セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第78回日本医学放射線学会総会が2019年4月11日(木)〜14日(日)の4日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。13日(土)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー12では,神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線診断学分野教授の村上卓道氏が司会を務め,横浜市立大学大学院医学研究科放射線診断学教授の宇都宮大輔氏,岩手医科大学医学部放射線医学講座主任教授の吉岡邦浩氏,広島大学大学院医系科学研究科放射線診断学教授の粟井和夫氏が,「CT最前線〜AI技術を搭載した次世代CTと検査〜」をテーマに講演を行った。

2019年7月号

第78回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー12 CT最前線〜AI技術を搭載した次世代CTと検査〜

Deep Learning based Spectral Imaging with ADCT

粟井 和夫(広島大学大学院医系科学研究科放射線診断学)

キヤノンメディカルシステムズ社は現在,新しいdual energy CT(DECT)として,「Deep Learning based Spectral CT(DL-Spectral CT)」(W.I.P.)を開発中である*。同社は人工知能(AI)の技術の一つであるdeep learning(DL)を応用した画像再構成技術“AiCE”を実用化しているが,DL-Spectral CTでは,投影データ(projection data)上にもDLを応用した画期的な技術である。
本講演では,DL-Spectral CTの原理として,projection dataの収集および欠損データの推定,automatic exposure control(AEC)を実行可能とした技術について述べ,最後にDL-Spectral CTの初期経験について報告する。

DL-Spectral CTの原理

1.DL-Spectral CTにおけるprojection data収集
CTにおける画像再構成の原理として,例えば「Aquilion ONE」のsingle energy CTでは,1回転で320列のprojection dataが収集され,そのデータにFBP法やIR法などを用いてCT画像を生成する。
一方,Aquilion ONEによるDECTでは,high kVとlow kVのrapid kV switching方式により,320列かつ複数エネルギーの情報を持ったprojection dataが収集される。このデータに対してmaterial decompositionを行い,basis material projection dataを生成し,画像再構成を行った上でbasis material reconstructionを行う。その後に種々のdual energy解析を行っていくのが,raw dataベースのDECT(rDE)画像の作成の流れである。
従来のrapid kV switching systemでは,high kVとlow kVの間の過渡的なkV部分のデータを用いて欠損データの補間を行うため,エネルギー分離が不十分となることが課題であった。これに対し,DL-Spectral CTは過渡的なデータを使用せず,電圧が安定した部分のみのデータを使用するため,high kVとlow kVのエネルギー分離は良好となる。
projection dataの欠損部分を推定するためには,形態情報(高周波情報)の正確な復元,X線吸収度(低周波情報)の正確な復元と,これらが広範な線量域で実行可能であることが求められる。DL-Spectral CTでは,projection dataの欠損部分を,過渡的な部分と対の電圧データ,およびdeep convolutional neural network(DCNN)を用いて高周波情報を復元し,さらに周囲のデータから低周波情報を復元して完全なデータを推定するというのが基本的な考え方である。

2.DL-Spectral CTにおけるAEC
DL-Spectral CTでは,従来のrapid kV switching方式では困難であったAECが可能となった。
AECは,患者の体の厚みに応じて管電流を変調し均質な画質を得るシステムで,断面方向に変調するangular modulationと,Z軸方向に変調するZ-axis modulationの2種類があり,現代のCT装置に不可欠な機能である。kV switchingにおける管電流波形が完全な矩形であればAECの適用も可能であるが,実際の波形は,管電流が高い場合はゆっくりと立ち上がって急激に低下し,管電流が低い場合は急激に立ち上がってゆっくり低下する。この波形の違いにより,kV switchingでは,high kVのデータ収集の際にlow kVのデータが,low kVのデータ収集の際にhigh kVのデータがわずかに含まれてしまうため,エネルギー分離が困難となる。さらに,管電流の変化によるkVの波形の変化を考慮した管電流変調が必要な点も,kV switching方式でのAECを困難にしている。
これに対し,DL-Spectral CTでは,kV switchingのサイクルをAECが適用可能な長さに調整しており,電圧が安定した部分のhigh kVおよびlow kVのprojection dataのみを収集する。さらに,データの欠損部については,前述のとおり,DCNNを用いることで完全なprojection dataを復元する。その上で,basis material projection dataを生成し,reconstructionを行って,最終的なdual energy解析を行う(図1)。
つまり,(1) 管電圧のスイッチングサイクルを調整して電圧が安定している部分でprojection dataを収集するため,エネルギー分離が良好,(2) projection dataの欠損部分を対の電圧データ(実データ)とspectral modelやmaterial modelなどを考慮したDCNNにより推定することから正確な復元が可能,というのがDL-Spectral CTの原理である。

図1 DL-Spectral CTにおける画像再構成の流れ

図1 DL-Spectral CTにおける画像再構成の流れ

 

DL-Spectral CTの臨床評価

図2は,single energy CTを用いた2回転方式によるDECT画像(a)と,そのデータから半分のデータを用いて再構成したDL-Spectral CTのシミュレーション画像(b)であるが,DL-Spectral CT(b)の方が低線量であるにもかかわらず,粒状性とコントラストはほぼ遜色のない画像が得られている。

図2 Single energy CTとDL-Spectral CTによるDECT画像の比較

図2 Single energy CTとDL-Spectral CTによるDECT画像の比較

 

図3は,仮想単色X線画像(VMI)による40〜80keVの画像であるが,視覚的にはDL-Spectral CT(b)でも2回転方式(a)と空間分解能はほぼ同等の画像が得られている。

図3 Single energy CTとDL-Spectral CTによる仮想単色X線画像(VMI)の比較

図3 Single energy CTとDL-Spectral CTによる仮想単色X線画像(VMI)の比較

 

人体ファントムを用いて,DL-Spectral CTにおけるAECの検証を行ったところ,正面像,側面像共に,angular modulationとZ-axis modulationのいずれも正常に作動していることが確認できた(図4)。angular modulationを適用した実際の画像でも,SDの値は肩が7.84,胸部の下部は8.10,腹部は7.92と,SD的にも安定してAECが作動していることが確認できた。

図4 人体ファントムを用いたDL-Spectral CTにおけるAECの検証

図4 人体ファントムを用いたDL-Spectral CTにおけるAECの検証

 

DCNNによるprojection data欠損部の復元精度について,櫛状ファントムを用いて検証したところ,DL-Spectral CTの方がsingle energy CTよりも空間分解能が向上しており(図5),また,MTFも同様の結果であった。

図5 DL-Spectral CTにおける空間分解能の検討

図5 DL-Spectral CTにおける空間分解能の検討

 

NPSを比較したところ,低周波領域では,AIDR 3Dで再構成したsingle energy CTよりもDL-Spectral CTの方がイメージノイズが低減していた(図6)。ここから,DL-Spectral CTでは,低コントラスト物質の検出能が向上する可能性が高いと考えられる。

図6 DL-Spectral CTにおけるNPSの検討

図6 DL-Spectral CTにおけるNPSの検討

 

さらに,物質のエネルギー弁別について,DL-Spectral CTを用いて低線量,中線量,高線量で電子密度ファントムを撮影し,さまざまな物質の電子密度を測定したところ,すべての物質において,いずれの線量でも真値に近い値が得られていた。DL-Spectral CTはエネルギー分解能が優れているため,電子密度の定量性も高くなっていると考えられる。DL-Spectral CTは将来,イメージングバイオマーカーとして非常に有望なCT装置になりうると考えている。

まとめ

DL-Spectral CTは,DCNNをprojection dataにも応用することで空間分解能およびエネルギー分離の向上,ノイズの低減を同時に実現した。また,AECが実行可能であることから,今後,線量の最適化が可能になると期待される。DL-Spectral CTは現在,キヤノンメディカルシステムズ社のArea Detector CT「Aquilion ONE/GENESIS Edition」ベースでの開発が進められており,最大16cmという広範な領域のdual energy解析の可能性に期待したい。

* 2019年6月1日より,新たなデュアルエネルギー技術“Spectral Imaging System”を搭載可能なエリアディテクタCT「Aquilion ONE/GENESIS Edition」の国内販売を開始しました。

 

粟井 和夫

粟井 和夫(Awai Kazuo)
1986年 広島大学医学部卒業。90年 同大学院医学系研究科修了。近畿大学放射線医学講座講師,熊本大学大学院画像診断解析学講座特任教授などを経て,2010年より広島大学大学院医歯薬保健学研究科放射線診断学研究室(現・広島大学大学院医系科学研究科放射線診断学)教授。2018年からは同研究科副研究科長併任。

 

 

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