Aquilion ONEを用いた胸部CT共同研究:‘ACTIve Study’の挑戦 
山城 恒雄(琉球大学大学院医学研究科放射線診断治療学講座)
<Technology of Area Detector CT>

2013-10-25


本講演では,Aquilion ONEを用いた胸部CTの多施設共同研究である,ACTIve Studyを紹介する。

ACTIve Studyの概要

ACTIveとは,Area-detector Computed Tomography for the Investigation of Thoracic Diseases の頭文字をとって命名された。直訳すると,胸部疾患の研究のためのエリアディテクタCT,という意味になるが,このようなCTを用いた共同研究ということでACTIve Study と称している。
この共同研究は,Aquilion ONEをかなり早い段階で導入した7施設が集まって2009年に始まった。現在の参加施設は,大原綜合病院(福島),滋賀医科大学(滋賀),大阪医科大学(大阪),大阪大学(大阪),天理よろづ相談所病院(奈良),神戸大学(兵庫),琉球大学(沖縄)であり,琉球大学放射線診断治療学講座の村山貞之教授が代表を務めている。それぞれの施設では,胸部画像診断のエキスパートの先生方が研究を主導している。多施設共同研究にはさまざまなメリットがあるが,7施設が合同すると短期間でも多数の症例を蓄積することができること,年数回の定例会議の席で多くの先生方のご意見を聞くことができること,研究成果を検証・共有できることによる情報発信力の強化などが,具体的な長所として挙げられると考える。
さて,Aquilion ONEを使って胸部CTを行う場合,大きく2つの長所があると思われる。1つは,非常に個性的な撮影法であるWide Volume法を用いて,ヘリカルCTを凌駕する画像を提供できること,もう1つは東芝独自の逐次近似再構成法であるAIDR 3D (Adaptive Iterative Dose Reduction using Three Dimensional Processing)を用いて,大幅な画質の改善・被ばく線量の低減を図れることであろう。この2点に関して,われわれACTIve Study がどのような研究を行ってきたか,いくつかご紹介させていただく。

1.Wide Volume法

はじめにWide Volume法では,Aquilion ONEは最大約16 cmの範囲をガントリ1回転のみで撮影できるため,従来は事実上ヘリカル法でのみ撮影可能だった胸部全体の撮影も,ヘリカルではなくstep-and-shootで,わずかガントリ3回転で撮影できるようになった。Aquilion ONEのガントリ回転時間は0.35秒(または,Aquilion ONE/ViSION Editionでは0.275秒)のため,寝台の移動時間を含めても,ヘリカル法同様の1回の息止め(5秒以下)で胸部全体がスキャンできることになる。加えて,Wide Volume法の特筆すべき点は,3回のガントリ回転を心臓の拡張期に合わせることで,数秒程度スキャン時間は延びるものの,まったく被ばくを増やすことなく心電同期胸部CTを撮影できるようになったことである。周知のとおり,ヘリカルCTにおける心電同期は後向き(retrospective)であり,ヘリカルピッチを下げて長時間撮影することで心拍動のすべての位相のデータを得た上で,拡張期のデータのみを「後から」取り出す操作を行う。このため,通常は被ばく線量が大幅に増加する。しかし,Wide Volume法の心電同期は前向き(prospective)であり,心電図の拡張期に合わせて,ガントリ回転・X線照射を行う「triggering(引き金をひく)」という操作となる。つまり,最終的にガントリが3回転する,という点は非心電同期でも心電同期でも同じであり,被ばく線量はまったく増加しない。
このWide Volume法が胸部CTにおいてどのような効果を発揮するのかという点で,われわれACTIve Study Groupはいくつかの研究成果を出している。最初に世に出た論文としては,私たち琉球大学が主管となった,心電同期Wide Volume法と非心電同期ヘリカル法との比較がある1)。この中では,心電同期Wide Volume法は非心電同期ヘリカル法に比して,すべての肺葉で心血管からの拍動アーチファクトが有意に軽減されること,また,肺結節影の辺縁に見られる拍動に起因するブレも有意に減少することが示されている。舌区など,心拍動の影響を受けやすい部位にある病変の診断には,この心電同期Wide Volume法はきわめて有用と考えられる。
次に,大阪大学の本多修先生がまとめられた,びまん性肺疾患における非心電同期Wide Volume法とヘリカル法の比較がある2)。この中で,心電同期がかかっていない状態であっても,Wide Volume法は通常のヘリカル法と比較して肺内異常陰影の描出に遜色がない,ということが示されている。この研究における興味深い発見としては,冠状断再構成像を見ると,Wide Volume法ではヘリカル法に比して水平方向のアーチファクトが有意に少ないということがある。こちらは,私が別の患者群で定量評価した上で,ACTIve Studyの3本目の論文にすべく努力しているところである。

2.逐次近似再構成法AIDR 3D

さて,2つ目の話題として,昨今取り上げられることの多い逐次近似再構成法AIDR 3Dがある。AIDR 3Dを使用することで,胸部CTでどの程度画質が向上し,被ばく線量の低減が図れるかについて,ACTIve Studyでも研究を進めてきた。2011年末より研究を開始し,2012年のRSNAで私が発表した,胸部CTにおけるAIDR 3Dの効果に関して報告する。この研究では,事前に綿密に検討した上で,標準線量相当としてまず240mA(84mAs),その半分の120mA(42mAs),さらにその半分の60mA(21mAs)の3つの線量を設定した。それぞれの患者をこの線量設定で3回撮影し,それぞれのデータをAIDR 3Dありとなしの二通りで画像化すると,6パターンの画像が得られることになる。6パターンのCT画像を全員分集めた上でランダム化し,3名の読影者が上・中・下肺野と4パターンの肺病変の画質を採点した。結果としては,(1)「240 mA・AIDR 3Dあり」が全採点項目で最も高得点,(2)「120 mA・AIDR 3Dあり」は「240 mA・AIDR 3Dなし」より高得点または同点,(3)「60 mA・AIDR 3Dあり」は「120 mA・AIDR 3Dなし」より高得点または同点,ということになった。すなわち,AIDR 3Dは画質を向上させるだけではなく,50%程度の大幅な線量削減を可能にするだろう,というデータを得ることができた。この結果は,種々の補足解析を加えた上で,近いうちに論文として発表する予定である(図1)。
AIDR 3Dの画質改善効果は,低線量領域になるほど特に顕著となる。であるならば,通常は低線量で行われることの多い肺がんCT検診は,AIDR 3Dでどの程度線量を削減できるだろうか。この問いに関しても,ACTIve Studyは現在研究を行っている。滋賀医科大学の永谷幸裕先生が中心になって,AIDR 3Dを用いて20mA(7mAs)の超低線量で胸部CTを行い,肺結節影の同定能を調べる研究が進んでいる。現在進行中の研究のため,詳細な言及は控えるが,7mAsの胸部CTの被ばく線量は,単純X線写真のわずか数枚程度の被ばくにしか相当しない。来るRSNA 2013で,ACTIve Studyの成果として発表が決定しているとのことであり,こちらの方も,今後注目が集まるものと考えている。

図1 60mA(21mAs)で撮影された肺腫瘍の画像 a:AIDR 3Dなし,b:AIDR 3Dあり

図1 60mA(21mAs)で撮影された肺腫瘍の画像
a:AIDR 3Dなし,b:AIDR 3Dあり

 

今後のACTIve Studyの展開

今後のACTIve Studyの展開としては,Aquilion ONEの広いスキャン範囲とAIDR 3Dの融合によってもたらされる,気道や肺の4D撮影などもテーマとして検討されると考えられる。引き続きさまざまな研究を行うべく,グループ一同で尽力したいと思っている。
なお,最後に付言しておきたいこととして,本共同研究と東芝メディカルシステムズ社の関係を述べておく。昨今,ある薬剤の大規模な臨床研究における企業側の不適切な関与が発覚し,社会問題化している。このACTIve Studyにおいては,各参加施設それぞれと東芝メディカルシステムズ社との共同研究契約に基づき,各施設に対して共同研究費および技術協力の提供があるが,スタディデザインの決定,統計解析などのデータ解析,論文作成などに同社およびその社員は関与していない。私自身はこのACTIve Studyにかかわるようになり,画像診断医としていかにCTの原理や技術革新に関して理解していなかったか,多くの東芝の方々との対話の中で痛感するようになった。私が理解できるまで根気良くさまざまな助言をしてくれる東芝の方々に感謝しつつ,より良い胸部画像診断につなげていけるような成果を残すべく,これからも研究を進めていきたいと考えている。

●参考文献
1)Yamashiro ,T., Miyara, T., Takahashi, M., Kikuyama, A., Kamiya, H., Koyama, H., Ohno, Y., Moriya, H., Matsuki, M., Tanaka, Y., Noma, S., Murayama, S., ACTIve Study Group : Lung image quality with 320-row wide volume CT scans: the effect of prospective ECG-gating and comparisons with 64-row helical CT scans. Acad. Radiol., 19・4, 380〜388, 2012.
2)Honda ,O., Takenaka, D., Matsuki , M., Koyama, M., Tomiyama, N., Murata, K., Murayama, S., Noma, S., Moriya, H., Ohno, Y. : Image quality of 320-detector row wide-volume computed tomography with diffuse lung diseases ; Comparison with 64-detector row helical CT. J. Comput. Assist. Tomogr., 36・5, 505〜511, 2012.


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