セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第80回日本医学放射線学会総会が2021年4月15日(木)〜18日(日)にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市),4月28日(水)〜6月3日(木)にWebでハイブリッド開催された。4月17日(土)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー11では,熊本大学大学院生命科学研究部放射線診断学講座教授の平井俊範氏が司会を務め,杏林大学医学部放射線医学教室(現・東京女子医科大学東医療センター放射線科教授)の町田治彦氏,愛媛大学大学院医学系研究科放射線医学教室教授の城戸輝仁氏,広島大学大学院医系科学研究科放射線診断学研究室教授の粟井和夫氏が,「Area Detector CTのさらなる技術革新〜質的診断・定量評価への挑戦〜」をテーマに講演を行った。

2021年7月号

第80回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー11 Area Detector CTのさらなる技術革新 〜質的診断・定量評価への挑戦〜

面検出器CTによる心筋虚血評価の到達点

城戸 輝仁(愛媛大学大学院医学系研究科放射線医学教室)

循環器診療における冠動脈CTは近年,急速に普及してきた。本講演では,面検出器CT「Aquilion ONE」(キヤノンメディカルシステムズ社製)を用いた心筋CT Perfusionの有用性と,より正確な虚血評価に有用なTerritory Mapについて紹介する。

冠動脈CTの現状

わが国における冠動脈CTの年間実施件数は50万件近くに上り,心臓カテーテル検査に匹敵するほど普及している。冠動脈CTは,非侵襲的かつ高精度に冠動脈狭窄病変を評価でき,特に,陰性的中率が高いことから,中等度リスク群に対する除外診断の方法として非常に有用である1)。一方で,バンディングアーチファクトが生じる不整脈症例や,ブルーミングアーチファクトを生じさせ血管内腔が評価しにくくなる石灰化は,冠動脈CTの苦手とするところであった。これに対して,2007年に登場した面検出器CTでは,1回のスキャンで心臓全体をカバーできるためバンディングアーチファクトが生じず,また,サブトラクション技術で石灰化を除いて冠動脈内腔を評価することが可能になった。
一方,2007年に発表されたCOURAGE Trial2)で,冠動脈の狭窄部位に対する薬物治療単独とステント留置による血行再建術の追加では,長期予後に差がないという結果が得られた。つまり,冠動脈狭窄だけを正確に評価できたとしても,狭窄だけで治療方針を決定すると予後を改善できないことを示している。
心臓は,心筋表面を走行する表在冠動脈と,心筋の中を網目状に走行する微小循環の2つの血流で栄養されている3)。表在冠動脈が狭窄し,末梢での心筋血流が低下すると冠動脈血流予備能(coronary flow reserve:CFR)が低下するが,微小循環が代償的に拡張することで微小循環血管抵抗が低下し,CFRを維持する場合もある。また,微小循環だけに病変がある場合や,狭窄として認識できないびまん性病変が表在冠動脈にある場合もCFRの低下が見られる4)。臨床においても,心臓カテーテル検査で狭窄を認めた症例が,心筋シンチグラフィでは虚血の程度が軽度となるケースを経験することもあり,狭窄のみで血行再建術の適応を決めるのではなく,しっかりと心筋血流を評価した上で治療方針を決定することが重要となる。
2018(平成30)年度の診療報酬改定においても,安定狭心症に対するステント留置術について,術前の機能的虚血評価実施が算定要件となった。また,慢性冠動脈疾患診断ガイドライン1)においても,中等度リスクに対する冠動脈CTで境界的異常/判定不能の場合には,心筋虚血評価を行うことが明示されており,2018年改訂版からは虚血評価の方法としてCTが追加された。

心筋CT Perfusion

1. 心筋CT Perfusionの有用性
当大学では,心筋CT Perfusionを「Aquilion ONE」を用いたダイナミックCTにて施行している(図1)。連続的に15〜20心拍撮影し,内腔や心筋の造影剤の濃染や洗い出しを観察することで心筋虚血を検出している。Aquilion ONEでは,被ばく線量3mSv以下,造影剤量30〜50mLの低侵襲な1回の検査で冠動脈CTと心筋虚血を評価でき,非常に有用である。また,ダイナミックCTで心筋が濃染される速度を計算することで,心筋血流量(MBF)を定量的に算出できる。
ダイナミックCTは,被ばく線量を考慮し低線量で撮影する。そのため,線量低減による画質の劣化を防ぐさまざまなノイズ低減技術が開発されてきた。近年,新たなノイズ低減技術である“4D Similarity Filter”を利用できるようになった(図2)。4D Similarity Filterは,時間軸で隣接するフェーズの画像データを用いて,似たSD変動を示すピクセルから最も近いものを抽出することにより,空間分解能を犠牲にすることなく画質を改善できる。逐次近似再構成などと併用することで,被ばく線量を著しく抑えながらノイズを低減でき,より正確な心筋血流量の把握が可能になる。
症例1(図3)は,冠動脈3枝に非常に高度な石灰化があり,冠動脈CTAだけでは内腔評価ができなかった。次のステップとして心筋虚血評価を行うが,冠動脈CTに加えてCT Perfusionプロトコールで撮影しておくことで,心筋シンチグラフィ検査などの追加検査なしに虚血評価を行える。本症例は,ダイナミック画像で明らかな虚血は認められず,定量解析でも心筋全体の血流量が十分に維持されていることを確認できた。一方,症例2(図4)は,冠動脈CTAでLADに狭窄が認められた。同時に撮影したCT Perfusionのダイナミック画像ではLAD領域の前壁の内膜下に有意な虚血が認められ,定量評価でもLAD領域に有意虚血が認められた。LADの狭窄による虚血が明らかなため,心臓カテーテル検査後にスムーズにステント治療を施行することが可能となる。なお,メタ解析を行った報告5)では,冠動脈CTA単独での虚血評価は特異度が低く,心筋CT Perfusionを追加することで有意虚血検出の特異度が上昇することが示された。

図1 ダイナミックCT Perfusion

図1 ダイナミックCT Perfusion

 

図2 4D Similarity Filterの概要

図2 4D Similarity Filterの概要

 

図3 症例1:冠動脈の高度石灰化

図3 症例1:冠動脈の高度石灰化

 

図4 症例2:CTAにてLAD狭窄を認めた症例

図4 症例2:CTAにてLAD狭窄を認めた症例

 

2.Territory Map
心筋CT PerfusionにTerritory Mapを組み合わせることで,より正確な虚血評価が可能になる。Territory Mapは,冠動脈CTのデータを用いて心筋の各ピクセルから最も近い(栄養されている)冠動脈をVoronoi法で求める技術で,ブルズアイ上に,LAD,LCX,RCAそれぞれが栄養する領域を表示することができる。従来のブルズアイは米国心臓協会(AHA)の17セグメントモデルを用いて画一的に心筋領域を分類し,Territory MapをMBFのブルズアイに重ねることで,患者ごとに異なる心筋灌流域に一致したMBFを計測することが可能になる。従来の手法ではLAD領域の虚血に加えてLCX,RCA領域にも若干虚血があるように見えていた症例でも,Territory Mapにより虚血はLADのみによるものであると正確に評価できるようになる(図5)。
また,将来的にTerritory Mapを3D画像上にフュージョンして各領域の心筋血流を観察できるようになると期待している。この技術により,各ピクセルの心筋血流量をヒストグラム解析し,心筋全体,LAD,LCX,RCAの心筋量や虚血となっている心筋量,その割合を数値で示すことができるようになれば,心筋ダメージの程度を評価でき,患者一人ひとりに応じた適切な治療戦略を計画できるようになるだろう。

図5 Territory Map

図5 Territory Map

 

まとめ

現在,冠動脈CTで冠血流予備量比(FFR)をon-siteで計測する技術の研究や,Dual Energy技術“Spectral Imaging CT”にディープラーニングを応用した画像再構成技術を適用したCT遅延造影(late iodine enhancement:LIE)の検討などが進められている。
このような新しい技術を駆使することで,CT Perfusionによる心筋虚血評価から冠動脈CTによる狭窄評価,CT-FFRの予測,さらには遅延造影CTによる心筋性状評価までの一連の検査を,低侵襲に行うことができる。包括的心臓CT検査として,10mSv以下の被ばく線量,100mL以下の造影剤量で実施できれば,循環器診療における患者の負担を大きく軽減できると期待している。今後は,CT-FFRやサブトラクション技術を駆使した循環器診療が進むと考えられ,その中で面検出器CTの有用性が大いに発揮されるだろう。

* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●参考文献
1)山岸正和,他:慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版).
https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2018_yamagishi_tamaki.pdf
2)Boden, W.E., et al., N. Engl. J. Med., 356(15): 1503-1516, 2007.
3)Camici, P.G., et al., J. Nucl. Med., 50(7): 1076-1087, 2009.
4)Ford, T.J., et al., Eur. Heart J., 38(25): 1990-1992, 2017.
5)Celeng, C., et al., JACC Cardiovasc. Imaging, 12(7 Pt 2): 1316-1325, 2019.

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-305A
認証番号:227ADBZX00178000
一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション
販売名:医用画像処理ワークステーション Vitrea VWS-001SA
認証番号:224ACBZX00045000

 

城戸 輝仁(Kido Teruhito)

城戸 輝仁(Kido Teruhito)
2001年 愛媛大学医学部卒業。同年 放射線科入局。2010年より同講師。2011年 マサチューセッツ総合病院Cardiac MR/CT Imaging Center留学。2018年より愛媛大学医学部放射線科准教授,2020年より同教授。

 

 

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