セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第85回日本医学放射線学会総会が2026年4月16日(木)〜19日(日)の4日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。4月18日(土)に開催されたキヤノンメディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー24では,大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室の富山憲幸氏が座長を務め,岩手医科大学医学部放射線医学講座の折居 誠氏,慶應義塾大学医学部放射線科学教室(診断)の陣崎雅弘氏,国立がん研究センター東病院放射線診断科の小林達伺氏が「新技術×AIの次世代CTへのコネクト」をテーマに講演した。

2026年8月号

第85回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー24 新技術×AIの次世代CTへのコネクト

〈講演2〉マルチポジションCT*1 の臨床応用と今後の展望

陣崎 雅弘[慶應義塾大学医学部放射線科学教室(診断)]

マルチディテクタCT(MDCT)の劇的な進歩によって,三次元の画像診断が普及し,投影X線撮影の多くがCTに置換された。一方,検査効率に優れる胸部X線撮影をCTが置換するためには,ワークフローの効率化が必須である。検査効率の観点では臥位よりも立位の方が有利であり,立位CTが実現すれば,胸部X線撮影を削減または置換できる可能性がある。また,面検出器CTの登場によって,四次元の画像診断が可能となり,機能評価も可能となったが,これによって立位での評価が求められる機能障害や病態が多くあることも顕在化した。特に機能障害の評価は,超高齢社会においては立位で行うことの重要性が高いと考える。
これらを考慮し,演者は2012年に東芝メディカルシステムズ(現・キヤノンメディカルシステムズ)に立位CTプロジェクトを提案し,2014年に機器開発に着手。2025年4月に,世界初*2の全身用マルチポジションCT「Aquilion Rise」の製品化に至った。本講演では,Aquilion Riseの特長と臨床的有用性を報告する。

Aquilion Riseの特長

Aquilion Riseは,当大学とキヤノンメディカルシステムズの産学連携によって共同開発された。機器開発に着手した当初,まずは320列面検出器の立位・座位CTの開発に取り組み,2017年に臨床第1号機を当大学に設置した。以来,積み重ねてきた知見や臨床ニーズがAquilion Riseに反映されている。
Aquilion Riseは,可動式の片持ちガントリが90°回転かつ上下動することで,1台で臥位・立位・座位での撮影が可能である。0.5mm×80列の検出器と80cmのワイドボアを採用し,最速0.35秒/回転の高速スキャンを実現するほか,ガントリがやや傾くことで患者がアクセスしやすい構造となっている。また,立位・座位撮影では患者が寝台に上がる必要がないため,臥位撮影と比べて検査のワークフローが大幅に向上しており,遠隔操作による非接触での検査が可能な点も大きな特長である。

Aquilion Riseの臨床的有用性

1.姿勢依存性の異常における検出精度の向上
脊椎すべり症は,立位でのみ痛みを生じるため,診断には立位での撮影が求められる。
鼠径ヘルニアは,臥位および腹臥位でも描出されるが,立位の方が撮影範囲が広く,腸管も含めて描出できるため,より正確な重症度判定が可能となる。
立位時に呼吸困難を訴える側彎症の症例は,臥位撮影では原因が不明であったが,立位撮影を行ったところ,胸骨-椎骨間が短くなることで肺が圧迫され,臥位に対して肺体積が30%減少することが呼吸困難の原因となっていたことが明らかとなった(図1)。本症例は,手術にて側彎を治療した結果,症状が改善した。

図1 臥位と立位における肺体積の変化

図1 臥位と立位における肺体積の変化

 

2.荷重がかかる疾患の早期発見
変形性膝関節症のKellgren-Lawrence分類(K-L分類)を用いた重症度判定において,早期のgrade1と2の区別は判定者によって異なり,客観性に乏しいことが問題となる。そこで,立位と臥位のCT画像にて大腿骨と脛骨の回旋の違いを検討したところ,grade1と2では明確な回旋のズレがあることが明らかとなった(図2)。立位CTを用いることで,単純X線撮影の正面像では検出できない早期の異常を検出可能となることが期待できる。

図2 変形性膝関節症の早期診断

図2 変形性膝関節症の早期診断

 

3.骨盤底筋の弛緩の評価
立位CTを用いたわれわれの検討では,健常例でも骨盤底筋が女性で10mm,男性で6mm降下することが明らかとなっている。下腹部不快感を訴えて来院した症例は,他院では原因不明であったが,立位CTにて骨盤底筋が約20mm降下していることが原因であると診断された。また,骨盤臓器脱も,臥位では評価困難な降下の程度を,立位CTでは定量的に評価でき,より正確な重症度評価が可能となる(図3)
高齢女性の多くが骨盤底筋の疾患に悩まされているが,羞恥心によって婦人科の受診が遅れ,生活の質の低下につながっている。立位CTはこうした課題を解決するほか,簡便かつ客観的な評価によって適切な治療法の提案も可能となる。医療機関においては,潜在的な医療ニーズの発見につながり,収益への貢献も期待できる。

図3 骨盤臓器脱の重症度評価

図3 骨盤臓器脱の重症度評価

 

4.静脈系の評価
静脈は,体位によって径が変化する。臥位に比べ,立位では上大静脈の断面積の変化量は80%減少し,下大静脈は横隔膜レベルでは不変だが,下端では37%増加する。一方,心不全の患者では,右房圧の上昇によって,立位でも上大静脈の断面積が変化しない(図4)。立位CTでは,上大静脈の変化量から右房圧の上昇をある程度推測できるため,侵襲的な心臓カテーテル検査の一部を置換できる可能性がある。
頭頸部における立位と臥位の比較では,頭蓋内静脈の断面積は不変であるのに対し,頸部では立位にて内頸静脈が74%減少,椎骨動脈系は30%増加する。このバランスによって頭蓋内の恒常性が保たれていることが,立位CTでの検討によって確認された。
下肢静脈は,臥位と比較し,立位の方が明らかに血管径が太く描出されるため,血栓をより正確に評価することができる。

図4 心不全の重症度判定への応用

図4 心不全の重症度判定への応用

 

5.予防医学およびヘルスケアへの応用の可能性
当大学では人工知能(AI)を用いて独自に開発したソフトウエアを活用し,立位・座位CTのデータを予防医療に役立てている。姿勢解析ソフトウエアでは,体幹の前傾・後傾や腰椎の前彎および脊椎の側彎の程度が正常範囲内であるかを解析し,被検者にレポートを提供している。また,筋肉量計測ソフトウエア(図5)を用いて,筋肉量の変化を経時的に評価することで,鍛えるべき筋肉や運動方法などを提案する仕組みを構築している。

図5 筋肉量計測ソフトウエアでの解析結果

図5 筋肉量計測ソフトウエアでの解析結果

 

6.嚥下,歩行,排尿の動的評価
320列立位CT(東芝スキャナ TSX-401R)では,4D-CTによって嚥下や排尿などの動態評価も可能である。前立腺肥大による排尿障害では,病態によって薬物療法と手術のどちらを第一選択とするか判断する必要がある。そのために,従来は侵襲性の高い逆行性尿道造影を施行していたが,立位CTを用いることで治療法の選択を痛みなく行えることは,患者にとってメリットが大きい。

7.座位での放射線治療への応用
当大学では現在,英国のLeo Cancer Care社と座位での放射線治療の研究に取り組んでいる。臥位で治療を行うためには,ビームを直角に曲げる必要があり,この構造に膨大な費用と設置面積を要するが,座位で治療を行うことで設置面積が小さくなり,数十億円のコスト削減が見込まれる。座位照射の術前評価には座位CTが必須であり,マルチポジションCTの活用が期待される。
例えば,乳がんの照射において,臥位では乳房が平坦になるため肺と重なる範囲が広くなるが,座位では乳房が下垂するため,重なる範囲が狭くなる。また,前立腺は,臥位では膀胱の充満に伴い回転するが,座位では下方に押しつけられているため,膀胱が充満しても前立腺の位置は変化しない。このため,前立腺は,座位照射の方がより高精度な放射線治療が可能となる。

まとめ

超高齢社会においては,健康寿命の延伸という観点から機能的疾患の評価の重要性が高まっており,Aquilion Riseが有用性を発揮すると考える。また,放射線治療のパラダイムシフトとして座位照射の研究が進められており,立位・座位CTの必要性はますます高まっていくと考える。

*1 臥位,立位,座位の3体位が撮影可能なCT 装置の総称
*2 2025年4月2日現在。全身を対象としたマルチポジションでの撮影が可能なCT装置として(キヤノン調べ)

** 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
** 本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Rise TSX-402A
認証番号:306ACBZX00036000
製造販売元:キヤノン株式会社

 

陣崎 雅弘[慶應義塾大学医学部放射線科学教室(診断)]

陣崎 雅弘(Jinzaki Masahiro)
1987年 慶應義塾大学医学部卒業。同大学医学部放射線科学教室入局。日本鋼管病院などを経て,1999年 米国Brigham and Women’s Hospital留学。2006年 慶應義塾大学医学部放射線科学教室講師となり,准教授を経て,2014年〜同教授。

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP