セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年5月24日(金)〜26日(日)の3日間,日本超音波医学会第92回学術集会など超音波関連の4つの学会・研究会によるUltrasonic Week 2019がグランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)を会場に開催された。25日に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー6では,兵庫医科大学病院超音波センター/内科・肝胆膵科の飯島尋子氏が座長を務め,虎の門病院肝臓内科の斎藤 聡氏と川崎医科大学検査診断学内視鏡・超音波部門の畠 二郎氏が,「知っていますか?Aplio i-seriesの魅力〜腹部・超高周波編〜」をテーマに講演を行った。

2019年9月号

Ultrasonic Week 2019ランチョンセミナー6 知っていますか? Aplio i-seriesの魅力〜腹部・超高周波編〜

新時代におけるびまん性肝疾患の評価法について

斎藤  聡(虎の門病院肝臓内科)

本講演では,令和の新時代におけるびまん性肝疾患の評価法として,線維化の進行を評価する“Shear wave Elastography(SWE)”と脂肪化の程度を評価する“Attenuation Imaging(ATI)”について,キヤノンメディカルシステムズの超音波診断装置「Aplio i800」を用いた検討を報告する。さらに,SWEとATIを組み合わせた評価法である“Multi Parametric Report”についても紹介する。

びまん性肝疾患のトレンド

びまん性肝疾患のトレンドは,時代とともに変化してきた。C型肝炎は,2014年にインターフェロンフリー(INFフリー)の治療が始まり,現在ではほとんどの患者が治癒可能な状態となっている“平成の疾患”である。B型肝炎は治癒できないため令和時代にも存在しているが,ウイルスはほぼコントロールされている。そして現在,最も注目されているのが脂肪性肝疾患である。
肝疾患診療を取り巻く環境としては,肝臓の超音波エラストグラフィが保険収載され,超音波Bモード画像も大きく変化している。そして,肝疾患患者の急速な高齢化という状況の変化がある。
脂肪肝の超音波所見には,bright liver,肝腎コントラストの上昇,深部減衰,脈管不明瞭化などの特徴があるが,慢性腎不全を併発している症例などでは,Bモードでの脂肪肝所見の判断が難しいこともある。そのような場合でも,SWE(肝硬度)とATIは測定結果が数値で示され,脂肪肝を評価することができる。高齢化の進行でINFフリー治療薬が禁忌の腎疾患を有する患者の増加が見込まれることから,SWEやATIを診療に用いることは有用だと考えられる。

Shear wave Elastography(SWE)

1.SWEの検査方法
SWEの測定では,正しい方法で検査する必要がある。当院で施行しているSWEの検査のポイントを以下に挙げる(検査手技は同院分院の伝法秀幸技師がビデオで解説)。

  • プローブは,しっかりと押し込むために,角に指をかけて握り込むように持つ。
  • フィブロスキャンと比較することが多いため,測定位置はフィブロスキャンと同じ剣状突起下端と中腋窩線の交点とする。
  • Bモード画像を良好に描出することが重要。脈管や肝実質以外の構造物がない領域を表示し,SWEを測定する。
  • プローブは,肋骨に平行に当てる。また,肝表を水平に出るように当てることで,肝表に凹凸がある肝硬変症例においても再現性が高くなる。
  • ROIはプローブから約4cmの位置とする。肥満患者では多重反射の影響があるため,必要最小限だけ下げて調整する。
  • ROI設定では,ROIの位置は動かさずに一定とし,プローブ操作で適切な領域がROIに入るようにする。

 

2.Aplio i800によるSWEとTEの比較
当院にて,SWEとtransient elastography(TE:フィブロスキャン)の両方で肝硬度を測定した症例について比較した。対象は,SWEとTEを同日測定した各種慢性肝疾患の840例で,TEについては78%がMプローブ, 22%がXLプローブを使用した。このうち11例(1.3%)については,TE測定困難(XLプローブで狭肋間:9例)とSWE測定困難(肝硬変かつ皮下25mm超でpropagation mode不正:2例)のため除外した。
その結果,SWEとTEの相関係数はr=0.9322と非常に高い相関を示した(なお,SWEとTEの単位は共にkPaであるが,数値の一致ではなく相関である)。SWEは,正しい検査方法で測定することで,精度の高い検査が可能であると言える。
肝硬度測定に関しては,フィブロスキャンは患者の体格に合わせてMプローブとXLプローブを使い分ける必要があるが,Aplio i800では1本のプローブで皮下の厚い脂肪性肝疾患の患者にも対応できるという利点がある。

Attenuation Imaging(ATI)

1.Aplio i800によるATIの計測
Aplio i800に搭載されたATIは,超音波の減衰を利用して脂肪を定量化するアプリケーションである。計測のポイントは,Bモードを明瞭に表示し,シャドーの周辺,多重反射,アーチファクト,構造物をできるだけ避けて,画像中央部に2cm×4cm程度の大きさのROIを配置する。肝表厚の2倍程度の位置に計測ROIの上部を配置するのが目安となる。Aplio i800では,計測値の信頼性が文字色で表示され(信頼性が高い順に白→黄色→赤),信頼性が低い場合には再計測が必要である(図1)。

図1 ATIの計測値の信頼性

図1 ATIの計測値の信頼性

 

2.ATIとCAPの比較
当院にて,脂肪定量のため同日にATIとcontrolled attenuation parameter (CAP:フィブロスキャン)を測定した各種慢性肝疾患症例829例について比較した。その結果,ATIとCAPの相関係数はr=0.6705と良好であった。

3.ATIとPDFFの比較
MRIでは,proton density fat fraction(PDFF)による脂肪の定量的評価が可能である。当院の各種慢性肝疾患196例を対象に,PDFFと,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を評価する病理診断基準のNAS(NAFLD Activity Score)の脂肪化スコア(S0:なし〜S3:高度)を比較した結果,良好に一致していた。また,PDFFのカットオフ値を≧S1で5.2%,≧S2で10.6%,≧S3で16.1%とした場合,AUROCはいずれも0.96と非常に高い鑑別能を示した。各種論文1)〜4)も参考に,このカットオフ値を当院におけるPDFFの脂肪化グレードとし,ATIとの比較検討を行った。
当院で1か月以内にPDFFとATIの両方を測定した各種慢性肝疾患121例について,PDFFとATIの相関を分析したところ,相関係数はr=0.9414と非常に高い相関を示した(図2)。また,PDFFによる脂肪化グレードとATIを比べると,脂肪化グレードが上がるにつれてATIも上昇した(図3)。さらに,ATIのカットオフ値を≧S1で0.60 dB/cm/MHz,≧S2で0.71 dB/cm/MHz,≧S3で0.88 dB/cm/MHzとした場合に,ROC解析で非常に高い鑑別能を示したことから(図4),ATIは良好に脂肪を定量化できると考えられる。

図2 PDFFとATIの相関

図2 PDFFとATIの相関

 

図3 PDFFによる脂肪化グレードとATIの比較

図3 PDFFによる脂肪化グレードとATIの比較

 

図4 脂肪化分類ROC解析

図4 脂肪化分類ROC解析

 

4.ATI表示の工夫:Advanced SWE
ATIは脂肪肝の定量化に有用であるが,現在の検査フローとしては,Bモード後にSWEを5回,ATIを5回計測しており,スループットの向上が求められる。この解決策として開発された機能が,“Advanced SWE”である。Quad View(4画面表示)は,SWE,Propagation,Dispersion(SWD),ATIを同時計測する機能で,1つの画面に表示し,肝臓の線維化と脂肪化を同時に評価することができる(図5)。また,Twin View(2画面表示)もあり,Bモード,wave speed(SWS)なども含め,任意にマップを変更して表示できる(図6)。
目的によってROIの大きさや位置は異なる。SWEは肝表皮下1cm辺りにROIの上部を,ATIは肝表厚の2倍程度の位置にROIの上部を設定するが,Advanced SWEでは,SWE ROIの大きさに合わせてATI ROIの大きさと高さが自動的に調整されるため,SWEの画像収集に集中することができる。なお,設定の際には,ATIのROIが胆嚢に設定されないように注意する。
当院にてATIとAdvanced SWEを同日測定した129名について比較したところ,ATIとAdvanced SWEの相関係数はr=0.9138と高い相関を示した。肝硬度測定と脂肪定量検査が同時に行えるAdvanced SWEは,ATIと同等の計測が可能であり,スループット向上に貢献すると期待される。フィブロスキャンのTEとCAPの同時計測に近づいたと言えるだろう。

図5 Advanced SWE:Quad View

図5 Advanced SWE:Quad View

 

図6 Advanced SWE:Twin View

図6 Advanced SWE:Twin View

 

Multi Parametric Report

最近のびまん性肝疾患の研究では,肝硬度や脂肪定量などを個々に検討するだけでなく,さまざまな指標を組み合わせた検討が増えている。2018年の米国肝臓病学会(AASLD)では,肝硬度+脂肪量+血中AST値を組み合わせたアルゴリズムの提案や5),マルチパラメトリックMRIによる検討6)などが報告されている。
キヤノンメディカルシステムズが開発したMulti Parametric Reportは,SWE,ATI,SWD,NLV(Normalized Local Variance),皮下厚の5つの情報を五角形のレーダーチャートで統合表示し,視覚的にわかりやすい肝疾患評価をめざすアプリケーションである。レーダーチャートは,正常肝では中央に寄るグラフとなる。なお,5つのパラメータは任意に設定できる。
図7はB型慢性肝炎のMulti Parametric Reportであるが,SWE,ATI,SWD,NLVはいずれも正常で,皮下厚も薄く,きわめて線維化が軽いほぼ正常に近いB型肝炎であることがわかる。
図8はC型慢性肝炎と脂肪肝を合併した症例であるが,レーダーチャートではATIと皮下厚が突出していることから,本症例はC型肝炎よりも脂肪肝の方が問題であることがわかる。
図9はNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)症例で,ATI,NLV,皮下厚が突出している。線維化は進行しておらずほぼ正常だが,脂肪が非常に多く,NAFLDの特徴がよく表れている。
肝硬変では皮下厚が厚い症例が多く,SWE測定が難しいことが問題である。図10は肝硬変症例であるが,脂肪肝の症例のレーダーチャートとは異なり,ATIは正常で,SWE,SWDが大きく突出している。
このように,Multi Parametric Reportでは,レーダーチャートの形で疾患の鑑別がある程度可能と考えられる。5つの情報を統合して視覚的に総合判断できるMulti Parametric Reportは,非侵襲な検査で得られ,肝生検を代用できる可能性もあるため,さまざまな角度から検討していくことが必要だろう。

図7 Multi Parametric Report:B型慢性肝炎

図7 Multi Parametric Report:B型慢性肝炎

 

図8 Multi Parametric Report:C型慢性肝炎+脂肪肝

図8 Multi Parametric Report:C型慢性肝炎+脂肪肝

 

図9 Multi Parametric Report:NAFLD

図9 Multi Parametric Report:NAFLD

 

図10 ‌Multi Parametric Report:肝硬変

図10 ‌Multi Parametric Report:肝硬変

 

まとめ

びまん性肝疾患の評価においては,正しい方法で検査することが非常に重要である。Aplio i800にて,正しい方法で測定したSWEとATIは,それぞれTE,CAPと良好に相関する。また,Advanced SWEやMulti Parametric Reportにより,同時計測や総合評価が可能になり,新時代のびまん性肝疾患評価に有効に活用できると考える。

●参考文献
1)Imajo, K., et al., Gastroenterology, 150・3, 626〜637, 2016.
2)Park, C.C., et al., Gastroenterology, 152・3, 598〜607, 2017.
3)Runge, J.H., et al., Radiology, 286・2, 547〜556, 2018.
4)Tang, A., et al., Radiology, 274・2, 416〜425, 2015.
5)Sasso, M., et al., AASLD 2018, oral #140.
6)Salvati, A., et al., Dig. Liver Dis., 51(Suppl. 2), e79〜e80,2019. MULTI-PARAMETRIC MRI
https://perspectum-diagnostics.com/

 

斎藤  聡(Saito Satoshi)

斎藤  聡(Saito Satoshi)
1984年 宮崎医科大学医学部卒業。同年 虎の門病院内科レジデント,89年 同消化器科。2006年 総合南東北病院消化器内科。2007年 虎の門病院肝臓センター・分院放射線科兼任。

 

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