア州立大学サンディエゴ校客員研究員。1996年トーマスジェファーソン大学医学部放射線科客員研究員。2007年川崎医科大学放射線医学教授。2017年〜山口大学大学院医学系研究科放射線医学講座教授。

 

 

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