セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第85回日本医学放射線学会総会が2026年4月16日(木)〜19日(日)の4日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。17日(金)に開催されたキヤノンメディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー23では,京都府立医科大学大学院放射線診断治療学教室の山田 惠氏が座長を務め,京都大学大学院医学研究科高度医用画像学講座の奥知左智氏と神戸大学医学部附属病院放射線診断・IVR科の祖父江慶太郎氏が,「DLR-MRIがつなぐ画像診断の未来〜Canon MRIの最前線〜」をテーマに講演した。

2026年8月号

第85回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー23 DLR-MRIがつなぐ画像診断の未来 〜Canon MRIの最前線〜

〈講演1〉脳神経領域における次世代MRI技術 ─UTE MRA・RDC DWI・Complex Signal Average DWIの臨床応用─

奥知 左智(京都大学大学院医学研究科高度医用画像学講座)

脳神経領域のMRIにおいては,TOF-MRAにおける金属アーチファクトや,拡散強調画像(DWI)におけるアーチファクトおよびノイズなどが問題となる。本講演では,これらを解決する新技術として,キヤノンのUltra-short TE(UTE)-MRA,「RDC DWI(Reverse encoding Distortion Correction DWI)」「Complex Signal Average DWI(CSA DWI)」について報告する。

UTE-MRA:治療後血管評価のアーチファクトの改善

1.UTE-MRAの特長
Look-Lockerスキームを応用したASLベースの非造影MRAは,1回のラベリングで多時相を収集するため,血流速度に依存しない広範囲の血管描出が可能である。しかし,データ収集にはgradient echo法を用いるため,金属アーチファクトや乱流による位相分散の影響を受けやすく,血管内治療後の評価が困難であった。そこで,データ収集時のTEを100μs以下と極端に短くすることで,金属アーチファクトや乱流の影響を低減する手法がUTE-MRAである。TIを変化させて撮像することで4D-MRAの取得も可能となる。
症例1は,77歳,男性,陳旧性脳梗塞の経過観察である。左内頸動脈(図1←)は,TOF-MRA(a)では乱流や副鼻腔の空気などにより狭窄して見える部位があるが,UTE-MRA(b)ではアーチファクトが軽減され,実際にはほぼ狭窄していないことがわかる。

図1 症例1:陳旧性脳梗塞の経過観察

図1 症例1:陳旧性脳梗塞の経過観察

 

2.Conjugate Gradient
Reconstruction(CG Recon)の併用UTE-MRAでは,Radial座標系からCartesian座標系への変換時に,サンプリング密度が疎な領域の信号推定精度が低下し,TOF-MRAよりも末梢血管の描出が乏しくなる。一方,CG Reconでは,共役勾配法に基づく反復計算を行うことで,特にサンプリング密度が疎な領域の推定精度が向上する。これにより,UTE-MRAにCG Reconを適用することで,TOF-MRAに迫る末梢血管の描出が可能となる。
症例2は,77歳,女性,脳動脈瘤クリッピング後の症例である。クリップのアーチファクトによりTOF-MRA(図2 a)では不明瞭な右中大脳動脈(↑)が,UTE-MRA(b)では明瞭に描出されており,CG Reconを適用することでさらに描出が向上している(c)

図2 症例2:脳動脈瘤クリッピング後

図2 症例2:脳動脈瘤クリッピング後

 

RDC DWI:DWIの歪みの低減

1.RDC DWIの特長
DWIで一般的に用いられるsingle shot-EPI(SS-EPI)は,副鼻腔など空気と接する磁場の不均一な領域などでアーチファクトや画像の歪みを生じる。これに対し,RDC DWIは,位相エンコード方向を順逆の2方向で収集することで,DWIの歪みを低減する。b0画像だけでなく,MPGを印加した画像からも補正を行うことで,磁場不均一の影響はもとより,渦電流の影響による歪みも補正でき,より精度の高いアーチファクトの低減が可能となる。

2.頭蓋底の評価における有用性
RDC DWIは頭蓋底の評価に有用であると考え,当大学にて下垂体腺腫を対象に検討した1)。SS-EPIおよびB0不均一のみを補正したDWIと比較したところ,RDC DWIが最も腫瘍の描出が良好であった。また,腫瘍の前縁と後縁における位置ズレ量も,RDC DWIが最も小さかった。さらに,下垂体腺腫の海綿静脈洞浸潤は,従来のDWIでは描出が困難であったが,RDC DWIではT2強調画像とほぼ同様に描出されていた。T2強調画像や造影T1強調画像では腫瘍と海綿静脈洞のコントラストがつきにくく,判断が困難な症例もあるが,DWIでは海綿静脈洞は無信号となるため,歪みの少ないRDC DWIは,腫瘍の海綿静脈洞進展の診断の一助となる可能性がある。
症例3は,68歳,女性,下垂体腺腫術後の症例である。右海綿静脈洞の残存腫瘍(図3→)は,従来のDWI(a),B0不均一のみを補正したDWI(b)と比較し,RDC DWI(c)が最も明瞭である。術後変化と残存腫瘍の鑑別は困難なことがあるが,術後変化はDWIで高信号にならないことが多いため,RDC DWIは鑑別に有用な可能性がある。

図3 症例3:下垂体腺腫術後

図3 症例3:下垂体腺腫術後

 

3.超解像画像再構成および小FOV撮像との併用
RDC DWIは2方向で撮像するため,従来のDWIより撮像時間が延長するが,超解像画像再構成「Precise IQ Engine(PIQE)」を併用することで,撮像時間の短縮が可能となる。図4は下垂体腺腫術後残存腫瘍の症例で,RDC DWI(c)の撮像時間は4分15秒であったが,加算回数を下げ1分33秒で撮像した画像(a)にPIQEを併用したところ,通常のRDC DWIと同等以上に明瞭に腫瘍が描出された(b)
RDC DWIは,DWIにおける小FOV撮像技術「Zoom DWI」とも併用可能である。Zoom DWIは,励起パルスを再収束パルスに対して特定の角度だけ回転させることで,PE方向の折り返しアーチファクトのない撮像が可能となる。RDC DWIとZoom DWIの組み合わせが有用な領域の一つが脊髄であり(図5),通常のDWIと比較して大幅に歪みが低減される(c)

図4 RDC DWI+PIQEによる撮像時間の短縮

図4 RDC DWI+PIQEによる撮像時間の短縮

 

図5 RDC DWI+Zoom DWIによる歪みの低減

図5 RDC DWI+Zoom DWIによる歪みの低減

 

CSA DWI:高b値およびthin sliceの撮像での活用

CSA DWIは,DWI特有のノイズを低減する技術である。ディープラーニングを用いてショット間の位相変動の補正を行うことで,従来は困難であった複素空間での加算が可能となり,絶対値演算に起因するノイズフロアの上昇を抑えつつ,低ノイズかつ高コントラストなDWIの取得が可能となる。これにより,これまでノイズが課題となっていた高b値やthin sliceの撮像においても,微細構造の描出能とコントラストが向上するため,実用性の向上が期待できる。
症例4は,70歳代,女性,下垂体柄の転移性腫瘍疑いの症例で,DWIは転移病変が治療後縮小した後の画像である。RDC DWI(図6 a)では縮小した転移疑いの病変(▷)も正常下垂体(←)も描出不良であるが,CSA DWIの併用により明瞭に描出されている(b,c)

図6 症例4:下垂体柄転移性腫瘍疑い治療後

図6 症例4:下垂体柄転移性腫瘍疑い治療後

 

まとめ

UTE-MRAは,非造影MRAにおける金属アーチファクトや乱流の影響を低減し,さらにCG Reconを併用することで末梢血管描出の向上も期待できる。RDC DWIではDWIの歪み低減が期待でき,CSA DWIではノイズフロアの上昇を抑えた低ノイズ・高コントラストなDWI取得が可能となる。これらの技術はDLR技術との併用も可能であり,脳神経領域MRIの課題解決に有用であると考える。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*本記事中のAI 技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。

●参考文献
1)Ito, S., Okuchi, S., et al., Eur. Radiol. Exp., 8(1):28, 2024.

 

奥知 左智(京都大学大学院医学研究科高度医用画像学講座)

奥知 左智(Okuchi Sachi)
2006年 京都大学医学部医学科卒業。2011年 同大学院医学研究科博士課程〔放射線医学講座(画像診断学・核医学)〕入学。2017年 Institute of Neurology, University College London留学。2019年 市立大津市民病院放射線科。2021年 京都大学医学部附属病院放射線診断科特定病院助教。2025年〜京都大学大学院医学研究科高度医用画像学講座特定助教。

 

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